冠婚葬祭ビジネスへの視線/「明るい遺影写真展」に行ってきた
特に急逝したときなど、遺影写真を選ぶというのは大変困難なものである。
なんと言っても、葬儀の場で目に見える主役の顔といったら、遺影しかないのだから。
昔のアルバム、今ならデジカメのデータを何千枚もひっくり返して、あれでもないこれでもないと言い合うことになったり、反対に「おじいちゃんは写真に撮られるの嫌いだったからなあ~」と呑気な顔で出征の時の写真を出してこられたり。
そんなのはまだいい。
集合写真の中から米粒みたいなサイズの顔を指さされて「これなのよう」と言われ、それを几帳面に「アスカネット」に預け、そして出来上がってきた写真のぼやけっぷりといったら、いろんな意味で涙を誘うものがある。
アスカネット。
遺影を扱う会社としてはきっとトップクラスのシェアを誇る、フォトサービスの会社だ。
私が葬儀社にいた頃は、遺族から受け取った写真データをスキャンしてアスカネットに送信し、引き延ばし・着せ替え・肌色の修整などをしてもらったものを、またデータで送ってもらっていた。
日に2~3枚しか遺影を見ない私たちなんて楽なものだ。
年に27万枚を受け取るアスカネットの気苦労は、きっと私たちの想像を絶するものだったのだろう。プロとして誇りを持っているからこそ、「こんな写真で遺影が作れるかああっっっ!」と、ちゃぶ台をひっくり返した日もあったろう。だからこそ彼らは、次のようなサービスを始めた。
その名も、
生前から好きな写真を遺影として登録しておけるサービスで、登録料は無料とのこと。とっておきの一枚を用意しておく方がいい、と言われても、あの大きなサイズで自分の遺影が自宅に届くなんてちょっと嫌。そんな風に考える人も多いだろうから、データとして預けておけるのは気楽なものである。しかも大切な人へのメッセージを書いておけたり、家系図を作成できたりと、エンディングノート的な機能もある。
ただ、これに登録しているということを家族が知らないと、何の役にも立たないけれど……。
で、このサービスができた記念に、という訳でもなかろうけれど、協同組合日本写真館協会と株式会社アスカネットが「明るい遺影写真展」を共同開催した。東京での展覧は終わり、大阪は2月17日から20日まで、TWIN21アトリウムで開催されるようだ。
東京会場は新宿駅西口のイベントコーナーだった。北海道から沖縄まで、いずれもプロの写真家が撮った遺影が400枚、ずらっと並ぶ姿は圧巻だ。どれも「本人らしい」一枚になるように工夫が凝らされている。ソムリエであればワイングラスを傾けた仕草、農家のおばあちゃんなら農作業中の屈託ない笑顔、背景はトマト畑だ。バーのママならカウンターにいる姿、カメラマンはカメラと一緒に……。
そんな中、目を引いたのは意外にも紋付き袴を着、日本刀を腰に差した厳格な表情のおじいちゃんであった。お仕着せに過ぎるとして昨今は敬遠の対象であった喪服姿、他の写真がラフだとぐっと引き締まって見える。やっぱりちゃんとした写真っていうのは若干意識してコスプレしたほうがサマになるのかもね、と思った。
加えて、この遺影群は「本人らしい」をモットーとしているようだが、大部分の写真はちゃんと化粧してライトを照らされて笑顔になって、を基本としている。それって、必ずしも本人らしくない。いつも仏頂面で厳格なおじいちゃんが変に笑顔を作っても、家族は複雑だろうと思う。しわしわでしみだらけなのがおばあちゃんのチャームポイントなのに、それを修整されたらどうだろう。
もっと細かいことを言うと、本人が思う「本人らしい顔」と、家族が思う「本人らしい顔」が同じとは限らないということだ。もし将来、「遺影バンク」に自分で預けておいた写真が家族に「イマイチだよねー」と酷評され、違うものに差し替えられたら……。悔しくて化けて出ると思う。だから、登録の存在を家族に知らせるためにも、皆と相談しながら決めよう、遺影。そうしよう。(小松)
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