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2012年6月 7日 (木)

『終活ファッションショー』――終活は、終わってはならない

「人生の終わりを見つめ準備する活動」略して「終活」。「終活ファッションショー」とは、自分の死に際して着たい服、いわば希望の死に装束を披露する催し物だ。この本の主人公である司法書士の市絵が、お年寄りたちの遺言相談にのるうちに思いついた企画である。

著者が主催する終活ファッションショーを、私は観に行ったことがある。

著者の安田依央氏は、主人公と同じ司法書士。そして「終活」を考えるセミナーなどを行っており、今回の主人公・市絵と、かなり重なるところがある。さらに「終活ファッションショー」を企画するところまで同じ、とくれば、「もしかしてあのファッションショーの舞台裏が読めるのかも?」とドキドキしてしまう。

2年前に開催された実際のファッションショーでは、チアリーダーがコスチュームで、僧侶が作務衣で、老婦人が真っ白なドレスでと、様々な衣装で登場した。パフォーマンスのあとに発表する「大切な人に伝えたい一言」は、身のまわりの人への感謝に溢れ、感動を呼んだ。

何もかもが素晴らしいショーだったが、そこに行き着くまでにはたくさんの困難と、企画者・参加者ともに様々な葛藤があったことを、この本は教えてくれた。物語にはチアリーダーも僧侶も出てこず、完全なフィクションとして描かれているにせよ。

特に、参加を希望しながらもショーを否定するかのような言動を繰り返す荒川という婦人の辛辣な言葉が、自問自答しながらショーの企画を進めてゆく主人公の影とも思える。所々にユーモア溢れる文章を挟み、個性ある登場人物たちは基本的にのほほんとしているのに、物語全体に流れるピシリとした緊迫感。それはこの問題に対する著者の真摯さを物語っている。

本を読んでいるうちに思い出した。体力仕事に疲れ果て葬儀社をやめた頃の私は、「明日死んでも悔いの残らぬように」と思って生きていた。そもそもしたいことがあまりないので、それは簡単に成就した。しかしそれからがつまらない。新しいことを始めず、気ままに暮らす日々はただ死ぬのを待つのみだった。
それから数年後。上京し、フラフラと好きなことばかりしていたある日、「今日だけは死ねない」と唐突に思った。それは自分が脚本を手がけた演劇の初日前夜で、「夏もサイレンナイ」という大変バカバカしいタイトルと内容の喜劇なのだが、幸福なことにみんなに愛され、演出家の手によって魂を吹き込まれていた。あとは動かすだけなのである。
それを見られないのは嫌だ。このとき初めて、「無念じゃあー」と化けて出る幽霊の気持ちがわかる気がした。

「今日死んでも悔いはない」と思うことと「今日だけは死ねない」と思うことのどちらが充実した状態なのかは、いまだにわからない。しかし少なくとも私には、後者の方が幸せであったことは間違いない。

「終活」は、思い残すことなく逝くための準備だ。ということは、その手前に「思い残すこと」があらねばならない。伝えたいこと、会っておきたい人、託したい気持ち。それがたくさんあることこそが、幸せな状態なのかもしれない。
終活は、終えてはならない。
そんな温かな矛盾に、この本は気づかせてくれた。(おもだか大学:「フリースタイルなお別れざっし 葬」発行人)

■『就活ファッションショー』安田依央、集英社/四六判264P/¥1,470(税込)

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コメント

「シュウカツ」は自然の流れに沿ってます。

しかもそこにスポットを当てた安田依央さんは
本当に素晴らしいですね。
読み物としても、考えるネタとしても、最高の
作品でした。

やっぱり安田さんが素晴らしいんですよね・・・。
このままの勢いでさらに今後の作品も出して
いけるか、気になったんですが、今後も大丈夫
みたいですね。
http://www.birthday-energy.co.jp

「たぶらかし」も、気付いたらドラマになって、
しかも人気、あるみたいです。
終活ファッションショーも、さらに認知度を
上げるために、ドラマ仕立ても悪くないかと。

投稿: 白浪 | 2012年6月23日 (土) 17時50分

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