志布志事件の被害者を陰で支えた焼酎王・中村鉄哉さん
中村鉄哉さんは無教会派の長き求道者である。2003年には焼酎類全体の出荷量は日本酒の出荷量を上回った焼酎ブームが去り、焼酎業界は前年比で7割から8割程度の売り上げを残すために汲々しているが、中村さんのルネサンス・プロジェクト社の収益は過去最高である。志布志事件で冤罪に泣いた蔵元を世界に売り出した商魂の陰には、聖書と算盤の調和を追求する経営道があった。
中村鉄哉さん(49)は、山口県防府市から北海道大学に入学後、新渡戸稲造の影響を受けた無教会派の松沢弘陽教授と出会った。内村鑑三が生んだ無教会派は聖書のみをよりどころにする日本型のキリスト教集団である。
「丸山真男先生の弟子の大政治学者と知り合い、松沢先生と聖書を読むようになりました。札幌の隣に江別市大麻という町がありますが、毎週日曜日に通っておりました」
聖書研究会に参加して、禅宗の家に育った中村さんは、「女々しい、善人、正直」程度しかなかったキリスト教徒に対する偏見が打破され、強い宗教だと知ったと述べた。一例として、「右の頬を打たれたら左を出しなさい」という聖句を指摘した。
内村鑑三ら札幌バンドの世界に憧れ、文部省の交換留学生として米国マサチューセッツ州立大学に留学するほどの意気込みを持った時代もあった。しかし、アメリカ人牧師の英語の説教を聞き取れかけた頃には留学が終わったと苦笑する。卒業後、三井物産で商社マンの道を歩み始めて、忙しくて、信仰生活から離れた。
課題はいかに信仰生活に復帰できるか。キリストについていくべきところを松沢先生のカリスマについていった形になったと反省し、昨年春、息子さんが進んだ先は父親と同じく北海道大学経済学部だったと微笑む。「勧めたわけではないのですが、私と同じように、YMCAに住み、北大で無教会派の先生と聖書を学んでいることは嬉しいと思います。父親の私は復活の教えを理解できませんでした。まだ洗礼は受けていませんが、超越者を意識することが多くなってきております」
本音を吐露し、信仰不足を告白する中村さんだが、キリスト教的価値観を体現することもある。九州の地方に行くと、焼酎の製造元と酢の製造元の間に身分格差が今もある。両者は同じテーブルに座らない。中村さんは不合理な因習を排した。「部落差別の原型がまだありました。キリスト教の影響で社会正義を信じていまして、ビジネスの世界で私なりの義侠心を見せることもあります」
ブランド名は八起。先年、メディアの注目を集めた冤罪事件・志布志事件の被害者が作っていた焼酎である。その蔵元とは冤罪事件以前から知り合いだった。励ますためにも悲劇を逆手にとって、人生、七転八起の一節から取り、有田焼きの容器につめて売り出し、2007年グッド・デザイン賞も受賞した。
同社のベストセラー商品は柚子小町。全国的に知名度が高く、若者の間で圧倒的人気がある長崎県の壱岐産のリキュールである。
「まだ3年目です。最近になってやっと安定してきました。今年が勝負です。ご声援ください」(李隆)
※ルネサンス・プロジェクト社のサイトはこちら。
問合せ先は 092-736-5111
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