ネットスカウトをやっていて、何人かのコはアポをとるまでにいたった。埼玉県在住のYさんとは「明日の午後5時にハチ公前で」、そんなメールのやりとりをして、最後に相手の携帯番号を聞き出した。写メールはどうしても送れないという。
スカウト集団の幹部Uさんによれば、渋谷までカモをおびき寄せてくれさえすれば、急用ができたとか言って、僕は行かなくてもかまわないという。つまり家のパソコンの前にいるだけで、うまくいけば金になる商売のはずだった。
ところが写メールを送らずに面接にだけ来るコは、業界で言う“ポッチャリ”が多い。個人的には健康的で好きだし、ポッチャリ専門の性風俗もあるくらいで、そうした所ならば活躍できる。しかし渋谷はビジュアル重視といって、スラリとモデル体型のコが重宝される。それに面接時の喫茶店での飲食代はUさん持ちだ。毎度毎度金にならないコばかりを僕が送りつけるものだから、終いにはUさんも切れた。
「風俗店に行って、横綱が出てきたら、自分ならどうですか?」
そうたしなめられる始末となった。
「楽して稼げる仕事などない、か」と、しょげながら2ショットメールをやりだすと、すぐにどこの小娘か分からない相手が、僕のチャット部屋に入ってきた。
“こんにちは、お仕事探しですね”
いつもの常套句を書きこんだ。
“はい、儲かる仕事ありますか”
これもまた女のコの常套句だ。何ヶ月もネットスカウトをやっているうちに、女のコの、それも風俗に身を投じているコのパターンが分かってきたのだ。つまり、いままで面接にかすりもしなかったコと同じことを言っていたわけだが……。
風俗志望のコの興味は1つだけ。とにかく儲かる店をである。金、金うるさいな、と思いながらも、いつものように答えてあげる。
面接日を決める段階まではスムーズに行く。これも毎度のパターンだった。そして決定的なこと、面接日を決めると女のコはチャット部屋から退出していってしまう。携帯電話の番号も教えずに。今回も、どうせ最後の最後で逃げるんだろうな、そう思いながら適当に相手をしていた。
“面接はどうしますか”
“明日にでも”
珍しかった。今日の明日ならば、もしかしたらという望みも出てくる。渋谷のスカウトマンだけでなく、女のコ斡旋の個人契約をした潜り業者も知り合いになっていたので、明日、まずは潜りの業者に紹介してみて、ダメならば渋谷に紹介すればいいと思っていた。
翌日、御茶ノ水でそのコと待ち合わせをした。17時に駅改札で。来るか来ないか、五分五分だと思った。来ないならそれでいい。
17時少し過ぎ、携帯が鳴った。
「昨日の者ですが」
来た。約束通り。
胸の大きなスタイル抜群のコだった。小岩のイメクラに連れて行き、女オーナーと話しをさせるが、時間的な都合が合わなかった。仕方がなく、渋谷のUさんに見てもらうことにする。
小岩で切符を買って、さっさと行こうとすると、そのコはじっとしていて動かない。スカウトマンは女のコの切符まで買ってあげなければいけないのだと、無言の圧力を感じた。こうなると買うしかない。
渋谷のUさんと喫茶店に入る。色々話し、吉祥寺の店で体験入店ができることになった。
体験入店とは、その店でやっていけそうかどうか、試しに1日だけ働くものだ。当然女のコに給料が発生する。さらにUさんのスカウト集団では、体験入店でもスカウトマンにとりあえず1万円が発生するシステムだった。おかげで僕はスカウトマンとして始めて収入を得たのだった。それにしても3ヶ月で1万である。その女のコが完全に働ければ、月の売上から一定の割合がスカウトマンの懐に入る仕組みだ。
このグループはアダルトビデオの女優もスカウトしており、Uさんなどは、偶然にスカウトしたコがビデオ女優として稼いだので、それだけでもかなりの副収入があると言っていた。
スカウトマンには専業でない者もいる。現役の一流大学生いれば、ホストがひそかにスカウトをしていたりもする。偽の写真を掲載してネットでスカウトをすればかなり稼げると教えてくれたのは、ホスト兼スカウトマンの人だった。もちろんホストクラブに遊びに来るコも、そんなホスト兼スカウトマンの餌食になっていた。
渋谷でスカウトをしている者は相当いる。ただ、それぞれのグループに縄張りがある。このグループはこの範囲でスカウトをする。そんなルールが決まっており、各団体はヤクザに金を上納しているそうだ。Uさん率いるスカウト集団が堂々と活動できるのも、この上納金のおかげだ。縄張り内でのトラブルならば、いつでも解決は請け負うらしい。ただし「範囲外では何もできないから、縄張りを荒らさないように」とUさんから注意された。
しかし、どんなヤクザも警察には勝てない。06年6月には、都条例の改正により風俗案内所とスカウトマンらに対する警察の態度も厳しくなった。条例施行当日、渋谷の街で立っていた数人のスカウトマンが逮捕されたと聞いた。
それほど幸せに育ってこなかったコが、ネオンのきらびやかに惑わされるのか、スカウトに食いついてくる。食いつくコは、どこかの風俗を辞めたか、辞めようとしているコが多い。1度はまった風俗地獄から抜けようにも抜けられないコが多いからだ。その行く末は精神病院への入退院、そんなコも多い。
もちろん女のコ流通システムといっても、スカウトなども氷山の一角に過ぎない。強制的に働かせられているコもいる。女のコの状態も千差万別だ。18歳未満や薬漬け、男に貢ぐされているケースも。どれもこれも暗い話しばかりだ。そんな闇を抱える女のコが頑張り、ファンができて、店が潤い、スタッフが暮らせる。
だからだろう。
「ボーイは女に食わしてもらっているんだ、それを忘れるな」
「ここはマ○コ屋だ」
吉原ソープでは、そんな言葉を上の者から叩きこまれる。(イッセイ遊児)
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