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2011年12月 8日 (木)

鎌田慧の現代を斬る/第154回 オウム事件と原発事故がしめす教養の必要性

 11月21日、オウム真理教・元教団幹部の遠藤誠一被告の上告が棄却され、死刑判決がだされた。これで麻原彰晃こと松本智津夫死刑囚以下、教団関係者13人の死刑が確定。さっそく次のような意見が出てきた。
「今後、法務省は松本死刑囚らの刑執行の検討を迫られよう。共犯者の公判が継続している間は執行を見送るのが通例だが、裁判終結により、執行の環境が整ったとも言えるからだ」(『読売新聞』2011年11月23日 社説)
「執行の順序については通常、判決の確定時期などが考慮されるが、別の法務省幹部は『絶対的な存在として教団に君臨し、犯行を指図したという事件の構図からいっても、まず首謀者の松本死刑囚について検討するのが筋だろう』との見方を示した」(『読売新聞』2011年11月22日)

 読売をはじめとするマスコミは、「首謀者」の死刑を早めるよう、うながす論調である。松本死刑囚は再審請求をおこなっているのに、死刑を強行するのは、あまりにも乱暴だ。
 また彼の精神状態で死刑執行できるかという問題もある。松本死刑囚の状況については、2011年11月22日の『毎日新聞』に次のように書いている。
「最近はほとんど言葉を発せず時折小声でなにかをつぶやく程度。日中はほぼ正座かあぐら姿で身動きしない。拘置所職員が食事を手伝うこともあったが、今は自分で食べている。家族が拘禁反応の治療が不十分として起こした訴訟の確定記録などによると、01年3月から失禁し、トイレを使ったのは07年に1度あるだけだという。逮捕時の長髪は短く切られ、ひげも落とした。風呂や運動を促せば反応がみられるが、家族らの面会には応じていない」
 彼が詐病だという説はあり、精神障害を主張する弁護士との争いになっている。しかしトイレを使うことなく失禁を繰り返し、身動きするしない状態を「詐病」だと断じるのにはムリがある。

 国連人権委員会は、いかなる形態であれ精神障害を抱えている人に死刑を言い渡したり執行すべきではないとしている。死刑そのものも認められるものではないが、精神に異常をきたしている人物に死刑を科すのはさらに残虐な行為といえる。
 死刑論者の急速な増加は、オウム真理教問題が端緒になった。事件前は、死刑を求める世論はこれほどまで強くはなかったからだ。
 鳩山邦夫議員が1年の法務大臣在籍中に4回もの死刑を実行、計13人を処刑したのも、オウム真理教問題からつづく世論の高まりがあった。政府の実施した09年の世論調査では、死刑「容認」が85%を超えた。世界的な死刑廃止の流れからみると、惨憺たる状態である。
 こうした世論を背景に、最近では未執行の死刑囚が過去最多の125人になったと報じる記事もでてきた。現在の法務大臣である平岡秀夫議員は、死刑執行について「慎重に判断する」との見解をしめしており、そうした姿勢にたいする圧力にもなる。

 一方、松本サリン事件で妻が意識不明の重体となり、警察とメディアから犯人扱いを受けた河野義行さんは、トレランス(寛容)に満ちた姿勢を表明している。
「事件は、必ず風化するものだ。教団、メディア、警察に対し、誰かを恨む気持ちはない。報道姿勢や被害者支援の在り方、住民票不受理といった行政の過剰な教団バッシングなど、事件で得た教訓を生かしてほしい。教団は観察処分となって11年が経過したが、果たして今でも無差別大量殺人を起こす危険性があるのか。そろそろ普通の生活に戻してあげたいとすら思う」(『読売新聞』2011年11月22日)

 14年間にもおよぶ寝たきりの生活をへて、妻は3年前に亡くなったという。それでもオウム真理教を受け継いだ宗教団体の人々にたいして、「普通の生活に戻してあげたい」との思いを抱くのはなかなか大変なことである。
 この記事の終わりが、また素晴らしい。
「妻が亡くなり、昨年、三回忌を終えた。これが私にとってオウム事件の区切りだ。だから、遠く離れた鹿児島に移住してきた。もちろん命日には妻を思うが、これからは自分のための人生を楽しみ、幸せになる」
 報復に取り憑かれたかのような死刑好きのマスコミとは、まったく異る思想である。

 オウム事件で本当にすべきなのは、被害者の救済を考えることだ。どう補償していくのか、それを解決すべきであり、被害者の生活を安定させるよう方策を講じる必要がある。被害者の救済に動かず、死刑だけが一方的に進んでも被害者感情は報われない。(談)

全文は→「1112.pdf」をダウンロード



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