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2012年2月20日 (月)

書評/脳で感じて、こころで共有して『幻聴妄想かるた』

61azb7rkpql__sl500_aa300_  素晴らしいものをみつけた。
 精神障害者の就労継続支援施設「ハーモニー」に集まる人達が、自分たちの幻聴や妄想をしたためた『幻想妄想かるた』。統合失調症など、こころの病にかかってしまった彼らの体験が、シンプルなかるたにぎゅぎゅっと詰まっている。
「の」「のうのなかに 機械がうめこまれ しっちゃか めっちゃかだ」
「お」「おとうとを犬にしてしまった」
など、頭の中で起こる様々な事象が読み札にされ、それに対応する絵が絵札に描かれてある。読み札に刻まれたひと言の呟きが、絵札に描かれた鮮やかなシーンが、ただ体験談を読むよりも直接に、私たちの脳に訴えかけてくるから不思議だ。言語化できない意味や諸々をオーラとしてまとっているかのようなのだ。物事を順序立てて説明するのが困難だったり、話をしている途中で固まってしまったりする人々とコミュニケーションをとるのは少し大変だけれど、かるたならばすぐに、如実にわかる。もしかして、彼らとは日常的に「かるた的」なコミュニケーションをとれば、少し理解が進むのではないかと思うくらいである。「かるた的」なコミュニケーションとは何か、と問われると、まだ全然わからないけれど。

 なお、絵札は複数の描き手によっているので、「この絵札とこの絵札は同じタッチだから、同じ人の妄想なのかな?」などといった想像をついしてしまう。描き手ごとに札を並べてみると、一人ひとりの事情が見えてくるようで、ついつい親近感を覚えるのだった。「い」の人は圧倒的に絵が上手い、「く」の人は英語が達者、「つ」の人の絵はいつも風情がある……。どんな人達だろう? 会ってみたい、と思わせるのも、このかるたの見事な点である。

 かるたの解説書「露地」、施設の風景とインタビューを収録したDVD、読み札音声CD(なんと読み手は市原悦子!)がついたとても豪華な装丁。解説書を読めば、読み札にある幻聴・妄想をより詳しく理解でき、どんな人が、いつ頃から、どんな風に幻聴や妄想と付き合う事になったのかがわかる。とくに「若松組」なる組織に追われているという男性の体験談を読んでいると、とても具体的だし、かるたにも複数回そのテーマが登場するので、いつの間にか読み手の心の内に「若松組」がしっくりと居座ってしまう。すると「若松組」はいつか妄想主の男性だけのものではなくなり、全国のかるた読者と共有する事が叶うのだ。「ああ、あの人は今日も追われているのかなあ」「大変だなあ」などと心配されて、はたしてそれは個人的な「妄想」の域におさまるだろうか。少なくとも私の内にはすでに「若松組」のディテールが存在する。親分はパンチパーマでサングラスをかけ、大事な場所にはピンストライプの細身スーツで出掛けていく。実際のところはどうなのだろう。ぜひ聞いてみたい。

『幻聴妄想かるた』
http://www.geocities.jp/harmony_setagaya/
amazon医学書院からも購入可能。

 個人的には「ほ」と「に」の札がとても好き。(奥山)

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