「初老男の旧式映画館徘徊~シネコンに背を向けて~」 第2回/年寄りはしびんが欲しくなる「シネマテークたかさき」
高崎は群馬県で一番の商業都市で交通の要所。筆者が富岡市内の実家裏庭にマイホームを建て帰省した93年当時は、映画館も数多かった。「高崎東宝」「高崎プラザ」「高崎スカラ座」(以上東宝会館内)、「高崎電気館」(2館)、「高崎オリオン」(同)、「高崎東映」、「高崎ピカデリー」(ここと、薔薇族映画の「みゆき座」は既に閉館してたかも)。旧繁華街に集中し既に苦戦してたが、駅反対側にシネコン「109シネマズ高崎」がオープンする前後からバタバタ閉館、遂には全滅。コレじゃお仕着せ映画しか観られなくなると、87年から高崎映画祭を主催して来た、茂木正男(08年、舌ガンで死去。享年61歳)らが中心になり、04年に銀行跡ビルに開館したのが、「シネマテークたかさき」(NPO法人)。
最初は58席の1スクリーンのみだったが、07年に64席の2スクリーン目が2階に開場。時間をずらして4~5種類の映画を毎日上映(基本的に週代わり)、県内の映画好きには既に欠かせない存在だ。ただこの手の個性派映画館、画面がちっこい割には入場料が世間並という弱点が。本館も例外ではないが(当日一般1700円。100円のみ安い)、メンバーズ会員になれば大幅割り引きに。年会費は11000円と高いが、それと同額の10回分が無料招待になり、毎回の料金も1100円に。その他にも各種特典が。筆者の場合、もう老人割り引きの対象だが(1000円)、更にメンバーズ手帳で10本目ごとに無料ご招待に。既に今年も2冊目が終わる。5カ月間で19本観たヘビーユーザーだ(エッヘン!)。
都内名画座で言えば、「新文芸坐」並にかゆい所に手が届く各種配慮。余り長所ばかり並べると、単なる上州自慢に堕すので欠点もあえて。映写状態はいい。ピンボケや画面がズレた経験もない。1度デヴィット・リンチ監督の『インランド・エンパイア』('06)を、メチャ酷いプリントで上映され呆然。まだ支配人だった森木正男が、同館ブログで謝罪してた記憶が。田舎の映画館を舐めた配給会社(角川映画)が、オンボロプリントを回したのだと当時は推測。その件は既に忘却の彼方だが、画面のマスク部分が真っ黒でないのは落ち着かない。縦か横のいずれかが、やや薄くてスミ網状に見える。こういう映画館は時々あるが、画面はキッチリ四方をスミベタで囲って欲しい(この面では前回の「岩波ホール」、「フィルムセンター」は理想的)。ダブルトーンだと、自ら周囲を極太黒マジックで潰したい衝動にかられる。
もひとつ。赤城下ろしの本家本元だけに、冬場はとにかく空っ風で冷える(群馬は山間部以外は都内より雪は少ない)。暖房は勿論効いてるし、豪華な膝掛けも貸し出してる。けど北極海の巨大流氷にマッチ売りの少女。どんなに寒くても、東京の映画館では途中でトイレに立たない俺が、冬場当地では90分間の映画も我慢出来ない。元銀行だけに壁が厚く、余計にシンシン冷えるのか? 畳を敷く訳にも行かないし、コレばかりはただ耐えるしかなさそう。トイレの近い年寄りにはきついが……。
地域の気候はどうにもならないが、番組面にも不満が。飯田橋の「ギンレイホール」程ではないが、「岩波ホール」系スカシ芸術映画の上映本数が過剰。楽聖物を中心に音楽映画が多いのは、「高崎音楽センター」があり、かつて映画『ここに泉あり』(監督・今井正・'55中央映画)の舞台になった街の映画館として納得が行くが。現支配人が女性(志尾睦子)である事とは無関係と思うが、不良性感度の高いエログロ作品も大切に(早く井口昇監督特集を!)。東京に近いせいか映画監督も頻繁に来館。その度にある程度は桜を揃えねばならない、関係者の隠れた苦労は分かる。しかしいくら美人監督だからと言って、西川美和来館の際のように、特別料金を徴集するのはアンフェア。書店でのサイン会で、自著を特別料金にする物書きは絶対にいない(出す方ももらう方も非常識)。
運営が大変なのは良く分かる。たった1人で鑑賞した経験が一番多いのが実はここ。ドキュメンタリーは特にそういう場合が多い。ドラマも含めれば、10回近く単独鑑賞の経験が(エッへン!)。噂では今も毎年開催されている、高崎映画祭の収益も投入して頑張ってると。好きな事して飯を喰うのは困難が当然で、一切同情しないが、番組が映画雑誌で言うと『キネマ旬報』に片寄り過ぎ。『映画秘宝』味を加味すれば、筆者のわびしい単独鑑賞の機会もぐっと減ると思うが。(塩山芳明)
★付録★「シネマテークたかさき」で1月から5月末までに見物した19本の作品リスト。『もうひとりの息子』『ニューヨークバーグドルフ 魔法のデパート』『熱波』『ポルトガル、ここに誕生す』『危険なプロット』『眠れる美女』『もらとりあむタマ子』『マイ・マザー』『コールド・ウォ- 香港警察二つの正義』『キューティ&ボクサー』『ダラスバイヤーズクラブ』『ハンナ・アーレント』『ほとりの朔子』『キラーズ』『世界一美しい本を作る男』『友だちと歩こう』『ネブラスカ』『ある精肉店のはなし』『バックコーラスの歌姫たち』
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