書店の風格

2012年1月16日 (月)

書店の風格/勝木書店本店

 北陸を拠点とし、首都圏にも展開している勝木書店の本店を訪問した。本店は福井駅から続く商店街内、西武福井の目の前にある。奥に長い設計のため間口からの印象よりもずっと広く、3階建てでジャンルも豊富だ。地域資料や政府刊行物も豊富に取り扱っていて、まさに福井の老舗一番店だ。
 お店に入ると、すぐ右側がレジ、左が雑誌のラック。ラックの一番目立つところに福井情報誌「月刊URARA」が置かれているのがいい。このとき買った10月号は、まだ「うらら姫23」候補100余名が可愛らしくエントリーされているところであった。すでに最終的に23名が選ばれたらしいが、どうもインターネットだけでは情報が集まらない。センターは一体誰なんだ。個人的には巫女姿の少女がとっても気になるのだが、最終選考まで残っているのだろうか。前記事を読んでしまったからには気になるが、東京には売っていない「月刊URARA」……。
 雑誌棚は奥まで続いていて、どん詰まりにエレベーターと階段がある。エレベーターで3階へのぼると、学習参考書やコミックのフロアであった。若い人にこそ高層まで登ってもらうお店づくりは本屋のキホンのキ。二階へ下りると、ビジネス書や人文書がずらっと並ぶ。アストラの新刊『悲しきアフガンの美しい人々』も棚差しになっていて、思わず感動した。全くの妄想だが、何だか歓迎されているような気分になった。
 そして注目すべきは宗教書のコーナー。福井には曹洞宗の大本山、永平寺があるうえに、浄土真宗の中興の祖、蓮如が布教をして歩いた場所。どんな棚構成になっているのか、とわくわくしながら拝見すると、なんと「正信偈」(浄土真宗の讃歌)と書かれた棚仕切が! 日本広しといえども、「正信偈」が一つのカテゴリーになって棚を形成している本屋さんは他にないだろうと思う。それほど需要があるということだろう。仏事をきちんと後世に伝え、継続していこうという地元の確かな意志が感じられる。
 店を出ると、隣の西武敷地内にあるベンチに群がり、いっしんに「ジャンプ」を読んでいる男の子3人組が目に入った。みんな漫画が、本が好きな子に育ちますように。(奥山)

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2011年5月 9日 (月)

書店の風格/TENDO八文字屋

 天童に大きい書店ができた。そう聞いてから何年が経過しただろう。今度故郷に帰った時に寄ってみよう、そう思いながらも、結局出かけることが出来たのが今回のゴールデンウィーク。遅咲きの桜を楽しみながら、車で向かった。

まず注目すべきはその外観である。奥行きがほとんどないくの字型をした店舗にもかかわらず、900坪と面積が広い。ドトールが隣接していてちょっとした軽食を楽しめるのは、カフェのある本店にならったのだろうか。同じ敷地内には道の駅天童温泉があり、ゆったりとした駐車場には宮城や福島など、隣県ナンバーの車が多かった。被災した方々だろうか。被害の少なかった山形で、桜を見ながらくつろいでいってほしい、と願った。玉こんにゃくをほおばる男の子の笑顔がまぶしい。

書店内に入ると、さすがに広い。入り口付近にはやはり、地震・原発本コーナー。弊社の『原発暴走列島』も、積んでいただいている。そして新刊コーナー、話題書コーナーと、入り口正面のレイアウトは一般的な書店と一緒だが、フロアを贅沢に使ったそのつくりはさすが。本棚が、まるでスポットライトを浴びた女優のようにひとつ、またひとつとゆとりを持って配置されている。背中合わせに本を選んでいてもけっしてぶつかることはない、その豊かさに感動した。

 棚構成も大胆で、入り口から見て左は一般書、右は児童書、とざっくりとしたつくり。これならどっちに進んでいったらいいのか一目瞭然だ。一般書のほうは奥に進むにつれ、小説、ビジネス、文系専門書、理系専門書と知識のグラデーションが濃くなってくる。壁際には文庫と新書がずらっと並び、ここにも本店の方針が引き継がれているのだろうと感じた。八文字屋本店も、壁際にぎっしりと並ぶ文庫・新書が見事で、いつも圧倒されるのだ。

