ギャンブル

2008年3月 3日 (月)

新世代DVD麻雀

~雀士・東芝の独り言~

 終わったな……。
 やっぱり松下が入ってるグループは負けねぇのかな。
 ビデオの時はベータに乗ったけど、土壇場でVHSに乗り換えたからまだ傷が浅かった。でも今回はオレがメーンのメーカーなんだからよな、負けちゃいけねぇのに……。
 ケチの付け始めは東二局のマイクロソフトだ。


【東二局 点数状況】
東 ワーナー       2万3500点
南 東芝         2万9300点……オレ
西 マイクロソフト    2万 700点
北 ソニー        2万6500点


 東一局で5800食らって沈んだオレに来た東二局の配牌は、ドラが2枚でかぶって、白が対子(トイツ)、発・中が1枚ずつ。悪くないよな。そうなりゃ、マイクロソフトにエレベーターのサインだよ。アイツはオレの「お引き」なんだから。
 ところが本来なら卓下を通すはずの白をアイツは卓上に出しやがった。
「xbox360は外付けですから」
 とか言いやがって。

 アイツはオレの「お引き」じゃなかったのか? 

「リスクの高いことはー」とか訳わからねぇ。ケトウを「お引き」にするんじゃなかったよ。つっても液晶の戦いでもめっちゃ怖かったって評判の任天堂さんが、一緒に闘ってくれるわけでもないしな……。
 せめてオレもゲーム機の「ワザ」持ってりゃな。
 ソニーなんて自分で積み込でたもん。プレイステーション3だっけ。大して出回りゃしない、失敗作だって聞いてたのによ。フタ開けりゃ、プレイステーション3の積み込みもバカにできない数字だったよな。

 だいたい情報量が50ギガバイトのブルーレイと、30ギガのHD-DVDってそんなに違いがあるのか。ようは山とは別にガメてる牌が5枚のソニーと3枚のオレってだけだろ。配牌を使って安い手を早く上がるのは、ソニーよりオレの方がうまいんだから。

 ただ最後の大勝負「年末商戦」ではソニーに負けたもんなー。
 南三局で親はオレ。トップのソニーとの差は2万4000点。絶望する点数じゃないよな。値下げして上がりのスピードで連チャンを重ねて、市場を席巻。勢いが出てきたらデカ手、それこそ八連チャンでも出れば一発逆転だよ。
 ほとんどノミキックだけど、5本場まではいってたんだんだよ。さあ、そろそろデカ手に変わってくる流れかなと思ったら、案の定、索子(ソーズ)が固まってきたわけだ。

 流れからいって、一気に染めだろ!

 そしたら上家 (カミチャ)のワーナーが絞りやがんの。オレになかせないように。いままでソニーにもオレにも、絞ったことなんてなかったんだぜ。しかも7巡目にはソニーが牌を倒して見せちゃった発の対子(トイツ)に、即なかせ。
 その後もチャンタバレバレのソニーに、なかせる、なかせる。

 アイツは中立だから卓に入れたんだぜ。ディズニーとか20世紀フォックスとかと違ってさ。それが南3局でオレに牌を供給しないときたもんだ。
 これじゃあ、勝てねぇよ。
 使えない「お引き」とオレだけに牌を絞る映画配給会社。

 結局、南3局は発チャンタ、ドラ2で満貫をソニーが上がって、オーラスもワーナーに軽く流されて終了。ボロボロだね。ソニーとはにぎってたから、軽く一財産吹っ飛んだってわけだ。
 
 もう終わったら「お引き」のマイクロソフトなんて、ソニーと楽しそうに話してんの。
「外付けのブルーレイもお願いしますよ」
 とか言ってな。
 クソだぜ。(大畑)

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2007年9月14日 (金)

首相引退麻雀 ――中学生日記風――

【登場人物

シンちゃん(安倍晋三)
 ……トータルで-700以上という大負け中学生。学級委員長。

オレ(麻生太郎)
 ……トータル-50。まだまだ逆転を狙っている中学生。シンちゃんの仲間だが、かなり彼に愛想を尽かしている。

小沢(小沢一郎)
 ……シンちゃんに対立するグループのリーダー

長妻(長妻昭)
 ……シンちゃんを追いつめる急先鋒。


 ―― ※ ―― ※ ―― ※ ―― ※ ―― ※ ―― ※ ――

「ねえ、もう半チャンやろうよー」
 シンちゃんが甘えた声でねだってきた。
「次は勝てそうな気もするんだよね。人身一新でさ。塩ちゃんもやりたいだろ。ねえ~、もう半チャンしようよー!」
 そう言ってシンちゃんは塩崎君の手を引っ張った。
 これだけボロ負けなのに、シシンちゃんはまだ麻雀を続けたいらしい。しかも毎回、毎回、ミエミエの手に振り込みながら、次は勝てると思い込んでいることが信じられない。
 ただオレがトップに近づくためには、もう半チャンぐらい晋ちゃんの麻雀に付き合うのも悪くはない。
「そうだな。もう半チャンするか! 大丈夫。シンちゃんなら次は勝てるよ。ただ卓に入るのを待っている人がいるから塩崎君は抜けてもらおうか」
 オレの言葉に晋ちゃんはプッと頬を膨らました。
「ヤダよ。だってそしたら気軽に話せる人いなくなっちゃうじゃん。麻雀はワイワイやるから楽しいんだし。仲間うちだけでやろうよ~」
 始まった。坊ちゃんのワガママが。
「彼、マスコミの評判も悪いしさ。あんなの抱えてたら、また負けちゃうよ」
 シンちゃんの耳元でそっとささやく。
「そうか……。もう、これ以上負けられないもんね」
「仕方ないだろ。たまにはさー、きちんと強い相手とも卓を囲んで、しっかり麻雀打たなくちゃ」
 オレの強い口調にビビッたのか、シンちゃんは視線を下げ表情を堅くした。
「反省すべき点は反省して……、あっ、お腹痛くなってきてちゃった。メンツは麻生君に任せるよ。……トイレ行ってくる!」
 ストレスがかかると腹を下してしまうらしい。可哀想なシンちゃん。さっきの半チャンもリーチがかかるたびにトイレに駆け込んでいたもの。おじいさんが有名な代打ちだったというのが唯一自慢の三代目だけど、とにかく神経が細い。

 さて、抜け番だった奴の顔を見てみると、同じグループの奴にはろくなのがいない。みんなサマをする輩ばかりだ。「身体検査」で真っ黒なのに、モーニングを勝手に作っている奴いるし。
「おい、囲むんだろ。入れろよ!」
 オレの姿を見つけ大声を出している奴がいる。マズイのに見つかった。対立グループのリーダー、小沢だ。
「ガソリンスタンドの件とか話し合わなくちゃいけないだろ! 安倍呼んできて早くはじめようぜ!」
 大声をあげている小沢の隣には長妻まで。2人は勝手に、僕らが囲んできた卓に腰を下ろした。
「麻生くーん、メンツ決まった?」
 間が悪い場面で必ず顔を出すシンちゃんがトイレから戻ってきた。
「おい、晋三! やるぞ。早く座れよ」
 シンちゃんは、もう泣きそうな顔になっていた。まだ戦いすら始まっていないのに……。

