書店の風格/読んで話して、揉んでもらって「猫企画」
横浜は六角橋商店街にある、「猫企画」に行ってきた。字面からはお店屋さんだと思われないかもしれないけれど、れっきとした古本屋さんである。いや、タイ古式マッサージもやっているという。ん? マッサージ古本屋さん? 「胃痛のツボが痛かったらこの本がおすすめですよ」と、『吾輩は猫である』をパック売りしてくれるのだろうか。そう思って伺ってみたけれど、安心なことにそんな真似はやってなかった。
奥様がタイ式マッサージをやって、旦那さんが古本屋を経営する画期的なお店で、古本フロアの中に炬燵が置いてある。思わず「炬燵に入っていってもいいですか?」と言ってしまいそうな、アットホームな雰囲気だ。
まずはタイ式マッサージをやってもらった。記者はタイに行ったときに初体験したが何せ10年も前なので、途中から涙があふれてくるほど痛かったことしか覚えていない。しかし最近、冷えからか肩が痛かったので、思い切ってやって貰うことにした。決意を持って挑んだが、全然痛くない。ソフトタッチである。「日本人の方が、タイ人よりうまいって言われるほどなんですよ~」とにこやかに笑いながら施術してくれる奥さん。「それにしても全身が凝り固まってますね。ウチは遠いので通うのは難しいでしょうから、お近くで一週間に一度でもほぐして貰えると良いですよ」とアドバイスを受けた。そんなに凝ってるかなあと半信半疑だったが、それから3日後、腕が全く上がらなくなった。肩が痛かったのに加えて、30㎏程度の荷物を持って移動したのが徒になったらしい。若い頃は自分の体重よりも重いウェイトでトレーニングしていたこともあったのに。若き日の栄光を頭に描きながら、リハビリに通い始める羽目になった。プロの言うことは聞くものだ。
久々に身体をぐーっと伸ばされ、リフレッシュしたところで、古本屋さんのエリアに降りた。
ジャンルは、とにかく面白いもの全部、といった構成だ。漫画、個人で作っているミニコミ誌、評論や美術関係。仕入れ先を聞くと「向かいの薬局屋さんのご主人から譲り受けて」とか、入り口近くで売られているバナナチップやクッキーのアクセサリーについては「すごく奇抜な女性が作って持ってきてくれるんです、バナナやクッキーは本物なんですよ」とのことで、本当にアットホームなお店なんだなあとつくづく思う。それを炬燵が象徴している。「何も買わないでずうっと話をしていく人も多いんです」と、ふんわりした笑顔で奥様は語った。若い夫婦のやっているお店に、何となくお年寄りがやってきて、何となくお茶を飲んでいる。そんなほほえましい風景、もっともっと日本に増えてほしい。そう思わせる。
なんせ、以前営業していた横浜黄金町で閉店してから、そこのなじみだった人たちが「またやりなよ!」「ここなんてどう?」と紹介してもらった土地が、今営業している六角橋だというのだ。もともとその土地に住んでいたわけでもない若夫婦が、なじみのおじさんおばさんに土地を紹介してもらうなんて。「引きこもり世代」「無縁社会」なんて言葉はなんのその、若くたって「ロスジェネ世代」と言われたって、人柄がよくて常にオープンであれば、人に恵まれる。そんな確信を、改めて持つこととなった。
仕事をするのに必要だった『絶対毎日末井日記』を買って店を出た。お店の中で人の暖かさに目いっぱい触れていたので、一人がなんだかとても寂しくなった。電車の中で読んだ本は、うーん、この末井さんて人をほどよく知っていれば面白いんだろうけど、なにせメディア音痴なもので……(奥山)
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