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2011年4月14日 (木)

鎌田慧の現代を斬る/第149回 新刊『原発暴走列島』ダイジェスト

 2011年3月11日に発生した東日本大震災は、およそ3万人の死者と行方不明者をだし、一時は40万人を超える避難民を生みだした。歴史に残る大災害となったのだが、自然災害だけで済まない、「原発震災」だった。
 マグニチュード9.0の巨大地震は、38メートル以上の大津波を引き起こし、東北を中心とする太平洋岸の原発を直撃、とりわけ東京電力福島第一原発の4基に壊滅的なダメージをあたえた。津波によって、外部電源が遮断される「全交流電源喪失(ステーション・ブラックアウト)」の非常事態となり、緊急炉心冷却システムが不能となった。
 幸いなことに、5号炉、6号炉は、地震前から定期点検で停止中だった。

 1号炉、3号炉、2号炉とあたかも時限爆弾のように、日を置いて原子炉建屋が、水素爆発によって破壊され、鉄骨がむき出しになった。4月1日現在、1~3号炉は、原子炉、使用済み核燃料プールともに外部からの大量注水によって、辛うじて冷却がつづけられ、どうにか過熱が抑えられており、定期点検中のため核燃料棒が原子炉内になかった4号炉も貯蔵プールに大量の水を注いで燃料棒の過熱を防いでいる状態だ。
 つまり、4基同時に空中および海中に、高濃度の放射性物質を垂れ流す最悪のシナリオが、現在も進行中である。

 とくに1~3号炉の状態がひどい。1、3号炉は燃料棒は水から露出して溶融した疑いが強く、2号炉にいたっては炉心が熱で溶け出す炉心溶融が起きているようだ。原子炉圧力容器、その外側の格納容器、遮蔽壁、分厚いコンクリート壁の建屋の防護があっても、放射性物質が外界へ洩れ出して、地下水、海水、大気を高濃度に汚染しつづけている。米・スリーマイル島事故以上、旧ソ連・チェルノブイリ事故に匹敵する大事故である。

 3月30日、東京電力の勝俣恒久会長は、事故後、病気で倒れた清水正孝社長に代わって記者会見をおこない、1~4号機を廃炉にすると発表した。回収不能な放射能だけを残す、最悪の撤退である。

●すべては想定内

 東京電力など、電力会社にちかい原発推進派の御用学者たちは、福島原発の事故について「想定外だ」と開き直っている。想定外の津波によって非常用ディーゼル発電機が水没し、想定外にすべての冷却系の電源を失ったと。しかし、これがウソでしかない。
 反原発の常識となっていたのは、津波の引き起こす引き潮によって、取水口から水が入らなくなり、緊急炉心冷却装置が機能しなくなる、という不安である。ところが電力会社は、「安全だ」の一本槍で検討さえしなかった。

 福島第一原発とおなじゼネラル・エレクトリック(GE)の沸騰水型原子炉について、すでに30年前から、米国の研究機関、オークリッジ国立研究所が、すべての電源が失われたケースをシミュレーションしていたことを、3月31日の朝日新聞があきらかにしている。非常用バッテリーの使用可能時間こそ2時間ほど短いが、この想定では8時間後に「核燃料が露出」、10時間後に「燃料棒が溶けはじめ」、13時間半後には「格納容器損傷」となる。福島原発では、全交流電源喪失から24時間後に水素爆発が起こっていた。
 この記事には、原子力安全研究協会の松浦祥次郎理事長(元原子力安全委員長)の「何もかもダメになるといった状況は考えなくてもいいという暗黙の了解があった。隕石の直撃など、何でもかんでも対応できるかと言ったらそれは無理だ」とひらき直ったコメントが付されている。
 米国でおこなわれるシミュレーションさえ、隕石の直撃とおなじ程度の「想定」だった。この程度の「科学性」で「フェイルセーフで何重もの安全策を講じているから絶対に安全だ」と強弁してきたのだ。

 高濃度の汚染水が原子炉から吹き出し海への汚染が深刻化している。これも予想されていたことだ。原発内にはパイプが何キロとはしっている。地震で揺さぶられた配管すべてが健全だとは考えられない。地震による配管の破損は、技術者がずっと指摘しつづけてきたことだ。
 原子炉を冷やしつづけるために、大量の水をかけたため、高濃度の放射性廃棄物に汚染された水が屋内ばかりか、屋外にあふれ、ついにそれを放出することにした。海洋汚染が現実化した。

