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2011年8月 4日 (木)

鎌田慧の現代を斬る/第151回 国民を殺してもカネもうけしたい経団連

 菅直人首相は脱原発という方向性を示した。日本の歴代の首相で初めての快挙といえる。官僚、財界、野党はもちろん与党内からも激しい反発を受け、7月29日に発表した新エネルギー政策の中間整理では、基本政策を「減原発」とかなり後退させたが、電力各社の地域独占体制の見直しや電力会社から送電部門を切り離す発送電分離は残した。この方針には原発の推進の旗振り役である経済産業省が強く反対したとも報道されている。
 菅首相はとりあえず浜岡原発を止め、福島第一原発4基の廃炉も決めた。自然エネルギーを活用していく方向性も、首相として初めて打ちだした。これらのことは評価すべきだ。
 とはいえ具体的な道筋をハッキリとつけない。さまざまな抵抗を跳ね返して突き進むのではなく、曖昧にしながら妥協を重ねている。それが国民からの批判になっているのだろう。脱原発を「首相個人の考え」といいわけしたことなどは、その典型だ。
 ただ、国家が財界や官僚、マスコミ、司法とともに進めてきた「原発絶対体制」を破壊するのは容易ではない。それは巨大な権限をもつ首相も例外ではないのだ。
 たとえば経団連の米倉弘昌会長は、首相が脱原発を打ち出したことを、何度も非難している。7月14日の経済同友会の夏季セミナーでは、「(原発から)再生可能エネルギーへの転換が、あたかも短期間でできるような誤解を招きかねない形で説明、発表すること自体、極めて不見識」(『朝日新聞』2011年7月15日)と、首相の方針に怒りをあらわにした。
 さらには19日の毎日新聞のインタビューでは、「原発に一定程度依存しないと(電力不足で)国内産業がどんどん海外に逃げ、雇用が守られず、経済成長が落ちる」と国民に脅しをかけた。そればかりか第一原発の事故のあと、電力会社が凍結している原発新設についても、「安全基準を見直し、対策を施したうえで(自治体が認めれば)新設の可能性もありうる」といい放った。
 これは今度の事故をまったく反省してないことをしめしている。原発メーカーと原発ゼネコンと電力会社の利益を代弁しているにすぎない。経済人が日本人の将来をまったく考えない、その根本的な思想の貧困をこの発言は物語っている。
 共同通信が23、24日に行った全国電話世論調査でも、「脱原発」には7割以上の人が賛成している。国民から選ばれた政治家が、民意に添って決めた方針を、一財界人が勝手に覆すことなど許されるはずがない。

 脱原発につづいた首相の「原発輸出の見直し」発言についても、財界や官僚は露骨に不満をしめしている。
 “経済産業省の幹部は”「国益を無視した発言だ」(『産経新聞』11年7月22日)と語り、原子力の大手メーカーの関係者は「福島の事故と輸出は別次元の話。国内事情で対外的な約束をほごにすれば信用を失う」(『産経新聞』11年7月22日)と語っている。
 いったいなにが「国益」で、どこが「別次元の話」なのか。原発事故の危険性を世界に押しつけてもうけるのが「国益」で、海外で起こる事故は「別次元」だというつもりか。
 中国で起きた新幹線事故にたいして、米倉経団連会長は「利用者の不安が募ると思う。もっと慎重に対応した方が良いのではないか」などと発言しているのに、まだ事故の収拾さえ完了していない原発建設も輸出も推進というのだから常軌を逸している。
 結局、財界人と経済産業省がいいつづけているのは、「人間の命よりもカネもうけ」ということだ。こうした思想は、さまざまな形で目にする。
「原発の代わりに化石燃料を使えば法人税を3割増税したのと同じコスト増が発生する」(『朝日新聞』11年7月14日)という与謝野馨経済財政相の発言も、その一例だ。
 彼の頭では、安全はコスト増でしかない。
 原発のコストを本当に計算するならば、事故が起こった際の賠償金なども発電コストに加わる。その途端、電力会社の利益など簡単に吹っ飛んでしまう。

