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2011年11月 5日 (土)

鎌田慧の現代を斬る/第153回 TPPで進む日本の植民地化

 野田内閣は、11月12日からハワイでひらかれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)の参加前に、環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉参加を決めようとしている。しかし民主党内にも反対論が強い。社会・共産はもちろん自民・公明にも批判が根強い。それでも野田政権はTPP参加を強行しようとしている。

 民主党政権は、鳩山・菅と2回の短期政権を経て野田佳彦首相に引き継がれたが、ますます自民党政治と変わらない財界寄りの政権となっている。いまだに事故が収束しないのに、九州電力などの原発で稼働再開のチャンスをうかがっており、国民総背番号制度は共通番号制度と名を変えて強行されようとしており、沖縄県民の反対が強まるなかで辺野古への強制着陸まで狙っている。さらにTPP参加である。
 これは自民党に代わる新政権のどん詰まりであり、新しい時代を期待した民意を真っ向から踏みにじる愚かさの出発である。

 TPPへの参加については、「仮に(TPP)交渉に参加した場合、交渉の中で新しい事実が出てきた。それが日本にとっては到底受け入れることのできないものであれば、その上で交渉から抜ける選択肢は私は当然持っておくべきと思う」(日テレニュース)と、前原誠司政調会長は語っている。しかし一端、国策として方針を決めたのち、不都合だから止めるなど外交上の失政であり、できるはずもない。とにかく参加させようという甘言は、まるで子どもをだます誘拐犯のようだ。
 さすがに最大の旗振り役である経団連の米倉弘昌会長も、「離脱とは不穏当な表現だ。交渉入り後に途中離脱することはありえない」(『産経新聞』2011年10月24日)と批判している。
 しかしTPPに参加させたい意向は2人ともに一致している。前原政調会長は「TPP(環太平洋パートナーシップ協定)の慎重論、反対論の中には、事実に基づいた不安感と同時に、事実に基づかない議論もある。これを私は『TPPおばけ』と言っている」(『毎日新聞』2011年10月14日)と反対論を切り捨て、米倉会長は「怪情報が飛び交って国民の不安をかきたてている。非常にまずい」と語った。
 「おばけ」や「怪情報」といった決めつけは、初めから参加ありきの姿勢をあらわわしたものだ。

 1978~1979年にかけて第1次牛肉・オレンジ自由化交渉がおこなわれ、日本は農産物の自由化へと踏みだした。そのため、せっかく植えたミカンの木を農業者が伐採する破目になった。もちろん温州みかんが買えなくなったわけではない。ただみかん果汁では、輸入オレンジの10分の1以下シェアしか確保できなくなっている。
 これまで米国は、工業製品の輸入で一定程度譲歩しながら、主力産業である農産物の輸出について圧力をかけつづけてきた。それにたいして日本はなすすべなく門戸をひらき、対抗策として農業の大規模化という方針を打ちだした。しかし日本の地形・風土を無視した大量生産計画など蟷螂の斧というべきものだ。大規模化を目指した畜産や酪農が撤退し、荒れ果てた牧草地が全国に出現している。
 米国の農業に日本が対抗しようなど、客観的に分析すれば笑い話でしかない。ところが真珠湾攻撃以来、まったく見通しを欠いた精神論だけで戦争突入、退却に次ぐ退却といった「日本の伝統芸」が戦後も繰り返されてきた。

 そもそも農業は商品をつくっているのではなく、食料を生産しているのである。農業の国際競争力を高めるといった発想は、食料を商品としてしか考えない財界人特有の誤りだ。
 しかも今回のTPPは、農業ばかりか医療やサービス、金融などあらゆる分野の自由化を目指すものだ。国内の体制が大きく変化するといわれているが、その詳細はいまだに明らかにされていないのである。外務省は「外交上の機密だからいえない」と、小出しにしか情報を開示しない。これは目隠ししてスタートラインに着けというに等しい。
 そもそもTPPは自由貿易協定(FTA)の1つである。FTAは関税ルールを二国間で決めるが、TPPは日本を除くと9ヵ国が交渉に参加している。しかし日本を加えた10ヵ国のGDPを比較すると、全体の90%以上を日米が占めるという。つまり実質的には日米のFTAなのである。「属国」日本を狙い撃ちした協定なのだ。