 奥山の故郷には今、書店が一つもない。20年前は一店だけあったのだが、それがつぶれてから、何年も出店されない。閉店間際は本当に棚を見ているだけでも辛かった。店の半分が、成人向けビデオコーナーになり、子どもが寄りつかなくなってしまっていた。何となく自分も近寄りがたくなって、どうしても読みたい雑誌などは、近所のクリーニング店に予約をして買っていた。発売日の一週間後を目安に、買いに走ったものだ。店の奥の棚にそっと取り置きされてある漫画雑誌を見つけると、飛び上がるほど嬉しかった。そんなに昔の話ではない。平成の話だ。

 久々に家に帰ると、隣のガソリンスタンドも、真向かいの魚屋も、閉店して誰も住んでいなかった。2件隣の和菓子屋も閉店していた。家の庭には山菜が群生するようになったらしい。散歩に出ようとすると、熊が出るからと止められた。無理矢理出かけてみると、数年前まではなかった沢ができていた。そんな田舎で良かったら、誰か本屋を作ってほしい。ネット喫茶も。(奥山)

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2011年3月 4日 (金)

書店の風格/ちょっと渋めのブックカフェ? 文庫Cafeみねるばの森

 なじみ深い九段下を漫画屋事務所に向かって歩いていたら、なにやら新しくオシャレげなカフェーを見つけた。会社から歩いて3分の距離なのに、開店したことにまるで気が付かなかった。しかも「文庫Cafe」と銘打ってあるからには見逃せまい。勢い込んでお店に入った。
 いわゆるブックカフェかと思ったのは早とちりだったかもしれない。ここは「寺島文庫ビル」の1Fにあるから「文庫Cafe」という名前であるようだ。オープンは2010年10月。落ち着いた雰囲気のカフェで、「文庫」がぎっしりと並んでいるのかと思って入ったから少し拍子抜けしたものの、本棚はもちろんあり、新書や一般書、そして経済の専門書などが並んでいる。ビルの持ち主である寺島実郎氏の著書と、関連テーマの書籍が豊富だ。
 寺島文庫は寺島氏が自宅の蔵書3万冊を移した、「知の交流の場」。寺島氏監修の「寺島文庫リレー塾」では、佐藤優、佐高信、姜尚中など豪華な面々が講演を行っている。そんな知的な雰囲気を、ちょっとだけ覗くことができるのがこのカフェの魅力なのであろう。大型モニターも置いてあり、セミナーや勉強会に貸し出しされるとのこと。

 喫茶だけでなく食事もできるようになっていて、小腹がすいただけならアンデルセンのパンとコーヒーのリーズナブルなセットが嬉しい。何より、カフェ合戦ともいうべき九段下にあって、タバコの煙にむせることなく、席が窮屈で居心地が悪いということもなく、混みすぎてまったく打ち合わせの内容が聞こえないということもないカフェは珍しい。洗練された雰囲気の上、どんなに人が入ってもゆったりとくつろげるのは、きっとほどよい余裕がうれしい席のおかげ。営業時間が午後7時までと早いが、午前8時から開いているから、朝勉強にはちょうど良いかもしれない。階上に広がる3万冊のつぶやきがプレッシャーになり、集中できるかも。(奥山)

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2011年2月14日 (月)

