寺門興隆を読む/2012年12月号
早いもので今年もあと1ヶ月。というお決まりのセリフを吐けるのはあと何年だろうか、などと考えていると切なくなる。早く死んでもつまらないが長生きもまた地獄であることを考えると、結局どっちでもいいように思えてくるから不思議だ。そんな思いにふける年末、さて今月号のみだし。
放射能差別/日中摩擦寺でも被害/離壇紛争/境内地を奪った国/宗教奨学金全調査/遺言トラブル対策/二年参り/白衣の洗い方/魚の弔い/女性住職奮闘/老いの悩み
『図書館戦争』と張るくらい、長閑な風景が一気に物騒となる「離壇紛争」。離壇は個人の自由ではと思いきや、何と檀家の半数が菩提寺を捨てるという事態になっているお寺があるという。ことの発端は、檀家の7割が反対していたにもかかわらず先代の息子がお寺を継いでしまったこと。そんなに嫌われる住職って一体どういう人物なのかとページをめくっていくと、カネと女のトラブルが総代はじめ檀家にまで知れ渡ったことで一気に信用を失ったらしい。しかも元々地域で一番安いと評判だったお布施の値段をどんどん上げ、葬儀のさいには送り迎えや料理を勝手に発注。そりゃあ嫌われて当然だ。信頼は無料で築ける最高の財産だ。そんなにカネにうるさい人物がなぜ手放すのか。そうか、これもお布施の一つのかたちなのかもしれない。
そしてもう一つお金の話なのが「宗教奨学金全調査」。「宗教奨学金」というものがあることを初めて知った。宗派によってその対応はバラバラで、宗門校に成績優秀な学生に授与するため年額で与えるところあり、父親を亡くした後継者に年間で与えるところあり、大学院生など研究者のみを対象としているところあり。調査の結果、年間予算の一番多かった宗派は…? そんな見方もおもしろい。
個人的に一番気になるのが「魚の弔い」。これだけを見て思い当たるのは金子みすずの詩「大漁」だが、記事冒頭にもやはり引用されていた。
《海のなかでは何萬の 鰯のとむらいするだろう》
魚の供養塔は全国何箇所もある。この記事でも日本の捕鯨発祥地、和歌山県太地町の「くじら供養碑」などが紹介されている。そういった有名なものに限らなくても、漁村の社寺の中にぽつんとある供養塔を見た人は多いだろう。鯨、マグロ、鯉、鮭など、いずれもその土地で大量にとれる魚類を祀ってあることが多い。執筆者の田口理恵東海大学准教授によると、個別に祀られた生きものはなんと70種類にも上るという。スーパーに並ぶ切り身の状態しか知らない消費者は忘れがちだが、それは命あるものが息絶えた姿であることに間違いない。漁業をなりわいとする人達がそれらに手を合わせるのも、自然なことなのである。
年末には恒例の「みだしアワード」を行う予定。整理が悪いから12号をひとところに揃えるのが一番おっくう。(小松)
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