 それでもシンちゃんは卓についてサイコロを振った。親決めで出親を引き当てる。
「やったよ、麻生君。幸先がいいよ。出親だって。前回の麻雀では、みんなの思いや怒りに十分応え切れていなかったから、今度こそ頑張るからさ」
「所信表明演説かよ。それよりガソリンスタンドのバイト、どうすんだよ。オレは絶対に認めないからな。どうしても安倍が続けるっていうなら、この麻雀で勝ってみろよ」
 肥満でたるんだ頬を揺らして、小沢がシンちゃんをいたぶる。本当は止めさせようなんて思ってないくせに。
「だって、米国(こめぐに)先輩から頼まれた仕事だよ。国際社会の責任を放棄して本当にいいの?」
 まだ振り込んでいないだけに、シンちゃんは元気だ。字牌を切りながら小沢に応戦した。
「ガソリンスタンドの件だけじゃない。修学旅行の積み立てのお金と明細が無くなった件、学級委員の安倍はどうするつもりなんですか。きちんと情報をだしてください」
 頭の切れる長妻君が四萬を切って、シンちゃんを責め立てる。
 一巡目から中張牌(チュウヤンパイ)切り。怪しい。チャンタ系か。それとも早上がり。
「だから検査してるっていってるじゃん。精一杯やってるよ」
 言い返すことに必死のシンちゃんは長妻君の打ち筋に気づいている様子はない。オレは小沢君と同じ北切りで様子を見た。しかしシンちゃんは「だってさー」とか興奮しながら発を切った。親の連チャンを考えても、早上がりを誘発しかねない三元牌は危ない。しかし長妻君は発に反応することなく、シンちゃんを口で追いつめていく。
「僕はずっと消えた積立金があると言い続けてきたのに、『不安を煽るから』とか言って相手にもしくれなかったじゃないか」
 銀縁メガネを中指で押し上げながら長妻君が迫る。
「じゃあ、どうすればいいんだよ!」
 シンちゃんがキレ気味怒鳴り、白を切った。
「ロン!」
 長妻君が牌を倒した。
「白、チャンタ、ドラ1で満貫」
 あー、ツルツルの白で満貫放出。(身体)検査が甘かったんだな。ツルパゲの白で当たるなんて。
「シンちゃん。まあ、割れ目じゃなくてよかったじゃん」
 泣きそうになっているシンちゃんに声をかけたが、返事はなかった。
「メソメソすんなよ。満貫ぐらい。始めるぞ」
 小沢はそう言って、どんどん牌を中央の穴に入れていった。
「ねえ、小沢君。一緒にお便所行かない?」
「何だよ。言いたいことがあるなら、ここで言えばいいだろ。何も二人で相談することないし」
 勝ち誇ったような笑みを浮かべ、小沢がサイコロのボタンを押した。
「いや、挨拶したいんだよ……、ちょっと」
「イヤだよ。便所での挨拶なんか。言っておくけど、オレはガソリンスタンドの仕事は反対だからな」
 突き放すように言って、小沢がシンちゃんの山から牌を持ってきた。よりによって満貫を振った後に割れ目なったようだ。よくよく運のないシンちゃん。
 満貫で心の糸が切れてしまったのかもしれない。シンちゃんはうつろな目で配牌を続ける。

 局面が動いたのは、5巡目長妻の捨て牌だった。
「リーチ!」
 卓に響き渡る長妻の声。ノッてる奴とケンカする必要はない。オレは安牌を切った。
「ダメだ。切れないよ。絶対に当たるもん」
 半ベソをかきながらシンちゃんが悲痛な声をあげた。
「でもさ、切らなくちゃ。全部が当たりってわけじゃないんだし、まだ5巡目だから安手かもしれないじゃん」
「麻生君、僕、もう止めたいよ。だって小沢君は連れションに行ってくれなかったし、長妻君の追求は厳しいし、米国先輩にはバイト続けるって約束しちゃったし、お腹も痛くなってきたし、なんか隣の卓に座る現代君がこっち睨んでいるし。もう、ヤダよ、僕」
 ついに泣き始めたシンちゃんに唖然としながらも、オレは懸命に励ました。
「今、止めるのはマズイって。言い出しっぺじゃん。半チャンぐらい我慢しなよ」
「ヤダー! 誰も僕の気持ちなんか分からないんだ。もう帰る。お腹痛いから入院するんだ」
 そう言うと、シンちゃんはいきなり立ち上がり、店の出口に向けて走っていった。
「史上最低の雀士として歴史に名を刻むよ、アイツは」
 あまりの行動に呆然としているオレの耳に小沢のつぶやきが聞こえてきた。(大畑)

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2007年7月27日 (金)

爆烈アカギ(農相)麻雀――絆創膏編――

「ロンだ。平和ドラ1で2000」
 マスコミからの差し込みで国民が上がった。南3局でもう逃げ切りの体制を堅め始めた国民。アカギはたしか原点よりマイナスのはず。3万5000近い国民を追うのはツライ。アカギと国民のサシウマが5万点。つまり事実上の一騎打ち。通しによる差し込みが当たり前の勝負で、オーラスにマンガンで追いつけない点差は絶望的。
「フフフフ、一応ラスの局に入る前に点数の申告でもしておくかな。アカギ君が点棒を入れる場所を間違えているのか、持ち点がいっこうに表示されないしな。ちなみにワシは3万4800点だ」
 国民に続き、「私は2万5400」とマスコミの声がつづいた。そして俺も小さな声で「1万8000」と申告する。
「じゃあ、2チャだな。2万9800」
 アカギの声が卓に響きわたった。

ざわ… ざわ… ざわ… ざわ…

「アカギ君、何かの間違いじゃないかな。君はほとんど上がってない。ワシの記憶では配給原点にも届いていなかったはず」
 国民の疑問は当然のこと。これまでほとんど上がっていないのは自明。にもかからず、いけしゃーしゃーと自分が2着だと申告するアカギの神経はおかしい。
「だいたいすべての点数を合計すると10万8000点になるぞ。8000点は、お前がどこからもってきたんじゃないのか」
 マスコミがアカギをにらみつけた。
「クククク…。ズレている…すべて……。8000点多いのは事実。しかし、どうして点棒が増えているのかは不明。証拠がないのであれば犯人を捜すことなど無理。むしろ怪しいといえば、一度点棒を床にばらまいた、じいさん、あんたじゃないのか」
「国民さんもご高齢なんでしょ」
 アカギのお引きとして精一杯彼をフォローしたつもりだったが、場の空気は一気に重くなっていった。
「好調に上がり続けていたワシが犯人じゃと」
 国民の顔が怒りで真っ赤に染まっていく。
「じいさん、俺はあなたが犯人だとは言ってない。むしろ逆。証拠もないのに、じいさんを犯人だと決めつける論理に無理があると言っただけだ。それは俺もじいさんも一緒。
 むしろ、いま注目すべきは不明な点数の総額。ここにポイントがある」
「ポイントだと!」
 マスコミが脅しつけるような口調で迫る。
「そう、ポイント…。ちょうど4で割り切れる8000という数字は神の行幸。各人が2000ずつ捨てれば勝負は再開できる。それが嫌なら、この局を初めからやり直すしかない……。やるだろ、じいさん。続きを……! トップだしな」
 そう言いながらアカギは全自動卓の中央を持ち上げ牌を落としていく。しかしアカギの動きに合わせて、牌を穴に落とす者はいなかった。
「ククク…。考える時間が必要か? ならばオレは便所に行ってくる」
「俺も便所」
 アカギに遅れまいと俺も席を立った。

 トイレの扉を開け中に入ってすぐ、俺はアカギの肩をつかみ振り向かせた。
「オイ、いくら何でも強引すぎないか、あのサマは!?」
「ククク…。安倍さん、別に無理な話じゃない。国民が点棒を落とした時点でアヤが付いたのは向こう。証拠がない以上、俺の2案からどちらかを飲むしかない」
「でも、この局を無効にすると国民が選択したら……? お前の運は明らかに落ちているし、東1から打ち始めたらもっと負ける可能性が…」
 俺の不安にタバコを火を付けながらアカギが答えた。
「安倍さん、それはない…。
 国民は俺たち政治家にトコトンしゃぶり尽くされてきた。今回の俺よりひどいサマに文句さえ言えず……。だから政治家に勝っている時点で、じつは有頂天。差がわずかに5000といえども、『勝ってオーラスを迎えた』という興奮を抑えられない。
 あと、わずかな時間を乗り切れば勝てる。そう思えるところが国民の希望だ…。国民の希望を切っちゃいけない…! 焼かれながらも人は…、そこに希望があればついてくる……!」
 煙を天井に向けて吐きながら、アカギが俺の目をのぞき込んだ。
「安倍さん、先に卓に戻っていてくれ。俺は奴らをもう少し焦らしたい。考える時間が長くなればなるほど、得たモノを捨てる勇気がなくなる……それが人間。わずか5000点のアドバンテージが奴の背中を押す。あと数分でな」
 