書店の風格/読んで話して、揉んでもらって「猫企画」

 横浜は六角橋商店街にある、「猫企画」に行ってきた。字面からはお店屋さんだと思われないかもしれないけれど、れっきとした古本屋さんである。いや、タイ古式マッサージもやっているという。ん? マッサージ古本屋さん? 「胃痛のツボが痛かったらこの本がおすすめですよ」と、『吾輩は猫である』をパック売りしてくれるのだろうか。そう思って伺ってみたけれど、安心なことにそんな真似はやってなかった。
 奥様がタイ式マッサージをやって、旦那さんが古本屋を経営する画期的なお店で、古本フロアの中に炬燵が置いてある。思わず「炬燵に入っていってもいいですか?」と言ってしまいそうな、アットホームな雰囲気だ。
 まずはタイ式マッサージをやってもらった。記者はタイに行ったときに初体験したが何せ10年も前なので、途中から涙があふれてくるほど痛かったことしか覚えていない。しかし最近、冷えからか肩が痛かったので、思い切ってやって貰うことにした。決意を持って挑んだが、全然痛くない。ソフトタッチである。「日本人の方が、タイ人よりうまいって言われるほどなんですよ~」とにこやかに笑いながら施術してくれる奥さん。「それにしても全身が凝り固まってますね。ウチは遠いので通うのは難しいでしょうから、お近くで一週間に一度でもほぐして貰えると良いですよ」とアドバイスを受けた。そんなに凝ってるかなあと半信半疑だったが、それから3日後、腕が全く上がらなくなった。肩が痛かったのに加えて、30㎏程度の荷物を持って移動したのが徒になったらしい。若い頃は自分の体重よりも重いウェイトでトレーニングしていたこともあったのに。若き日の栄光を頭に描きながら、リハビリに通い始める羽目になった。プロの言うことは聞くものだ。
 久々に身体をぐーっと伸ばされ、リフレッシュしたところで、古本屋さんのエリアに降りた。

Pap_0003  ジャンルは、とにかく面白いもの全部、といった構成だ。漫画、個人で作っているミニコミ誌、評論や美術関係。仕入れ先を聞くと「向かいの薬局屋さんのご主人から譲り受けて」とか、入り口近くで売られているバナナチップやクッキーのアクセサリーについては「すごく奇抜な女性が作って持ってきてくれるんです、バナナやクッキーは本物なんですよ」とのことで、本当にアットホームなお店なんだなあとつくづく思う。それを炬燵が象徴している。「何も買わないでずうっと話をしていく人も多いんです」と、ふんわりした笑顔で奥様は語った。若い夫婦のやっているお店に、何となくお年寄りがやってきて、何となくお茶を飲んでいる。そんなほほえましい風景、もっともっと日本に増えてほしい。そう思わせる。

なんせ、以前営業していた横浜黄金町で閉店してから、そこのなじみだった人たちが「またやりなよ!」「ここなんてどう?」と紹介してもらった土地が、今営業している六角橋だというのだ。もともとその土地に住んでいたわけでもない若夫婦が、なじみのおじさんおばさんに土地を紹介してもらうなんて。「引きこもり世代」「無縁社会」なんて言葉はなんのその、若くたって「ロスジェネ世代」と言われたって、人柄がよくて常にオープンであれば、人に恵まれる。そんな確信を、改めて持つこととなった。Pap_0004_2

 仕事をするのに必要だった『絶対毎日末井日記』を買って店を出た。お店の中で人の暖かさに目いっぱい触れていたので、一人がなんだかとても寂しくなった。電車の中で読んだ本は、うーん、この末井さんて人をほどよく知っていれば面白いんだろうけど、なにせメディア音痴なもので……(奥山)

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2010年12月27日 (月)

書店の風格/ジュンク堂書店吉祥寺店

 「丸善&ジュンク堂 渋谷店」に引き続き、息もつけない早さで吉祥寺に新規出店を果たしたジュンク堂。今年10月、1100坪という大規模で「コピス吉祥寺」にオープンした。コピス吉祥寺は、吉祥寺伊勢丹跡にできた商業施設。オシャレビルな伊勢丹とはガラッと雰囲気が変わり、入っているテナントはかなりアットホームである。
 ショップ構成を見ると10~20代の女性をフンと蹴散らすような姿勢は見事で、「ユナイテッドアロウズ」などのセレクトショップがあるにはあるが、広い施設内に数える程度。その代わり幅を利かせているのが、キャラクターものやベビー用品、幼児教室などのキッズ専門店だ。そしてアウトドア用品店、呉服店、比較的価格層の高いインテリア用品店などもふんだんにあり、まさにパパママ子どものためのお店。そんなところに、ジュンク堂。割とインテリ層を狙う書店がいかにアットホームさを出せるかが鍵だ、と、テナントのある6階へ向かった。