 この議論で不思議なのはメディアの動きだ。テレビはもちろん新聞社もこぞって賛成を表明している。経団連ベッタリの日本経済新聞はもちろんのこと、読売新聞や毎日新聞、朝日新聞も強行派である。
 朝日新聞などは10月14日の社説で、「TPPへの参加は、経済連携戦略での遅れを取り戻す、またとない機会だ」などと書いている。
 しかしTPPによってダメージを受けるのは、農産物ばかりではない。日本政府が守ってきた安全性さえも保証できなくなる。
 遺伝子組み換え食品などは、その最も顕著な例だろう。遺伝子組換え食品であるとの表示を必要ないとする米国の主張は、すでにTPPで大きな問題となっている。しかもTPPでは、投資家が投資先の国の政策で被害を受けた場合、日本以外の国で裁判がひらかれるという。

 米国の司法は、遺伝子組換え作物についてとんでもない判決だしている。遺伝子組換え作物を育てている企業が、遺伝子組換え作物ではない花粉が飛んできて不利益を被った隣の農家を訴えた裁判で、企業側の主張を認めたのだ。このような判決がだされるなら、遺伝子組換え作物の畑をつくっては、隣接する農家を訴えて規模を拡大することも可能となる。すでに米国とFTAを結んだ韓国でも、この訴訟制度について大もめとなっている。
 このような不平等条約を、朝日新聞は「TPP議論 大局的視点を忘れるな」と参加を煽っているのである。「日本がもたつく間も、世界は動いている。自動車や電機といった日本の主力産業でライバルとなった韓国が典型だ」とは、「バスに乗り遅れるな」というアジだ。しかし、そのバスは「地獄行き」なのだ。

 TPPによる悪影響について、日本医師会は医療の産業化が進むとして、次のような見解をしめしている。
「医療の効率化が優先され、安全性が失 われます。営利企業は、高収益を見込むことができる私的医療費にシフトし、公的医療保険の患者が切り捨てられます。社会保障は平時の国家安全保障であり、営利産業化させ、市場で競争させるべきものではありません」
 米国では、民間保険会社の提供する健康保険プランを個人や各企業が加入する形式を取っている。そのため保険加入や保険金の支払いを拒否される例が相次いでいる。結果として数百万円という高額な医療費を払うことができず、医療を受けずに死んでいく人が後を絶たない。

 こうした問題をマイケル・ムーア監督は『シッコ』というドキュメンタリー映画にまとめている。そこには医者に行くお金がなく、自分で傷を縫う人が紹介されていた。国民皆保険制度が崩され、米国の保険会社が参入するようになれば、日本でも同様の事態が起こる。
 日本医師会は、国際医療交流による外国人患者・従事者の受け入れについても、「診察や治療は、人体に侵襲を及ぼす行為です」という表現で反対を表明している。健康にかかわることを簡単に改革すべきではないという現場の主張に、私たちは耳を傾ける必要がある。
 貧乏人は病院に行けなくなる一方で、高額な医療は充実する。こうした二分化は、TPPにより進むだろう。そんな社会はつくってはいけない。平準化や平等を求めて進むのが政治だが、米国や日本は一部の利益のために多数を苦しめる政治を進める。

 自民党は野党になったが、民主党の政治もその延長線上にある。それは民主党政権を支えているのが、連合だからだ。連合は労働組合といっても御用組合だ。自社の利益を追求する会社の内側にある大企業擁護の労働組合だから、中小企業の労働者や派遣労働者、日雇い労働者にまったく無関心であり、彼らにたいするシンパシーがほとんどない。
 結局、日本社会が変わるには、連合に所属する大企業の労働組合が変わらなければならない。大企業の組合が変われば、大企業の横暴をチェックできるからだ。

 60年安保のとき、造船会社は軍艦や潜水艦など造る軍需産業でもあるため、日米安保に賛成の立場だった。ところが造船会社の労働者たちは、デモや集会に参加した。それにショックを受けた財界人は、60年安保以降、徹底的な組合つぶしを展開した。カネそだして第二労働組合をつくらせ、御用組合化を進めたのである。そののち総評が潰されて連合が結成されてしまう。
 こうした歴史を引きずって今がある。労働者は産業利益のためにだけに働く「産業戦士」として使い捨てにされているのも、日本の労組運動史と密接な関わりがある。(談)

全文は→「1111.pdf」をダウンロード

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