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2011年1月 3日 (月)

ホームレス自らを語る 第92回 絵心は玄人はだし(後編)/吉田輝夫さん(68歳)

11011  東京・江戸川区を流れる荒川の河川敷に、木材とビニールシートでつくった小屋で暮らしている吉田輝夫さん(68)。川を挟んだ対岸には建設中の東京スカイツリーが望める。
「ここで暮らすようになって16年になる。台風とか集中豪雨で、荒川が増水することは幾度もあったが、この小屋のあたりまで水が寄せたことは一度もない。ここの河川敷は川面より一段高くなっているからね。住む環境としては良いところじゃないの」と吉田さん。
 元々は都内の印刷会社で印刷物のデザインを担当していた吉田さんだが、バブル経済の沸騰期に待遇面に不満があって会社を辞めてしまった。しばらくブラブラしてから、友人が荒川の河川敷に小屋をつくって暮らしているのを見て、「面白そうだ」とその隣に小屋をつくって暮らすようになったのが始まりである。吉田さんが52歳のときのことだ。
「小屋はオレの手づくり。若い頃に建具職人を目指して、職業訓練校に通ったことがあるから木工はお手のものなんだ。幾度も台風の来襲に遭ったが、ビクともしないからね」
 小屋にはドアもあれば、窓もついていて本格的なつくりで自慢するだけのことはある。吉田さんは非常に器用な人だ。いまの生活の資も、ゴミ収集所から拾ってきた壊れた電器製品などを再生させて、それを古物商に卸して稼ぎ出している。
「CDプレイヤー付きラジカセとか、車のバッテリー、エレキギター、それに釣竿なんかの壊れたのを、いくつも拾ってきては、壊れていないところを組み合わせて再生させるんだ。それを古物商に持っていけば、一つ1000円くらいで引き取ってもらえる。貴重な現金収入だよ」
 吉田さんは食事の材料も、ゴミ収集所から拾ってくる。
「ゴミ収集所にはいろんなものが捨ててあるからね。5㎏の米が未開封のまま捨ててあったり、このあいだはM社の“ごはんの素”が30個も捨ててあった。ほら」
 そう言って、吉田さんは「五目ごはんの素」やら、「とり釜めしの素」「麻婆豆腐の素」などをゴッソリと見せてくれた。それに前夜、五目ごはんの素を使って炊きあげたというご飯の残りも見せてくれるのだった。
「これに肉や魚、野菜などの生鮮食品は、例の古物商から得た現金で購入するんだ。これで三度、三度の食事が賄えるわけさ」
 器用な吉田さんは、自ら包丁をふるって食事の調理もこなしているのだ。

 吉田さんの趣味は絵を描くこと。その画材は日本の城郭をはじめ、戦闘機、艦船、帆船などで、それらを超細密に描き、色鉛筆で彩色して仕上げる。玄人はだしの技量だ。
「オレの絵なら売り物になると勧めてくれる人もあるけど、そんなことは面倒臭いからね。絵を売るようになると、1週間で幾枚仕上げるというようなノルマができたりするだろう。それはそれで大変だからさ。気が向いたときに、好きな分だけ描いているほうが気ままでいいからね。それで絵を褒めてくれたり、気に入ってくれた人にプレゼントしているんだ。だから、オレの手元にはあまり残っていないんだよ」
 ちなみに絵の制作期間だが、仕事の合間の制作ということもあって、城郭の絵で2週間ほど、戦闘機のほうは1週間ほどかかるそうだ。なお、筆者もゼロ戦と帆船の絵の2枚をプレゼントされ頂戴してしまった。
11012  さて、河川敷で暮らしていても、台風や集中豪雨による増水被害の心配はないと語っていた吉田さんだが、怖いのは火事だという。それも放火による火事だ。
「オレの小屋には放火されたことはないけど、この同じ河川敷の小屋で2度ほど放火による火災が起きている。新小岩駅周辺にたむろしている悪ガキの仕業だろうと、ホームレスの仲間たちは話しているけどね。オレたちは火事を出さないように、とくに火の元には注意しているんだけど、放火だけは防ぎようがないからさ」
 この取材をしたのは、11月中旬。ススキやカヤ、アシなどの枯れ草が、小屋を隠さんばかりに覆っている。
「小屋の周りが燃えやすい枯れ草ばかりだからね。前にその枯れ草に火が放たれて、女のホームレスが火に巻かれて焼け死んだことがある。これからの季節は、空気が乾いて乾燥する日が続くから、そんなことをされるのが一番怖いよね」
 まさに燎原の火と化す河川敷の様が想像される。そんなことをされないようにと祈るほかない。
 ところで、吉田さんはホームレスをしている友人の暮らしぶりを見て、「面白そうだ」と自分もその隣に小屋を建ててホームレスの生活を始めたということだった。その友人はどうなったのか。
「死んだよ。オレがホームレスの生活を始めて、2、3年した頃かな。いつもはオレより早く起きてるいるはずなのに、その朝の彼の小屋は閉まったままで、声をかけても返事がないんだ。咄嗟に『何かあった』と思い、鍵を壊して中に入ってみると、彼は布団の中で死んでいたよ」
 おそらく夜のうちに心臓発作か、脳卒中ででも起こしたものと思われる。
「それで警察を呼んで検死が行われ、彼の遺体はビニールの袋に入れられ、一人の警官がそれをズルズルと引き摺っていってね。まるで物扱いなんだ。いずれオレも同じように死んで、同じように扱われるんだと思った。野垂れ死にだよね。だが、それでも構わないと思っている。オレの血液型はB型だからさ。その辺は潔いんだよ」
 少し湿っぽくなった話の締めくくりに、吉田さんはそう言って笑った。どこまでも向日志向の人である。 (この項了)(神戸幸夫)

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