 縫いぐるみやガチャガチャが所狭しと並ぶキャラクターショップを抜けてジュンク堂内へ入ると、最初に目に入ってきたのは意外や意外、海外小説の棚である。しかも真っ正面に面陳してあるのはウンベルト・エーコ。経済的にシビアなファミリー層を迎えるのには、いささか厳しい棚なのでは? うーん、でも海外小説は装丁に凝っていることが多いので、ついつい手に取ってしまう。よく見ればそんな美しい本ばかり、面だししているのであった。なんてにくい演出。
 そんな海外小説棚をなめるように眺めながら進んでいくと、そこは「本」にまつわる本の世界。さっきから勝負しまくりだけど…と不安になるが、その先はやっとエッセイ棚。恋愛エッセイ、芸能人のエッセイ、サブカルエッセイ、新書、文庫などの棚を抜けると、やっと雑誌の棚が現れた。と、そこにエスカレーターが。あ、そうか。ここから登ってくる人が多いのね。やっぱり入り口近くは雑誌と小説に限る。いやだ勘違い。でも一安心。

 雑誌コーナーをぐるりと回れば、実用書と児童書のコーナーがある。取材当日はクリスマスイブということもあり、絵本や小説を選ぶ親子がかなり多かった。レジでも「プレゼント包装をお待ちのお客様ー」と叫ぶ声が止まない。それを尻目に、7階へと進んだ。レジスターのすぐ脇がエスカレーターというのは、ジュンク堂独特の作りである気がする。そんな風に考えながら。

 7階は専門書のフロアであった。人口密度はぐっと少なくなる。ジュンク堂のおもしろさは、目当ての本を探しつつも目に入る専門外の本をついついめくってしまうところにあるのだから、一般書と専門書のフロアがハッキリ分かれてしまうのは少し残念な気がしなくもない。と思いながらも、やはり建築や化学雑誌の面白さは他に類を見ず、今日も見入ってしまった。文系にはない魅力の一端を嗅げた気がして得意になれるのがいい。

 おとなりに東急(紀伊國屋書店)、近くのサンロードには多くの読書家が愛を寄せるブックスルーエ。この環境下で、どのように差別化が図れるか。などと思いながら、内澤旬子氏の新刊『身体のいいなり』(サイン入り!)を買って店を出た。(奥山)

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2010年9月13日 (月)

書店の風格/MARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店

 渋谷・東急百貨店本店の7階に突如現れた大きなフロアを持つ書店。渋谷では最大級の広さというだけあって、淑女がおっかなびっくりウロウロしている姿をそこかしこに認めた。
 エレベーターを上るとそこに広がるのは意外や意外、本棚の羅列だ。普通、おススメの新刊はこれですよ、とか、雑誌コーナーが近いところにあったりとかするけれど、このお店は入った時点からズラっと本棚が並んでいる景色が目に入る。そして四方八方が棚、棚、棚の世界。

 気ままに歩いていると、ポツリポツリと陳列棚がランダムにある。ジャンルに関係なく棚ごとに特集が組まれていて、こっちの棚は著者特集、あっちの棚はテーマごとの特集…と遊びにあふれており、書店や図書館というよりは本の博物館に近い。博物館なら足の向くままに、楽しみながら見て歩いてよいはずだ。と、欲しい本を探すとかジャンルでブラウズするとかいった通常の本屋でするような行為を控え、流れに身を任せてみる。なるほど落ち着いて本を眺められる。

 気がついたら普段は全く興味がなくスル―する棚の前に立っていた。その奥は喫茶室だ。室、といっても何かで区切られているわけではない。本棚を越えるとおじさんが椅子に座ってコーヒーを飲んでいるのに遭遇し、おっと何だかすみません、ここはどんな空間ですか? と尋ねたくなってくる。まるでウサギを追いかけていたらお茶会に迷い込んでしまったアリスのよう。そんなメルヘンな例えが通用するか否かは、人によるだろうが。

