書店の風格

2009年8月17日 (月)

書店の風格/第38回 ヴィレッジバンガードマルイカレン店

 マルイヤング館がリニューアルして誕生した「マルイカレン」。その中に入った本屋さんは「ヴィレッジバンガード」。このビルのコンセプトを知らない人は、きっと意外に思うだろう。比較的小ぎれいなファッションビルである「マルイ」と、「遊べる本屋」を標榜するヴィレッジバンガードとでは、イメージが結びつかないからだ。
 「マルイカレン」のコンセプトは「ファストファッション」。ユニクロ、ローリーズファーム、ジャイロなど若者向けファッションの中でも比較的安価なブランドばかりを取りそろえているのだ。キッチュなお買い物を楽しめる空間に、ヴィレッジバンガードはしっくりとハマる。

 8階を陣取るヴィレッジバンガードは、お店の真ん中にエスカレーターが配置された個性的なつくりをしている。個性的なのはもちろんつくりだけではなく、商品の配置も面白い。ヴィレッジバンガードは本と雑貨のお店である。雑貨の中に本が混じっていても、またその逆があっても、基本的には本の棚と雑貨の棚が分かれているところが多い。しかしこのお店は徹底的に本と雑貨を混ぜ込み、あくまでテーマで商品配置を決めているのだ。
 エコグッズの棚にエコの本、お弁当箱や食器のそばに料理本があるのは当然だが、タバコや灰皿のコーナーに禁煙本があると多少「おっ」と思うだろう。ゴシックな洋服やウィッグのそばに夢野久作や澁澤龍彦、嶽本野ばらが置いてあると、その遊び心にうーんと唸ってしまう。極めつけはバスグッズの真ん中に一冊だけ置いてある『アンダーカレント』(豊田 徹也、講談社)だ。どうしてだろう? と一瞬首をかしげるが、そういえばアレは銭湯が舞台だった……なんて細かい!

 本だけを扱う棚ももちろんあるのだが、そこで目立つのは読書家のための本だ。まさに「本のための本による本棚」に徹しているのだ。若者向けには欠かせないコミック棚も工夫されてある。幅が狭くて使いにくい、エスカレーターの脇を有効活用しているのだ。通路になりがちな空間の壁一面に棚を設置して、コミックを並べてある。かなり通り抜けづらいので、もしかしたら立ち読み対策なのかもしれない。

 雑貨に紛れてそこかしこに散らばる本、本、本。「本は本棚に置いて売る」という概念が良い意味で崩壊している。これだったらお客も「本」ではなく「商品」あるいは「雑貨」を買う感覚で、手にとってくれるのではないだろうか。これこそ、本当の意味での「文脈棚」だ。もしかしたら今、日本で一番「本を売る気のある本屋」なのかもしれない、と思いながら店を出た。「姉さんも三十路っすね」「彼氏募集中!」と落書きされたバースディTシャツ(商品)にシンパシーを覚えつつ。(奥山)

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2009年7月20日 (月)

書店の風格/第37回 火星の庭

 去る6月26日、仙台の「Book! Book! Sendai 2009」に参加してきた。「Book! Book! Sendai」は、詩人の武田こうじさんが代表を務める「杜の都を本の都にする会」で催すイベント名。仙台で、「人生にとってかけがえのない本との出会いを伝え、考えていこう」と発足した会だ。なぜこの素敵なコンセプトをもつ会に接触できたかというと、アストラ刊『出版奈落の断末魔 エロ漫画の黄金時代』の著者、塩山芳明氏と、本の帯絵を描いてくださった漫画家、いがらしみきおさんのトークイベントがあったからだ。司会はベテラン・南陀楼綾繁さん。

 トークイベントではいがらしさんがユーモア溢れるトークを炸裂させたり、塩山氏が地元を撮影したビデオを流したり(自作ナレーション入り!)、最後にはじゃんけん大会の優勝者にいがらしさんのオリジナルTシャツをプレゼントしたりと、賑やかな内容。それについては「Book! Book! Sendai」の公式ホームページに詳しいので、読んでみてほしい。→http://bookbooksendai.com/modules/bulletin/index.php?page=article&storyid=43

 今回おすすめする書店は、「杜の都を本の都にする会」のメンバーで、このトークイベントの主催となって下さった「火星の庭」。
 古本をメインとしたブックカフェで、ランチもやっている洒落たお店である。

 仙台駅をアエル側に抜けて、駅前通りに出る。5分ほど歩くと大きな通りに出る。仙塩街道だ。信号を左に曲がって一分ほど歩くと、左手に看板ともオブジェともいえない、鉄製のお鍋のような茶色いものが立てかけてあり、「火星の庭」と書いてある。気づかずにそのまま通り過ぎて錦町公園まで来てしまったら、来た道をちょっと戻ろう。
 お店に入ると、右側がカフェスペース、左側に本棚がある。真ん中の仕切はディスプレイ棚が使われていて、チラシのスペースとして活用されている。
 本は丁寧な品揃えだ。特に美術系は豊富で、美しい画集やデザインの優れているものなどが店全体に鮮やかさをもたらしている。手作り風味溢れる飾り棚や紙芝居も雰囲気作りに一役買っている。文庫は人文社会系が魅力で、一般の書店では到底お目にかかれないレアものもところどころにあり、ついついじっくり見てしまう。店主自身の蒐集家ぶりが滲み出ている棚であった。

 カフェではお茶やお菓子はもちろん、ランチメニューもあり、豆の沢山入ったココナツカレーがとても美味しかった。ライスが玄米なのも、何だか優しい。チキンなど肉類が入っているわけではないのに満足感はばっちりで、お得な気分を味わえる。女性にはたまらないメニューだと思えた。

 客層はやはり女性が中心か、と思いきや女性あり男性あり、団体客ありお一人様ありと様々な層をキャッチしている。一人新聞と古本を傍らにコーヒーを飲むおじさまの隣で、女子大生とおぼしき4人組が笑いあってお茶していたりする。選書にこだわりがあってカフェメニューも凝っていて、要するに割と個性の強い店のはずなのだが誰でも入れる気軽さがあるのは、店主のマジックかそれとも仙台マジックか。東京にも面白いブックカフェはあるけれど、客層が限定されてたり常連さんのたまり場になったり、割と内輪で成り立っているところがある。その善し悪しを問うつもりはない。でもブックカフェを特別視しないで、エキチカだからとかカレーが美味しいからとかゆっくり新聞が読めるからという理由で人が集まってきたら、きっとそこで読書の世界を変えるような動きがおこるような気がする。そんな妄想が揺り起こされる本屋さんだった。(奥山)

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2009年7月 6日 (月)

書店の風格/第36回 八文字屋本店

 びっくりした。
 八文字屋本店のある山形県は、記者の故郷である。幼少の頃から、父の車で街まで(市街地に行くことを「街に出る」という)遊びに行くと、必ず寄っていた八文字屋。なぜか大きなゴリラのフーセン人形がにこやかに出迎えてくれる八文字屋。専用駐車場に車が殺到するので、いつも「大沼デパート」に車をとめて徒歩で向かっていた八文字屋…。こんなに近くにあったから、気づかなかった。あなたがこんなに老舗だったなんて。

 八文字屋の創業は元禄時代。なんと300年もの歴史を持つ。紅花商人が東京で「八文字屋本」と呼ばれる類の浮世草子を仕入れてきて貸本を行った、というのが発祥らしい。山形、という名がつかぬ頃から、地域の文化の発信地として頑張ってきた本屋さんだ。

 店内は一階と二階にわかれていて、入ると棚は入り口に対して縦置きのものが多く、吹き抜けになっている部分があるため実際よりもかなり広く感じる。まず雑誌と新刊文芸が並ぶ王道の配置だ。他店に比べてシンプルでアットホームなところがないのは、POPを全く置かないから。そっけないと見るか、目線がごちゃごちゃしないで正解と見るか。本読みなら断然後者だろう。奥へと進むと左側は新書から文庫へのグラデーション、右側は一般書から専門書へのグラデーションが美しい。無駄のない構成が店内をいっそう広く見せることに成功している。本当は東京の中規模チェーン店ほどの面積もない本屋さんなのだが、洗練された品揃えが、それを感じさせない。

 二階はコミックと参考書のコーナーだ。そう、ワカモノ向けなのである。中央の吹き抜けをぐるっと囲んで展開される棚の向こうには併設されたカフェスペースがあり、購入した本をゆっくり読めるようになっている。高校生の頃、なぜか赤本を買い込んでいたことが昨日のように思い出される。受験期に赤本がこれでもかと平積みされる壮観さは、関東圏の書店ではあまり見かけられないけれど、ワカモノが日本全国どこにでも飛ぶ地方書店にとってはごくありふれた光景なのかもしれない。しかし、八文字屋に並んでいると、「参考書」もきちんとディスプレイすべき「商品」なのでは、と思えてきてしまう。
 あのころは、赤本も飽きずに眺めたものだった。本屋さんで売っているものは、全部が読み物であった。受験生なのをいいことに、受けもしない大学の赤本を何冊も買ったものだ。そんな衝動買い、きっと八文字屋でしかできないと思う。(奥山)

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2009年6月22日 (月)

書店の風格/第35回 書泉グランデ

 たくさんのファンが付いている書泉グループ。
 豊富な品揃えはもちろんだが、ファンが付くのはそれだけが理由ではない。デザインが2~3ヶ月に一度は更新されるビニールバッグや、動物柄、花柄などバラエティ豊かな栞も本読みの心をしっかり捉えて離さないのだ。

 そんな書泉グループの一店舗、書泉グランデは神保町にある細長い印象のビル。古書店や専門書店などが立ち並ぶ中でも異彩を放っているのは、大型の新刊書店にもかかわらず得意ジャンルがガッツリ確立されているからに他ならない。恵まれた立地と規模を惜しみなくさらけ出すのは、「鉄道」と「ミリタリー」に対してである。そんな心意気に、男性ファンは大いに応えるのだ。

 最上階の6階に降り立つと、昔ながらの書店の雰囲気に心和むと同時に不思議な感覚に襲われる。乗り物とミリタリーでワンフロアが構成されている光景なんてなかなか見ることができない。弊社から出ている斎藤典雄氏の『車掌の本音』シリーズも常時置いて下さり、日本で一番売っていただいている。ここは鉄道ファンにとって、情報の聖地なのだ。ネット社会になった今でも変わらない、アラカルトな魅力がある。

 さらにコミックやエンタメ系もかなり洗練された品揃えがされている。地下1階の売場は独特で、階段を下りれば脇のスペースはサインの山、エレベーターを降りるとタレント本や写真集、メディア論などのコーナーになる。現在は「Bejean + Beppin School バックナンバーフェア」を開催していて、なかなかない試みなので日頃興味のないジャンルだとしても観ていて本当に楽しい。この書店のフェアには常に注目しておいて損はない。
 奥の小部屋めいたところに進んでいくとコミックの棚が四方を占め、薄暗い迷宮に迷い込んだような錯覚に陥る。ジャンルを問わず様々なコミックが目に飛び込んできて、しかし安らいでじっくり選ぶ心境になれるのは落ち着いた照明のおかげだろう。どうしても「溢れる」印象のあるコミック棚は様々な色がチラチラと目に入ってくるが、それが抑えられている。

 大規模書店にして、専門店。そんな贅沢をかなえ、さらにお客様の支持を得ている書泉グランデ。今日も売り手と買い手の静かなコミュニティゾーンとして機能している。(奥山)

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2009年6月 8日 (月)

書店の風格/第34回 昭島 井上書店

 ゆるやかな書店。そんなふうに形容すればよいだろうか。
 井上書店は、昭島市にあるいわゆる「まちの本屋さん」だ。昭島駅から歩いて四分、本館とコミック館に分かれている。本館に入ると、絵本の読み聞かせ会のご案内や手作りのポスターが賑やかだ。正面には文庫棚、新書棚、右側の壁際に文芸や専門書の棚があり、左側は児童書が展開されている。どの棚も整然としていて美しい。
 一見普通の本屋さんだが、一般書店とは空気の抜け方が違う。なぜか。本の並べ方にその鍵があった。

 一般には背を向けて一冊ずつ挿してしまう新書や文庫の棚だが、贅沢にもほとんどの本を、面を見せて陳列させているのだ。挿してあるのはほんの一部、本と本の間に挟まっているくらいのものである。
 さらに文芸書・専門書の棚では、平積みにされてある本がほぼ2冊や3冊ずつ積まれてある。書店で平積みになっているというと、頭の中ではドカンと10冊、いや20冊、積み上がっている様を思い浮かべるが、ここでは3冊。この冊数でいいのであれば、ひとつひとつの商品を余ることなくアプローチできる。

 そして特筆すべきはPOPの存在だ。エンド台では余すところなくPOPが立ち並び、あるところでは棚に貼られ、あるところではプラスチックケースに入れて飾られている。しかも筆跡が様々だ。店員さん、アルバイトの皆さんが分担して、全員で書いているとのこと。本好きじゃなくても、字が下手でもとりあえずやってもらう。そのうち、どんどん上手くなってくるのだという。

 「本を並べる」というと、積んだり棚に順番に並べたり、という印象があるが、このお店は一点一点の書籍を「商品」として扱い、ディスプレイしている。当たり前のようだが、なかなか生まれない現場感覚だ。ブティックをつくることで生まれる空気の抜け感が、本を選ぶことに意識を集中させてくれる。昭島は書店の激戦区だが、一押しの本屋さんだ。(奥山)

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2009年5月25日 (月)