 俺が卓に戻ってから、きっちり3分後。アカギは便所の扉を開けて出てきた。顔に大きな絆創膏を2つも張って。

ざわ… ざわ… ざわ… ざわ…

 客が帰ったばかりの卓の横を通り過ぎ席に着く。
「決まったかい、じいさん。俺はどちらでもいいんだぜ」
「続行で結構。ただし、これからは上がった点数を必ずメモさせてもらう。そのメモと点数が違う場合は今日の勝負すべてを無効にする。前5ゲーム、貴様が勝った分も含めてな」
「なるほど妥当だ。俺もフェアにやりたいし、それでいい」

 親のマスコミが西を切り、南4局、オーラスが始まった。
 一萬を切りながらマスコミがアカギに詰め寄る。
「その絆創膏は何なんだ? いきなりトイレから戻ったら絆創膏ってのは変じゃないか?」
「ご心配なく、大したことありません」
「まさか、トイレでケガをしたとでも言うのか? 新しいサマだったりするのか」
「何でもありません」
 アカギは絆創膏を張った理由を話さない。その様子を疑わしそうな目で国民が見つめていた。ただ、捨て牌自体は順当だった。各人が次々に一九字牌を処理していく。そして7巡目、アカギが動く。
「リーチ!」

ざわ… ざわ… ざわ… ざわ…

 国民とアカギとの点数差は5000。つまり40符3翻、5200点以上なら逆転が可能になる。直撃なら2600。
 テンパイとしてベストな形はダマで5200点以上の手を作ることだ。ダマなら国民にも警戒されず、逆転を狙うことができる。基本的にはリーチをかけるのは邪道。リーチをかける時点で点数が足りないことが明らかになり、他の打ち手も警戒する。ただ俺に差し込み要請がないのが不思議だが……。
 俺が捨てた三索にアカギが牌を倒さないのを見て、「フー」と息を吐いた国民が言った。
「ククク…。差し込みさえできないリーチとは、ずいぶんと追いつめられたなアカギ君。よほど待ちが悪いか、それとも直撃じゃないと逆転できないか…。いずれにしても、リーチしている君に勝負する必要はないな」
 そこから国民とマスコミのベタ降りが始まり、結局、ノーテンの3人がノーテンのままこの局が終了。アカギが自分の牌を倒した。
「ククク……。リーのみ。カンチャン・ドラ待ちではさすがにでないだがな。さあ、ノーテン罰符をもらおうか」
 国民が目を見開いてアカギの牌を見つめている。
「まさか、ノーテン罰則狙い? だから差し込みもしなかったのか……」
「もともと、この局はじいさんの勝ちだった。流れはじいさんにあった。しかし臆病風に吹かれて、わずか5000点の差を守ろうと殻に閉じこもれば、負けは目前。何を恐れているんだか……。ククク…意外に臆病だな、国民」
 リー棒こそ放出したもののノーテン罰則が3000点。これでアカギと国民の差は2000点まで縮まった。リー棒と一本場の300点を加えれば、30符1翻1000点でも逆転できる差である。
「これで勝負せざるを得なくなったな、国民」
 アカギがニヤリと笑った。

 そして南4局の2本場。勝負はあっさりと終わる。
「ロン。タンヤオのみ、ジカ取りの1300。逆転だな、じいさん」
 わずか3巡目、アカギの速攻だった。
「勝負あったな。勝ち分は税金という形で徴収する。じゃあな」
 アカギが席を立ち、俺もその後に続いた。放心状態の国民は一言も発することなく、俺たちを見送った。
 雀荘を出ると、すでに夜明けの気配が漂っていた。ほの明るい道ばたで、アカギが絆創膏を取っていく。
「ひとつだけ聞いていいかな、アカギ。なんで絆創膏なんか貼ったんだ? ケガなんかしてなかったのに」
 一番気になっていたことを質問する。
「ククク…。
 もともと南4局1本場は勝負の時じゃなかった。あの局で国民に向いている流れを止め、あわよくばノーテン罰則を吐き出させたかった。そのためのリーチ。ただし流れをつかんでいた国民が遮二無二向かってくるのは分が悪い。だからあきらめるための『幻の兵』が必要だった。それが絆創膏。
 絆創膏の不気味さに、新しいサマかもしれないとも考える。だから運のあった国民が序盤からベタ降りに転じたんだ。これは大きい。しかも絆創膏のおかげで、点数が合わなかった疑惑も吹っ飛んだ。そしてもっと重要なことは便所からの帰り、顔に視線が集中したこと。おかげで隣の卓から牌を持ってくるのが楽だった」
「じゃあ、1本場の上がり牌は、あの客が帰った直後の卓から持ってきたのか?」
「いや、あそこでは使ってない。使ったのは勝負を決めた2本場。このサマが利くのは早い段階だけ。いくら暗刻で持ってきてないとはいえ、牌がめくられてくれば4枚以上牌があるとバレる可能性は高まるからな。
 つまり1本場で差を詰め、2本場でサマの速攻勝負する計画だったわけだ」
 まさか、2本場までサマだったとは思わなかった。
「アカギっ…! 死ぬぞっ…! あまり国民をなめると、あっさり死ぬことになるぞ」
 思わず叫んでしまった俺に、アカギは笑って答えた。
「ククク…。死ぬときは死ぬ。落選するときは落選する。それは仕方ない…。生き血のように…金を吸うのが政治家という生き物だ。最後の一滴までな…」

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2007年7月20日 (金)

『あの頃』発売記念・ケータイ小説麻雀 ブラフなんかに負けない

東1局

東 赤い糸       3万5000 点
南 あの頃       3万5000 点(私)
西 恋空        3万5000 点
北 あおぞら      3万5000 点

「やっぱり、ダメだよ。三筒とは一緒に入られないよ。仲間だと思っていたのに…」
 恋空が騒いだ。
 1巡目で「来たー! 三筒。つながった!」と大はしゃぎでツモった牌を次順で切る? その理解不能な打ち筋に思わず、恋空の顔を覗き込んでしまった。 しかし『オペラ座の怪人』ファントムが付けるような白いマスクに阻まれ、彼女の素顔は見えない。
 ネット麻雀で敵なしといわれる恋空だけに不気味だ。とりあえず私は字牌を切って様子をみた。

「あー、被った…。三筒に裏切られた気分だよ。でも、まだ私は三筒を信じたいから字牌からだよね」
 落ち込んだ様子で、時順に恋空が白を切った。雀荘「魔法のIらんど」で一緒に打つことも多いであろう赤い糸は、恋空の言葉にうなづくことすらない。どこか寒々しい雰囲気が雀卓を覆った。しかし、そんな状況を気にすることなく、彼女は次のツモでリーチをかけ、そのまま一発ツモ。牌を倒した。

「リー即ツモ、ドラ1で7700でしょ。で、割れ目だから1万5400! なんか、つらい配牌だったけど、報われたってかんじ~」
 さすがにネット麻雀の女王、手が早い!
 5巡で1万5000。5日で15万部売り切ったという伝説の勢いを麻雀でも再現した。しかも割れ目でキッチリ上がる攻撃。上下巻に分けて発行し、刷り部数を2倍にした方式そのままだ。

「なんで二筒も四筒も手にないんですか?」
 恋空の手の速さに驚いていた私の耳に、いきなり冷たい声が飛び込んできた。あおぞらだ。彼女も恋空と同じような白いマスクを付ており表情はうかがえないが、恋空をにらみつけているのは間違いなかった。
「えっ? だって実話を元にしたフィクションだもん」
 悪びれる様子もなく、恋空が答える。
「つまりシャミ、ていうかブラフってことですよね。嘘をついて内容を美化してしまいそうなるのだけはダメだって、私は書くことと戦ってきたのに!」
 恋空もあおぞらも私も、実際に彼を失ったはずだ。そのうえ私の場合は妹が、恋空とあおぞらは本人がレイプされたことになっている。
 同じような体験をしたからこそ、過去を引きずることなく、いきなり前向きに立ち上がる恋空に私は違和感を抱いていた。
「『三筒を信じたいから』なんて悪質な誘導だよね」
 この携帯小説系の書籍で、唯一、実名・顔出しで出版を決めた私もだんだん腹が立ち語気が荒くなる
「仕方ないじゃん。『魔法のIらんど』って競争激烈なんだから。展開すごく速くしなくちゃ、読者から見放されちゃうし。レイプされても、すぐ立ち直って恋に戻らなくちゃダメでしょ。だから恋空も完全なフィクションだって認めちゃえばいいのよ。どうせ実名や顔なんて、いっさいわからないんだから」
 小説だと公言している赤い糸が、青臭いこと言うなとばかりに言い放つ。
「許さない! 過去とまだ戦っているのに、適当にでっち上げて商売の道具にするなんて」
 はき捨てるようにあおぞらが言った。

