「初老男の旧式映画館徘徊~シネコンに背を向けて~」第4回/安い!親切!清潔!「早稲田松竹」の唯一の泣き所とは?
体験した映画の印象で、映画館のイメージ自体が左右される場合がある。「早稲田松竹」(定員153人)は長い間、筆者には陰気映画館の筆頭だった。学生時代に観た『沈黙』(監督・イングマール・ベルイマン、'53スウェーデン)の、陰陰滅滅たる夜のムードが払拭出来なかった。昔のオンボロ建物で観たせいもあるが、シャレて明るい今の造りになっても、イメージ一新とはならなかった。“蛍光灯”が不要になったのは、同館が盛んにタルコフスキー作品を上映するようになって以降。青い水のイメージが、陰気な夜のムードを次第に消して行った(誰もが抱く印象は同じらしく、タルコフスキー映画のポスターやチラシは、やたらとアイ版が溢れ返っている)。
ベルイマンやタルコフスキーの名前を出すと、名画座の保守本流と言うか、ド退屈な「岩波ホール」の2番館と化した、「ギンレイホール」他を連想する人も居よう(耳学問でしか名画座の存在を知らない、田舎映画マニアは特に)。大きな間違いだ。同館はそんなチャチな映画館ではない。例えば今年の7月。中盤までは「ギンレイホール」っぽい新作洋画の2本立てだが(例えば3週目は、『ダラス・バイヤーズクラブ』&『アメリカン・ハッスル』)、20日以降は鈴木清順監督特集を2週連続で。間にテオ・アンゲロプロスを挟んで(不眠症の人は必ずアンゲロプロス映画に挑戦すべし)、今度は岡本喜八と来る。“分裂症名画座”。尊敬の念を込めて筆者は、「早稲田松竹」をそう呼んでいる。
またも銭金の話題で恐縮だが(心にもない謙遜)、入場料も実に良心的。老人割り引きはたったの900円!(に……2本立てなのに)。大人一般1300円。学生1100円。ラスト1本800円。1本で1200円強奪する「神保町シアター」が、かつての有楽町映画街の巨大豪華劇場、「日比谷劇場」や「スカラ座」に見えて来る(入場料のみだが……)。更に従業員の接客態度は、男女を問わずに非の打ち所なし。比べるのもはばかられるが、「丸の内東映」(今の館名は絶対口にしたくない)の女性従業員など、やさぐれた女壺振りにしか見えない。トイレも清潔だし、悲惨な映写状態で見物させられた記憶もない。チラシラックも新作・特集上映・映画館別・芝居他と見易く整理。「神保町シアター」「ギンレイホール」「岩波ホール」他と違い、ピンク映画専門館「上野オークラ」のチラシも、差別せずに並べてる点も立派(「新文芸坐」「新橋ロマン」もだが)。
館の敷地構造のせいか、画面に向かって右側のシートに座ると、スクリーンが平行四辺形ぽく見える。気になる人は左寄りシートへどうぞ。ただ館内に傾斜がないから、左側だと前の客の頭が時には邪魔だ(殴るのはなるべく避けたい)。いずれにせよ、900円しか払わない白髪頭には大した問題じゃない。ただこの世に楽園がないように、「早稲田松竹」にも泣き所はある(比喩にかなり無理あり)。しかも、これは館側がいくら努力しようが、未来永劫容易には解決不可能かも。
客の質が悪すぎるのだ。懐かしの「浅草新劇」や「新宿昭和館」のように、悪臭老人が喫煙や放屁を繰り返したり(同性の股間を狙ったり)、酔ってゲロを吐き散らす訳ではない。逆で、客の大半は流行のファッションに身を包んだ、こぎれいな若者。多くが学生や専門学校生と思われるが、この連中のマナーが最低最悪馬鹿丸出し(お前の母ちゃんデーベーソー!)。
上映中に携帯を光らせる愚か者発生率は、都内映画館中でもナンバー1。「新橋ロマン」や「新文芸坐」でも比較的多く見掛けるが、注意すればすぐに止める。「早稲田松竹」の携帯使用客が救えないのは、妙に反抗的な点。生来謙虚な筆者。驚かれるかも知れないが、注意する際も「このド腐れブス、携帯消さねえとオマンコガタガタ言わしたるど!」などとは絶対に口にしない(言いたいのは山々だが)。「まぶしいですよ」この一言。なのにすぐ切らず、1秒でも長く己のプライドを保持しようと必死(結局は止めるのに)。安倍首相級の携帯白痴客は、男女を問わずにここの特産物。
過保護で社会経験も少ない彼等は、親や家族に注意された体験自体が少ないのだ(ほとんどが田舎者。東京先住者ヘの対抗心も?)。ましてや相手は、見知らぬ白髪頭のアバタ爺さん。世界で一番大切な自らの誇りを、あくまで捨てまいとけなげに脂汗を。けど、「うるせえ糞ジジイ!白髪頭の生皮剥いだるぞ!!」と、居直るような度胸もない。将来は立派な兵隊さんや従軍看護婦になって、安倍ファミリーに忠義を尽してくれるでしょう。気分直しには、前の道を隔てた中華の「秀永」がお勧め。値段は特に安くはないが、量が多くて味も奥深い。清潔で明るい店内は、どこか「早稲田松竹」を思わせるし。ただ少々時間がかかるので、急いでる場合は並びの「小諸そば」で我慢を。(塩山芳明)
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