 避難住民に対する補償だけではない。牛肉をはじめとする食品や土地の除染、あるいは事故による健康被害など、さまざまな賠償請求がずっとつづいていく。
 また、現在のコストには、いま稼働している原発の廃棄物や事故を起こしたものの廃棄物の始末の値段が計算されていない。それどころか事故の廃棄物を、どのように処理するのかさえ、明確に決まっていない。すでに福島原発の瓦礫と汚泥が青森県のむつ市に運ばれたという情報もある。事故後の処理によって、さらに日本が汚染されていく恐怖が広がっている。加えて問題は国内だけにとどまらない。海外からも放射能汚染に対する賠償金を請求される可能性があるのだ。
 まともに考えれば、人命を企業のもうけのために危険にさらすことは許されないし、コスト計算の間違いにも気付く。こんなデタラメな主張がまかり通るところに、利権渦巻く原発問題の闇がある。
 原発がなくなると日本経済が悪くなるという発想は、核の抑止力と似ている。「核の抑止力」とは、核の破壊力が激しすぎるから、実際の戦争が起きなくなるという思想である。こうした妄想により、米国やソ連をはじめとする核保有国は、人類を何十回殺すかもわからないほどの核の保有競争に入った。結局、核の保有が平和の推進力にならなかったばかりか、現在の核保有国以外の国々やテロ組織に核兵器が広がることに大国は神経をすり減らすことになったのだ。
 人を大量に殺す兵器で平和をつくりだせるわけがなく、通常の運転時から大量の被曝労働者を生みだし、ひとたび事故が起きればコントロールの利かない原発が長期的に経済を支えられるはずがない。
 原爆は「抑止力」というフィクションでさらに危険を抱えこみ、原発は経済性というフィクションで人命を危険にさらしている。原発がなければコストがかさむ、といういい方は古いかたちの恫喝といえる。
 原発に絡む恫喝はコストだけではない。7月14日の『毎日新聞』に掲載された“大手電機幹部”は、次のように発言している。
「安定的に電力を確保できなければ、韓国や中国との競争には勝てない。海外移転に拍車をかけることになる」
 経団連も電力が安定しないと、産業が空洞化し、雇用機会が失われかねない、と緊急アピールをおこなっている。
 しかし、そもそも中国などの電力が、それほど安定してるわけではない。海外進出は海外のマーケットと、労働者の低賃金を狙っておこなわれるもので、節電だけで空洞化が加速するわけではない。
 こうしたアピールは、意識的なデマゴギーである。原発が安全で事故がないといった「安全神話」など、嘘のキャンペーンの延長である。
「雇用を守り、経済成長を実現していくには電力の安定供給が必要。少なくとも5年先の電力の安定性を示してもらわないと、日本企業は海外移転してしまう」(『毎日新聞』2011年7月12日)という米倉経団連会長のコメントにいたっては呆れるほかない。
 これまでも経団連は積極的に雇用を守ろうとしてこなかった。しかも原発は電力の安定につながらないことはあきらかになのに、まだ認めていない。現在でも福島ではギリギリの調整が日々続いている。原発労働者の被曝量が増えているため、人員をどのように確保するのかも大きな問題になっている。
 出力が100万キロワットを超える巨大原発が、国内にはいくつもある。これは巨大な技術によって生産性をあげ、コストをさげるという古い経営思想に基づいた計画だからだ。送電塔と送電線を全国に張り巡らせて、巨大原発から全国に供給するという発想が、すでに破綻している。いまは地域にあった電力生産が求められている。そうすれば送電時の電力のロスもなくなり、過剰な発電も防げる。
 財界はいまだに原発生産で経済の活性化を図ろうとしているが、巨大な技術をつかって大量生産するのは、一発の原爆で皆殺しにしようとした戦略兵器の思想と同じである。時代に合わない「大艦巨砲主義」は棄てるべきだ。

 原発がらみで大きな問題となっているのが、電力会社の「やらせ」である。
 6月末の経済産業省が主催する玄海原発の緊急安全対策を巡る県民説明番組で、九州電力が組織的にやらせメールを集めていたことが発覚。副社長と本部長が賛成の参加者を増やすため、原発本部の部長に指示を出したとされる。
 結局、やらせメールの要請を受けた2935人のうち141人が投票。番組での「賛成票」が、反対を123票上回っていたことから、「やらせ」がなければ結果が逆転していたことも明らかになった。文例までしめしてヤラセを募っていたというから、かなり悪質である。
 これでも各地で原発をめぐって実施された公聴会やヒアリングでは、賛成派が電力会社によって動員されてきた。その意味では、これまで何十年も続いてきた慣例が、やっと明らかになったともいえる。
 しかしやらせ事件は、これだにとどまらなかった。原発を規制する立場であるはずの原子力安全・保安院がやらせに関与していたことがあきらかになったからだ。
 わたしは以前より、原子力推進の最右翼である経産省の安全・保安院が原子力を規制するナンセンスを訴えてきた。審判とピッチャーが同じ人間で、公正な試合など成立するわけないからだ。
 日本は政官財・マスコミ・司法による「原発絶対体制」の中にある。原発に大量に税金がつぎ込まれ、そのカネが権力者を潤してきた。利益誘導のために最も危険な原発が利用されてきたし、危険だからこそ金を膨大に使えたのである。こういう非民主主義的で犯罪的なことが行われてきたのが原発であり、安全・保安院の規制はその典型例である。

 いま、やっと脱原発ムードが本格化している。
 今年の広島・長崎の核廃絶運動では被爆者同士の連帯がテーマになっている。これまで核廃絶運動は反原発運動と結びついてこなかった。しかし、戦争利用であれ平和利用であれ核は重大な被害が発生するという認識で、被害者たちが連帯し核廃絶にむかっていく。そういう運動が、今年からはじまった。
 わたしも脱原発の大衆運動を盛り上げていく。ムードで終わらないよう、しっかりと脱原発を実体化していくよう頑張りたい。
 前回もお伝えしたが、「さよなら原発1000万人アクション」の署名運動も盛り上がってきている。9月8日には、日本青年館で、内橋克人、大江健三郎、落合恵子、澤地久枝と私の講演会をおこない、9月19日には「さようなら原発集会」が明治公園で開かる。ぜひ、集会に参加して、脱原発の意思をしめしてほしい。(談)

全文は→「1108.pdf」をダウンロード

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