書店の風格/第33回 タコシェ

 奇跡のような書店だ。
 中野ブロードウェイの中、三階直通のエスカレーターをのぼる。まわりはまんだらけだらけ。そしておもちゃ屋、明屋書店などを抜けて行くとあるのが「タコシェ」。自費出版、少部数流通の雑誌や書籍を中心に集めた本屋さんだ。この国のプレスの、逆からの縮図。表現が好きだと、活字が踊るような本ばかりがひしめき合っている。ここに来ると、日頃感じている出版界の不況だの活字離れだのネットに読者が流れていっただのという議論が吹っ飛んでいってしまう。みんな、勝手に元気なのだ。本当に頼もしい。

 縦に長い店内はどう見ても5~6坪にしか見えないが、1万点ほどの品揃えだという。一点ものが多いからだろう。とはいえ、店内中央に細長く置かれた平台には常に何十点もの雑誌・書籍が平積みされている。特に記憶に新しいのが徳島発信の『ハードスタッフ』12号。

Hardstuff  11号から数えて、なんと15年めの発行だ。これが平台におよそ50冊、積み上げられている風景は圧巻だった。普通の書店であれば並べるのが非常に難しい自費出版の雑誌が、ここでは大事かつものすごい売れ行きを見せるのだ。

Mavo_2

 最近では編集家・竹熊健太郎氏が責任編集をつとめる『コミック マヴォ vol.01』。密かに話題沸騰だったが、やはり買うならタコシェかな、と思わせる。

塩山芳明氏の新刊『出版奈落の断末魔 エロ漫画の黄金時代』も発売当初から置いていただき、一般書店・チェーン店では考えられないほどの部数が売れた。書店さんとお客様と、そして著者。全ての顔がかいま見える表現系スケルトン空間が、確かに中野にある。(奥山)

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2009年5月11日 (月)

書店の風格/第32回 啓文堂書店渋谷店

★★★★★★★★

連載の前のコマーシャルです。
先月、新刊『出版奈落の断末魔 エロ漫画の黄金時代』を弊社から出版した塩山芳明が、来たる5月19日阿佐ヶ谷ロフト

「『マンガ論争勃発2』発売記念!! 昼間たかし東大入学お祝いイベント
永山薫vs昼間たかし これが現実だ!と、言われても・・・」

に出演します。

詳しくは↓
http://ameblo.jp/mangaronsoh/

お申し込みは
http://www.loft-prj.co.jp/lofta/reservation/reservation.php?show_number=106

出演者は
永山薫(批評家)
昼間たかし(ジャーナリスト/東京大学大学院情報学環教育部研究生)
塩山芳明(エロ漫画編集者・文筆家)
市川孝一(コミックマーケット準備会共同代表)
金田淳子(社会学者)
武田“コックローチ”圭史(赤ブーブー通信社)
中田雅喜(漫画家)
三崎尚人(同人誌研究家)
増田俊樹(映画監督)
大塚麻恵(女優)

と、たいへん豪華。一見の価値有りです。こぞってご参加下さい!

★★★★★★★★

 さてさて、渋谷といえば若者の街。ハチ公側はそんな感じだけれど、でもやっぱりビジネスの街でもある。特にそれを感じ取れるのは、ランドマークタワー側。ホルモン屋や焼き鳥屋の並ぶ通りはスーツ姿で賑わう。そんなところに、啓文堂書店渋谷店はある。

 ランドマークタワーの裏側からはいると、入り口をくぐったと思ったら下り階段がある。まるで要塞に潜り込むかのようだ。踊り場の棚が文化の発信地であり、チラシや試写会ハガキが豊富に並んでいる。なめるようにしながら売場へ下ると、まずは話題書が大きな平台にどかんとデコレイトされてある。面白いと思うのは、この構成だ。棚の1つ1つはもちろんのことなのだが、平台の1つ1つも、そのまま一個のジャンルを獲得しているのだ。店の中央通路に転々と平台が置かれてあり、新書台、文庫の台、フェア台とにぎやかだ。いまのフェアは「飲食店経営フェアー」。まわりの建物を思い浮かべると、何ともキャッチーだ。きっと休憩中にぷらり立ち寄る店主のためのお役立ち企画。この不況を、みんなでぜひとも乗り越えたいものだ。

 地下は、入って向かって右側が新書や文庫や軽めの本、左側が専門書としっかり別れているので、目的に従ってブラウジングしやすいつくりになっている。そして一階は、ドーンと全てコミックフロアである。だからといって落ち着かない印象は受けない。やはりオトナ向けのもの、コアなもの、マニアックなものが厳選されており、渋谷という土地を思わせる品揃えだ。

 ビジネスマン向けの書籍が多いかと思いきや、結構カワイイものや実用書もある。むしろ入り口まわりはそんなものが多く配置され、華やぎを持たせている。朝九時から夜11時までというロングな営業時間も、働く女性の味方。楚々とした店構えも魅力だ。ハチ公前、TSUTAYAやブックファーストがどうしても目立つけれど、ほっこりゆっくり本を選びたいなら断然おすすめである。(奥山)

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2009年4月13日 (月)

書店の風格/第31回 紀伊國屋書店国分寺店

★★★★★★★★

 連載の前にちょっとコマーシャル。
 塩山芳明の新刊『出版奈落の断末魔 エロ漫画の黄金時代』が、なんと!

東京堂書店 週刊綜合ランキングで第2位!!
(4月第一週)

三省堂書店神保町本店 人文・社会棚で第2位!!
(業界紙『新文化』4/2付)

となりました。
大きな展開をしてくださっている紀伊國屋書店新宿本店様、サブカル本のお取り扱いでは右に出るお店はないであろう中野・タコシェ様でも、たいへん良い売れ行きです。
大胆なタイトルなのに並べてくださった書店様、お買い上げ下さった皆様、本当にありがとうございます。
これからも、精進いたしますので、何卒よろしくお願い申し上げます!

コマーシャルを終わります。

★★★★★★★★

 「客足のとぎれない店」というと、皆さんはどんなものを想像するであろうか。
 行列の出来るラーメン屋さん? 限定スイーツが話題のデパ地下?
 「客足のとぎれない本屋さん」があるのだ。
 それが紀伊國屋書店国分寺店である。

 紀伊國屋書店国分寺店は、国分寺駅の改札を出て目の前にある「国分寺エル」という駅ビル内の書店だ。「エル」は服飾雑貨のテナントが多いビルで、さらにマルイと繋がっているため、国分寺一番のショッピングスポットとして機能している。そのなかにある唯一の書店が、ここなのだ。

 通常、出版社の営業マンが書店にお邪魔して担当者にご挨拶したいと思うとき、アポを取っていなければ店内を探して本人に声をかけることが出来ればラッキーだ。でもどうしても、そうは行かないときがある。お目当ての担当者様がレジに入っているときだ。
 そんなときはレジのお客がすっかり引けるまで待って、声をかける。
 ご本人が見あたらないときは、レジにいる人を避けて、声をかける。
 そのどちらも滅多にかなわないのが、このお店だ。

 なぜかというと、レジの前からお客がいなくなる瞬間がほとんどないからだ。平日の昼間、他のお店ならば比較的すいているような時間帯も、レジ前には行列が出来ていて、店員はみなレジ中に集中している。「ちょっと待とう」が「1時間後にまた来よう」になり、「また今度来よう」になってしまう代表的なお店だ。あまりに声をかけるのがつらくなってしまう。国分寺市民は全員このお店で本を買うよう義務づけられているのではないかと思いたくなるほどの混みようなのだ。

 このお店はどうしてこんなに人気があるのか? たしかに立地条件はよい。大規模な書店さんが国分寺には少ない。でも書店自体はたくさんあり、雑誌やベストセラーならそちらで間に合いそうだ。何故なのか。それは、この書店のバランスの良さにヒントがあると思う。

 まず、お店の入り口には新刊、ランキング本がずらっと顔を見せて並んでいる。ふつうならショーウィンドウにしたい豪華な設置だが、それをしない。お客様が直接手に取れるようにしてある。中にはいると、一般的な書店よりも見晴らしのいいことがすぐに分かると思う。棚の高さが、若干低めなのだ。そして横長の空間の、中間地点に入り口が位置するので、どのフロアに行くにも億劫さを感じない。見渡せば全体がすぐに把握できる程度の規模というのも魅力である。

 そして見たところ、どの棚も収集に偏りがない。文芸書、ビジネス書、人文、学参、文庫、児童書、どこを見ても平均的な品揃えで隙がないのだ。国分寺はホームタウンである。一般のお客さんが何を好むか、どこに何がどの程度置かれるのがよいのか、考えた末の平均値なのであろう。文具にたとえると、使い勝手よく手放せないボールペンのようだ。凝ったつくりの万年筆には最初は心躍っても、リピーターにはならない。

 書店激戦区の中央線西側で、生き残っていく術を見せられたような気がした。(奥山)

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2009年3月16日 (月)

書店の風格/第30回 八重洲ブックセンター本店

 八重洲ブックセンター本店は、東京駅八重洲南口を出てすぐ、細長く黒い看板を従えてそびえている。このスタイリッシュな細さを、昔の人は「いき」といったのだなあなどと思いながら入り口をくぐると、左壁際には目玉商品の大きなパネルが3点。「今週のお勧めは誰がなんと言おうとこれです!」というゆるぎない自信が感じられる。
 堂々8階建て、日本の最先端を行くこの書店は、流行に敏感でありつつも古き良き物を大事にしたい人々の願いを具現化したようなつくりをしている。1978年に前代未聞の大型書店として開店した本店は真新しい建物とはいえないが、どこもかしこも磨きぬかれているのはもちろんのこと、什器の配置にも工夫をこらしている。イチオシ本として並ぶのは、出来立てほやほやの話題沸騰新刊、のみならず、名著と呼ばれているものもちゃんと隣で展開されている。

 どのフロアも工夫が凝らしてあるが、この度は弊社出版物の傾向柄、4階社会棚をご紹介したい。棚の規模は確かに大きい。しかし他の大型書店と比べて平均的な大きさである。なのにこの充実度はなんだろう。仕事柄、人文・社会棚は星の数ほど見てきたが、このお店に来た団塊おじさん方の満足感はきっと日本一だ。ジャンルの細かさが他店の10倍は密なのだ。運動系だけでも、「学生運動」「労働運動」「エコ」「ジェンダー」の区切りは普通だが、「ブント」までいくとあまり、というか全く見たことがない。人文棚になるともっとコアで、中村天風や安岡正篤でひとコーナーが出来てしまっている。さらに哲学系で一番目立つのが、哲学系雑誌のバックナンバーを集めた棚だ。まさに各界の専門家・オタク層のかゆいところに手が届く品揃えである。

 そしてあまり言及されないが、八重洲ブックセンターののホームページもサービスに徹している。「各店情報」の「本店」ページへ飛んでみると、B1Fから8階までそれぞれ違うページへリンクしているのだが、リンクバナーの下に「※[alt]+0~9の数字→[enter]でも各フロアのページにジャンプします。」と書いてある。書かれたままに[alt]+4+[enter]と操作すると、ちゃんと4階に飛んだ! さらに各階のページには、コーナーごとに棚の写真が掲載されている。フェアや特設が終わるごとに撮影してアップしているということであれば、膨大な作業だ。なかなかできることではなく、私は他にこのようなことをしている書店を新潟の萬松堂しか知らない。

 八重洲地下街店は残念ながら閉店してしまったが、本店にはこのまま、温故知新のサービス精神をもって、頑張ってほしいと願う。(奥山)

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2009年3月 9日 (月)

書店の風格/第29回 ヴィレッジバンガード ヴィーナスフォート店

 お台場はヴィーナスフォートに本屋さんがあることをご存じだろうか。
 ペットも連れて歩ける一階の一フロアに、ヴィレッジバンガードがある。
 ヴィレッジバンガードといえば、本の他にもCDやDVD、楽しい雑貨が溢れるばかりに揃っている複合的な本屋さん。掲げるキーワードは「遊べる本屋」だ。80年代の創業だが、今や307店舗を抱える大手書店となっている。黄色いPOPが印象的で、売り手側の熱意がこれでもかとこもっている商品の一つ一つに、魂がこもっているようにすら思える。こんな特徴的な書店がお台場とタッグマッチを組むとどうなるか。通勤サラリーマンで満員になっている平日のゆりかもめに揺られながら、青海に向かった。

 駅を抜けるとそこはもうパレットタウンの入り口である。一階に降り立ち、フードコートや子供服のフロアをくぐり抜けてヴィレッジバンガードに辿りつくと、まずは面白雑貨のコーナーがある。そしてジュークボックスのまわりにミュージックメディアが積み上げられ、新進気鋭のミュージシャンの曲が大音量で流れている。あれ、本はどこだ? とうろうろすると、左壁際にコミックが並んでいるのを見つけた。壁一面に天井まで棚がつくりつけられており、用意されている赤いはしごを使って本を取るというユニークさ。図書館の書庫に来たような錯覚すら覚える。さすがに品揃えは本格的で、場所柄か少年少女コミックよりも10代後半からの層に受けるようなものが目立つ。さらに奥にはハードなノンフィクション系から娯楽性の高い読み物まで「社会派」の書籍が並び、徹底的に読者ターゲットを若者、特に男性に絞っている。
 女性向けの本はどこにあるの? と探してみたところ、店舗の中ほどに台で配置されてあった。ビューティや恋愛をテーマとしたエッセイ、料理や手芸などの実用書、ファッション誌などがテーマごとに1台ずつデコレーションされ、ちりばめられているのだ。その合間合間に関連した雑貨が置かれていて、目的意識を強く持たずにブラブラお店の中を徘徊することの多い女性方のために作られたかのような空間に仕上がっている。さすがはヴィーナスフォートの本屋さんだ。

