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2011年1月22日 (土)

ロシアの横暴/第51回 当局お気に入りの反体制派!?(上)

 どこの国でもそうであるが、市民派、とか反体制といえばそれだけで何となく「すごいヤツ」の評価を得るようだ。まして、共産主義の独裁から抜けだした(と思われている)あのロシアで命がけの反体制活動をやるのはどんなに勇敢な人たちなのだろう、と羨望や尊敬が入り交じった賛美のことばを送られる。
 こうした十把一絡げのものの見方は、知らないうちに思いがけない落とし穴にはまる可能性がある。

 昨年の秋に、ロシアの有名な人権擁護団体であるモスクワ・ヘルシンキグループ の長老、リュドミラ・アレクセーエワ女史が活動の一線から退くことを表明した、と日本の新聞のいくつかが報じた。アレクセーエワ女史と言えばプーチンの強権政治の中でも毎月末に小さな集会を開くなど地道に活動を行ってきたことで知られている。これらの新聞記事を繰ってみると引退インタビューは彼女の経歴を自己紹介するようなかたちですすめられた模様である。
 そのなかの経歴紹介にどうも不思議な供述が2、3ヵ所あった。

 それによると女史はソ連共産党のエリート評議員だったが、1968年にある人物の擁護署名を提出したことで、党から除名され、勤め先も解雇された。もっともこれはソ連ならばごく当たり前のことで驚くにはあたらない。そのあと1年半の失業期間を経て再就職することになったところが驚きである。この当時、反体制活動で職を追われたエリート党員が再就職する先は公衆トイレ掃除婦か、うまくいって警備員ぐらいである。収容所か精神病院に押し込まれなかっただけありがたいというものだ。それなのになぜかアレクセーエワ女史だけはソ連科学アカデミー情報科学研究所の編集員として再就職している。ここがまず大きな謎である。

 76年に人権擁護団体モスクワ・ヘルシンキグループ を立ち上げると国家保安委員会に踏み込まれるなど弾圧を受けるようになったそうだ。これもソ連ならば当然至極である。不思議なのは、一緒に活動していた反体制活動仲間の2人は逮捕され、特別囚収容所に7~8年放り込まれることになったというのに、女史は同じく反体制活動家である夫と二人の息子とともに、つまり一家をあげて翌77年、ソ連人憧れの的である米国に出国した。米国での職がまた驚きである。ソ連向け反共放送のスタッフだ。この出国劇が二つ目の謎である。
 「ソ連向け反共放送」のスタッフになりそうな人物を家族ぐるみ出国させるほどソ連も愚かではないと思うのだが。

 ちなみにこのころはソ連からの亡命ブームで海外公演の隙をついて亡命する芸術家やスポーツ選手があとを断たなかった。そんなとき反体制グループの旗手が外国に、それも冷戦相手の米国に出国できたのは奇跡としか言いようがない。インタビューでは「夫とふたりだけならまだしも、二人の息子のことを考えるとそうするしかなかった」と、女史はインタビューの中で語っている。これなら「米国に脱出したければ子供をつれて反体制活動をすればよい」と政治風刺小咄すら出てきそうだ。

「国際的批判を気にして政権は私に手出しできない」アレクセーエワ女史はそう言っている。たしかにそうらしい。しかし、政権がこの老婦人に手出ししないのは「便利に使える」からである。ロシアでは人権侵害がおこなわれているとか、集会や発言の自由がないなどしょっちゅうやり玉に挙がっているが、そんな国際社会の批判に「名うての反体制派が自由に活動しているじゃないか!」と反論できる。
 自身が主催して開いてきた毎月末の小さい集会の都度、こづかれたり、引っこ抜かれたり、罵声を浴びせられたりしたとのことであるが、そんな程度で済むのがヘンである。本物の反体制活動なら2度と集会は開けない。生きて帰れるかどうかもわからない。おそらく女史本人は気がついておらず、単に自分がエライからだ、と信じているに違いない。

 高齢だから見逃してもらっているのでは、という見方もできる。しかし、高齢だろうが少女であろうが、「有害人物」は消されるのがこの国の相場だ。
 高齢だから、いわゆる痴呆が始まっていて自分がだれだか何をやってきたのかよく思い出せないのかも知れない。しかし、共産党の評議員だった人物が体制批判を始めたのに、収容所にも送られず、精神病院に押し込まれもせず、家族そろって米国へ出国したことを本人のみならず、マスコミも認めているのだからまさか「老齢による幻想」ではないだろう。(川上なつ)

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