 しかし誰が文句を言おうと恋空の勢いは止まらなかった。風牌や白発中などドラを組み合わせ、しかもシャボ待ちと、河にテンパイまでのストーリーがきちんと描かれる手は作らないが、割れ目とドラで点数を積み重ねていく。
 その恋空の立て続けの上がりをとめたのは、同じ雀荘を根城にしている赤い糸だった。
「リーチ」
 赤い糸が高らかに宣言した。
 順当に字牌からの切り、中張牌(チュウチャンパイ)へと移っていく河のストーリーは、恋空よりはるかに読みやすい。やっと筋や裏筋での読みが可能になりそうだと思った途端、隣の卓で打っていた面子がいきなり楽器を持ってバラードを歌い始めた。
「うるさい。あんたたち誰なの?」
 思わず声をあげると、赤い糸が笑いながら答えた。
「コラボだよ! 人気インディーズバンドとのコラボ。リーチかかったら応援してくれることになってたの」
「麻雀と関係ないじゃない!」
 もともとは私もタレント。友達の芸能人を知らないわけじゃない。でも、あえて帯にものせず、本の中身だけで勝負した。私が経験した事実だけを武器に出版した。それなのに…。
 同じように本の内容だけで勝負し、口コミで50万部を売ったあおぞらも呆れたように首を振っている。
 しかし音楽のリズムに乗るかのように、あっさりツモ。倍満をもぎ取っていった。
 高い点数のツモが続き、さすがにあおぞらもうなだれている。

 でも私は負けない! 彼や親友が死んだこと、妹がレイプされた事実だけを書いたんじゃない。そこからの再生が私のテーマだった。
 だから、こんな勝負に絶対に負けたくない!! 何かが私の中ではじけた。

 7月19日、本日。

 都内では早ければ夕方から書店に並ぶだろう。

事実だけが持つ言葉の重さに期待して、私は闘う。

 私は今日から書店で待ちます、実名、顔出しで!(大畑)

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2007年6月 8日 (金)

死闘! 松岡麻雀――発ホンイツ、緑を集めたカラクリは――

東3局一本場

東 検察          2万8000 点
南 小沢一郎       表示なし
西 松岡利勝       3万3200 点
北 安倍晋三       3万2500 点

「ノミキックでしかあがってない松岡君が、どうして3万2千点も持ってるの」
 僕の質問に松岡は青ざめた。
「いや、ナントカ還元水のようなもので符ハネしたし……。だ、暖房とかのご祝儀が別途、含まれているから」
 しどろもどろだ。
「そんな説明じゃ、誰も納得しないよ!」
 ちょっと怒鳴ってみた。松岡のそぶりを気にしている安倍への牽制球だ。安倍の麻雀仲間・佐田玄一郎が雀荘に来るのを辞めたことだし、ここは一気かせいに攻め込むでしょ!
「小沢さんの点数自動表示だって、ずっと表示されないままじゃないか」
 神経質そうにしきりとまばたきを繰り返しながら、安倍がこちらを睨んだ。
「いや、いいですよ。じゃあ、表示しましょう。1000点棒が1万点用のしきりの中に混ざっただけなんだから、すぐに分けますよ」

 マズイ方に話がむかってきた。
 でも、とにかく点棒を表示させないと話は収まらん。僕は雀卓の点棒入れを開け、左手で点棒を整理しながら右手でイスの横に置かれている点数の集計表とボールペンを探った。
 1000点棒を隣の仕切りに入れ、1万点棒9本をそろえて点棒入れを閉じる。
 全員に表示された点数を見て、安倍が大げさに騒ぐ。
「10万6300点! こんな点数が許されると思ってるの?」
 あー、ヤダヤダ。最近の安倍が連発する質問型の「ご意見」だ。聞くたびに腹が立ってくる。
「これは個人所有じゃないんです。私がハコってご迷惑をかけてはいけないと、雀荘の店主からお借りしたものですから。雀荘の主人から借りたという書面もありますよ」
 対面の安倍に2つ降りにしたペーパーを放った。紙が薄すぎるためか、ヒラヒラと舞って安倍の前に落ちた。
「小沢さん、『8万点貸しました 雀荘 国会』なんて点数表の裏紙に走り書きした書類を信じられるワケないでしょう!」
「いや、不審だというなら雀荘に戻しましょう。でもね、重要なことは説明したことですよ。ディスクロージャー、オープンにすることでしょ。松岡君は説明できるの、その点数!」
 上家(カミチャ)の検察がチラっと「書類」に視線を飛ばしたのが気になったが、内訳を説明できそうにない松岡に話を振り替えした。途端に安倍が松岡の耳に口を寄せた。
「架空のものだとか、付け替えというのは一切ございません」
 安倍に指示された通りなのか、暗ーい表情で松岡がワケの分からない説明をする。

「そうじゃなくてね。僕が言っているのは内訳をきちんと説明しなさいと言ってるのよ」
 松岡に向けて怒鳴ると、何か言いたそうな松岡を手で制して安倍が答えた。
「松岡君は妥当な処理をなさっていると思う。法律上適切でしょう」
 このやり取りを止めたのは口数の少ない検察だった。
「もういいでしょう。麻雀を進めませんか?」
 サマかどうか、チョンボかどうかを決めるのは自分だ、といわんばかりの態度に腹が煮えくり返った。しかし僕の投げた「書類」をチラ見していたことを思い出し同意した。
「そうだな。じゃあ、一萬」
「あっ! ツモだ」
 次順の松岡が久しぶりに明るい声を出した。こんな明るい声を聞いたのは、3時間前に雀荘に集まった時以来かもしれない。サマをするからと、雀荘に誘われても、ずっと抜け番。そんな扱いがこたえていたのだろう。「初入閣だー!」と入り口から雀卓に走ってきたのが思い出された。
「ツモ発ホンイツでマンガン! 4千、2千ね」
「ちょっと待った。僕ね、1索をアンコってるの。それなのにどうして1索が頭なの?」
 僕も自分の手をさらす。
「ちょっとおかしいよね、松岡さん。あなたずっと索子で染め続けているでしょ。前の半チャンでも、あわや緑一色かっていうチンイツだったし」
 いきなり検察のボルテージが上がった。
「松岡さんの右後ろで打っているは松岡さんと親しい緑資源機構の人たちでしょ? 本当に、この卓の牌なの? 見せて!」
 検察がいきなり松岡が倒した牌に手を伸ばした。しかし松岡の牌を握りしめた検察の両手は、いきなり安倍が持ち上げた全自動卓の真ん中、サイコロの回る部分にぶつかった。
「イテ!」
 ぶつかった衝撃で検察が手を開き、洗牌の穴へと証拠の牌が落ちていく。
「おい、検察どうするんだよ! 普通、サマの証拠を穴に落とすか!? しかも14牌全部だぞ。お前も松岡とグルなのか」
「やめろよ。そんなことあるわけないだろ。安倍君がいきなり洗牌用のボタンを押すし……。でも、もう牌が穴に落ちたんだから洗牌するしかないんじゃない。さいわい親が僕だったから4000点払うのも僕だし」
 そう言いながら検察は次々と穴に牌を落としていく。
「そうですね。牌が多いなら積めば分かることですし」
 安倍も検察に同調し、対面から手を伸ばして僕の牌を真ん中の穴に落とした。松岡は血の気の失せた顔で下を向いたままだ。
「小沢さん、大丈夫、怪しいのは右後ろの卓の連中でしょ。呼び出して話を聞くから」
 検察が僕の耳元で囁いた。
「おい、山崎君。ちょっと聞きたいことがあるんだ、僕の横に来てくれないか。大事な話なんだ!」
 検察が横柄な態度で隣の卓の山崎を呼んだ。一瞬けげんな顔をした山崎だった、振り返って呼んだの誰か分かったのだろう。慌てて検察の隣に立った。