 ヴィーナスフォートが入っているパレットタウンは、2010年までに閉鎖されるとのこと。これだけ大規模な、群を抜いて遊び心に富んでいる本屋さんが姿を消すというのはたいへん惜しい。(奥山)

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2009年2月 9日 (月)

書店の風格/第28回 ブックファースト新宿店

 昨年秋に完成したばかりの「モード学園コクーンタワー」は、ハードな鉄骨が生み出す滑らかな曲線が美しい、独特の雰囲気を持つ建物だ。クリエイティブな人物を世に送り出す専門学校の地下に、書店がある。ブックファースト新宿店は、1090坪・90万冊という広大な売場を持つ、新宿屈指の書店として生まれた。

 B1、B2、2つの階からなる。B1は雑誌をはじめとして、文芸・ノンフィクション・文庫・新書・実用書などのフロア。新宿駅西口直通の入り口から入ると、広大な雑誌フロアが眼前に広がる。入り口は女性向けのファッション誌やライフスタイル提案誌など。奥にメンズの雑誌、デザイン誌、洋雑誌が並んでいる。特筆すべきはリトルプレス(いわゆるミニコミ誌)とバックナンバーのコーナーで、リトルプレスはじつに100タイトル程度を揃えている。特に旅をテーマとした雑誌は豊富で、ほぼ手作りで作る本の運命(早めの風化)をすこしでも遅らせるために、見本誌以外は袋をかけているのも素晴らしい。それはバックナンバーコーナーにも言えることで、かなり過去のものまで揃えており、ただならぬこだわりを感じさせる品揃えだ。

 更に奥に進むと「実用提案棚」というものがある。何を意味するのかと見てみると、衣服の作り方・オシャレで本格的な料理のレシピ本・簡単な雑貨の手作りを薦める本などなど、生活に関するものを自分で作ってゆくライフスタイルを提案する本の棚である。柔らかで気品あるデザインに薄く贅沢な装丁と、女性の好みをつかんでいる本たちの集合体。実用書のなかで、とうとうこのジャンルが一歩抜け出したのかと、一種の感慨すら覚える。
 そして文庫棚は、POPの嵐だ。面で置かれている文庫棚に飾られたPOPは32枚。ラミネート加工のうえでのハサミ処理で、一枚ずつの手作りであることがわかる。32枚ってそんなにインパクトのある数字ではないから、読者の皆様にはピンと来ないかもしれない。しかし読み込まなければ書けない文章が掲載されての32枚。二週間後、いやもしかしたら一週間後にはその文庫がその位置にはもうないかもしれない、それが大手書店の事情だ。その事情を踏まえた上での32枚。担当者の意気が伝わってくる。

 同階には既存の分類にとらわれることのないテーマで区切られている棚が多く、その意味でも大いに楽しめる。「映画・ドラマ原作棚」、「サブカル研究者棚」などは、普通の書店ではまず見ない。見たとしてもフェア棚の一環としてである。常設の棚であるのが面白い。
 フェア棚もプラスチックプレートで「フェア」と名づけられているものは他の書店ではめったに見かけないだろう。今のフェア棚で注目したいのは、宝塚関係の本を集めたコーナー。「手作りの家」に特化した本を集めたコーナー。どちらも、企画者ののびのびとした感性を感じることができる。

B2はビジネス書と社会・人文書のフロアだ。ぐっと落ち着いた雰囲気になる。労働問題、倒産法、新しい生き方……今の世相をダイレクトに反応した本がこれでもかと並んでいる。いつか、明るい前向きな本ばかりが並ぶ日が来るだろうか。これから春になるけれど、棚の暗い印象は変わる気配がない。ガンバレ、資格・試験棚!!(奥山)

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2009年1月19日 (月)

書店の風格/第27回 東京堂書店

 神保町のマドンナが三省堂書店であるとすれば、東京堂書店はすずらん通りの博識おじさん、と言うことが出来るかと思う。しかもその博識ぶりは全く嫌みがなく、スタイリッシュで、粋だ。
 ひととおり古書店や新刊書店を満喫してから東京堂に入れば、その品揃えに引っかかりを覚えるのは読書家だけではないと思う。豊富、確かに豊富だ。しかし何かが違う。他の新刊書店ではせいぜい棚に挿すだけであろう専門的な本が、平積みで並んでいるのだ。凝った美しい作りの専門書は、それだけで一風変わったディスプレイとして成立しうる。他では見られない様々な本の「顔」が、東京堂書店の独特な雰囲気を保っているのであろう。

 一階は新刊、文庫、新書等が並んでいる。間口が広く奥行きのない空間のせいか、どこかおっとりとした佇まいだ。入り口を踏んですぐ、店内を一望できるような錯覚に陥るのは、すぐ正面に位置した本棚だけが2段低く作られているからであろう。空気の抜き方が非常に上手と言える。
 「話題の新刊」の棚は、貪欲に様々な本を読み込もうとする読書人にふさわしく、平積みだけでなく棚挿し(すべて2~3冊ずつ並んでいる)で楽しめるような構成をしており、文芸書あり、エッセイあり、ノンフィクションあり、思想書あり…一種バイキングのような様相を呈している。独立した島になっているので、お客が夢中になりながら棚の周りをグルグルまわる様子が何となく面白い。私もその一員だが。

 2階がたいへんユニークだ。階段を上がるとすぐにマニア垂涎の稀覯本棚、お買い得棚が並ぶ。さらに紀田順一郎、坪内祐三、鹿島茂と、文化人がセレクトした本がひしめく棚が面白い。ほかにも全集もの、著者にこだわったコーナー…一階よりももっと色濃い「東京堂」色を出している。
 この階には東京堂出版のコーナーもある。辞書や歴史物、民俗学など学問的で堅実な本の宝庫だ。なぜかマジックものが多いのも興味深い。

 3階は地方小出版、リトルプレスコーナーだ。2007年11月に閉店してしまったが、長年、地方・小出版流通センターのアンテナショップだった「書肆アクセス」を引き継いだ、丁寧な作りの棚が魅力だ。さらに「立花隆棚」がある。立花氏本人の書籍は勿論、読書人として名高いご本人が選ぶ本はジャンルが多岐にわたっており、読み応えの感じられるものばかり。

 この書店のお眼鏡にかなう本を作るのは、出版社全ての目標であろう。弊社でも3月に読書人向けの本を出す(予定)。「話題の新刊」としてウィンドウにのぼる日の来るよう、頑張らなければ。(奥山)

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2009年1月12日 (月)

書店の風格/第26回 ふたば書店 平井店

 出版社の営業部員であれば、絶対に営業をかけたくない書店が、一つや二つあるものと思う。
 それは今どき頑固爺がハタキを持って待機しているようなヘンクツ書店でもなければ、大手版元の名を出さなければ担当者が出てきてくれないような(何故かその担当者はいつもお休みを頂戴している)「天岩戸」書店でもない。小さい頃から、もしくは街に居ついたときから通っている地元書店である。気軽に何でも買える本屋さんとして愛しているため、ヘタに親しくなれないのだ。日ごろ大真面目なフリしてお世話になっている書店員さんのレジでダイエット雑誌やマンガを買うのは、なんとなく気恥ずかしい。

 今日は、奥山の地元書店「ふたば書店 平井店」について、勇気を持ってご紹介したい。

 どこにでもあるような「町の本屋さん」であるが、「町の本屋さん」自体が次々とつぶれていく中で生き残っている、もはや貴重な書店と言える。江戸川区平井という町は、特に南口側に限った話ではあるが、矢鱈めっぽう本屋がない。慎ましやかに見える店内には「とにかく庶民の期待に応える」ための本がガッチリと並んでいる。

 平井はどちらかというとホームタウン的な様相をしている。雰囲気を知るためには駅前の「ガスト」に立ち寄るのが一番だ。無味乾燥なはずのファミレスチェーン店が、地元の雰囲気に侵食されている。客も店員もみな知り合い同士で、接客がユルいのだ。一見オシャレに見える喫茶店も、一歩中に入ればご近所のおばちゃん、おじちゃんたちの駄弁り場で、店の雰囲気は客が作っていくものなのだなとひしひし感じる瞬間が味わえる。昔ながらの下町だ。更に特徴的なのは、少子化の時代とは思えぬほど子どもを見かける。土曜日のマクドナルドは小中学生が半数以上を占めており、休日は閑散を極める都心ビジネス街の店舗とは大違い。若々しさがぎゅうぎゅうづめなのだ。

 そんなかれらが平井の本屋の客層だ。雑誌半分、書籍半分という思い切ったつくりは、地元民が長く決まった雑誌を買うことを知り尽くしているからできること。雑誌はビジネス誌10%、ファッション誌20%、コミック誌20%、実用誌30%、趣味・その他20%という構成(パーセンテージは奥山の目安)。仕事バリバリのお父さん方よりも、お子さんと主婦に目を向けた品揃えである。さらに書籍もコミックと文庫で60%程度を占め、あとは小説(ケータイ小説が豊富)、新書と、やはり肩の力を程よく抜いていて、地元民に寄り添う姿勢にたいへん高感が持てる。

 そんな中で手書きのPOPを時折目にすることがある。シンプルでさらりとした文章が目に焼きつき、このPOPを書いているのは誰?? と気にはなっているのだが、急に「すみません、POPを書いているのはどの書店員さんですか?」と聞くわけにもいかない。一般人がいきなりこのようなことを言ったら、ただ変人扱いされて終わりだろう。そして紹介されてもどうするというのだ。「いや、気になったもんで…」ますます変だ。しかし版元の者だと言えば、どんな怪しい本も気兼ねなく買えるオアシスをなくしてしまうことになるし…うーん、ジレンマ。(奥山)

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2008年12月22日 (月)

書店の風格/第25回 阿佐谷きたなら(2)

 南阿佐ヶ谷駅は丸の内線沿線、警察署も市役所も駅の目の前にあり便利な駅だ。中央線から見た風景とはまた違った趣がある。眼前に敷き詰められたチェーン店のビル群の一角、「東京靴流通センター」の隣に「書原」は佇んでいた。
 コンビニや飲食店の複合ビル内だが、専用の入り口がある書原は「シブい」の一言が似合う本屋さんだ。

 書店玄関前には右側に女性誌、左側に旅行情報誌が並んでいる。そのまま店の前を通り過ぎると靴流通センターに入っていく流れであるから、「本屋に来たわけではない」人びとも幅広く対象客にするとなると、汎用性のある「女性」と「旅」はやはり相応しいテーマである。そう考えながら自動ドアをくぐると、目の前に特大の平台があり新刊が60点ほど平積みにされている。文芸新刊のみならず、人文書、エッセイなどジャンルを問わずひしめき合っており、しかし隣同士の本に微細だがリンクのにおいがする。全体的に統一感のある構成になっているのだ。

 そして店内右奥に進むと、芸術やデザイン関連の棚があったのちに人文社会系の棚が現れる。ここが究極の「文脈棚」だ。大手の書店には良くある「日本社会」「国際社会」「ルポ」「犯罪問題」などの小分類が書かれたプレートを差し挟むことなく、「次に挿される本」は「前に挿された本」により関係の深い順に並んでいる。それでいて一定の落ち着いた雰囲気をかもし出しているのが魅力だ。

 中央には大きな文庫・新書棚が腰をすえている。本棚に工夫があり、下三段がくりぬかれている。そして下から本を積み上げ、面を見せているのだ。普通、文庫棚の下はどうしても人の目に付かず死に線になってしまうため、ストックを入れる引き出しを置いた上に棚を配置したり、単純に潰してしまったりする。一部をくりぬくという発想の豊かさに、書店人の本への愛が感じられる空間だ。

 さらに歩を進めるとコミックコーナー、文芸書コーナー、左奥には実用書、英語の参考書…と一般的な書店のジャンルはそろえてあるが、どのコーナーを見ても独特なこだわりが見られる。私は書店営業を生業としているので、趣味ではないジャンルでも一応棚に目を通すという習性が身についているが、その私が見ても「なかなか見かけない本」「普通は平積みにしない本」が見かけられたり平積みになっていたりするものだから、いちいち「このジャンルが好きな担当者がいるんだろうな」と思わされてしまう。しかし、ほとんど全てのジャンルにそう思わざるを得ないこだわりが散りばめられているということは、どういうことであろうか。これぞ全てのジャンルに通じているスーパー書店員がいる、ということではないだろうか。それはきっと「本が好き」なだけでは追いつかないものである。売る目線に立って、「私以外のお客様」に焦点を合わせなければ出来ることではない。どのコーナーも玄人な棚作りが楽しめる、素晴らしい書店である。(奥山)

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2008年12月15日 (月)

書店の風格/第24回 阿佐ヶ谷きたなら(1)

 阿佐ヶ谷駅南口を出ると、果てしなく続いていく商店街がある。そこをぶらぶらするよりも手前、細長いビルの一角に「書楽」はある。間口が狭いので、どこにでもある街の本屋と見くびるかもしれない。しかし中に入ってみてほしい、予想外の広さに驚くから。

