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2011年2月24日 (木)

アフガン終わりなき戦場/第41回アフガン人と行くアフガンの仏像展(下)

 上野の特別展にはパキスタン出土の仏像も多く置かれていた。その中には彫りの深いパシュトゥーン人顔をした仏像もあった。まるでギリシア彫像の用に写実的で、精悍だ。日本や東南アジアの仏像はふくよかな仏像が多いが、中央アジアでは凛々しい仏像が多いようだ。一言で言えばイケメン顔で、手塚治虫の「ブッダ」に出てきそうな輪郭だ。その多くはクシャン朝(2~3世紀)のもので、大きさや作りの綿密さからいかに巨大な仏教文化が存在したかを思い起こさせる。

 アフガン出土の仏伝図の多くにはカピサ(現バグラム)出土と説明があった。外国軍最大の基地、バグラム空軍基地のある場所だ。今ではそこかしこに地雷が埋まり、外国軍の装甲車が我が物顔で土煙をあげている。人々は食べるものが無く、皆腹をすかせている。幾度も訪れた場所だが、あそこに高度な仏教文化が栄えていてたとは今の現状を見るに想像もできない。それくらい荒れ果てた地域なのだ。

 展示されているバーミヤン出土のレリーフは壁から剥がされ、海外にバラ売りされたものだ。つぶさに見ていくと、その多くは顔の部分だけがヤスリで削り取られている。おそらく内戦中か、それ以前に削り取られたのだろう。仏教徒ではないわたしもこれには閉口した。壁一面に描かれたブッタたちの顔を一つ一つ消していったのだ。削った人間もこれは大仕事だったろうに。そこまでやらなくてもいいじゃないか、と悲しい気持ちになる。バーミヤンの大仏も同様にガズナ朝(11世紀ごろ)に顔だけ破壊された(自然に崩落したとの説もある)。顔のない仏像ほど寂しい物はない。

 2001年にバーミヤンの大仏はタリバンの手によって完全に破壊された。いくら偶像崇拝を禁止しているとはいえ、あまりに酷い所業だ。しかし、遺跡破壊はタリバンだけでなく、ISAF(国際治安支援部隊)によっても行われた。2008年5月3日、NATO軍が不可解なことにバーミヤン仏教遺跡の前で武器を爆破解体。遺跡の一部を吹き飛ばした。西部パキスタンでもタリバン運動は盛り上がりを見せており、多くの文化財は地元の博物館を離れ、別の場所で保管されている。タリバンが収蔵品を破壊すると脅しをかけたのだ。どんな時代でも文化財の破壊はその価値を理解しない武器を持つ人々によって行われる。そこにはアフガン人であるか欧米人であるかは関係が無い。

 しかし、明るいニュースも無いではない。2008年11月にはバーミヤンで新しい大仏が発見された。フランスに拠点を置くアフガン人考古学者ゼマルヤライ・タルジ博士の手によって発掘が進められており、全長19メートルと推測される涅槃像だ。土に埋れていたため、破壊をまぬがれた。玄奘三蔵の「大唐西域記」には全長300メートルにも及ぶ涅槃像の存在が言及されている。アフガン人学者自らの手によって彼らの祖先の偉大な文化遺産を発見される日もそう遠くないだろう。
 
 仏教遺跡の破壊の殆どがタリバンによるものだ。遺跡の多くは異教徒のものでありながら、タリバン登場までその多くが残されていた。破壊を試みたのは一部の狂信的なはね上がりどもであり、一般のアフガン人は祖先の遺産をわざわざ破壊しようなどとは夢にも思わない。

 嘆かわしいことに、貴重な美術品の流出は今現在も続いている。欧米のブローカーがパキスタン経由で多くの歴史的遺産を輸出しているのだ。ブローカーは現地人から二束三文で品物を巻き上げ、日本や欧米の金持ちに高値で売りつけている。そして、貴重な文化財は陽の目を見ないまま個人のコレクションとして隠されるのだ。その原因はアフガン全土を襲う干ばつと飢饉だ。美術品を発掘して売る以外に生きるすべが無いのだ。ここで責を負うべきは愚かな欧米や日本の金持ちどもだ。彼らこそアフガニスタンの文化を破壊している張本人である。また、アフガニスタンの干ばつを放置する国際社会も責任を免れることはできない。

 上野の博物館で公開されている遺跡は、平山郁夫の設立した文化財保護・芸術研究助成財団によって管理・修復されており、アフガニスタンの情勢が落ち着けば美術品を現地に返還するとしている。この特別展は来月6日まで行われているので、可能ならばぜひ見に来てほしい。(白川徹)

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