 ホームタウンと都心では選書が全く違うように、地域が本屋をつくっていく。網羅的な品ぞろえのジュンク堂と、洋もの豊富な丸善が、渋谷という独特な文化があふれる街に触れてこれからどんな棚をつくっていくか、とても楽しみだ。(奥山)

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2009年11月16日 (月)

書店の風格/第39回 ブックスルーエ

 エキナカのワンフロアとか、バイパス沿いのどでかい敷地内じゃなくて、地元の商店街にしっかりした本屋さんがあったらとても嬉しい。なんだか、住んでてすごく得した気持ちになってしまう。

 そんな希望をさらりと叶えてくれるのが、吉祥寺はサンロード内にあるブックスルーエだ。田舎から東京に遊びに来た10代の頃、ここを「紀伊國屋書店吉祥寺店」だと思っていたものだ(山奥の人間にとっては、都会の大きな書店は皆「紀伊國屋書店」である。私だけか?)。

 ブックスルーエは、ただの地元密着型書店とは違う。おそば屋さん、喫茶店を経て平成3年に今の本屋が出来上がった。「ルーエ」という書店にしてはお洒落な名前は、喫茶店時代からのものを受け継いだという。しかし当時としても規模の大きなおそば屋さん、喫茶店だったであろう。それを書店にした三代目の敏腕に感激した。吉祥寺には、特にサンロードには飲み歩きしても何ヶ月かはかかるほどカフェが散在している。チェーン店から最近できた手作り風のものまで様々だ。それよりは、意外に大規模なお店が付近にない書店の方が住民としてもありがたい。クリエイターが集まる街・吉祥寺ならなおさらだ。

 お店は地下1階から3階までの4階構成。地下1階が専門書、1階が雑誌・話題書、2階が文庫や新書、3階がゲームやコミック。階を追うにつれ自分が若々しくなっていくような錯覚を覚える(逆に3階から散策して地下1階に下ると、なんとなく落ち着いてくる)。立地性が多分に発揮されているのは特に3階のコミック売場で、お店に贈られた作家直筆のサイン色紙が溢れんばかりに貼ってある。地元・吉祥寺を愛する作家からのプレゼントが多いのだ。お客は勿論のこと、クリエイターからも支えられ愛されて成り立っていることがわかる。もちろん品揃えも豊富で、規模に対して驚くほどのコミック量を誇っている。

 このお店のもうひとつの魅力は地下1階、品揃えの独自性と網羅性にある。一見矛盾するように思えるこの二つだが、巧みなディスプレイによって両立をかなえているのだ。
 専門書フロアに派手さはない。フェアや新商品をあからさまに押し出すようなことはなく、ゆかしく並べているように見えるが、もちろん工夫が盛り込まれており、見る人が見れば「なるほど」とうなされるつくりだ。
 平台に置く商品の一冊一冊が、面で陳列している一冊一冊が、今の世情をなにか1つは反映していて、全体的に見ると一枚の風刺画の如くになっている。かといって選書が偏っているかといえばそうではなく、話題の本は取りそろえてあるし、基本書も棚に挿してある。まさに網羅的、そして独自性のある棚作り。専門書の棚としては超一流であろう。

 ほかには、地元作家であるキン・シオタニさんのイラストが施されたブックカバーも有名。どこまでも、その土地に住む人達を大切にし、活かそうとする書店だ。このようなお店は、当然地元民も裏切らない。(奥山)

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2009年10月19日 (月)

書店の風格/第39回 啓文堂吉祥寺店

 京王関連線沿線ぞいにあるのが、啓文堂書店だ。
 だから、もしかしたら車をよく使う人には縁のない本屋さんかもしれない。さらに駅直結、たいていはインショップ系だから、奥ゆかしい印象を受ける。しかし、そんな啓文堂のなかでも群を抜いて目立つ店舗がある。吉祥寺店だ。