「さあ、小沢さんの親だよ。振って、振って」
 これ以上問題が大きくなるのが嫌だった安倍が僕にサイコロを振るよう催促する。そのときボソッと松岡がつぶやいた。
「もう、俺も随分と負けが込んでいるから、ここで打ち切るのはどうかな。途中で辞めた責任として、多めにカネを払うからさ」
「いやいや、松岡君、君は優秀なんだから辞めてもらっちゃ困るよ。せめて次の半チャンが終わるまでは居てもらわないと。周囲の反対を押し切って、この麻雀に誘ったのは、この僕だろ」
 安倍がまばたきを止め、松岡をねめ付ける。
「そうだよ。ここで帰るとなれば、安倍の任命責任にも発展するぜ」
 ここで松岡に帰られると、僕がどうして8万点も持っていたが改めて問われる。ここは安倍に同調だ!
「だめかな……」
 消え入りそうな声で松岡がつぶやいた。
「高木君! 君も来て」
 検察が隣の卓に向けて大声で怒鳴った。
「ヒッ!」
 検察の声に驚いた松岡がイスから体を浮かせた。
「いや、もう全部謝るから、ここで麻雀をやめさせてくれないか」
 涙目の松岡が安倍に頭を下げた。
「ダ・メ・だ・よ! 君は優秀なんだから!! それより君の番でしょ、捨てて」
 安倍の声は冷たい。松岡は発を震える手で牌を切った。


 
「へー、今度は発の出が早いですね。もう緑一色は狙わないの?」
 ニヤニヤしながら検察がたずねた。
 その途端、松岡はいきなり卓の山を右手ではじき飛ばし、イスを蹴って立ち上がった。
「安倍総理、日本国万歳」
 絶叫しながら雀荘の出口に走っていく。その姿を僕らは唖然として見送った。
「慚愧(ザンキ)に堪えないな!」
 安倍が松岡の後ろ姿を見ながら吐き捨てた。そうとう松岡の行動を恥ずかしく映ったのだろう。
「ご本人の名誉のために申し上げておくけど、『緑資源機構』に関して捜査当局が松岡君や関係者の取り調べを行っていたという事実もないし、これから取り調べを行う予定もないという発言があったと聞いているよ。そうでしょ、検察さん」
 安倍が検察に同意を求めるかのように話を振る。
「そうですね。山崎君や高木君とは世間話でしたから」
 さすが官僚。上を見て話を合わせるのはうまい。

「しかし、これじゃあ3人麻雀になっちゃうな。誰か呼ぶか。言うことを聞く、官僚上がりとかがいいな。赤城君にするかな」
 安倍が携帯電話を取り出した。卓から逃げ出したヤツなど構っている暇はない。それが雀士の心得だということか。
 こうして安倍の「美しい麻雀」は続くのだった。(大畑)

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2007年4月24日 (火)

サミット麻雀――洞爺湖は手なり重視の安牌切り

南2局1本場終了

東 関西サミット(大阪府・京都府・兵庫県)代表
  大阪城・京都迎賓館  ……2万7200点

南 開港都市サミット(横浜市・新潟市)代表
  パシフィコ横浜 【俺】 ……2万4800点

西 瀬戸内海サミット(岡山県・香川県)代表
  サンポート高松    ……2万3000点

「流れやないでー、テンパイなしでも南場やからのー。親のまま血吸ったろか~」
 大阪城が自分の冗談に一人笑っている。このうるさい大阪人は俺をイラつかせる。
「そろそろ変わってくれへんと困りますわ~。ウチかて関西サミットの代表どす」
 大阪城の後に座っている京都迎賓館が、またネチネチと打ち手の交代を要求し始めた。
「じゃかましいわ! 今、勝っとるやろが。3人麻雀言うたら大阪の華。そんな簡単に譲れへん」
 首脳会場を争っている2人の争いが続く。互いに相手より上だと思っているだけに始末が悪い。だいたい3万点にも届いてないのに、勝手にサミットの開催地が自分たちだと思い、内輪の争いに力を入れてることに腹が立つ。

「ちょっといいかな。こいつを卓に入れてもらえる」
 いきなり卓に近づき声をかけてきたのは胴元の1人である中川昭一政調会長だった。その後でオドオドした表情の男が俺たちに頭を下げた。
「後出しじゃんけんみたいですまないべー。ザ・ウィンザーホテル洞爺です」
 この男どこかで見たことがあるような……。
「あっ、もかしてホテルエイペックス洞爺! おれの2年ぐらい後に建った。たしか最後のバブルだとか言われた」
 思わず声を上げていた。ずいぶんと贅肉が落ちたが、ホテルとは思えないほどデカイずうたいはそのままだ。ただ当時の調子に乗った雰囲気はまったくない。
「覚えておいでですか。あの節はお世話さなって」

 ザ・ウィンザーホテル洞爺は、はにかみながら答えた。北海道拓殖銀行の破綻を受けての営業停止が、ここまで彼を変えたのだろうか。「ホテルなんてもんわな、高級なら入るんだ。おれのバブルがはじけると思ったら大間違いだべー!」と怒鳴り散らしていた男と同一人物には思えない。
「南2局から参加だ~ぁ! 東場で頑張ってきた俺たちをどう考えているのかのー」
 さっそくかみついたのは大阪城だった。
「まるっきしよ。許されるはずないわ」
 敵がいるときだけは仲良くなれるのだろう。大阪城に続けて京都迎賓館もザ・ウィンザーホテル洞爺をにらみつけてくる。
「まあまあ熱くならんので」
 仲裁に入ったのは瀬戸内海サミットのサンポート高松だ。県庁に専門部署すらなく、予算すらついていないサンポート高松はそもそも勝つ気がない。ただただ平和にサミット麻雀が終わるのを待っているようだ。

 南2局から3人麻雀が4人麻雀に変わるなんてことは認められるはずがない。しかし中川のバックには大胴元の安倍晋三首相が控えている。従わないわけにもいかない。顔をしかめて何がブツブツとつぶやきながら大阪城がサイコロを振った。
「おっ、自7や! ちゃうちゃうトイ7やった」
 サンポート高松の山が割れ、ドラ表示牌がめくられた。4筒。
 と、そのとき大胴元・安倍首相の甲高い声が雀荘に響き渡った。
「くつろいだ雰囲気の中で議論できる場所、『美しい日本』をアピールできる場所がいいですね。あと警備上の問題も重要です」
 警備だと! 俺はぶち切れそうになった。そんなことが重要だとは聞いてない。都市の俺には厳しい課題じゃないか。
 いや、しかしもう勝負は終盤、あえて不得意な警備力をアピールするより、都市の便利さを全面に押し出すべきだ。
 配パイを見た。ダブ南2枚とドラの5筒と6筒、アンコウ暗刻が1つ。
 いける!
 一鳴きで速攻の手作り。都市ならではの交通網を手作りの早さでアピールする!
 2巡目、警戒心なく南を切ったサンポート高松からポン。4巡目には辺張(ペンチャン)3索がずっぽしでテンパイ。牌に勢いがある。符跳ねしないのが痛いが、親を持ってくる速攻での3900点。
 来い! 4、7筒。

