「初老男の旧式映画館徘徊~シネコンに背を向けて~」第11回/「高崎電気館」バブル感覚が抜けない高崎市役所貴族役人様の天下り探しの一環か?
痛快な柳下毅一郎の『皆殺し映画通信』(カンゼン)シリーズ2冊によれば、地方自治体に出資させては、意味不明のトンデモ映画を制作する会社が、ボロい商売を全国で繰り広げていると。緑ときれいな空気、豊富な空家しかないド田舎の無責任役人が(住民の2~3倍の年収を得てる特権階級だが)、ヨイショとポンポン出される3流役者の名前に、一喜一憂する浅ましい姿が眼に浮かぶ。ただ、彼等がそれほど純情とも思えない。無駄遣い予算枠や縄張りの拡大、将来的には新天下り先確保のために、”東京の映像関係者”にだまされた振りをしているのでは? でなければ、全国各地で愚劣なサンピン映画祭や上映会が、税金を遣ってこうも急増するはずがない。まともな映画祭は、どこも民間の映画馬鹿が主導権を。しかし、北朝鮮バッシングに便乗、裏金警察官僚がパチンコ業界を天下り先に占拠したような野望を、密かに抱いてる役人も居るはずだ。ダムや体育館より、文化の方がはるかに予算が付く時代だし。
人混み嫌いで地元ながら行った試しのない、高崎映画祭はどうなのか? 新聞の群馬版で見る限り、東京の各種映画祭のミニチュア版のようで、まったく魅力を感じない。東京から日帰り出来るせいか、有名俳優・監督は多数参加するようだが。同映画祭の運営を主導した故・茂木正男以下の力で、今の「シネマテークたかさき」が誕生した経緯が。現在恩恵にこうむってる身としては、悪口は吐きたくないけどね(茂木は同館の初代支配人に就任、辣腕を振るったがガンで08年に死去)。以前本欄でも触れたが、映画祭の収益で館の赤字を埋めてるとの噂も。老いぼれには映画祭などどうでもいいが(期間中に館の上映本数が減るのはむかつく)。その「シネマテークたかさき」で、長い間閉館していた近所の映画館、「高崎電気館」のチラシを最近良く見る。2月に”男はつらいよ”シリーズを2本上映(1000円)。3月は『ここに泉あり』(監督・今井正・’55)を無料で。岸恵子と岡田英次が共演、脇を群馬出身の小林桂樹が固めた後者は、高崎が舞台だから納得が行く(群馬交響楽団が主役だし)。けど、何で寅さんなの? しかも注意書きが凄い。”高崎電気館はただいま空調設備が完備されていません。暖かい服装でおでかけください”。赤城降ろしが吹き荒れる2月の群馬では、これは完璧な拷問。膝掛けを貸し出してる、暖房完備の「シネマテークたかさき」でさえ、2時間の映画を観終えるには、尿意を抑えるのが大変なのだ。
この季節、緊急性が全然感じられない、予算消化のための傍迷惑な道路工事が、方々で騒音をまき散らしている。それを連想させる、高崎市主催の極寒の寅さん上映会ではある。無論、くも膜下出血崩れの筆者が、老人殺しの暴挙に銭まで払って参加するはずはない。ただ高血圧の寅さんファンが、何人か脳溢血を起こさなかったかと今でも心配でならない。その「高崎電気館」、筆者が帰郷した約20年前にはまだ営業中。『12モンキーズ』『マーズ・アタック!』『L.A.コンフィデンシャル』他をここで(邦画は松竹系を上映)。従業員は無愛想、隅々まで不潔で冬はシンシンと良く冷え込む映画館だった(一応冷暖房はあったはずだが…)。「高崎オリオン」や「高崎東映」も似たレベルなので、特に腹は立たなかった。しかし映写技術がデタラメなのには我慢ならなかった。『L.A.~』上映中に何度目かの中断が起きた際は、温厚な筆者をして、「糞馬鹿野郎! 封切り料金取ってふざけてんじゃねえ!」と怒鳴り散らす醜態をつい。周囲のカップルの怯えた表情を思い出すと今でも赤面。
地方都市の例外ではなく、周囲は1級のシャッター通り地帯。空家を何とかしようとの試みは、全国各地で模索されている。高崎市役所も、高崎映画祭や「シネマテークたかさき」の長年の苦労を参考に、「高崎電気館」の再開、そして映画以外にも活用出来る公共施設にと乗り出したのだろう(高潔な高崎市の役人が、天下り先の拡大なる邪念を抱くはずがない)。なら素人が見よう見まねで映画館運営に手など出さず、「シネマテークたかさき」に直接資金援助、地元ロケ映画の上映枠を確保すれば?(既に冷暖房完備だし)。高崎市は、西口駅前施設や高崎競馬場跡地をバブル感覚で計画、総スカンを喰っている。汚名挽回なるのに。メール便を開発したヤマト運輸をいじめ抜き、遂に廃止に追い込んだ日本の運輸・郵政官僚。天下りを受け入れなかったから復讐されたのだ。まったく興味はないが、自立運営されて来た高崎映画祭が、愚かな役人に牛耳られる日が永遠に来ない事を祈ろう。(塩山芳明)
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