 入口付近は雑誌のラックが多数あり、「庶民の本屋」の雰囲気がじんわりとした優しさをもって出迎えてくれる。ホッとしながら一間強の自動ドアをくぐりぬけ、目の前に拡がっている新刊・話題書の並んだ平台を見つめたのち、ふと右側の棚に意識を遣ってみると、そこにこだわりの息づかいを感じることが出来るだろう。東京や近郊についての情報本を扱ったその棚は、実用書が溢れているとは思えないほど上品な佇まいをしている。落ち着いたオトナの多く住まう阿佐ヶ谷という街のイメージどおり、レジャー感を過剰に打ち出すことなく、例えば散歩の本であるとか、歴史的人物のゆかりの地を訪ねる本であるとか、文化を感じさせるラインナップなのである。そんなこだわりの棚を見ながら店内奥へ進んでいくと、入口も奥行きも狭いこの本屋が、実はかなりヨコ長であることに気がつくだろう。「駅前の本屋さん」と一口に言うには広すぎるのが、この「書楽」なのである。こんなところに良質な本屋さんが、と、自分一人で穴場を発見したときのあのお得感が心に訪れるのだ。
 じゅうぶんにお得感を味わったら、好みの本棚を探していこう。人文書はいわゆる基本書が当然のごとくそろっているし、学習参考書、語学書、試験・資格の本も豊富だ。どれも偏りなく揃っているのが、書店としての誠実さ・緻密さを思わせて、大変好感が持てる。
 そして何よりも魅力的なのが、店長さんの動きである。ひとめ見ればこの人が店長と、雰囲気で分かってしまう背筋のピンと張った男性は、スリップの束をめくりながら本棚をなめるように動く。後ろ姿から熱心さが否応なしに伝わってくるその様は、迫力があるとすらいえよう。職人の仕事を垣間見るすがすがしさを味わい、同時にある店の店長さんの話を思い出した。

 POSシステムが発達して本の発注も機械におまかせになる書店が増えている。しかしそれでは「機械の作る店」になってしまう。本屋というのは単に印刷物を売る場ではない。「無数の思考の息づかい」を売る場である以上、そこには店主の意向、遊び、ためらい、挑戦などが反映されるべきであり(どんなに押しつけがましいと思われようが)、お客さまにもそのメッセージを受け取ることを、楽しいと思っていただきたいのだ。そのためには、売上の状況を毎日自分の目で見る。どんなに膨大であっても、売れた本のリストを見る。そうすると、機械には見えない売れ筋本の流れ、ジャンルごとのテーマリンク、などが浮かび上がってくる。そこに自分なりのエッセンスを加えたり、「これから売れるであろうもの」を推理したりしながら注文を得る、棚を作る。これが書店人のあり方だと。

 これぞ「本売りの職人」としての書店人のあり方なのであろう、と思った。そしてスリップと棚構成を頼りに、自分の感覚で書店そのものを創り上げていく厳しい方法を選ぶ書店人を、私は支持したい。
 「書楽」の本棚も、書店人の思いがたくさん詰まっているに違いない。集中してスリップをめくっている姿を見て、そう思った。すると、いっそう本棚が、輝いてみえてきた。(奥山)

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2008年11月24日 (月)

書店の風格/第23回 新潟の老舗 萬松堂

 「ばんしょうどう」と読む。創業が江戸末期だから、かなりの老舗だ。
 新潟駅から北へ向けて歩いていくと、大きな橋に出る。広大な信濃川にかかる万代橋だ。日本海からの風が吹き抜ける橋を渡りきると、そこには東西に長く長く続く商店街が姿を現す。古町と呼ばれるその界隈は、万代・南口付近と並んで新潟の繁華街である。しかし、繁華街というに至るまでの華やかさはあまり感じられず、落ち着いた雰囲気が全体を包んでいる。筆者自身、古町を歩いていたら「出張で新潟に来たんですが、新潟で一番栄えている街はどの辺ですか?」と聞かれたことがある。「一応この辺もそうなんですが……」と答えたときにはちょっと切なかった。

 萬松堂は古町のモール街、6番町にある。まわりには医学書の考古堂、これまた老舗の北光社、遊べる本屋・ヴィレッジバンガードがあり、書店のオンパレードのなかで「本好きならここへ」といわれる個性を出しているステキな本屋さんだ。

 どのへんがステキか。お店は4階建てだから、それぞれのフロアのステキさについて紹介してみよう。
 まずは1階。雑誌、新刊・話題書、児童書のフロアなのだが、とくに話題書の「書評コーナー」が素晴らしい。特に日曜日は新聞書評のラッシュ日だが、遅れじとそれぞれの新聞の書評記事を切り抜きして棚に貼りだし、一冊ずつ揃えるのだ。もちろんどの店でもやっている手法ではあるが、これほどの俊敏さは新潟ではなかなか見られないぶん、とても貴重。TV、雑誌の書評欄もできる限り網羅する熱意がとても素晴らしい。
 中二階。なぜかここだけ「中」がつく。文庫とノベルスのフロアだ。やや狭いが、平台よりも棚優先の構成が、瞬間的に売れる本よりも品揃えを重視する姿勢を感じさせて好印象だ。
 二階。専門書売場だ。広いとはいえないフロアなのに、ユリイカのバックナンバーや中小出版社の思想書が豊富。なんといっても注目すべきはレジ隣の平台で、稀覯書や絶版本のフェアをはじめ、数々の催しを展開している。担当者の遊び心が垣間見られ、平台を見るためだけに通ってしまいたくなる。
 三階。学習参考書のフロアだ。コミックも扱っているが棚数は少なく、コミック愛好者には物足りないかもしれない。でも大丈夫、当然注文はできるし、ビックリすることに「真向かいにある北光社さんはコミックが豊富です」と教えてくれる。もし他のお店でも在庫がなかったら、Uターンしてここで注文しようかしらと思ってしまう。

 ちなみに家庭向け以外の医学書は扱っておらず、こちらも「モール4の考古堂さんが医学書専門です」と教えてくれる。得意ジャンルを持ち寄った書店の集まる古町は、地域丸ごとおすすめだ。

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2008年11月17日 (月)

書店の風格/第22回 マニアをオシャレに演出する渋谷リブロ

 道玄坂を登っていると、若者の匂いがむせ返ってくる。立体的な構造をした街・渋谷にふさわしい書店を挙げよと言われたら、このリブロを真っ先に思い浮かべるだろう。デコレーションケーキ風に積みあがる棚作りを任せたら、リブロの右に出る書店はないと思う。

 渋谷のリブロはパルコ1、地下1階にある。エスカレーターを降りると、自然と右のほうへ足が向く。本棚のビビッドなオレンジが目を引くからだろう。一般書コーナーでは書籍の人気ランキングを飾った棚が主役。話題書、新刊が一緒に配置されている。11月13日に伺ったが、気になったのは書店中ほどの特集棚だ。手作り服の本、編み物の本と、一見女子的なもので構成されている棚の一番目に付くところにあるのが、『鉱物アソビ 暮らしのなかで愛でる鉱物の愉しみ方』(P-Vine Books) 。鉱物の本? 「鉱石(イシ)好き少年少女のための待望のヴィジュアルガイド本!」というアオリだが、なんてマニアックなんだ。しかしコンセプトとは裏腹に、装丁はすごく洗練されている。「DIY」というと、農業だったり工作だったりと無骨なイメージがあるが、トータルでオシャレに手作りの生活を楽しむことを目的とした本を集めた面白い特集棚だ。

 さらに店内を見ていると、アクリルの正方体に挟まった一冊の本が目に留まった。『団地巡礼 日本の生んだ奇跡の住宅様式』(二見書房)。なんと団地の写真集である。世の中色んなマニアがいたものだ。透明アクリルの棚に収まっているから、端の本は表紙まで見せることが出来、よりアイキャッチが効く。デコレーションケーキ風の棚とは、このアクリルを使った棚のことだ。正方体のアクリルに本を積め、時には表紙を見せて飾り、それを平台に積み重ねていく。そんな棚が店内に数点あることで、独特の立体感とスタイリッシュさが醸し出されるのだ。

 そして美術書の豊富さは素晴らしい。独立してはいるが地続きの「ロゴス」である。デザインやアートの洋書が表紙を見せた陳列で贅沢に並ぶ。片っ端からパラパラめくっていると、誰でもおなかいっぱいになれるバイキングに来たような感覚に陥る。本を買おうと買うまいと、ぐるっと一周するだけで満足できてしまう、不思議な本屋さんだ。

今の時期は手帳やカレンダー、そしてクリスマスプレゼント用の本が豊富。雑貨屋さんもいいけれど、ここなら他の人とは違う逸品が見つかるだろう。
(奥山)

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2008年10月11日 (土)

書店の風格/第21回 書店人に、とくに注目! オリオン書房ノルテ店

 今まで何故この書店を紹介しなかったのだろうと思うほど、重要な書店様である。立川市という立地を活かして駅前に大型店舗を二つ(ノルテ店、ルミネ店)、中型店舗を二つ(サザン店、アレア店)構えるこの書店は、なんといっても働いている人が素晴らしい。どの店舗に行っても、私のようなしがない小出版社営業の話を快く、しかも熱心に聞いてくださる。まるでこちらがお客だと錯覚してしまうほどの丁寧さであるが、それは徹底的に間違っている。新刊が出る度に置いていただいて、例外なく売れ行きが悪く、真っ先に頭を下げに行かなければならないのに月に一度行けるか行けないかという不義理を働いているのはこちらなのだ。感謝の気持ちとお詫びの気持ちでいつも押しつぶされそうになりながら中央線(特快が速くてよい)に乗る私がいる。実際にはスーツにネクタイのおじさま方に押しつぶされている。

 ノルテ店のSさんは、都内でも抜群に目利きの書店員さんだ。ふとハードカバーの小説の帯を見ると、よく書評員として登場している。お客様にも版元にも本当に親切な、カリスマ書店員さんである。彼の作る棚は魔法にかかったかのごとく美しい。普通の書店ならば敬遠してしまいそうな文芸の翻訳書も豊富で、丁寧に区分けされている。装丁の美しい本の選定も素晴らしい。凝ったつくりの仕掛け絵本もたくさん揃えてあるのが面白い。Sさんは長らく文芸書の担当をされていたが、最近人文系の棚に担当替えになった。
 人文棚のお隣、社会系の棚を担当しているAさんも長らく弊社のご意見番である。といってもご本人はそれをきっとご存じない。弊社の本はほとんどがノンフィクションなので、新刊の企画が出る度にコンセプトやあおり文句などのご相談に上がるのだが、穏やかに話す言葉一つ一つに重みがある。カンばかりではなく「今こういった本が売れているから」という、書店員さんにしか会得できない感性と論理を働かせてくれる。あまりに的を得ているので、「参考にします!」と言いながら、たくさんの意見をまとめる際にかなりウエイトをかけてしまうのだ。
 ご意見を聞いておきながら、それを活かした書籍がまだ出ていない。最近年一冊ほどのペースでしか本を出せていないためだ。なかなか企画が進まず、毎回「残念ながらまだ出版の目処が立ちませんで……」と言ってしまっている。前回お邪魔したときは「残念ながら『記録』が廃刊になってしまいまして」と言う羽目に陥った。Aさんの中で「残念な営業」としての地位を確立しているであろうと思うと、残念でならない。
 神保町や早稲田界隈の書店がいちばん、と通われている方にご提言したい。それも確かに素晴らしい、しかし立川市だって隅に置けない。というか、東京の本好きならば一度は行かねばモグリだとすら思う。遠くても是非と薦めたい本屋さんだ。規模の大きさはもちろんのこと、書店員さんそれぞれの、輝きを放つ働きぶりを見てほしい。棚の一つ一つにまで、「本が好き、本が大切」という思いが溢れているから。(奥山)

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2008年10月 4日 (土)

書店の風格/第20回 耕棚の達人~三省堂書店神保町本店~

 書店の風格も、今回で20回目となる。記念して言わずと知れた「神保町のマドンナ」(命名:奥山)三省堂書店神保町本店を恐れ多くも紹介させていただきたい。

 古書の街・神保町にあって燦然と輝く日本有数の新刊書店。店内に入ると、まず「本日の勝負本!」とでも言うかのごとくに平台が特設されている。めぼしいモノはないかと思いながら書店に入るのが常の人であれば、その目的が一秒で叶ってしまうだろう。それほどまでに多くの人が「めぼしく」感じる事のできるラインナップが、ここには詰まっているのだ。そしてふと左右を見れば、コンシェルジュが厳かに佇んでいる。コンシェルジュが常に固定の場所にいる書店なんて、数えるくらいしかないだろう。そして正面を向けば雑誌棚が並び、奥にはフレッシュな文芸書とエッセイが山積みになっている。いわば本屋の「花形」フロアだ。

 2階、3階とあがるごとに専門的な領域の本が集まるようになってくるが、このたびはとくに4階を中心にご紹介したい。書誌アクセスから地方・小出版センター扱いのコーナーを受け継いでリニューアルし、少々時間が経過したがフレッシュ感はまだまだ失っていない。それどころか常に進化を遂げつつあると感じることができるのは、隣にある思想・社会棚の存在が大きいであろう。いつも時代に先駆けた情報を与えてくれる平台作りはもちろんのこと、思わずううむと唸らせる美しい棚構成。特に時系列・思想別に並べられている思想棚には舌を巻く。人物ごと、テーマごとに、ところどころ「おっ」と考えさせられる本がささっていて、思わず手に取ってみたくなる。そう、特定の本を探すときにしかじっくりと眺めることのない棚差中心の本棚こそが魅力的な香りを放っているのである。図書館的な構成になってしまい、平積みに比べてなかなか売れないとされる棚差こそが活きている本屋というのはなかなか見ない。

 書店でアルバイトをしているとき、「本棚というのは耕すものだ」と言われていたのを思い出した。新しいものが入ってくるから、古いものをよける。それだけでも棚を耕したことにはなるのだけれど、そこに担当者の考え方なりこだわりなりが入った差し替えがなされると、そのことそのものが栄養になる。養分が多ければ多いほど、棚は育ってゆくのである。そのためには試行錯誤を重ねて、掘って、掘って、掘りまくる。本棚の豊穣は、そうやってつくられるのだ。