 駅隣のビルの地下に配置されながらも、圧倒的な存在感を誇る吉祥寺店。郊外のバイパス沿いにあるワンフロア店舗を思い出させるような広さが魅力的だ。駅側からアクセスすると文芸書コーナーに出るのだが、このスペースだけでも都内であれば一つの書店と見間違えてしまうだろう。実は奥にビジネス書や専門書のフロア、さらに奥には実用書や児童書のフロアがあり、こちらはビル母体であるユザワヤ側から一番近い。対象客の銅線を捉えた、美しいフロア展開である。

 この書店、中でも出色は児童書からはじまってヤングアダルト系の品揃えである。今はライトノベルに完全に置き換わった気もするヤングアダルトだが、外国文学の爽やかさを喜ぶ人々は今も健在だ。文芸書のコーナーに並ぶ重厚な上製本は、古きよき時代を匂わせる。新書ブームも実用書ブームも糞食らえの、書店精神が一心に叶えられているのだ。その棚の前に立つと、エキチカであることの騒々しさなど忘れてしまう。おっとりとページをめくりたくなるような、そんな空間が出来上がっていて、ついつい長々と立ち読みしてしまうのだ。

 良書を求めて、重厚なつくりの、丁寧な印象の本屋にだけ行っているとしたら、それはちょっと先入観が勝ちすぎる。一見、急いでいる人だらけのシンプルな駅中書店も、工夫は変わらない。京王線を使うときは、ぜひ立ち寄っていただきたい。(奥山)

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2009年8月17日 (月)

書店の風格/第38回 ヴィレッジバンガードマルイカレン店

 マルイヤング館がリニューアルして誕生した「マルイカレン」。その中に入った本屋さんは「ヴィレッジバンガード」。このビルのコンセプトを知らない人は、きっと意外に思うだろう。比較的小ぎれいなファッションビルである「マルイ」と、「遊べる本屋」を標榜するヴィレッジバンガードとでは、イメージが結びつかないからだ。
 「マルイカレン」のコンセプトは「ファストファッション」。ユニクロ、ローリーズファーム、ジャイロなど若者向けファッションの中でも比較的安価なブランドばかりを取りそろえているのだ。キッチュなお買い物を楽しめる空間に、ヴィレッジバンガードはしっくりとハマる。

 8階を陣取るヴィレッジバンガードは、お店の真ん中にエスカレーターが配置された個性的なつくりをしている。個性的なのはもちろんつくりだけではなく、商品の配置も面白い。ヴィレッジバンガードは本と雑貨のお店である。雑貨の中に本が混じっていても、またその逆があっても、基本的には本の棚と雑貨の棚が分かれているところが多い。しかしこのお店は徹底的に本と雑貨を混ぜ込み、あくまでテーマで商品配置を決めているのだ。
 エコグッズの棚にエコの本、お弁当箱や食器のそばに料理本があるのは当然だが、タバコや灰皿のコーナーに禁煙本があると多少「おっ」と思うだろう。ゴシックな洋服やウィッグのそばに夢野久作や澁澤龍彦、嶽本野ばらが置いてあると、その遊び心にうーんと唸ってしまう。極めつけはバスグッズの真ん中に一冊だけ置いてある『アンダーカレント』(豊田 徹也、講談社)だ。どうしてだろう? と一瞬首をかしげるが、そういえばアレは銭湯が舞台だった……なんて細かい!

 本だけを扱う棚ももちろんあるのだが、そこで目立つのは読書家のための本だ。まさに「本のための本による本棚」に徹しているのだ。若者向けには欠かせないコミック棚も工夫されてある。幅が狭くて使いにくい、エスカレーターの脇を有効活用しているのだ。通路になりがちな空間の壁一面に棚を設置して、コミックを並べてある。かなり通り抜けづらいので、もしかしたら立ち読み対策なのかもしれない。

