久々にみじんこさん(ヒト/女性)のほっこりした笑顔に会いたい、と思い立ち、高円寺南口の線路沿いをひたひたと歩いた。1分も経たないうちに「のっぽのサリー」を通り過ぎ、次の角を右に曲がれば「まんまみじんこ洞」がある。どんぶりものが何と280円から食べられる、さりげなく牛丼屋に対抗するお食事処&バーだが、店主がミニコミをつくっており、さらに集め手でもあり、行けば珍しい個人出版物ばかりを読むことができるというのがこのお店の一番すごいところ。この日も、素晴らしい出会いがあった。
「この雑誌、知ってます?」と言ってみじんこさんが差し出してくれたのは、水玉模様が夏らしい「InsideOut」という雑誌。パラパラめくってみると文芸誌のようだ。ふうん、と読み始めようとして「これね、タダなんですよ」という、次のセリフに恐れ入った!
この厚さでこの内容なら600円くらいかな、と心の中で思っていたから。次の瞬間、強烈に「会ってみたい!」と思い、早速取材を申し込んだ。
取材に応じてくださったのは、代表の川端さん、イベントを主に担当している本多さん、最近制作に関わり始めた三井さんの3人。社会人の疲れた体をおして来てくれた川端さんにまず聞いたのは、この雑誌を作ったきっかけ。
川端さん(以下川):振り返れば、学生時代に僕が友達と作りかけて、でも途中
で立ち消えになってしまった文芸誌がもとになっています。企画だけが宙に浮いたまま、1人でやろうとしていた頃に本多くんと知り合ったんです。それから1号が出るまで1年くらいかかって、創刊してからは3~4年になるでしょうか。
雑誌のコンセプトは、1号の「『InsideOut』創刊にあたって」という文章に全部詰まっています。誌名は「Syrup16g」というロックバンドの曲からとりました。内面を外にめくって裏返しにするといった意味の英語らしく、これは表現のことをあらわしているのかなと考えて。とても印象に残っていたので誌名にしました。
創刊宣言には「いつでも描き手になり得る。誰でも読み手になり得る。」「誰でも参加できる場を提供したい」とある。さらに「私たちはジャンルという作られた垣根を取り払いたい」とも。大変フレンドリーだ。
川:この雑誌には、1号ごとにテーマがあるわけではありません。売りはジャンルなし、テーマなし、無料。本当の意味でのフリーな雑誌を目指したかったんです。テーマを決めた方が良い、と言ってくれる人もいるんですが、決めることによってそがれてしまうものがあるんじゃないかなと、なんとなく感覚的に思って。
そんなフリー、かつフレンドリーな姿勢は創作の現場にも表れている。誌面にも登場する「InsideExplorer」というイベントがある。その中で参加者は共に話し合い、創作についてのインスピレーションをふくらまし、表現の「種」として持ち帰ったり、その場で表現したりするのだ。
本多さん(以下本):イベントでは、喫茶店や合宿所などの会場に10人程度が集まってまず素材についてのおしゃべりをします。1時間半くらいしゃべったあとで、それぞれテーマに沿った創作を始めます。創作自体のスタイルは自由で、小説、絵、漫画なんでも可です。制限字数もなしで、その場で作品を完成させることが大事ではなく、同じところに集まって新しい知識や考え方を知ることが大事と考えています。創作の種を見出すというか。
方法は毎回変わりますが、例えば直近でやったことで言うと、机の上に模造紙を広げて、最初と最後の設定だけを与えておく。で、文章やエピソードを書いた付箋をペタペタはりながら物語を作っていくんです。終わったら、そのうちのワンシーンを広げて物語を書く。基本的に自由な創作の場なので、他に書きたいものがある場合は勿論、そちらを優先してもらいます。
合宿では、2人組で物語を作るなど、文学の場の共同性みたいなものを生かして書いていきます。その即興性がすごく面白いんですよ。1人で書いているときとは違うものが書けるし、イマジネーションも膨らみます。
川:次の7号では、このイベントと誌面とのつながりを、もっと強めていこうという話をしています。具体的には、イベントで生まれた作品の種の中で僕らが気になったものを、その種を生んだ本人も書きたいという気持ちがあるのであれば、良い作品になるよう手助けをしながら育てていこうという試みです。要するに編集作業をしっかりするということです。さらに育てた作品を本誌で発表して、またイベントでそのフィードバックを行おうと思っています。
本:書き手と読み手のリンクって何だろうと考えたときに、フィードバックがいっぱい返ってくるのが一番うれしいと思うんです。さらに「書いたことはないけれど、書いてみたい」という人が書き手になるということも、大切なことだと感じます。でも、どちらもまだまだ今の段階ではできていません。今までの投稿型とは少し違う形になるかもしれないけれど、今から1年くらいかけてじっくり7号を作っていこうと計画しています。
三井さん:次回からはコンセプトの刷新ということを考えています。ロゴや誌面のデザインも、コンセプトに合わせた形で新たに作らせてもらうことになっています。「自らの内面を形にする」「表現の連鎖」という2つのコンセプトを1つにまとめあげて、それを表面的にも、内面的にも表現していきたいですね。
今の表紙は6号ともにドット柄をパターン化した、かわいらしいつくり。新しいコンセプトを得て、見た目がどう変わるか。とても楽しみだ。最後に、これからの課題や理想とするものを自由に語っていただいた。
川:活動を続けるにあたって皆によく言われるのは、「本を読め!」ということ。ぼく自身が文学にまだまだ精通していないので、彼らからしてみれば本当の評価の軸に沿ってないと感じるのでしょう。次号から試みる、イベントと誌面のつながりをもっと強める試みのためにももっと編集力が必要ですし。小説に使われている技法などにもっと詳しくなって、批評力をつけることが今後の課題です。エンタテイメントとアートなど、相反するベクトルが一番高いところで交わったところが究極の表現になるのではないかと思っているんですが、それに繋がる面白さというのも、感想だけではなくきちんと説明できるようにならなければと感じています。
本:音楽ってジャズのスタンダードナンバーは、誰の作品かというのはあまり意識されないじゃないですか。ああいった風潮は文芸の世界にはないな、と感じていて。よく「場の文学」という言葉を使うんですが、誰かのパーソナリティーを吸い上げた作品というよりは、人の集まりが場として立ち上がってきて、そこから引き出される作品というものの面白さを伝えていきたい、と思っています。
1号につき1000部を発行している「InsideOut」。フリーとはいえ何かお金に繋がらないと、ということで広告だけは入れているとのこと。もっともっと刷りたい、万は刷らないと、と川端さんが意気込んだ。配るのは主に文学フリマなどの即売イベント。みじんこ洞などのお店で配る事も。たくさん配るには、ビジュアルアップがやはりポイントの一つとなる。7号が、今から楽しみだ。(奥山)
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