「いややー! テンパイやろか。目がぎらぎらしてまんねん」
 麻雀歴の長い大阪城。俺の気配からテンパイを悟ったようだ。しかしまだ4巡目。他のメンツの手は固まっていない。各自、警備力をアピールしたいだけに、ムリに手を作っての放銃はできないだろう。天棒が動きにくい展開だけにノーテンバップ3000点でも十分だ。
 などと考えていたときに、下家のサンポート高松が赤5萬を切った。ダブ南で2飜確定にドラをぶち込むとは正気か? 
 続いてザ・ウィンザーホテル洞爺は安牌の南切り。大阪城は現物の北。さすがに両者は堅い。
 ここから危険牌に関係なく切り続けるサンポート高松と、安牌を切り続ける北海道・関西コンビという膠着した展開がしばらく続いた。状況が動いたのは10巡目だった。
「カンやー! 暗カンやー!」との声とともに大阪城の端牌が雀卓に倒された。俺の当たり牌の7筒!!
「くさいところやろ。出せへんからな~。テンパイにたどり着くためにも」
 そして手だしが8筒。
「分かるか、パシフィコはん。警備が必要なら大阪城で首脳会議を開けばいいんや。大阪城にはカンで作った堀があるしな」
 警備力だけ考えるならドラの増えるカンなどしない方がいい。7筒と8筒での両面待ちを狙えるわけだし。しかし卓を見つめる安倍首相へのアピールを考えるなら、敢えてカン。壁を作って自身の堀をアピールしての8筒切り。
 強い! 大阪城。
「戦は強いんどす。この前の戦争でも焼け落ちておりませんから。あっ、この前の戦争言うても応仁の乱どすけどな」
 歴史をアピールしたいのだろう。京都迎賓館が口を出してくる。本当に食えないオバサンだ。これで2年前に完成したっていうんだから信じられん……。

 当たり牌の1つを消され、かなり気落ちしながらツモ切りすると、サンポート高松が声を上げながら牌を切った。
「できたー」
Photo_33

「これはなんだべ」と、すっかり紳士になったザ・ウィンザーホテル洞爺がサンポート高松にたずねる。
「多島美やわ。これしかアピールないんやんやから」
 たしかに瀬戸内に浮かぶ島の数々のように美しく牌が切られている。しかし、そのために赤5萬切りとは!  紅葉に彩られた小島でも表したつもりか。
 予想以上にサミットにかける熱い思いがあるということなのだろう。

 結局、この局は誰も上がることなく終了。驚いたことにザ・ウィンザーホテル洞爺は俺がテンパッテからすべて安牌を切ってきた。「当たれるもんなら、当たってみれ」と危険牌をバシバシ切り捨てていたころが懐かしい。
 しかし、これは警備力が高いというより、勝負する手が来ないツモの悪さが原因かもしれない。
「ザ・ウィンザーホテル洞爺も堅いね。今はそんな打ち方なの?」
 俺はヤツのしけた面を見ながらたずねた。
「いや、今は手なりだ~。安全牌から投げるから。手なりは環境に優しいし。昔にみたいにやたらリーチもかけないでダマだ。それがリトリート(隠れ家)サミットだべ」
 ウィンザーホテルの言葉に首相がいちいちうなずいていた。もう北海道が立候補した時点で勝敗は決していたのかもしれない。
「そうそう言い忘れました。トップ賞は私が選んだ雀士に付けます。美しい雀士に」
 安倍がいつものぎこちない作り笑顔を浮かべて言った。この麻雀に賭けた俺の努力は何だったのだろう。急速に麻雀への熱が冷めていくのを感じた。(大畑)

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2007年4月10日 (火)

都知事麻雀――プンリー浅野感想戦――

●都知事麻雀の結果
石原慎太郎   5万3000点  +43
浅野史郎(私) 3万2000点   +2
吉田万三    1万2000点  -18
黒川紀章      3000点  -27

 卓から立ち上がる私に追いすがり記者が質問した。
「敗因は何ですか?」
 しばらくの沈黙の後、私はやっと言葉を絞り出した。
「石原麻雀の実害を被っている人は限られており、一般化しなかった」
 後からは「うわー、ぼくは全然ダメじゃないか」と叫ぶ黒川の声が聞こえてきた。私を「フリーズ、フリーズ」とからかい続けた変人だ。なぜか最後までトップだと思っていたらしい。あんな男に本気で怒った自分が恥ずかしくなった。旧厚生省のキャリアとして課長まで上り詰めた私が……。

 しかし宮城県知事で名君と誉れ高かった私がどうして負けたんだ。少なくとも東2局までは計画通りだったはずだ。

――東2局 6巡目――
 石原攻撃の口火を切ったのは組織頼みの吉田だった。
「庶民の暮らしが大変な時期でしょ。こんなときに大車輪を狙うなんて、大型の役満事業によって荒れた場を作るのが本音じゃないのか」
 萬子、索子の中張牌(チュウチャンパイ)を序盤から切り捨てる石原にかけた言葉だった。
「大車輪をするには配稗が必要。無理しなさんなというのが私の忠告だ」
 黒川も続く。だが、石原は悪びれることなく五萬を切って捨てた。
「人間、国家は夢がないと生きていけない。大車輪はパトス。これはエロチシズムなんです」
 あくまでも大車輪を目指すつもりらしい。
 しかし言ってることは、すでに意味不明。息子とコンビ打ちをして息子に勝たせた疑惑。雀荘で安いタバコを禁止する通称「ディーゼル規制」ぐらいしかない過去の実績。
 私が負けるはずはなかった。
 石原の大車輪計画に対する現実的な提案をぶちあげる。
「大車輪をストップというの、ゴーというのも早い。基本に帰ってよく考えよう!」
 大車輪への対抗を示すために三筒を捨てながら、すべてに反対するわけではないところを見せたつもりだった。計画を白紙撤回することに元官僚として納得できない部分もあった。
 もしかすると、この言動が私のツモの勢いをそいだのかもしれない。

 しかしここから2巡後、私は二五八萬三面待ち、タンヤオ、ドラ1をテンパイ。
「弱者に光を当て、ガラス張りの麻雀にする。徹底した情報公開を進めます」と宣言し、4萬を切ってオープンリーチ。
 この攻撃には雀荘の見物客からも感嘆の声が上がったんだ。しかも3巡目には、きっちり積もってマンガン。
「あんまり江戸っ子向き、東京っ子向きの手じゃないねーという感じがしますね」なんて石原は負け惜しみを言っていたが、この東2局まで私は石原を追い込んでいたはずだ。
 
 いや、しかし……。もしかすると東1局から、私の麻雀はうまくいってなかったのか。
「手はフリーズしたまま。何も変わりません」とブラフで手を進め、「多くの稗の声が、卓をドンドン叩く音が聞こえてきた」とリーチ。5巡後にリーチ東の2600を黒川に直撃。

 市民の声を盛り上げるブラフが無党派のツモの流れを殺したか……。

 本当に流れが変わったと感じたのは南場に入ってからだった。とにかく石原が謝り始めた。息子とのコンビ打ちについても「説明不足だったと反省している」と謝罪。
 また批判された大車輪狙いについても「最重要課題ではない」と争点を潰してきた。自民党に土下座したのが効いたのか、見物客からの通し、いわゆる「組織票」によって放銃をなくす。
 私も一度は断った「組織」に応援を頼んだが、すでに南3局。間に合わなかった。その南3局も石原の白をポンしようとして認められなかったとして、黒川が猛然と抗議。
「この麻雀は不公平! 8時まで歌い続ける」
 そう言い放ち「銀恋」を歌い続ける暴挙に出た。こんな異常な場で、反撃などできるはずもない。結局、この局も石原がツモって終わった。

「大車輪狙いの何を見直せっていうの。あなたは何を見直したいんだー!」
 勝負に勝った石原は、もう元の「失言」野郎に戻っている。勝利者インタビューで記者を怒鳴りつける声が聞こえてきた。

 私の争点が見えにくかったそうだ。やはりオープンリーチを増やすべきだったか……。(大畑)

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2006年12月15日 (金)

ゲーム機麻雀――クリマス商戦死闘編――

南2局

Xbox             2000
PS3(俺)        13000
ニンテンドーDS    46000
Wii             39000