 4階に来ると、棚を見るのが楽しみだ。そこには本との出会いばかりではなく、担当者の思いとのゆたかな出会いがいつもあるからだ。そしてエスカレーターを降りる頃には、決まって大量の本を抱えていることになる。よって、給料日前に行くのは大変危険な本屋さんである。(奥山)

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2008年9月13日 (土)

書店の風格/第19回 気流舎 売らない本もある

 下北沢駅なら断然北口から降りたい、と思う。理由は数え切れない。真ん中にのびてる道を選んで下っていけばベーカリー「アンゼリカ」がある。ここのみそパンは一度食べたら病みつきになること必須、駅から猛ダッシュして行きたいお店ナンバーワンだ(個人的には)。さらに古着屋、安くてかわいいランジェリーショップ、ヘンなものを集めた雑貨屋などが一つの通りに凝縮されて存在する。若々しい雰囲気を横目で楽しみながらさらに歩いて大きめのクリーニングチェーン店を抜けたところで、少々落ち着いた街並みになってくる。コンビニ、マンション、カフェ、食堂…そのうち一つの角を曲がると、こじんまりとした木造のたてものがあらわれる。塗料を塗っていない、裸の木の色をした建物だ。それが「対抗文化専門古書 気流舎」。コーヒーの飲める古本屋、いわゆるブックカフェだ。

 「いわゆるブックカフェだ。」と書いてしまったが、どうも違う気がする。えっなんで、本を読みながらお茶が飲める場所でしょ、ブックカフェ以外のなにものでもないじゃんなんて無情にツッコミを入れるあなたには一度足を運ぶことをおすすめする。行ってみればわかる、多分。

 中はおよそ4坪程度で、こちらも裸の木の匂いがする美しいつくりをしている。壁2面に本棚がある。本棚の下から飛び出すように板がしつらえられているのは、そこに座って本を読むためだ。さらに店の中央にもテーブルがある。本棚の一画に陣取って読みふけるもよし、テーブルでくつろぐもよし。店主も同じテーブルの隅に座ってパソコンをパタパタやっているので緊張するかもしれないが、真ん中にそびえる大黒柱が緩衝材になってくれる。チャイがとびきりおいしいので、注文すれば穏やかに返事をして作ってくれる。

 さて肝心の品揃えのほうだが、「対抗文化専門古書」ということなのでどんなトンガリかと思いきや、本が好き、悩みの多い青春期を過ごしてきた、少し社会系、という人たちに幅広く支持される本が並んでいる。そしてそんな本の合間に、コアな本があったりするのだ。「基本は押さえている」といったところだろうか。新刊書店の人文棚に基本書があるように、古本屋にも基本書があるのですよ、と言われたような気がした。「ちょっと本読みに来た」人も、「なかなか濃い趣味」の人も、等しく満足するだろう棚。そんなに冊数はないはずなのに奥行きを感じる本棚構成である。
 さらに驚くのが、「この本いいな、買いたいな」と思って値札を見ようとすると「非売品」と書いてある。えっ? と思って他の本を見ると、ちゃんと値段が書いてある。蔵書と商品にする本が分けられているのだ。しかしどちらも自由に読むことができる。さらにカフェスペースはあるが注文しなくてもいっこうにかまわないスタイルだ。ということは、図書館みたいに好きな本を好きなだけ読んで、まったりして、すうっと帰ってしまう、なんて適当なことが可能なのだ。
 まるで他人様の書斎にお邪魔して、「ちょっと借りるよ」と言ってその場で読んでいるような気持ちにさせられる。しかもロフトがあって、誰でも上がって読めるようになっている。寝っ転がって読んでもいいのだ! そしてすごく居心地がいい。それは店主の見事な気配りに起因するものとみた。つかず離れずの距離感が、とても心地いいのだ。お話をしようと話しかければおだやかに返事をしてくれるし、こちらが読書に集中するとそっとしておいてくれる。こんなにこだわりのこもった書店なのに、お客さんのためという基本姿勢が一貫して保たれている。

 気流舎にあるのは普通の本だけではない。ミニコミな雑誌もある。各種チラシやフライヤーも置いてある。夜にはイベント会場として使うこともできる(そして夜にはバーになる!)。「ブックカフェ」というくくりには収まらない、「誰かの家」的な雰囲気が心地よさを誘う、そんな空間だ。(奥山)

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2008年9月 6日 (土)

書店の風格/第18回 神保町をギュっとね! 本のすずらん堂

 由緒正しき古書店街の入り口である神田すずらん通り。その中核に佇む新刊書店が、本のすずらん堂だ。店内商品のほとんどがビジュアル系で、コミック、アダルト向け写真集、ゲーム雑誌など男の子の胸をときめかせること間違いなしの品揃えである。店内入ってすぐ右の棚には、一風毛色の違う社会問題や政治的な色合いの濃い本も置いてあるのだが、じつはものすごく選び方が秀逸である。不健康な中の健康さとでも言い表そうか(まったく日本語としてなってないが)、普通の男の子の感性ではボーダーラインをちょっと越えてしまう、という雰囲気のものが一冊もないのが素晴らしい。イマドキのネット男子なら「ここは抑えときたかったんだ」と手に取ること必須の、アキハバラ本、靖国本、犯罪本、下流本エトセトラ。男性のツボを心得ているといえる書籍担当者のセンスには脱帽だ。

 そんな感激を胸に、店内に華開く磯山さやか、安めぐみ、安田美沙子らに見守られながら(もしかして理想的な職場なんじゃないだろうか)階段を上がると、そこはDVD売場。1階の本屋、2階のDVDと、完全に売場が分かれているのだ。もはや男の園。ああ、きっと男だったらこのパラダイスは甘く受け入れることが出来るのに、いくらアイドル好きでも女では門外漢である(この場合「漢」でよいものか)。講談社の面接で「最近読んだ本は」と聞かれ「『月刊現代』です。とくに香椎由宇のグラビアが良いと思いました」と答えた奥山も、ここでは邪魔者である(その面接自体は成功だったが、『月刊現代』はもうじき終わってしまう)。では何故そこに来ているのかというと、きっとこちらのお客さんが喜んでくれるであろう企画を持ってきているからで、要するに営業である。書籍仕入れの方も、こちらの意図を分かってくださったようで、にこやかに応対していただいた。厳選に厳選を重ねた工夫が見られる棚づくりをしている担当者様に認められれば、本だって生き生きと輝いてくるだろう。頑張って、良い仕上がりにしなければならない。

 ちなみに、最近心惹かれてしまった本に『妄撮』がある。女の子の服の下を妄想するという男子のココロを具現化させた写真がいっぱいなのだが、すごいのはそれだけではない。かわいい系からカッコイイ系まで、旬のモデルやアイドルが23人も参加した豪華な本なのである。23人もいれば当然脳内に全く情報のないモデルさんもいて、「この子は一体どういう娘なの??」と、自分の発掘魂をくすぐられてしまう。そんな時にすずらん堂のような本屋さんはかなりありがたい。帰ってネットで調べるより先に、調査項目がギッシリ詰まったものがそこかしこに積んで、飾ってあるのだから。一日中いても飽きない、探求心くすぐられる書店である。(奥山)

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2008年8月23日 (土)

書店の風格/第17回 高円寺界隈

 さきの第16回では、オトナな街・西荻窪の書店様をご紹介した。
 不運にも店主には会えなかったが、「日中は他の店舗にいる」と連絡先を教えていただいた。ブックカフェである。地図を取得するためネットで検索すると、新刊・豆本を扱っていて、カフェスペースでは軽食もできて、さらにイベントスペースやギャラリーとしての機能もあるお店のようだ。

 1つのイベントが目をひいた。
 「アニメーション・ポルカ」。

 アニメのショート・フィルムとは珍しい。山村浩二の「田舎医者」を見て以来、このジャンルは注目したいと思っていたのだが、願望だけで終わっていた。情報キャッチが難しい分野なのだ。しかしこんな催しがあったら行くしかない。
 ということで、仕事とは全く関係ないが、お客としていそいそ参加してみた。

 お店は「茶房 高円寺書林」。高円寺駅北口を出て、純情商店街を突っ切って、庚申通りをまっすぐ進むと左手に看板が見つかる。手作り感覚の、木の看板だ。案内どおりに左に折れるとすぐに見つかった。観葉植物の置かれたテラスがあり、見た目はまごうことなきカフェ。しかしテラスのテーブルには多くのミニコミ誌やフライヤーが置かれ、棚には本がたくさん並んでいる。間違いなくここは、本屋さんなのだ。

 中に入ると、左手に本棚、右手にイベントスペースが広がっていた。
 「いらっしゃいませ」とにこやかに話しかけて下さる女性がいる。ワンドリンク制とのことなので、アイスティーを選んだ。スクリーンこそないが、白壁はひろく空けてある。普段はカフェスペースであろう空間に木製の椅子がいくつか並べられている。うながされ、ちゃっかり一番前に陣取った。

 上映作品は韓国の映像制作会社「MASCO」のもの。最初はコマーシャルフィルムがいくつか、そしてプライベートフィルム、短編アニメが上映された。アニメばかりではなく、実写のものもある。クレイアニメによく見られるように、コマ撮りのものが多い。印象的だったのは「貞子」もどきが出てくるプライベートフィルムで、テレビの中から映画のとおりに貞子が登場するがあまりに小さいので誰からも相手にされず、物をテーブルに置いた時の振動で床に跳ね落ちてしまうというもの。言葉が伝わらなくとも、ユーモアは伝わる。表象文化は素晴らしい。実際、日本人はもちろん韓国人、フランス人と多国籍の人々が集まっており、上映後はそれぞれの言葉で盛り上がっていた。

 せっかくなのでご挨拶したいと、先ほどコーヒーを持ってきてくれた女性に話しかけると、店主その方らしい。図々しくも名刺を差し出すと、なんと弊社雑誌「記録」を取り扱っていてくれたとのこと。そしてホームレス本についての意見をいただいた。曰く、「2番目に出たのよりも1番目の方が緊張感があって好きですね」と。1番目の『ホームレス自らを語る』は、調べうる限りでは本邦初のホームレス本であった。偏見の目で見られがちなホームレスに取材し、その重みある半生を語っていただくというものだ。体当たり取材の緊迫感が読み手にも伝わったのであろう。

 後日、もう一度お邪魔して、先日は拝見できなかった本棚をじっくりと拝見した。一般書店では手に入らないような若手の書くミニコミ誌、デザイナーの記念本、Tシャツ、そして豆本と、表現したい人々の息づかいが伝わってくるアーティスティックな品揃えだ。さすがはサブカル・ディレッタントな街、高円寺。西荻窪のお店とはひと味もふた味も違う。店主の守備範囲の広さに、思わず唸った。これからも絶えずアンテナを張って、本と人との出会いのサポート役として活躍していただきたい。(奥山)

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2008年8月 9日 (土)

書店の風格/第16回 西荻窪界隈

 西荻窪はオトナな街だ。
 降り立って北口から出、一分ほどすれば静かな街並みが現れる。何が素晴らしいって、コンビニやらチェーン店やらの進出が垣間見られるにも関わらず、街特有の落ち着きを失っていないのが素晴らしい。いや、そんなに昔からこの土地のことを知っているわけではないが、昔からこのような佇まいだったのだろうな、と感じさせる。アンティークや古本を扱う店が転々と並び、婦人向けのブティック、小劇場、有機野菜専門の八百屋、天然素材のパン屋などが「普通に」そこにある。看板で華々しく宣伝文句を謳っていたり、昨今の流行に乗ってみましたという真新しさは感じられない。ただ地域の人々のために、ひっそりとそこにあるのだ。思わず万人が詩人になってしまう、そんなロマンスを持っている街だ。

 こんなに素敵な街に降り立った8月7日。私だって詩人になりたいのは山々なのだが、何せ炎天下である。駅前で鼻血が出てしまい、格好悪い姿をひとしきり晒してから書店様へと赴いた。本日伺うのは、西荻のカルチャーを体現しているとも言われている、本好きからたいへんな寵愛を受けている書店様だ。弊社から出ているホームレス本を、新刊扱いでなくなったあとも再三ご注文くださっている。お礼参りとともに今後の出版のヒントを得たいと、駅から歩いて3分の書店に向かった。公道から少し奥まった所に入り口がある可愛らしいお店で、このような規模の書店様に何度も注文をいただいていたのかと思うと本当にありがたい。

 中に入ると、まずは雑誌のコーナーがあった。アニメ雑誌が嬉しい豊富さで、必死に好みの雑誌を探す女の子がいるのが微笑ましい。そして奥が一般書コーナーなのだが、人文社会系がかなりの面積を占めており店主のこだわりがはっきりと見える。今のところ弊社の本は棚から消えているようだ。レジにいる眼鏡をかけたおじさまに、お忙しいとは思いつつ声をかけてみた。

 お名刺を渡してから、「棚のご担当の方はいらっしゃいますか?」と聞いてみると、「今はいないな」とのこと。

「何時頃お戻りでしょうか?」

「一時くらいかなあ。」

時計は午後の三時を指している。

「い、一時ですか?」

「一時くらいだね。」

最初は無言の門前払いを食わされているのかな、と少々悲しかったが、本当のことらしい。信愛書店は午前12時半まで営業している夜型な人たちに親切なお店なのだが、棚担当者が戻るのは閉店後のことらしい。そもそも信愛書店は高円寺にある「高円寺文庫センター」の支店である。そういえば高円寺文庫センターに行った折も、「担当者は夜中にならないと来ない」と言われてしまったことを思い出す。