●労働者の被曝に支えられている原発

 3月24日、3人の労働者が高濃度に汚染された地下水の中で作業していて、水たまりで被曝したと報じられた。長靴を履かされていなかった。原発は労働者の被曝によって成立している産業である。事故があってもなくても、定期点検や炉心のメンテナンスなどで、大量の労働者が被曝していく。原発イコール被曝なのだ。被曝が原因でガンや白血病などに冒され、病気に斃れたり、死んでいった人たちの遺族が、たまに裁判を起こすが、因果関係がハッキリしない、と拒絶され、労災の認定すらされない。63年から原子力発電がおこなわれているのに、労災認定されたのは、これまで10人程度という少なさである。

 原発の労働環境は、きわめて差別的なことでも知られている。東京電力のエリート社員がいて、その下にIHIや東芝などのプラントメーカーが控える。その下の「協力会社」の労働者たちが、危険な末端仕事をすべて請け負っている。
 震災での被曝では、アラームが鳴ったのに、故障だと思って仕事をつづけていたとして問題になった。しかしアラームを無視するのは日常茶飯事である。個人線量計を付けていたら仕事にならないからと外す人も少なくない。だからこそ、人数分の線量計が揃っていなくても問題にならなかったのである。
 たまたま事故があったから記事になったが、原発の労働者はそうした劣悪な労働環境にずっと置かれてきた。そのあまりのひどさに、原発を辞めたあと、反対運動をはじめる人がでるようになって、内部の労働者の状況が少しずつわかるようになってきた。

 かつては名簿にない労働者が働いていたり、名前を変えて被曝線量に関係なく働いたりと、健康管理の甘さがなん度も問題になっている。原発労働者は被曝線量が多くなって管理区域内に入れなくなれば仕事を失う。だから生活のために被曝を許容してきた。
 福島の事故で労働者の被曝の上限を100ミリシーベルトから250ミリシーベルトにいきなり引き上げた。前は危険だといっておいて、今度は許容する。生身の人間が被曝する、という生命の重みがいっさい感じられない数字の操作だ。
 労働者の被曝線量を調べると、社員の数値が減っているのがわかる。また被曝労働者はどんどん増えている。これは老朽化にともなう大型機器の交換やひび割れの検査、ボルト替えなどが、頻繁におこなわれているからだ。

 11年4月現在、原発の暴発を防ぐために、必死で働いている下請労働者が英雄化され、国中が「頑張れ、頑張れ」と応援している。自分たちの健康のために、犠牲になる。特攻隊の論理だが、しかし彼らの将来の健康はどうなるのか。彼らも家族をかかえた父親であったり、将来性のある若者だったりする。原発がなければ被曝することなく、健康に生きられる人たちなのだ。

●地獄へ行く感じ

 ここで76年夏に取材し、『ガラスの檻の中で』(国際商業出版)として出版した福島第一原発のルポルタージュの一部を抜粋しておきたい。
 事故の隠蔽、労働者の被曝、障がい児の出産、原発周辺の汚染など、炉心溶融事故に至るまで、福島第一原発は、あらゆる矛盾を隠して操業しつづけてきた。その東電の体質は、このときから35年たっても、変わっていない。
 この報告を読んで下されば、どうして東電が福島原発のような大事故を引き起こしたのかわかるはずだ。また、なるべく事実を隠蔽し、住民の安全を考えることなく、自らは安全な場所で経済的な利益を追求する会社の姿勢も理解してもらえる、と思う。東電のどうしようもなさはそのころからのことである。

