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2011年11月12日 (土)

元・サイテイ車掌の田舎日記(後編)

 んだ。
 おれはこの秋から漁師になったのだ。あぁ、なんて力強いんだ。といっても、網にかかった魚を取り外すだけのナンチャッテ漁師なんだけどね。
 秋は鮭の最盛期だ。70~80センチ級のドでかいヤツが船内にゴロゴロ。船長はおれに「ホレ、持てげ~」と鮭をドーンと投げてよこし、ナントすかさず、「ホレ」の4連発。「えっ! えっ!! 4本も!? 困ります。1本で十分ですから……」と驚愕に堪えないでいると、親戚や東京にやればすぐなくなるといわれ、おれはもう大コーフン。
 こんなに大きな魚は捌いたことはないが、そんな苦労もなんのその。家の冷凍庫はもう満杯。行くたびにくれるものだから、連日あちこちに送ったりと大わらわだ。もちろん毎日鮭と酒のサケ三昧。アラ煮、鍋、粕汁、みそ粕漬け、ムニエル、ホイル焼きなどなど、もうサイコー。また、タイやカレイ、アジ、サバ、カニまで。市場に卸すためにはある程度の形・サイズがないとダメなんだとかで、小さいのものは殆ど捨てるのだという。もったいないからそれらも当然もらってくる。いやはや、贅沢この上ない魚生活を満喫している次第であります。
 では、このナンチャッテ漁師になったいきさつをば、チト。
 そう、飲み屋で知り合った人の良さそうなおじいさんがたまたま漁師さんだったのですね。おれは魚が大好きだから「酒田はいつも新鮮な魚が食べられて最高ですね」みたいなことを喋ったのだと思う。ま、ここまではよくある話かもしれない。ところが、その漁師さんは「いっぱいくれてやるから船(港)に遊びに来い」というのだった。その時は一瞥したのだが、一年ほど経ち再び会った。するとまた「遊びに来い」と。
 畑も終わり、もう柿もぎぐらいしか予定がなかったおれは暇といえば暇だった。というか、日中は何か責任を負うことをやった上で夕方からのサケに向かうべきではないかと、チト真剣に考えていたところでもあった。おれは思い切って「手伝いをさせてもらえませんか」と頼んでみた。すると、案の定、「手伝いなんていいから遊びに来い」と。もう俺は半ば強引にカッパと長靴スタイルで出掛けて行き船に乗り込んだというわけです。
 手伝いの人が一人いて、これもおじいさんだが作業は三人でやることになった。プロの二人がそれぞれ10本くらい外しているのに、おれはやっと1本てな具合の超スローモー。細い網の糸が鮭の身が千切れるくらいキツク食い込みメチャクチャに絡まっているのでなかなか外せないのだ。コツがいるんだろうね。これでも遊んでいるわけではなく必死なのだが、「遊びに来い」といわれたのに、そのうち「遊んでいるんじゃないよ」と怒られそうなのだ。それでももう嬉しくてね。感激はひとしお、感謝してもしきれないほどで、末永くこの手伝いが出来ればいいと思っている。ちなみに、賃金は、もちろんない。もらうのは魚だけ。人生は金じゃないんだ。魚だよ、人生は!!
 それにしてもおれは、酒田の畑も海も中央線のように完全制覇してしまうのだろうか。ナンチャッテ。

 んだ。
 おたおたしているともう正月なのだ。一年なんてホントにあっという間だ。
 冷たく重い雨が降り続くようになると、それがみぞれに変わればまた凍てつく冬がやって来る。風が棲む街とさえいわれている酒田の風は並大抵ではない。まるで恐ろしくなるような悲鳴を上げながら絶え間なく吹き荒れるのだ。空はどんよりした鉛色の雲が垂れ込め、日本海にも静寂はない。来る日も来る日も荒れ狂うモノクロの世界と化し、漁に出られない日が1ヶ月以上続くこともある。それらはただ人々を押し黙らせる。暗い沈黙の日々が春まで続くのだ。
 また、冬は車がないと特に大変だ。地吹雪で歩くのもやっとだからだ。親戚からは「酒田は車がないと話にならないよ」といわれ、友人からは「お前、車持っていないのか」と呆れられる。おれは「車は東京に置いてきたんだ」とだけいって話題を変える。これまでのおれの車といったら殆どが中央線だった。それで十分事は足りた。まさか中央線を持ってくるわけにはいかなかったし。
 でも、これでいいんだ。車なんかなくたって。歩くから。どこまでも歩くよ、おれは。(斎藤典雄)

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