 雑貨に紛れてそこかしこに散らばる本、本、本。「本は本棚に置いて売る」という概念が良い意味で崩壊している。これだったらお客も「本」ではなく「商品」あるいは「雑貨」を買う感覚で、手にとってくれるのではないだろうか。これこそ、本当の意味での「文脈棚」だ。もしかしたら今、日本で一番「本を売る気のある本屋」なのかもしれない、と思いながら店を出た。「姉さんも三十路っすね」「彼氏募集中!」と落書きされたバースディTシャツ(商品)にシンパシーを覚えつつ。(奥山)

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2009年7月20日 (月)

書店の風格/第37回 火星の庭

 去る6月26日、仙台の「Book! Book! Sendai 2009」に参加してきた。「Book! Book! Sendai」は、詩人の武田こうじさんが代表を務める「杜の都を本の都にする会」で催すイベント名。仙台で、「人生にとってかけがえのない本との出会いを伝え、考えていこう」と発足した会だ。なぜこの素敵なコンセプトをもつ会に接触できたかというと、アストラ刊『出版奈落の断末魔 エロ漫画の黄金時代』の著者、塩山芳明氏と、本の帯絵を描いてくださった漫画家、いがらしみきおさんのトークイベントがあったからだ。司会はベテラン・南陀楼綾繁さん。

 トークイベントではいがらしさんがユーモア溢れるトークを炸裂させたり、塩山氏が地元を撮影したビデオを流したり(自作ナレーション入り!)、最後にはじゃんけん大会の優勝者にいがらしさんのオリジナルTシャツをプレゼントしたりと、賑やかな内容。それについては「Book! Book! Sendai」の公式ホームページに詳しいので、読んでみてほしい。→http://bookbooksendai.com/modules/bulletin/index.php?page=article&storyid=43

 今回おすすめする書店は、「杜の都を本の都にする会」のメンバーで、このトークイベントの主催となって下さった「火星の庭」。
 古本をメインとしたブックカフェで、ランチもやっている洒落たお店である。

 仙台駅をアエル側に抜けて、駅前通りに出る。5分ほど歩くと大きな通りに出る。仙塩街道だ。信号を左に曲がって一分ほど歩くと、左手に看板ともオブジェともいえない、鉄製のお鍋のような茶色いものが立てかけてあり、「火星の庭」と書いてある。気づかずにそのまま通り過ぎて錦町公園まで来てしまったら、来た道をちょっと戻ろう。
 お店に入ると、右側がカフェスペース、左側に本棚がある。真ん中の仕切はディスプレイ棚が使われていて、チラシのスペースとして活用されている。
 本は丁寧な品揃えだ。特に美術系は豊富で、美しい画集やデザインの優れているものなどが店全体に鮮やかさをもたらしている。手作り風味溢れる飾り棚や紙芝居も雰囲気作りに一役買っている。文庫は人文社会系が魅力で、一般の書店では到底お目にかかれないレアものもところどころにあり、ついついじっくり見てしまう。店主自身の蒐集家ぶりが滲み出ている棚であった。

 カフェではお茶やお菓子はもちろん、ランチメニューもあり、豆の沢山入ったココナツカレーがとても美味しかった。ライスが玄米なのも、何だか優しい。チキンなど肉類が入っているわけではないのに満足感はばっちりで、お得な気分を味わえる。女性にはたまらないメニューだと思えた。

 客層はやはり女性が中心か、と思いきや女性あり男性あり、団体客ありお一人様ありと様々な層をキャッチしている。一人新聞と古本を傍らにコーヒーを飲むおじさまの隣で、女子大生とおぼしき4人組が笑いあってお茶していたりする。選書にこだわりがあってカフェメニューも凝っていて、要するに割と個性の強い店のはずなのだが誰でも入れる気軽さがあるのは、店主のマジックかそれとも仙台マジックか。東京にも面白いブックカフェはあるけれど、客層が限定されてたり常連さんのたまり場になったり、割と内輪で成り立っているところがある。その善し悪しを問うつもりはない。でもブックカフェを特別視しないで、エキチカだからとかカレーが美味しいからとかゆっくり新聞が読めるからという理由で人が集まってきたら、きっとそこで読書の世界を変えるような動きがおこるような気がする。そんな妄想が揺り起こされる本屋さんだった。(奥山)

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