南2局1本場終了
東 関西サミット(大阪府・京都府・兵庫県)代表
大阪城・京都迎賓館 ……2万7200点
南 開港都市サミット(横浜市・新潟市)代表
パシフィコ横浜 【俺】 ……2万4800点
西 瀬戸内海サミット(岡山県・香川県)代表
サンポート高松 ……2万3000点
「流れやないでー、テンパイなしでも南場やからのー。親のまま血吸ったろか~」
大阪城が自分の冗談に一人笑っている。このうるさい大阪人は俺をイラつかせる。
「そろそろ変わってくれへんと困りますわ~。ウチかて関西サミットの代表どす」
大阪城の後に座っている京都迎賓館が、またネチネチと打ち手の交代を要求し始めた。
「じゃかましいわ! 今、勝っとるやろが。3人麻雀言うたら大阪の華。そんな簡単に譲れへん」
首脳会場を争っている2人の争いが続く。互いに相手より上だと思っているだけに始末が悪い。だいたい3万点にも届いてないのに、勝手にサミットの開催地が自分たちだと思い、内輪の争いに力を入れてることに腹が立つ。
「ちょっといいかな。こいつを卓に入れてもらえる」
いきなり卓に近づき声をかけてきたのは胴元の1人である中川昭一政調会長だった。その後でオドオドした表情の男が俺たちに頭を下げた。
「後出しじゃんけんみたいですまないべー。ザ・ウィンザーホテル洞爺です」
この男どこかで見たことがあるような……。
「あっ、もかしてホテルエイペックス洞爺! おれの2年ぐらい後に建った。たしか最後のバブルだとか言われた」
思わず声を上げていた。ずいぶんと贅肉が落ちたが、ホテルとは思えないほどデカイずうたいはそのままだ。ただ当時の調子に乗った雰囲気はまったくない。
「覚えておいでですか。あの節はお世話さなって」
ザ・ウィンザーホテル洞爺は、はにかみながら答えた。北海道拓殖銀行の破綻を受けての営業停止が、ここまで彼を変えたのだろうか。「ホテルなんてもんわな、高級なら入るんだ。おれのバブルがはじけると思ったら大間違いだべー!」と怒鳴り散らしていた男と同一人物には思えない。
「南2局から参加だ~ぁ! 東場で頑張ってきた俺たちをどう考えているのかのー」
さっそくかみついたのは大阪城だった。
「まるっきしよ。許されるはずないわ」
敵がいるときだけは仲良くなれるのだろう。大阪城に続けて京都迎賓館もザ・ウィンザーホテル洞爺をにらみつけてくる。
「まあまあ熱くならんので」
仲裁に入ったのは瀬戸内海サミットのサンポート高松だ。県庁に専門部署すらなく、予算すらついていないサンポート高松はそもそも勝つ気がない。ただただ平和にサミット麻雀が終わるのを待っているようだ。
南2局から3人麻雀が4人麻雀に変わるなんてことは認められるはずがない。しかし中川のバックには大胴元の安倍晋三首相が控えている。従わないわけにもいかない。顔をしかめて何がブツブツとつぶやきながら大阪城がサイコロを振った。
「おっ、自7や! ちゃうちゃうトイ7やった」
サンポート高松の山が割れ、ドラ表示牌がめくられた。4筒。
と、そのとき大胴元・安倍首相の甲高い声が雀荘に響き渡った。
「くつろいだ雰囲気の中で議論できる場所、『美しい日本』をアピールできる場所がいいですね。あと警備上の問題も重要です」
警備だと! 俺はぶち切れそうになった。そんなことが重要だとは聞いてない。都市の俺には厳しい課題じゃないか。
いや、しかしもう勝負は終盤、あえて不得意な警備力をアピールするより、都市の便利さを全面に押し出すべきだ。
配パイを見た。ダブ南2枚とドラの5筒と6筒、アンコウ暗刻が1つ。
いける!