 ―― ※ ―― ※ ―― ※ ―― ※ ―― 

 科学技術の枠をつくして建造されているはずの原発が、それほど簡単に放射線を漏出するものだろうか。中で働いたことのある人たちと話してみても、信じられないような話ばかり続くのだ。いま、浪江町に建設が予定されている東北電力の原発に反対している、棚塩原発反対同盟の舛倉隆委員長は、72年9月に9日間ほど第1号炉で働いたことがある。
     ※     ※
「自然にも放射能があるというけど衣服にはつかないだろう。中で働いていると作業衣について、ポケット線量計が反応するし、床にもずいぶんたまっているんだ。坐り込んだりすると、メーターがふっきれるほど反応するんだ。便所へ行くんだっていちいち着換えて手と足を突っこむ測定器で測って、それから100メートルも離れたところまで行く。中にはシャワー室があっても、便所がないのはどういうことなのか。男は手でつまむから危いのだろうか。管理区域といったって、壁がある訳ではなし、黄色い線が引かれているだけ。そんないいかげんなもんさ。でも、働いているものは、中のことはなんにもいえないんだ。なんか話、すると、誰がその話をいったか、すぐたどられてクビにされてしまうし、やめたって、連れて行ってくれた人の迷惑になるから、やっぱりなんにもいえない」
     ※     ※
 また、ある人はこう言う。
「防護服をつけて、重い扉を引いて入ると、まるで地獄へ行くみたいでイヤだね。作業衣も、道具もなんにも外に出せない、ということはそれだけ汚染されているってことだ。あっちこっちでは蒸気が漏れているし、体内放射線がふえると、“もうこなくていい”といわれてクビになる。あとの補償はなんにもない。白血球がふえたり減ったりするのも、気持ちが悪いもんだ。前は温排水口の堤防で釣りさせていたのが、最近禁止したのもやはり怪しいとにらんでいるんだ」
     ※     ※
 ある孫請け業者だった人はこう言う。パイプ工事で入っていたのだが、作業員を掃除などに強制的に引っぱられるので、もう数年前にやめている。働いている人が、嫌がって行かないからだ、と言う。
「パイプの工事には、普通、伸縮自在の継ぎ手をつかうもんだ。熱によってパイプが膨張するからね。鉄道の線路に隙間があるのと同じことだ。ところが、原発内のパイプにはこれを使わないんだよね。継ぎ手がないから、亀裂が入って当り前だよ。検査だって長いパイプを全部通してやると、かならずどっからか洩れるもんだから、一部分だけに抑えてやってしまうんだ。初めはうるさくて大変だろうと思ったけど、行ってみたらどうってことはない、ばったりばったり(行きあたりばったり)でいいんだ。蒸気洩れなんかある訳だよ。設計ミスなのか、配管しているとパイプ同士がぶつかったりする。そのたびに、設計変更してエレべーション(高低)をつけるんだ、こっちはパイプの量が増えてカネになるからいいけれど。原発のことはよく知らないけど、付帯工事の様子を見るとなんかおかしいから、このへんで逃げようってんで、やめたんだ。50~60人の溶接屋の会社で、2人の子供が歯が飛び出てしまって、会社のカネで治療に行ってるという話も聞いたしね。働いている奴はモルモット代わりなのさ」

●奇形児出産の噂

 歩き回っているうちに、東電で働いている労働者の家庭に小頭症の赤子が生まれた、という話をきいた。3年ほど前にひとり、そして76年2月にひとり。両方ともに、脳が欠落していて死産だった、という。私は、なにかの本で見た広島での、ホルマリンづけの胎児の写真を思い浮かべた。もしそれが本当だとしたら、放射線汚染による遺伝の証拠になる。福島第一原発第1号炉が運転開始されてすでに5年になる。やがてこの辺り一帯に14基もの原発が軒をならべるようにして稼働することに対する、自然からの重大な警告なのかも知れない。
 私は、まず、ある人の紹介で病院の事務長に会った。さきに様子を探ってみることにしたのである。が、その人は底抜けの好人物なのかどうか、私が電話するとすぐ、東電に対して、こういう人が取材に行くからよろしく、と電話を入れてくれていたのだった。
     ※     ※
 病院へ訪ねて行くこと自体、私はかなりこだわっていた。あとからなにか迷惑がかかっては、と思ったのだが、彼は全然かまわない、と強く言った。院長が留守だったためか、院長室に通され、応接セットで向かい合って私はたずねた。
「この病院では、かなりの数の奇形児が生まれているとのことですが」
「いいえ、そんなことは聞いたこともありません」
 私は小頭症以外にも、いろんな症状の奇形児出産の噂を聞いてきていた。産婦人科の医者を紹介してもらうことにした。ちょうど昼前で、診療は一段落ついているようだった。
 私が聞いたのは、単なるうわさというより、かなり確かな情報だったのだ。が、それ以上深くは突っ込めないのである。岩本議員が議会でつるし上げられたように、否定されれば、証明する手段は、情報提供者を表面に出すしかないのである。それに因果関係の証明、という難問題も残る。

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