「ハーモニー」で豊かな出会いがありました(前編)
以前に書評で紹介した「幻聴妄想かるた」が生まれた場所、精神障害者共同作業所「ハーモニー」に伺った。施設長である新澤さんの「週1のミーティングに、ぜひ遊びに来て下さい」というお言葉に甘えたのだ。
東急世田谷線上町駅から歩いて1分足らず。飲食店だったフロアを改装して作業場に、カウンターバーだったフロアを食堂にしたという、2つの部屋からなる「ハーモニー」はとても明るい場所だった。スタッフの方々の居心地よい空間作りのたまものであることはいうまでもないが、実際に「明るい」のだ。バーだった食堂部分は窓が多く、凹凸窓ではあるが採光には申し分ない。3月上旬のささやかな太陽光でも日中は蛍光灯いらずで、ただいるだけでも気持ちや身体が健康になりそうな空間だ。
その食堂に、徐々に利用者が集まってきた。水曜1時、週に一度のミーティング「愛の予防戦隊」の時間なのだ。隊長である中村さんの「これから『愛の予防戦隊』をはじめます」というかけ声でミーティングは始まった。
会議では各自の体調や悩みが報告され、それについてどうすればいいか対策が練られた。利用者が一人入院しているのだが、その人の出入りがなくなって施設の雰囲気はどう変化したかについて話し合う時間もあり、「どんな体調か」「それについてどう思うか」「他のみんなは、そのことについてどう感じるか」といった、心や身体の状態を伝え合うことをとても大事にしている。そして会議は隊長・中村さんのまとめで締められ、スタッフが進行をサポートしているにしても、あくまで利用者主体の場であることが伝わってきた。
ところで、中村さんにはお聞きしたいことがあった。「幻聴妄想かるた」にたびたび出てくる「若松組」のことだ。彼は若松組というヤクザめいた組織に長年悩まされている。かるたを見、彼のレポートを読んで、私の心にもすっかり若松組が住みついてしまった。本人にもっと詳しく若松組のことを聞いて、自分の中の妄想が間違っていたら是正しなければならない。
しかし中村さん曰く、「声は聞こえるけど、姿は見たことがない」ということだった。私の妄想はかなり視覚的なので、少し食い違っていてさみしい。気を取り直して詳しく聞くと、彼らは脅すと同時に床を揺らすらしい。場所と時間を選ばない彼らの攻撃に、中村さんは相当参っている。階段を上るのがしんどく、自転車に乗ることもままならないそうだ。しかしアパートの1階に越してからは、地面に近くなったことで縦揺れがなくなり、横揺れ中心になった。揺れ自体も随分減ったという。
毎日、自宅近くを警察が巡回しているので、1日に10人以上は逮捕されているとのこと。さらに若松組の新入組員は仕事が嫌になってすぐ逃げてしまうそうなので、どんな大組織でも全滅するのは時間の問題だろう。そして新たな朗報が。若松組に関わる組長と頭取が逮捕されたというのだ。これを境に、彼らの脅しは「あいつを(刑務所から)出せ」という懇願めいたものに変わったらしい。
毎日減っていく人材に、要人の逮捕。中村さんが若松組から解放される日は、まちがいなく近い。(つづく)(奥山)
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