「担当者は昼間、高円寺にあるカフェにいます。夜になるとまた違うところに移動して、そこからこっちに帰ってくるので1時くらいにはなってしまうんですよ」

おじさまよりご丁寧な説明を受け、さらに「ここに連絡してみて下さい」と電話番号をいただいた。高円寺のブックショップカフェのことは噂程度に聞いていたが、3店舗をほぼ一人で見て回っているなんて…感心を通り越して感動した。書店の新しい形を模索して走り続けている店主を、ぜひ追いかけたい。

 さすがにカフェで営業はまずいので、お電話でアポを取ることにした。めったに会えないお人だろうから、後悔のないようスッキリPRしないと! というわけで、こちらの回はもう一回続きます。次は邂逅編…になる予定です。(奥山)

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2008年7月26日 (土)

書店の風格/第15回 放浪書房東急ハンズ銀座店で「野宿野郎」を買う

 放浪書房という書店がある。
 その名が示すとおり、全国を放浪しながら路上で本を売るというスタイルの本屋さんだ。売られる本のジャンルは、ひたすら「旅についての本」。古本、新刊、そして一般には流通しないミニコミ誌も加えて売っている放浪書房さんが、期間限定で屋根つきの本屋さんになるという情報を得て、銀座に向かった。
 足を踏み入れたのは、有楽町駅から徒歩1分の12階建ショッピングビル、マロニエゲート。洗練された品揃えのセレクトショップが並ぶ中、5階から9階は東急ハンズが独占している。7階に実用書重視の「ハンズブックス」ができたのは知っていたのでそちらに出店していると思いきや、ない。店員さんにお聞きしたところ、「9階でございます」とのこと。なぜ9階? と思ったら、自転車やテントが並ぶアウトドアスペースに放浪書房はあった。なるほど。旅をテーマにコーディネートしているというわけだ。
 スペース内レイアウトは、東急ハンズだけにかなりハイソな仕上がり。いつも本、本、本しか並ばない(当たり前なのだが)書店のレイアウトや、おしゃれだけれども手作り感あふれるブックカフェなどの店作りしか見てこなかったため、衝撃だった。流行雑貨屋の手にかかれば、古本も簡易本もぐっとこじゃれた表情を見せるのだ。
 まずは本。ここ最近yahooのトップページで紹介されたりとますます認知度を高めてきたミニコミ誌「野宿野郎」が1号から最新号まで面を見せてドンと並べてある。そしてこれも個人発行のミニコミだが本格的な装丁の「旅と冒険」が熱のこもったお奨め文つきでディスプレイされてある。あとは旅の体験記、旅というよりもどちらかと言うと放浪のためのノウハウ本。古本なら『もの食う人びと』(角川文庫)、新刊本なら『俺の旅』(鉄人社)、マンガなら吾妻ひでおの『失踪日記』(イースト・プレス)など、コンセプトにしっかりとこだわった品揃えぶりに脱帽。そして風情あふれる手製の絵葉書あり、作製元とコラボレートしたビーチサンダルあり、「商売していて楽しい!」というメッセージがひしひしと伝わってくる。
 そして地続きにアウトドアスペースが続いていくのが見事。並んだ本と同じ棚にリュックサック、パーカーがディスプレイされ、棚裏にはハンモック。飯盒炊爨用品。マウンテンバイク。本を読んで膨らんだ夢をかなえるため、「自力で、ちょっと旅に出る」ときの道具でいっぱいだ。アイデンティティを模索する学生はもちろん、お決まりの道を往復する毎日を送るお父さん方にも魅力ある空間となっている。こんな空間、きっと消費者は待っていた。都心である銀座という土地にさすらいの精神が融合して、程よい心地よさをつくりだしていた。

 私も一冊、と思い、当ブログでも取り上げられた「野宿野郎」最新号である5号を買ってみた。中身については編集長へのインタビューとともに過去記事で触れているのでここには書かない。筆者は生まれながらのインドア派なので旅には興味がないが、野宿くらいならいいかもしれない。たまに寝る環境を変えてみるのも悪くない。近所だったら財布持たずにすむし、そしたらカツアゲの心配もない。トイレにもすぐ行ける。飽きたらすぐに帰れる。うん、いいね。(奥山)

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2008年7月 5日 (土)

書店の風格/第12回 山下書店渋谷南口店

 この書店を知らないという東京都民の皆さん、じゃあ渋谷駅なら行った事があるだろう。

 行った事がある。よし。それなら南口に出て、大きな歩道橋を渡ったことくらいはあるのではないだろうか。

 今度その歩道橋にさしかかったら、ふと橋の下を見下ろして欲しい。そこには雑誌が所狭しと並んでいる本屋さんがあるはずだ。どうして外から見て所狭しと並んでいるかがわかるかって、そりゃ、店の外に棚があってそこに並んでいるから一目でわかってしまうのだ。さらに全面ガラス張り。入り口脇にはガチャガチャが何台か設置してあり、ただものでない感がひしひしと伝わってくる。遊び心をそそられたら、歩道橋を降りて店頭に立ち、路上で雑誌を物色しよう。男性向けのファッションや趣味についての雑誌が多い。今流行中らしい「おしゃれボウズの作り方」のムックなんて、女性である私はここで立ち止まって観察しなければ存在すら知らないものだ。僥倖に感動を覚えながら、入り口のガチャガチャにはかろうじて手をつけずにお店に入ると、そこにはとてもアツい平台がある。「アツい平台」といっても何のことやらわからないと思うが、並べた人の熱意がひしひしと伝わってくる品揃え。デザインに優れた非定型書籍などがジャンルを問わずPOPつきで並んでいるのだ。流行の中心地である渋谷という場所柄、たいへん的を得ていると言えよう。

 さらにこの書店はなんと24時間営業、もちろん無休だ。私があと10歳若かったら絶対この辺の路上でたむろしている。間違えた。一人ではたむろできない。ええと、座り込み? 野宿? とにかく飽きないで周辺に張り付いていると思う。

 中に進んでいくと、お客さんは圧倒的に若い男性が多い。熱狂的ファンがいそうな本屋だ。軽めのノンフィクションやサブカルチャーに加え、コミックの多さでお客のニーズに応えている。レジ前にはチラシやフライヤーがあふれ、表現系の若者にも親しまれていることがわかる。

 しかしこの本屋、意外と女子もいけるのだ。入り口からまっすぐ入ったところの文芸棚は、文化系女子向けのコーナーが一角を占めている。近年話題になっている腐女子本、それに付随するエッセイなどで構成されている。男性ばかりいる印象で、なかなか入れない…としり込みしていた女子の面々はぜひ勇気を持って入店していただきたい。必ずやお気に入りの一冊に出会えることだろう。
 それは必ずしもいつも自分が親しんでいる趣味のよい本や、装丁の可愛らしい本ばかりを意味しない。激しいサブカル本でもなければちょっとオタク度の高い小説やコミックでもない。女子向けの棚を鑑賞したらそこから一歩遠ざかり、隣のアイドル写真集やアウトドア、スポーツなどの本にも少し目をかけてみて欲しいのだ。もしかしたら結構面白い、未知なる世界が広がっているかもしれない。私の出会った「おしゃれボウズ」のムックしかり。そう、ここは出会い系の本屋なのだ。うら若き文化系女子の諸君、そろそろ文化系とか呼ばれるのにも飽きてきたなと思ったら、渋谷は山下書店に集おう。(奥山)

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2008年6月28日 (土)

書店の風格/第11回 文教堂 ブックストア談 錦糸町店

 下町の代名詞(と思っているのは田舎者の私だけ?)、錦糸町。駅に降り立ってひととおり街を歩けば見えてくるキーワードは、競馬、競馬、競馬の嵐。JRA競馬場・ウィンズが駅前にあり場外競馬が楽しめるのは、まあ普通のこととして受け止めることができる。しかし、「競馬のある日は100円引き」「10%引き」「飲み物1杯サービス」の看板が異常に多いようなんだが気のせいだろうか。裏通りに一歩足を踏み入れれば立ち飲み屋がズラリと並び、店の庇をはみ出してイスとテーブルが公道に押し出されている。そこに座ったおじさまたちが上機嫌で競馬のテレビ中継を見ながら、そしてラジオ中継を聞きながら一喜一憂し、店のおかみさんは手作りのおつまみを差し出す。夢のような楽天地だ。私も早くおっさんになって仲間に加わりたい、と思ったが如何せん女なのであった。そして競馬は見たこともないのであった。
失格!

 錦糸町の街を紹介したかったわけではない。本日紹介するのは錦糸町駅からすぐ、駅ビルとも言えるだろう立地にある「テルミナ」4階にある書店、ブックストア談錦糸町店だ。1階から3階まではヨドバシカメラ、4階からは専門店が並ぶ。4階上りエスカレーターを降りてすぐ、目につくのは売れ筋商品を並べた棚だ。コミック、サブカルの要素が強い本が目立つ。かと思いきや、ノンフィクションあり、文芸書あり、シブめの社会系ありのにぎやかなラインナップ。本好きの店員さんがのびのびと品をそろえていることがわかる、風通しのいい書店である。中に入ると左がコミックフロア、中央が文芸書や話題書、続いて右に文庫、新書、語学や参考書、雑誌と続いていく。ひととおり回った後、ふとコミックフロアのほうに目をやると、すごいものを見つけた。

 「見ないで描いてみよう!」

 とのタイトルが振られたコルクボードに、いくつもの絵が鋲で貼ってある。良く見ると、アンパンマン、アトム、サザエさん、ちびまる子ちゃんなど日本人にはなじみ深いキャラクターの数々。だが…全部、なんか違うぞ! そう、ここはお手本を見ないで描いたキャラクターの展示スペースなのである。うろ覚え選手権を彷彿とさせるが、すごいのはこれら全てをお客さんが描いているということだ。展示スペースの脇には鉛筆と紙、そして投票箱のようなものが置いてあり、思い立ったらすぐ描いて投稿できるようになっている。
 人間関係が冷え込んでいる現代日本において、こんな心温まる交流があろうとは。いや、大げさに書きたてるまでもなく、企画があっても適当にスルーしてしまうのが昨今のオトナ子ども事情。なのに、こんなに投稿してくれる人がいるなんて。よく見れば自分のお母さんや知り合いの顔を描いているものもあり、笑いを誘う。こんなふうに楽しいコミュニケーションを地元内外のお客様と取れる書店はもはやここ以外にないのではないだろうか。もちろん、絵本の読み聞かせなど完全に幼児向けのイベントを行っている書店は数多くあるだろうが、より年上の年齢層に働きかけて成功しているお店をなかなか見ない。そんな中での好例。きっと、趣向をそのまままねしてもなかなか成功しないだろう。このお店のキャラクター、そして地元への確固たる根付きが成功を招いたのだ。
 一度立ち寄ったお客さんが、確実にまた来たいと思う書店。
 私も次の投稿貼出がとっても気になる。(奥山)

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2008年6月21日 (土)

書店の風格/第10回 旭屋書店イオン浦和美園店

 気がつけば2回続けて旭屋書店なのだが、全く毛色が違うのでお許しいただきたい。イオン浦和美園店は、まさに理想のファミリー型インショップといえる。入るにつけ出るにつけ、いちいち感心してしまったのはこの書店が初めてだ。

 まず立地だが、埼玉県最大級のショッピングセンター・イオン浦和美園の中にある。埼玉高速鉄道浦和美園駅から歩いて3分。駅のまわりは住宅地が広がっているわけではなく裏寂しい感じだが、ひたすらに「道路」がある。バイパス沿いに無理やり駅をドッキングさせたような不思議な空間だ。車が通るばかりで民家もない、そんなところになぜ駅がと思われるだろうが、実は埼玉スタジアムの最寄り駅なのである。地元・浦和レッズの試合などイベントがあるときにはかなりの混雑が想像される。つまり、駅からでも車でも楽々アクセスできると同時にイベント時の波及効果も期待できるショッピングセンターなのだ。なんておトクなんだ!

 センター内3階に旭屋書店はある。インショップの強みで、出入り口は大きく2箇所。間口が広い、というよりもほとんど360度店内が外から覗ける。一つ目の入り口から入ると、左手に児童書が豊富に並べてある。右手には実用書。真向かいのフードコートから満腹になって出てくるファミリー層をおもてなしするにたいへん相応しい。児童書の奥には小学校受験のための棚、さらに奥には中学校、高校、大学参考書と子どもの成長に合わせた棚構成が美しい。そして店舗のほぼ真ん中にまで達すると専門書のコーナーとなり、お父さんたちがコンピューターや経済についての本をくまなく探そうとしても必ず満足してくれるであろうラインナップ。とにかく広いのだ。

 そしてもうひとつの入り口から入ると、そこにはまずケータイ小説が。そして文芸書の新刊、コミック、話題書、文庫、新書と続く。お隣のHMVからやってくる中高生や若者が好みの本を探しやすいつくりになっている。お客様の身になって考えないと、こういった店舗作りはできない。なんと丁寧に心を尽くした配置だろう。

 しかし感動している場合ではない。私は営業に来たのである。今回もご迷惑を承知で挨拶に伺うと、担当者の方を事務所脇で待つように指示があった。待ちながら本棚を見ていた。なんだか私の欲しかった本ばかりが目に付き、帰りに買って帰ろうかなと思う。『営業活動の実践マニュアル』、『「営業力」の基本が身につく本』…ん? そうか、目の前がビジネス本のしかも営業ジャンルの棚なのだ。ということは、ターゲットにされている?!