 積もったニンテンドーDSが、また長考に入る。ホントに切るのが遅い。だから頭の悪い奴と打つのは嫌なんだ。人差し指で雀卓をトントンと叩いてやった。
「リーチ」
 途端にDSが叫んだ。捨て牌を見ると、字牌を切り終わった後に一萬、それから3巡置いて六萬。いわゆる間4軒だ。そのうえ切り出したリーチ表示牌が三萬。モロソバ、即リーの二、五萬待ちしかないだろ、コレ。CPUの劣る奴に何言っても仕方ないが、あまりにも頭が悪すぎる。こんなミエミエの手でどうしてリーチなんだ……。
 そのときいきなり卓に牌が叩きつけられた。
「9筒通るかー!」
「おい、Wii! その大げさな動作はやめろ。ゲーム機ならゲーム機らしく、指先動かしてりゃいいだろ。なんで積もったり、捨てたりするたびに腕振り回すんだよ。それに8筒が壁になってるだろうが」
 ぶち切れたオレがWiiを怒鳴りつけた。
「怖い怖い。スタートダッシュに失敗したからって、そんなにカリカリしないでくださいよ」
 色白のWiiがニタニタ笑いながら俺を見る。
「バカ野郎、俺だって東1局は小三元をテンパってたんだ。それを、おまえがショボイ手で流すから」
「あー、東1局のテンパイって転売組の大騒ぎのこと。初出荷が10万台にも届かなくて出没した」
 Wiiの薄笑いは止まらない。それを制止したのは弟のDSだった。
「兄さん、生産が追いつかないことは仕方ないよ。ままあることだもん」
「バカだなー、爆発的な人気で生産が間に合わなくなったお前とPS3さんは状況が違うんだよ」
 この不毛な会話を遮ったのはXbox360だった。
「どうでもいいけど、PS3さん切ってくれないかな。おしゃべりは、もういいだろ」
 打ち始めたときから元気のないXboxは静かに言い放ち、また視線を自分の牌に戻した。
「ごめんな」と言って9筒を捨てる。

 いくらソフトが多くたって、洋ゲーじゃ売れないのは道理だ。そのうえ360になって本体を小さくしたのに、ACアダプターの大きさじゃ。しょせん米国のデカイ家に置くゲーム機でしかない。日本の「ウサギ小屋」に誰が置きたいっていうんだ。まあ、切るのが早いのは嬉しいけど。
「一発ツモ。2000と1000ね」
 DSが大声をあげた。二萬を積もったらしい。
「一発だからチップも付けてね」
 開いた牌はタンヤオへの手変わりを望めるものだった。タンヤオと三色を視野に入れつつ待てばいいのに……。
 次世代ゲーム機ならCPUにモノをいわせて早く打ち、自分の河に迷彩を施し、画像がきれいな手を狙う、コレだろ。それが上がればいいみたいな、頭の悪い手を連発してコイツは上がってく。ゲームの風上にもおけねぇー。
 同じ思いを抱いているであろうXboxをチラリとみると、青ざめた顔をして自分の牌を全自動卓中央の穴に押し込んでいた。発に2索、3索など、7~8枚が見えた。きっと迷彩をほどこしながら、一発逆転の役満でも狙っていたのだろう。緑一色あたりか。
「ブルードラゴンが当たれば絶対逆転だ。ブルードラゴンで」
 血走った眼Xboxがブツブツとつぶやいている
 そのつぶやきを性格の悪いWiiが聞き流すはずもなかった。
「Xboxさん、鳥山明のデザインと植松伸夫の音楽のゲームなんでしょ、ブルードラゴンって。ウチも鳥山さんのゲーム発売すんですよ。弟のですけどね」
「ごめんなさいね、PS3さん。僕らのところにドラクエが戻って来るって聞いて嬉しくて。何でも一番売れてるハードで出すって、スクウェアさんが言ってるから」
 ニコニコと笑いながらDSが俺に話を向けた。不遇をかこっている弟のプレーステーションポータブル(PSP)のことが脳裏に浮かぶ。DSのママゴトみたいなソフトに負けた弟。「英語漬け」「どうぶつの森」の何がゲームらしいっていうんだ。
 とりあえずDSとWiiを無視してサイコロを振り、山を割った。
「あーあ、怒っちゃった」という声とともに、Wiiが牌を頭の上まで摘み上げる。
 ボテッ!
 手から滑った牌がWiiの山を崩した。
「てめぇー! 何度も言ってるだろ。手を振りあげんななよ、ゲーム機なんだから。そんなだから牌を落とすんだろうが。だいたい危ないだろ」
「仕方ないよ。手に汗をかいてくると、コントローラーがすっぽ抜けるのは。ストラップを手首に巻くようにはしてるんだけどね」
 シレッと開き直りやがった。ネットのYouTubeにコントローラーが手からぶっ飛び、部屋を壊している映像が流れまくっているのに。まるで自分に関係ないといわんばかりだ。

 しかし任天堂の連中に構っているわけにはいかない。南場の親だけに、ここで反撃ののろしを上げないと苦しい。まして俺は借金を背負っての勝負だ。自社開発の半導体でつくった負債が重い。ただし、俺のCPUなら任天堂たちより、数倍美しく、デカイ手をつくることができる。スーパーコンピュータなみの演算処理ができるんだから。たまたま今は負けてるが、長期戦に持ち込めば任天堂兄弟なんかに負けねぇー。
「徹マンに持ち込んで勝とうとか思ってるでしょ、PS3さん。長期でソフトを売って、ハードの負債を取り換えそうって。
 でも、ソニー家電にも半導体をのっけてくれなくて、頼みの久多良木健社長が会長に退いたんでしょ。ゲーム開発のメインをハードからソフトに移すとなるときついんじゃない。PS3さんが1日で1割の利子が付くカラス金で麻雀打ってるって、みんな言ってたよ」
 Wiiがまた俺の痛いところをついてくる。
「PS3さん、二言目には僕たちの頭が悪いとか言うけど、いつも手は広く取ってるよ、僕たち。別にきれいな手だけにこだわらないからね。発売時のソフトの種類なんて僕が16本、PSさん6本でしょ。というわけで、リーチね」
 ムダヅモがなかったのだろう。字牌を切った後、最初の中張牌 (チュウチャンパイ)5索でリーチ。
 どうせクソ手に違いない。あいつが売れているのは、コントローラーそのものを動かす楽しみだけなんだから。俺も含めて全員が安牌を切った。
「ツモ。リー即ツモで、おー裏が2枚のったよ。マンガンだな」
 また裏ドラだ。今日のりまくっている。
「へへへ、僕が上がると必ず裏がのるんだよね。まあ、僕1台に対するソフトの数は1.6~1.8本だからね。本体を買うと、必ずソフトも買ってくれるってことさ。それに引き替え、PS3さんは0.8~0.9本なんでしょ。大変だよね」

 俺はWiiをにらみ付けた。ただ言葉は出なかった。南場の親で上がれないとなれば、今回の負けは決定したも同然。
 自然と深いため息がでる。右横のXboxは「ブルードラゴンが来れば、ブルードラゴンが」とつぶやき続けていた。(大畑)

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2006年11月17日 (金)

女だけの郵政復党麻雀 

南2局

東 片山さつき     2万6000点
南 小池百合子     4万2000点
西 野田聖子【私】   2万 800点
北 佐藤ゆかり     1万1200点

「ロン、タンピンドラ1の3900点。あっ、ゆかりさんは割れていらっしゃるから7800点ですよね」
 ざまあみろ! 佐藤ゆかりのヤツ、目を白黒してやがる。むかつくからわざと丁寧な口調で言ってやった。
「そのようですね。せっかく晋三さんにちなんで、三萬を暗刻にしてテンパッていたのに」
 懲りない女だ。まだボンボンの機嫌を取ることで自分の政治生命がつながると思っているらしい。
「そういえばゆかりさんは安倍総理応援隊でしたっけ? ハコ寸前だけに“再チャレンジ”が身に染みるころなのかしら(笑) あっ? もしかして待ちはまた両面だった? 二股かけないと待てないのは議員前からって噂ですものね」
 ふふふ、睨んでる。睨んでる。
「怒った表情も可愛い」とかバカな男性議員は言うかもしれないけれど、戦後最年少で入閣した私には通じないわよ。

