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2012年9月 7日 (金)

『醤油鯛』への道(中編)

前回の続き。

ひとまず代表的な(?)醤油鯛を4つイラストレーターに仕上げてもらった。透明な物体に彫り込まれたささやかな点と線、意匠なのか? 傷なのか? ときに判断を間違えては著者に指摘される。そして我々には見えないものが著者には見えている。「ここの接着面は閉じてあるはずです」「ウロコのデコボコが違う」繰り出される専門家ならではの厳しい指摘についていくのが精一杯。なんとか4種を作り終えた頃、これからの作業のことを思って途方に暮れていた。自分には絵心が全くない、わけではない。と思っている。でもなんだか、ソレとコレとは違うぞという気がしていた。はっきり言おう。この作業は頭が良くないとできないのだ。そして、良くはない。

仕事の合間とはいえ2日にひとつを仕上げるという超絶なノロさの中、良いタイミングでモデル撮影が終了した。ここから先は醤油鯛の写真を下に敷いてなぞればよいのだ。どうしても見えない部分だけ、現物で確認しよう。
しかしそんなズルはすぐに見透かされる。立体的に把握していないと線図は正確に描けない。特に背鰭や腹鰭といった地に接する部分が曖昧になってしまうのだ。すぐに現物とにらめっこの日々に舞い戻った。ベジェ曲線の取り扱いに苦戦しながらも、そろそろCAD製図者として第二の人生を踏み出せるかもと錯覚し始めたとき、著者から原稿が届いた。

その原稿は今までの苦労を全て浄土へと吹き飛ばしてくれるような、素晴らしいものだった。コレクターの、しばしば前傾になりがちな表現が全く見られない落ち着いた文体。理系の研究書と見せかけ、内容は至極哲学的。堅い文章が時々緩むのがセクシーだ。才色兼備な原稿を楽しむこと2時間、最後の章にたどり着いた。
「図鑑の部」説明。
そこには各醤油鯛のエラやヒレの形状、口の形までが丁寧に分類され、文章に落とし込まれていた。
これをそのままそっくり、線図に写せばいいではないか!
一瞬頭が華やいだが、私の線図に求められているのは現物の模写である。現物を無視して著者の書いた分類情報に沿って描いていく、それは本末転倒であり、この本への冒瀆だ。せっかく鎮座してもらっている醤油鯛たちにも申し訳ない。
よし決めた。この原稿は読まない。

すると困ったことに、編集者が原稿を読むことができないという事態が発生した。(つづく)(奥山)

『醤油鯛』9月10日発売!

■沢田佳久オフィシャルサイト

http://www.gao.ne.jp/~tgs1698/ys/main.htm

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