 偶然だろうけれど、前回の書店営業の本といい、自分も書店にとっては取引先であると同時にひとりの消費者であるということをひしひしと感じた。そうだ、最近は本作りにばかり目が行ってしまって、「自分が消費者だったら買うかどうか」という目線を忘れがちになっていた。この感覚を大切にしていければ、「売れる本」を作れる日も近いかもしれない。(奥山)

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2008年6月14日 (土)

書店の風格/第9回 旭屋書店船橋店で『石塚さん、書店営業に来ました。』を買う

 ひ、卑怯者! と思わず怒鳴ってしまいたくなるほど、うまい企画である。
 さて問題です。日本で一番、本屋さんに行く回数が多いのはどういった人たちでしょう?
 答えは文学青年でもなく大学教授でもなく、「出版社の営業」。彼らは毎日、向かうべくして書店に向かう。もと書店人によって書かれた、出版社のための営業ノウハウ本。「本屋に人がいなくなった」とぼやかれる昨今、訴えかけなくともターゲットは否応なしにお店にやってくる。ほんとになんて巧いんだ。そして季節を問わず営業をしていると額と脇の下に汗を大量にかいてしまう小心・口下手・軟弱者の奥山としては、買うしかないでしょう、この本は!!

 買った現場は、旭屋書店船橋店。ここでも、素敵な書店員さんとの出会いがあった。大変お忙しい中、じっくりとお話を聞いてくださったのはHさん。長い髪をすっきりと束ねた女性だ。人文の棚を担当しているので、弊社から本を出版している著者の中ではルポライター鎌田慧と相性が良い。さっそく、まだ企画段階の本について意見を伺ってみた。
 すると実に手際よく資料を読んで「ウチは●冊かな」と、具体数まで言っていただけるではないか。
 出版時期が確定していないものに、書店員さんのほうから積極的に注文数を提示してくださったのは、実は初めて。今まで参考程度にとお願いしても「出版時期が決まってから」「値段が決定してから」「ゲラができてから」と言われ続けてきたので感動した。
 そして「これは人文だけじゃなくて社会の棚にも置けるから」と言って、店内を横切っていく。ついていくと、社会系の棚を担当しているSさんに本を紹介してくださった。そして二人で相談して、注文数をまとめて渡される。ここまでの時間、じつにご挨拶から2分程度。素早い!!

 購入した『石塚さん、書店営業に来ました。』にもあったが、書店員さんのお仕事は分刻みになりやすい。筆者も書店のアルバイトをしたことがあるが、棚整理をしようと本に手をかけた瞬間にお客さんからお問い合わせを受け、該当書籍を探している間に出版社営業に声をかけられて「少々お待ちください」と言い、お客さんをご案内した後にさっきの営業さんは?と周りを見渡しているとレジが混み始めて助っ人に行き、落ち着いた瞬間に電話が鳴って取り、取り次いだあとにまたさっきの営業さんに声をかけられてそれもご案内し、さて棚整理にまた取り掛かろうと時計を見ると自らがレジに入る時間になっている…といったことの繰り返し。あっという間に一日はすぎていった。
 だからこそ、Hさんの頭の切り替えの早さには驚愕した。チラシをちらと見ただけで判断ができる、そして他の棚のことも考える余裕。ベテラン社員だからこそのプロのお仕事だ。じっくりと考える時間がないからこそ生まれる集中力が、全身にみなぎっている。そして終始明るく対応してくださったのもじつに印象深かった。こういった書店員さんには、ファンが多いんだろうな。

 こちらも緊張ばかりしていないで、書店の利益になるようきちんと本のご案内をしていかなくてはならない。『石塚さん、~』では書店員さんの側から見た出版社営業がやってしまう数々のウッカリがたくさん書いてある。「参考になる」程度でおさまるものではない。。心の中で土下座しながら読みきった。とくに「説明したあと、注文くださいって言ってますか? 注文の責任を相手に押し付けるのではなく、自らも負いましょう」というくだりには頭が上がらない。そのとおり、最後の一押しができないんですよね…。ああ、ちゃんと仕事しなければ。しよう。(奥山)

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2008年6月 7日 (土)

書店の風格/第8回 模索舎で「ロスジェネ」を買う

 新宿三丁目の駅を出てすぐ。マルイシティを抜けて、世界堂を抜けて、セブンイレブンには入らずに手前の角を曲がると、その本屋さんはある。模索舎。もちろん一般の書籍・雑誌もあるが、取次を通しては流通していないミニコミ誌をたくさん扱ってくれる神様みたいな書店だ。

 店に入ると、膨大な量の「紙」が目を襲う。まさに「紙」としか言いようがない、中綴じ10数ページのミニコミ誌が並ぶ中に私たちの「記録」もあった。「積んで」置いてくれるのはこちらの書店だけであろう。ちょっと感動しつつ店内を見渡すと、雑誌「ロスジェネ」がある。紀伊国屋書店新宿本店で死ぬほど見てきたが、きついピンクの表紙が否応なしで目立つ。
 私だってギリギリではあるがロスジェネと言われる世代。気にはなっていたが、1365円という価格に怖気づいてなかなか手が出せないでいた。てか高すぎ。低所得者が圧倒的に多いロスジェネ相手にそんな値段の雑誌を買わせてどうする。一体誰に向けて売るつもりなんだ。求人情報のひとつでも載せて広告費とって安くしろ! 姿勢としてそれはできないということだったら、…だとしても安くしろ(←バカ丸出し)! 時期が過ぎたからって売れなくなる本じゃあるまいし、次は12月ということであれば。

 …とひととおり心の中で罵倒したあと、16ページ中綴じ480円の月刊誌を出している私たちが言えた立場ではないことに気づく。一部では「ブルジョワ誌」とか言われてるし。ホントごめんなさい。

 なんにせよ買ったら負けだ。そして、負けた。レジに持って行き、対応してくれた店員さんに改めてご挨拶した。とってもフレンドリーな方で、小心者の奥山は大変に救われた。そして、しぜん話は「ロスジェネ」に及ぶ。店員さんも「価格が高すぎる」と渋い顔をした。やはり皆、思ってることは同じなのね。作り手にはいろんな事情があるから一概には言えないけれども、対象読者のことを考えたらもっと安くしてもよいのでは、と言ってからこんな話をしてくれた。

 「いま、ロスジェネについて該当世代がいろいろ言っているけど、一歩引いたような議論が目立つんだよね。当事者なのに、批判する側の顔でいる。まさにそこにいるのにもかかわらず、上から目線で自分や同じ立場の他者を見る。それこそがこの世代の病理なんじゃないかと思う」

 たしかに「オレたちの世代って大変だよな。この危機的状況をみんな理解してないけど、オレはちゃんと考えてるんだぜ。つまり、オレ以外はみんなバカでクズ」的な発想をする同世代の知り合いを少なからず知っている。そう言っている自分こそがよくある思考や生活に埋もれちゃっている感がある。しかもそういった思考に陥っていることを自分でも良く理解し、反省しながらどこまでも自己優越感は消えないのだから始末が悪い。

 店員さんは、「ロスジェネ」の隣に置いてあった杉田俊作氏の『無能力批評』(大月書店)を「赤木智弘を批評しているものとしては一番」と薦めてくれた。が、持ち合わせがなく購入を断念。どうしてこういう本は値段が高いんだろう。当事者向けの本だとしたら、ケータイ小説を少しは見習って欲しい。中高生のお小遣い事情を考えて、まるっと一律千円だ(余談だが弊社『どこかで』好評発売中)。本を眺めていると、「批評は「ロスジェネ」にも再録されてるよ」との声。ホッ。っていうか、再録が入っててこの値段かよ! と改めてピンクの表紙を見る。
 本は読まないと評価できない。そして、出版社のいち営業でしかない私がウダウダ言うよりも、ネットで発言している人々の評価がよっぽどためになる。
ので、以下に紹介させていただく。

くまさん「再出発日記」

「未来の小林多喜二」さん

「J憲法&少年A」さん

 因みに「ロスジェネ」を読んだ私自身の感想といえば、「暗い!」。土の中に埋められたかのような息苦しさがある。ある意味この世代を物語っているといえる。右や左という言葉がウロウロ出てきて、それこそがこの雑誌のテーマだということはわかるが、果たして右や左でこの人たちの立場を名づけることができるのか? という疑問は持った。「超左翼マガジン」と銘打たれていて、その立場は「左翼を超える」というスタンスであろうとは思うのだけれど、はじめからこの人たちには右も左もないのでは、と感じた。その感覚はどこから来るのか自分でもわからなかったが、雑誌内である種グローバルな観点に話が及ぶとき-例えば環境、平和など-主張にオリジナリティや強さがないことに起因するのではないかと思われる。つよいベクトルが見えないのだ。大きなテーマを話題としたときにこそ、もっと印象的な自己主張をしてくれればこんな曖昧な気持ちにはならないし、支持もできるかもしれないんだが、いかがでしょうか。

 しかし私らは、50年後も「ロスジェネ」と呼ばれてしまうんだろうか。(奥山)

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2008年5月31日 (土)

書店の風格/第7回 ブックスオオトリ 高円寺店

 高円寺はサブカル・ディレッタントな街だ。
 その数100をこえるといわれる古着屋が、そこかしこに見られる手作り風のカフェが、神保町顔負けの独特な品揃えを誇る古本屋が、文化や芸術へのラブコールを出し続けてやまない。情報の発信地である殺伐とした都心に比べて、なんと豊かな表情を持っていることだろう。
 何を隠そう筆者は大の高円寺好き(隠そうが露にしようが誰にも影響を及ぼさないが)。とは言っても残念ながら文化にたしなんでいるとは言えず、ただ古着が好きなだけである。よってどんな古着屋がどこにあるのかは良く存じているが、本屋さんを探訪するのははじめて。

 さて、飛び込んだのはブックスオオトリ高円寺店様。高円寺駅北口から徒歩2分程度とうれしい立地だ。今日お邪魔したのは他でもない、新刊『どこかで』のPRはもちろんだが近刊のサブカル向けと思われる本のリサーチのためだ。ドキドキしながら棚づくりをしていた女性にお声掛けすると、文芸書周辺棚の担当・山口副店長だった。

 「このあたりの方々がたいへん好みそうな本ですよ」と近刊の企画に太鼓判を押していただき(どんな企画かはまだヒミツ)、コレを好きな人はなかなかレアなのではないかと思っていた筆者は感動した。そうか、これが売れる土地か。ますます好きになれそうだ。

 「サブカルチャーの棚は、ジャンル分け不可能ですね」という山口さんの言葉通り、ゲーム関連本が三冊並んでいるかと思えばその隣がスポーツものだったり、お次は競馬とめまぐるしい。分類不可能な本は、サブカルチャーの棚に置く事が多いという。

 「私自身、置き場に迷うこともありますが、このあたりのお客さんは不思議に自分の欲しい本をサクッと見つけて買われます。棚に一冊だけ挿してあるような本でも、ふと気づくと売れていたりする。とくにサブカルチャーの本は、皆さん、本棚をご覧になりますから。台にドンと積まれているような本よりも、本棚にひっそりと一冊だけ佇んでいるような本のほうが、発見したという快感を覚えさせてくれるのではないでしょうか」

 分類に迷っても、ここに置いておけば、見つける人は必ず見つけてくれる。そこには書店員と客との、無言の信頼関係が垣間見えた。きっとお客も、「この棚を見ればきっと面白い本が見つかる」と思って書店に足を運ぶのだろう。まさに生きている本屋さんの姿を見た。地元民に向けて開かれているというのは、地域に根ざす書店に一番大切な要素ではないだろうか。

最後に、お忙しい中お時間を割いてくださった山口副店長、本当にありがとうございました!(奥山)

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2008年5月24日 (土)

書店の風格/第6回 川越にて、手作りPOPの書き手

 埼玉県というと、景色としては「薄いなあ」という印象がある。どうして薄いと思うのか。白っぽい建物が多いからだ。大型のショッピングセンター、林立するアパートやマンション、工場。…決して田舎扱いしているわけではない。筆者の故郷は山形でも有名な豪雪地帯だし、新潟や千葉に居住した経験もある。営業という仕事柄、神奈川や茨城にも足を運ぶ。そんな中で埼玉といって思い浮かぶのが白っぽい風景である、その程度の話だ。

 最初から話がそれた。このたびの舞台は川越駅。東武線とJR線が使えるおりこうさんだ。東武側には多数のグルメショップやレストランがうれしい「EQUIA川越」、JR側には「ルミネ川越」があり、間断なく「アトレ川越」が続くという立地だ。駅の敷地内を出ないで満足なお買い物ができてしまうと思いきや、地上に降り立ったとたんから続く商店街もただ者ではない。ルミネやアトレでは絶対に手に入らない値段で靴やバッグなど小物が売っていて、他にもこまごまと喫茶店や食べ物屋さんが充実している。

 …などと言っている場合ではなく、書店様に行かなければならないのである。川越で書店様にご挨拶できるのはめったにないことで、ちょっと緊張していた。
 が、その緊張が思わず解けてしまった瞬間があった。
 
Ts3g0024  左のようなPOPを見たのだ。

 出版社提供のPOPではないな、と思った。表紙の画像を配したりDTPでコラージュを作ったりという処理が見られない。手作りであることは確かだが、手書き風のものを出版社が提供しているということはありうるし、チェーン店なら一店舗で書いたものを印刷して配るなんてこともありそうだ。

 非礼を承知で触ってみた。と、縁取りの雪の部分に盛り上がりが。これは修正液や黒字に書くペンの盛り上がりだ。このお店で作ったオリジナルなPOPであろう。

 そう考えてから店内をぐるりと見渡すと、ところどころに手書きと認められるPOPがかなりの数である。いろんな書店様を見てきたが、こんなに手書きのものが豊富に掲示されているのは珍しい。店内全体に華やかでしかも優しい雰囲気を醸し出している。しかも見事なレタリングで装飾されてある。上に紹介したPOPは逸品で、レタリングの見事さはもちろん、本のイメージに沿いつつ細かく流星のイメージでホワイトをちりばめたところがいい。控えめながらもメッセージ性が強く、ただ「新刊」であることと「タイトル」と「著者の名前」しが書いていないのに訴求性の高い仕上がりになっている。他社の本なのに思わずカメラに収める承諾を得てしまったゆえんだ。

