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2011年2月22日 (火)

ロシアの横暴/第53回 報じられないロシア国際空港テロの謎(上)

 やっぱり起きてしまった。モスクワ最大の国際空港でのテロ。
 ひところはテロが起きるたびに間髪を入れずに「チェチェンだ、イスラムだ、報復だ」と騒ぎ立てたものだが、今回は不思議なことにプーチン首相みずからわざわざ「チェチェンは関係ない」、と言いだした。過去10年間、事件が起きるたびに、国民のチェチェンアレルギーを刺激しては人気を集めてきたから、変化といえば変化である。
 この首相発言でいつものとおり、「チェチェンがらみ」として動き始めていた捜査陣はびっくりしたそうだ。徹底捜査を命じたメドベージェフ大統領と、早々と「事件は解決した」と言うプーチン首相の見解がひどくちがうことも過去にはなかった。日本の新聞など事件の真相よりもこの「対立」に興味がありそうな雰囲気である。
 プーチンにしてみればチェチェンは完全に安定化した、武装勢力は殲滅した、と宣言した以上チェチェンの仕業とはカッコ悪くて言えないだけのことなのだが。それに安定化宣言の上に勝ち取った冬季五輪とサッカーワールドカップを控えて「チェチェンの仕業」なんて言えるはずもない。というわけで言葉尻が変わっただけでソ連・ロシア流れの隠蔽体質は「全然変わっていない」。

 一方徹底究明を指示したメドベージェフの方は空港の主要職員をクビにしてみたり、賄賂漬け体質を罵ってみたり、ロシア中に手のつけられないブラックホールがあることを白状するような言動が目立った。

 そして数日後プーチン組は「自爆テロを起こしたのは20歳のイングーシ人」と、ご丁寧に顔写真まで入れて自信たっぷりに発表した。チェチェンは関係ないと宣言した以上、帳尻を合わせるためには別の民族を挙げなければならないからイングーシ人としたのだろう。イングーシはチェチェンのとなりで両民族の相違はほとんどない。このことはロシア人なら全員知っているからイングーシ人と発表したところで「チェチェンは関係ない」発表など無意味である。第一人体の破片から両民族を判別することなど不可能だ。
 自爆で木っ端みじんになった人間の破片から年齢や民族まで特定できるほどロシアの鑑定技術は進んでいるとは思えないが、なぜかそれがほんとうみたいに聞こえる(聞こえさせる)のがロシア報道である。そしてそれをそのまま縦書きに翻訳して流さざるを得ないのが日本の報道である。(ついでに言えば外国メディアが取材報道規制をうけていることをおおっぴらに言えないので、仕方なくプーチン首相とメドベージェフ大統領の意見が食い違っているあたりに群がらざるを得ないのかもしれない)
 
 このやり方はテロのたびに繰り返されてきた。
 自爆テロならチェチェン、の図式のもとになったのは、2002年に起きた「モスクワ劇場占拠事件」である。このときの犯人たちは自爆で木っ端みじんになる前に毒ガスで殺されてしまったので全員が紛れもなくチェチェン人であることが世界中に知れ渡った。
 チェチェン鎮圧で人気を得てきたプーチン大統領(現首相)にしてみればまことに便利な事件で、以後いかなる自爆テロでもチェチェンにすればたちどころに解決した。大統領の支持率が何となく揺らいでいるときなど、支持率回復に貢献してきた。

 この図式で騒ぎはすぐにおしまいになる。善良なロシア国民は、ああ、やっぱりチェチェン人か、とうんざりしながら、政府や治安関係者の「テロ対策の甘さ(それはチェチェン弾圧の手ぬるさを意味することも多い)」に不満をぶちまけ、どうか災いが自分のところに降って来ませんように、と神に祈りつつ日々を送ることになる。いつの場合にも被害に遭った人は「運が悪かった」人である。(川上なつ)

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