元サイテイ車掌の田舎日記/春の再会
○月×日
んだ。
春の知らせだった。
昔の同僚(といっても歳は下だが)が遊びに来てくれた。
年賀状以外、もう10年近く会っていなかったが、10日ほど前に、突然「連休に行きたい」というハガキが届いた。おれは「楽しみだな、ゴールデンウィーク待ってるぞ」と返事を送ったら、なんと、このお彼岸の連休なのだという。
おいおいあと3日じゃないかと、おれは嬉しさ倍増で、当日は酒田駅に出迎えに行った。「歓迎」ののぼり旗でも用意したかったが、そんなものは勿論ない。おれは駅の隅っこでワクワクしながら待っていると、定刻に、彼は改札口から颯爽と現われた。髪こそ薄くなってはいるものの、ニコニコとした笑顔は昔のままでどこも変わってはいない。
大きな白い手提袋にはダイヤ改正後の新しいJR時刻表や昨年の震災直前にデビューした東北新幹線「はやぶさ」の記念バスタオル、各種イベントの粗品など、重いのに山程のお土産を持って来てくれた。
「気持ちは若いんだけど、身体がついていかなくなった……」と、それはおれも同じだが、彼は国鉄分割民営化当時に早々と国労を脱退して、おれとは全く別の道を歩んで来た。
あの頃は仲間からは「裏切り者」だのとさんざん非難され、彼にとっての職場は毎日が針のむしろだったろう。誰にもいえない辛い思いを一身に背負いながら、彼は会社のいわれるままに黙々と働いていた。暫くして現場からは離れて、あちこちの職場を転々とさせられていた。ふと思い出したようにお互いに連絡を取り合っては、何年かに一度、二人で飲んだりしていたが、だんだんと疎遠になっていったのは仕方がないことだった。
彼は本当に穏やかで大人しい性格だから現場のリーダーなどには向かない気もするが、一つ一つ出世していき、この度見事駅長試験に合格したのだという。
素晴らしいことだ。驚いたが、当たり前だとも思った。彼ならいつかはやってくれるだろうという気持があった。
退職まであと数年だが、いつの日か東京のどこかの駅で真新しい駅長の帽子をかぶった彼の輝やかしい姿が目に浮かんだ。ニコニコとしたその笑顔が眩しく思えたよ。
おめでとう。春だな。本当に良かった。春分の日は雪がちらつき今朝はまた吹雪いている。でも春は必ずやって来る。
よく来てくれたな。また来いよ。(斎藤典雄)
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