POPでここまでやれる書き手がいれば、書店業界も安泰。
人材でほかの書店に差をつける。それが目に見える形で実現している好例。(奥山)

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2008年5月17日 (土)

書店の風格/第5回 ジュンク堂書店新宿店

 2004年の新規開店時の新聞広告では一面に本棚がズラリと並び、ようく目をこらせば一冊の本のタイトルに「閣下ごめんなさい」の文字が・・・という、危ないユーモアが記憶に新しいジュンク堂書店新宿店は、紀伊國屋書店新宿本店の目の前にある。はっちゃけた広告の印象とは裏腹に、店内は粛々とした雰囲気だ。そしてこれは新宿店に限ったことではなくジュンク堂全店の特色だが、専門書の品揃えにこだわりを持った棚構成で、図書館を模している。棚にはベンチが横付けされており、ゆっくり本を選べるスペースが確保されている。読書家、専門家、本マニアにはたまらない空間だろう。

 とくに新宿店は開催されるフェアにも客層をずいぶんと反映していて、例えば今なら「岡田光司写真展」「菊地成孔ファッションフェア」「大谷能生・門松宏明の今ここで、フランス革命フェア」など、メディアや芸術に興味のある学生が好みそうなラインナップだ。さすがに隙がない。

 さて、小社より新刊『どこかで』が発売のはこびとなって1日目。うきうきしながらお店に入って、棚を探った。歴史、医学、語学と専門棚の並ぶ中、ライトエッセイのコーナーにありました! ケータイ小説、言わずもがなの大ヒット『恋空』や新刊『Bitter』に囲まれて『どこかで』。写真を撮りたいと申し出ると「どのような方でもご遠慮いただいています」粛然としたお答えが。うーん、ハイクオリティ。

 それにしてもこの「ライトエッセイ」の棚、異色である。一冊のみ棚挿が基本のジュンク堂において例外的に全て表紙を見せて陳列しているというのもあるが、「モテ本」の類から芸能本、ケータイ小説、ブログ本にいたるまでがずらっと並んでいるのだ。エンタメ系はノンジャンルということか。それとも、この棚から卒業していちジャンルとして飛び立てる日を、じっと待ちながらひしめき合っているのだろうか。そんなふうに考えると、この混沌が生き物のように思えてくる。本すら有機物にしてしまう、ジュンク堂の魔法に魅せられた。(奥山)

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2008年5月10日 (土)

書店の風格/第4回 TSUTAYAサンストリート店

 サンストリートは総武線亀戸駅のから徒歩3分、手頃な雑貨屋あり、玩具屋あり、スーパーあり、ファッションのお店あり、ファミレスありカフェありの総合エンターテインメント施設だ。ご近所の家族に嬉しいこの空間内にTSUTAYAサンストリート店はある。一階がレンタル専門、二階が書店になっている。
 二階へ向かう階段を上がると、まずは「小学一年生」ののぼりがある。そして目の前に広がるのは広い児童書のコーナーだ。お店に入ってすぐ目につくのが新刊書ではなく児童書。こういう本屋はあまり見たことがない。さらに進むとコミック、文庫と広がっていく。子連れのファミリーと若者が集う活発なお店だということが、棚の流れでわかる。
 さらに奥に進むと文芸書、続けてビジネス書のコーナー。最奥が雑誌で、売れ筋に絞った品揃えが清いほどに潔い。

 さて、出版も迫ってきましたということで、ここは行くでしょうケータイ小説のコーナーに。アピールしなきゃでしょう『どこかで』を。と、棚を探すとケータイ小説部門のベストテンが貼り出されており、一位から十位まで面で陳列されている。目に留まったのは丁寧に書き込まれた手書きPOP。つい読み込んでしまうこのPOPを作ったのはどんな人なのだろう? お声がけさせていただいたのは文芸書ご担当のモギさん。まだお若い、可愛らしい女性だ。

「POPは私が作成しています。出版社から送られてくるものもありますが、手書きのものを足すことで更に効果があるかと思います」

 なるほど、モギさんがPOP職人だったのだ。若い女性ならではのやさしい書き文字がケータイ小説の紹介にもよく合っている。それにしても、気になるのはランキング。これはTSUTAYA全体の売れ筋ランキングなんだろうけれど、こちらのお店では少し傾向が違っていたりするのでしょうか?

「いえ、やはり同じですね。表紙を見ると、結構ピンとくるものから売れていくんですよ」

 「ピンと来るものから売れていく」とは、さすがプロの書店員さん。ところで、こんなふうにランキング化されていると、お客さんにはたいへん有り難い情報になりますね。

「そうですね。やはりケータイ小説は、それぞれの内容が接近してますから、どれを買えばよいのか悩まれるお客様も多いようです。人気のあるものが明示されれば、読者にとっても選びやすくなります」

 見れば、総合ランキング、ビジネス書ランキングなどランキングとともに本が並んでいる棚がちらほら。ランキングを掲示する書店はたくさんあるけれど、スペースを空けてランキングに沿った本の配置までする書店というのは大規模でなければなかなかない。レンタルCDやDVDのコーナーで先だってランキング順に並べるという戦略をとってきたTSUTAYAならではの棚作り。あくまで人気にこだわった品揃えに期待は高まる。

 お忙しい中丁寧にお話をして下さったモギさん、本当にありがとうございました!

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2008年5月 3日 (土)

書店の風格/第3回 ときわ書房IY船橋店

 ときわ書房は本店をはじめ15店舗を構える、千葉県船橋市を中心に展開している書店だ。チェーン店とはいえ、それぞれの書店に特徴がある。例えば船橋駅南口から徒歩1分の本店は3階建て、老舗を思わせる風情を漂わせている。1階は雑誌、文芸、ビジネスなどの話題書が並ぶ。一般的な品揃えかと思いきや、サブカル系の品揃えにこだわりが見える。漫画論、風俗論、犯罪論などの本が並ぶ中、平積みされてある「たのしい中央線 vol.5」。ここは船橋では? 

51df0tuc3ol_sl500_aa240_  2階はさらにコミックとライトノベルが所狭しと置いてある。さらに3階はレンタルと、船橋の若者を支えるラインナップ。船橋にいながらにして中野にスリップしたかのような感覚がある。とにかく好みの本が多くて、2時間でも3時間でもいれる(仕事しろ!)。

 そんな「濃い」本店の裏、イトーヨカドー内にあるのがときわ書房IY船橋店だ。こちらはショッピングセンター内ということで、児童書中心の優しい優しいラインナップだ。児童書の棚の前にはスペースがゆったりとってあり、大きい絵本を開いてもそこかしこにぶつかる心配がない。なお、毎月第4日曜日にお話会が開かれたり折り紙教室があったりと、お母さんと子供に嬉しい空間が出来上がっている。

Ts3g0009  そして店内に珍しい案内版を見つけた。
 「アメつかみ大会!」
 本を買ったら整理券がもらえ、アメをたくさんわしづかみにして1位になったら図書券5000円分がもらえると書いてある。何とも豪華だ。
 「この大会は、ときわ書房全店でやってますよ」
 今回お話に応じて下さったのは、文芸書担当のKさん。今度出版されるケータイ小説『どこかで』のご案内にお邪魔したというのに、魅力的なイベントに惹かれてついついこちらが質問してしまった。話題をもとへ。こちらのお店では、ケータイ小説は売れていますか?

 「はい、やはり人気がありますよ。最近は小学生も、買っていきますね」

 「急激に売り上げが落ちてきている」といわれるケータイ小説だが、そんな事情は関係なく、売れるところでは売れているのだ。それにしても小学生とは恐れ入った。小学生でも『恋空』を読んで共感したり、泣いたりできるものか??

 「いえ、やはり小学生は恋愛ものよりも少しコメディータッチのものを好まれるようです」

 そう言ってKさんが例に出して下さったのが『妖精なアイツ』(スターツ出版)。出版社のサイトによると、自らを「妖精」と名乗る、ちょっとアヤしいイケメン高校生と主人公の女の子とのラブコメストーリーらしい。なるほど、売春だとか麻薬だとか自殺だとかいう過激な内容は出てこないようだ。コレなら親御さんも安心だろう。そして「まだ出たばかりですが」と紹介して下さったのが、ホラーものの『誓い』(双葉社)。同著者が書くホラーシリーズの最新作だ。

 「やっぱり、新刊が出たらそれから手に取る子が多いですね」

 若い感性は貪欲だ。次々と新しいものを求めていく。ということは、新しいものを出し続ければ、まだ勝ち目はあるということだろうか。
 おいとまを告げて、雑誌コーナーにチラリと目を遣った。ティーンズ向けの雑誌がズラリと並び、そして雑誌からとびだしてきたかのようなおしゃれ少女達が食い入るように雑誌を覗き込んでいる。彼女たちのフィーリングに溶け込んでいけたら、どんなに物作りはラクだろう。しかしそれはできない。できないながら、彼女たちの欲するものを敏感に感じ取って品物を取りそろえることができるお店もあるのだ。それは、若いお客様と日々接する中で生まれた書店員さんの感性が、自然と「売れるもの」に向かっているからではないか。そんなふうにも思えた。

 ご多忙にもかかわらずにこやかにお話を聞いて下さったKさん、本当にありがとうございました!(奥山)

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2008年4月19日 (土)

書店の風格/第1回 WonderGOO 守谷店

  「吉原 泡の園」もひと段落ついた土曜日連載。これからは新入社員・営業の奥山が、日ごろお世話になっている書店様訪問記を書かせていただきます。「訪問」なんて言葉を使うのもおこがましいくらい、不躾にただただお邪魔しているだけなんですが…アポイントもとらずに押しかけていって突然呼び止めて仕事の手を休ませて、ようするに「今度本を出すので置いてやってください」に帰結する下手な話を繰り出すしかない私なんかを2分でも3分でも相手してくださってありがとうございます。本当に感謝申し上げます。

 というわけで第1回目の感謝はWonderGOO 守谷店様に。
 WonderGOO 守谷店は茨城県守谷市にあるバイパス沿いの大型店舗。同じ店内にTSUTAYA、同じ敷地内にHARD OFF、HOUSE OFF、Right On、カフェなどがあるエンターテインメント空間だ。
 中高生が自転車で出入りするのが頻繁に見られ、若者の遊びスポットになっているもよう。
 店内に入ると手前右側に携帯コーナー、左側にコスメコーナーが見える。真ん中を貫いているのが本のコーナーで、さらに奥のほうにTSUTAYAがある。本のコーナーでは古本も扱っている。新刊本と棚分けはされてあるが、棚自体は同じ物を使っているので見た目は新しい本とそう変わらない。ただ値段が違うだけ、そんな印象を受ける。これなら古本に抵抗のある人も、手が伸びやすいかもしれない。

 ブラウジングしたあと、ケータイ小説の棚に向かった。ここWonderGOO 守谷店は、とくにケータイ小説の売れる大型店舗-そんな風に伺っていたから、一度拝見してみたかったのだ。
 そして、ありました。私たちの『あの頃』が。

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さらに三面で展開されたケータイ小説、およそ80タイトル! どの本も4~5冊程度で積み上げてあり、奥に配置された本も手に取りやすい。手書きのPOPもあり興味を惹かれるし、なにより通路が広く解放感にあふれている。ところどころに試し読みしながらくつろげるソファもある。ゆったり本を選べるこんな環境なら、どれだけ豊富に種類があっても自分だけの一冊をじっくり決められるだろう。まさに本好きにはたまらないお店だ。

 今や若者のアイテムとして市民権を得たかに見えるケータイ小説、今は何が来ているのか? 文芸書担当、Mさんにお話を伺った。

 「全体的に人気のある分野ではありますが、今、強いて言うとしたらコレですかね」
 そう言って示したのは『戦場のサレ妻』(主婦の友社)。上下巻に分かれており、いたってシンプルな真白装丁。たしかチラリと書評を読んだことはあった。が、浮気されてしまった妻(=サレ妻)の内部葛藤から始まり、家庭崩壊へと進む昼ドラっぽいつくりのはず。とすると、ええと、コレを買う年齢層って・・・・・・
 「もちろん、買うのは中高生よりも少し上の世代ですよ。夫婦の物語ですからね。女性だけでなく、男性も買われます。でも、ケータイ小説自体、実際は若者だけじゃなくて少し上の世代の人も買っていきますよ」
 Mさんによると、20代後半と思しき人々も買っていくという。さらには親子で買われるお客様もいるとか。今までどこのお店で聞いても「固定読者層がいる」「若者が買っていく」という答えしか返ってこず、人気があるにもかかわらず閉鎖的なイメージのあったケータイ小説が、このお店では10代女子以外にも売れるという。しかし改めて棚を見て合点がいった。ケータイ小説専用の棚、のように見えるが、ライトノベル風の小説もちらほらと置いてある。そして隣接するのは新刊・話題の本の棚だ。ケータイ小説をひとくくりにしないで、あえて他のジャンルや人気商品に馴染ませる--そんな棚作りが対象年齢の読者のみならず、様々な世代の人に本を手に取りやすくさせているのではないか。

 ケータイ小説=若者の読むモノ、という図式が、ここから変わっていくかもしれない。そう思わせる書店だった。

 棚だし、レジとお忙しい中、にこやかに応じて下さったMさん、本当にありがとうございました!(奥山晶子)

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