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2011年1月27日 (木)

ロシアの横暴/第52回 当局お気に入りの反体制派!?(下)

 そんな疑問が持ち上がっている最中に、疑惑をだめ押しする小さな事件が起こった。12月31日、いつものとおりアレクセーエワ女史が主宰する人権擁護団体の集会が開かれたが、その会場で、同じく人権活動家であるネムツォフ元第一副首相が逮捕されてしまった。逮捕といっても15日間のブタ箱入りといって軽犯罪の部類で、酔っぱらって路上で寝ていても、カミさんをぶん殴ってもやられるくらい一般的な逮捕である。逮捕の理由は公式には「集会のとき警察の警告を無視した」となっている。だが、この集会は毎月末に開かれているから、警察の警告を無視するのは毎度のことのはずだ。ほんとの理由はほかにある、とカフカスセンターが配信した。いつも口汚くロシアを罵り、チェチェン版大本営発表の源であるあのカフカスセンターだ。このサイトの言うことだから、大半はガセと思っていると時々損をする。

 それによるとネムツォフ氏が主宰者アレクセーエワ女史と口論をしたからだという。実はこのサイトはかなり前からクレムリンとアレクセーエワ女史はつながっている、と折に触れて流していた。そう言えば2月ほど前にも、拘束されたところで半日以内に無罪放免になる反体制活動家、と嫌みっぽい記事を載せていた。 
 ネムツォフ氏が15日間のブタ箱入り、という記事を読んだとき、それまでの疑問が一気に解けた。

 先般紹介したアンナ・ポリトコフスカヤ著『ロシアン・ダイアリー』のなかにアレクセーエワ女史が参加する「全国市民会議」なるものの集会の様子が手短に述べられている。
「主催者は(アレクセーエワ女史ら数人)幹部席にすわり、プーチンに対するいかなる批判も過度であるとしてひねり潰す・・・・(略)・・・ひな段に陣取る面々はいつもと同じ顔ぶれで、会議を単なる雑談の場にしてしまった。それぞれがお山の大将になりたいのだ。」 
「全国市民会議の運営委員会が開かれた。もっとも重要な人物はだれかという不毛な討論で終わってしまった」
 しかもアレクセーエワ女史は「市民社会の人材と育成に関する大統領諮問委員会」のメンバーで、彼女の言うことにはプーチンが耳を傾けるとされているらしい。プーチン批判はどれも過度である、とひねり潰すのも頷ける。 
「市民会議はあんまり期待できない」とアレクセーエワ女史も認めている。じゃあなぜ時間を無駄にするの、というポリトコフスカヤの質問に対しては「だって、わからないじゃない。うまくいくかもしれないもの!」

 たしかに女史は引退インタビューのなかで  「この国の人たちは日々の暮らしに追われ、自由や権利を勝ち取ろうとしてこなかった。でも、今はソ連の呪縛(じゅばく)から逃れ、自らそれを手にしようという大勢の若者たちがいる。彼らがこの国を変える。十年か十五年か、私は見られないかもしれないが、そんなに遠い未来じゃない」(『中日新聞』2010年10月25日)と語っている。どうやら楽天的な女性のようだ。ロシアの国民が日々の暮らしに追われ自由や権利を勝ち取ろうとしないのは今も同じである。ロシアを変えようとする若者など皆無に等しい。いや大多数の若者たちは変えたくてもできないのだ。プーチン大統領公認の委員会で雑談をしていてはそんなロシアの若者たちの姿は見えまい。

 そういえば女史は将来を案じて一緒に亡命した二人の息子を米国に残して93年にロシアに帰国している。息子たちはもう若者とはいえない世代としても、自分の息子や孫たちには、ロシアの未来を担わせたくないのだろう。自分には大統領も一目置いている・・・自分は人権擁護活動を長くやってきた・・・などなど幻想に近い思い上がりが女史を支えているのだ。その思い上がりがプーチンに便利に使われているだけのことである。インタビュー記事などを読めばわかるとおり、彼女の発言は何の迫力も説得力もない、思い出話に毛の生えた程度の自伝的武勇伝である。(川上なつ)

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