一鳴きで速攻の手作り。都市ならではの交通網を手作りの早さでアピールする!
2巡目、警戒心なく南を切ったサンポート高松からポン。4巡目には辺張(ペンチャン)3索がずっぽしでテンパイ。牌に勢いがある。符跳ねしないのが痛いが、親を持ってくる速攻での3900点。
来い! 4、7筒。
「いややー! テンパイやろか。目がぎらぎらしてまんねん」
麻雀歴の長い大阪城。俺の気配からテンパイを悟ったようだ。しかしまだ4巡目。他のメンツの手は固まっていない。各自、警備力をアピールしたいだけに、ムリに手を作っての放銃はできないだろう。天棒が動きにくい展開だけにノーテンバップ3000点でも十分だ。
などと考えていたときに、下家のサンポート高松が赤5萬を切った。ダブ南で2飜確定にドラをぶち込むとは正気か?
続いてザ・ウィンザーホテル洞爺は安牌の南切り。大阪城は現物の北。さすがに両者は堅い。
ここから危険牌に関係なく切り続けるサンポート高松と、安牌を切り続ける北海道・関西コンビという膠着した展開がしばらく続いた。状況が動いたのは10巡目だった。
「カンやー! 暗カンやー!」との声とともに大阪城の端牌が雀卓に倒された。俺の当たり牌の7筒!!
「くさいところやろ。出せへんからな~。テンパイにたどり着くためにも」
そして手だしが8筒。
「分かるか、パシフィコはん。警備が必要なら大阪城で首脳会議を開けばいいんや。大阪城にはカンで作った堀があるしな」
警備力だけ考えるならドラの増えるカンなどしない方がいい。7筒と8筒での両面待ちを狙えるわけだし。しかし卓を見つめる安倍首相へのアピールを考えるなら、敢えてカン。壁を作って自身の堀をアピールしての8筒切り。
強い! 大阪城。
「戦は強いんどす。この前の戦争でも焼け落ちておりませんから。あっ、この前の戦争言うても応仁の乱どすけどな」
歴史をアピールしたいのだろう。京都迎賓館が口を出してくる。本当に食えないオバサンだ。これで2年前に完成したっていうんだから信じられん……。
当たり牌の1つを消され、かなり気落ちしながらツモ切りすると、サンポート高松が声を上げながら牌を切った。
「できたー」
「これはなんだべ」と、すっかり紳士になったザ・ウィンザーホテル洞爺がサンポート高松にたずねる。
「多島美やわ。これしかアピールないんやんやから」
たしかに瀬戸内に浮かぶ島の数々のように美しく牌が切られている。しかし、そのために赤5萬切りとは! 紅葉に彩られた小島でも表したつもりか。
予想以上にサミットにかける熱い思いがあるということなのだろう。
結局、この局は誰も上がることなく終了。驚いたことにザ・ウィンザーホテル洞爺は俺がテンパッテからすべて安牌を切ってきた。「当たれるもんなら、当たってみれ」と危険牌をバシバシ切り捨てていたころが懐かしい。
しかし、これは警備力が高いというより、勝負する手が来ないツモの悪さが原因かもしれない。
「ザ・ウィンザーホテル洞爺も堅いね。今はそんな打ち方なの?」
俺はヤツのしけた面を見ながらたずねた。
「いや、今は手なりだ~。安全牌から投げるから。手なりは環境に優しいし。昔にみたいにやたらリーチもかけないでダマだ。それがリトリート(隠れ家)サミットだべ」
ウィンザーホテルの言葉に首相がいちいちうなずいていた。もう北海道が立候補した時点で勝敗は決していたのかもしれない。
「そうそう言い忘れました。トップ賞は私が選んだ雀士に付けます。美しい雀士に」
安倍がいつものぎこちない作り笑顔を浮かべて言った。この麻雀に賭けた俺の努力は何だったのだろう。急速に麻雀への熱が冷めていくのを感じた。(大畑)
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