 とにかく東一局の佐藤の振るまいだけは絶対に許せない。あれがなければ、いまごろダントツのトップ。小池なんかの後背を仰いでなんかいなかったはずだから。
 あのとき「郵政民営化論について」とわたしが言った途端、佐藤が牌を倒した。そのうえヌケヌケと「ロンって言いませんでした?」とかぬかしやがった。
「ほら、ちょうど英語表現について話していたときだったじゃない。だから、いきなり野田さんが『You say mini eight』なんて言ったのも、なんとなく聞き流しちゃったんです。変な言葉だとは思ったのですが。そうしたら『ロン』って。思わず自分の牌をあけちゃいました。これって野田さんの罰符じゃないですか? カラロンなんだから」
 この無茶苦茶な話に片山も小池も乗っかって『罰符よね~』とか騒ぎ出した。そのうえ私の山が割れているのを見て、佐藤が「罰符もワレメですよね」とか主張したのだ。おかげで出親だった私は2万4千点を東1局で失うことになった。
 
「ツモ、ヤクマン!」
 小池百合子のはしゃいだ声で、苦い思い出から引き戻された。
「一萬ツモで南北戦争よ」
「何、その役?」
 前例のない事柄に敏感な元財務省のお役人である片山さつきが噛みついた。
「あら、知らない? 米国ではすごく当たり前の役よ。学生時代、よくつくったもんよ」
 我慢できなくなり、私も口を出す。
「たしか小池さんが留学していたのは、米国じゃなくて中東でしたよね。そんなところで南北戦争?」
「あら? 間違ええちゃったかしら。首相補佐官として米国に行ったりしている回数が多いので、ごっちゃになったかもしれないわ。で、支払いをお願いします」
「そんな地方ルールのヤクマンが認められるわけないでしょ。逆に罰符でしょ!」
 女性で最も首相に近いと言われていたこともあるだけに、役職を自慢されてカッときてしまった。そんな私を小池は同情を込めた目で見つめた。
「あらそう。さすがに罰符は筋が違うと思うけれど、嫌ならなかったことにしましょうか? 別に復党麻雀なんて、私勝っても負けてもいいんですから」
「弁当作ったり、色仕掛けでキャリアを重ねてきた人に大きな顔はされたくないわ!」
 怒りに震えて横から声を出してきのたは片山さつきだ。女性政治家として自分こそ大臣になるべき人材だと思い込んでいるだけに、小池の言動が気にくわなかったのだろう。
「じゃあ、小池さんは上がり放棄でいいでしょ! とにかく捨てて下さい。私は真剣なんだから!」
 今度は佐藤ゆかりが怒鳴った。
 彼女はハコテンまで、3000ちょい。3900点直撃なら、この麻雀が終わる。

 追い込んでやる。この麻雀なら私が「刺客」だわ。隣の卓の沖縄選挙卓が終わる頃には、私が彼女に直撃してやるから!
 自然と口元がゆるみ、ニヤリと笑ってしまった。もろ引っかけで三萬あたりで待っていたら面白いだろうな~、へへへ。(大畑)

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2006年11月 3日 (金)

ポータビリティー麻雀 ~怒濤の禿頭爆走編~

南3局

東 ウィルコム             2万5000 点
南 ソフトバンクモバイル・孫        ? 点
西 KDDI(au)                4万2000 点
北 NTTドコモ ……【私】        2万3000 点

 あーあ、auもワキが甘いよ。私のテンパイに気づかないで四索通しちゃうんだ。でもね、ポータビリティー麻雀はauと、ゆったり打つ約束ができているから直撃はできないかな。南3局だし。

 で、私はツモ切りと。
 ウィルコムは西切り。堅いよ、こいつは。まあ、PHSだから点棒が動かないのも仕方ないけど、あがっても安い手ばっかりだしな。2着のサシウマ狙いか? 
 おっ、一索出たよ。「草刈り場」のソフトバンク孫から。
「ロン。低めだけど、上がっておきますよ」
「NTTさん、前ツモ切りだったでしょ。高めのau見逃して低めの僕からですか」
 孫がいきなりにらみつけてきた。
 あー、ヤダヤダ。うちなんか電電公社時代から通信分野で伝統ある会社だけど、孫なんてモデムをタダで配っていたアノ会社でしょ(笑) 攻撃的ですぐ噛みつくんだよね。
「いやー、見逃しちゃってねー」
 と笑いながら答えたら、「予想外だ!」とか答えてんの。もう勝負はついたも同然なんだから、孫君もジタバタしてもしょうがないのにさ。

 さて、オーラスは孫の親と。
「日本の麻雀は高すぎるのでウチが安くします!」
 あー、なんかいきなり社長が宣言しちゃったよ。彼は好きなんだよね、そういうの。
「もう最後の親なので、とにかく安いですから」
 禿頭を真っ赤にして叫んでいた。

 序盤は全員が面前で順当な打ち筋。ずっと孫が「東のみですから」とか、「しょぼい手ですから」と言い続けているのがウザイけど。
 そうこうしているうちに孫が「ツモ」と声をあげて牌を倒した。
「東のみと。あと、ドラが2つのって符ハネしたから2600オールです」
 その声を聞いてauが怒った。
「孫さん、ずっと東のみで安いとか言い続けてたよね。それが結局7700ですか」
「いや、予想外でして。ドラがのって符ハネしたものですからね。本体価格は1翻です」
「それはシャミでしょう。どう考えても」
「まあ、auさん、そんなに怒らなくても。けっこう孫さんも負けていたんですから」
 私が取りなして、やっとauも攻撃をやめた。
 もともとウチから国際電話のサービスをするために分派した奴らなのに、どうも「着うた」とかやり始めたあたりから鼻息があらいんだ。こいつも困るよ。

 そんなことを考えながら打っていたら、私の捨て牌を見て孫がいきなり大声をあげた。
「ロン! リーチ一発、タンヤオ、平和で11600点」
「ちょっと孫さん、いつリーチしたの。だいたいリー棒も出てないし、牌も横になってないじゃない」
「いや、リー棒は僕の山の裏側に沿って置いてあるし。牌も少し曲がってるでしょ」
「その20度ほど曲がった牌がリーチですか。しかもリー棒が山の裏って、それは欄外ですよ。そんなの誰にも見えませんよ。公取が事情聴取してもおかしくないほどだ。だいたいオーラスなんだから自分の持ち点を教えなさい。みんな発表しているんだから」
 久しぶりに怒りに震えた。ポータビリティー制が開始してもノンビリauとやろうとしていたのに、いきなりシャミなんかの不当広告で波風を立てるなんて。
「いや、親になってからはプラスの方向に点棒が推移しています。まあ、僕としては万が一、トラブルが起きても誠心誠意対応して理解を得たい」と孫が軽く頭を下げながら、どんどん牌を自動雀卓に押し込んでいく。
 こいつは全然堪えてない……。改めて「人種」の違いを感じた。

 勝手にサイコロを振り、どんどん孫がゲームを進めていく。それに釣られるように、私も牌を河に捨ててしまった。もっと抗議したいが仕方がない……。
「ポン」
 今度はやたらデカイ声で孫が宣言する。
「あっ、ゴメン、待って。なしなし。あっ、でも鳴こうかな」
「どっちなんだ!」
 鳴かれたauが怒鳴る。
「いや、ちょっと牌が殺到してまして。整理がついてないんです。頭のサーバーの数が足りなかったことは事実です」
 ところが、その2巡後には「チー」と大声で宣伝して撤回した。
「すみません。リーハイと鳴きを一緒にやっていたので、とりあえず分けて作業することにします」
 それが孫の言い分だった。
 ところが、私の牌に「ポン」と言い、さらに「やっぱりいいかなー」とか言い出したのだ。
「孫さん、連続して鳴きで混乱するのは、どうにかしてください。システムの信用そのものを傷つけていることになるんですよ」
 本気で怒っている僕に、孫は言ったね。
「じゃあ、ロンで」
 こいつの禿頭だけは見たくないと、心の底から思った。勝負はついているのに……。

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