OL財布事情の近代史/第17回 ノーリスク・ハイリターンが当たり前!80年代中盤OL
連載「OL財布事情の近年史」は、2013年12月に単行本『女と金~OL財布事情の近年史~』として発売されます。
各年代のOL像を、イラストを交えて解説する辛酸なめ子さんのプチ時評つき。辛酸さんには、カバーイラストも描いていただきました。
エピローグには最新の女性誌お財布事情が書き下ろされ、女性誌創刊号の画像50数点を掲載。30年ぶんの「OLの財布の中身」が一気に見える本となりました。
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アフターファイブ、何それおいしいの。と言われそうな昨今。担当さんが探してくれたデータ(住信SBIネット銀行株式会社「アフター5 に関する調査」。2010年8月、有効回答数1,211 人)によると、20代〜40代の会社員に聞いたアフター5の過ごしかたでは、86%が「まっすぐ帰る」でダントツである。理想の過ごしかただって、「スポーツ」42%に次いで、37%が「まっすぐ帰る」。理由は「仕事で疲れているから」(49%)、「お金をあまり使わないようにするため」(37%)など。働けど働けど金はなく、家でじっとする平成サラリーマン。うわーん。「おしゃべりして、ゴロゴロしてるなんて、意識低い!」と怒られていた80年代はなんと贅沢だったことでしょうか。
金もヒマもあるけど、仕事に邁進するわけでもなく、意識もあんまり変わらないように見えた80年代中盤OLだったが、実はお財布に関して、この頃急激な変化の兆しが現れる。84年後半頃から女性誌に登場し始めた記事のテーマ、それは「貯蓄」である。
『ウィズ』84年1月号「〈虎の子100万円〉をどうするか!?」、85年3月号「コンピュータで診断 300万円貯める早道」、『an・an』84年11月号「10万円貯めよう」など、貯めるためのハウツー企画が目白押し。『ウィズ』84年1月号では、OLさんが貯蓄体験を語っているのだが、驚愕して二度見、三度見したのが次の一文である。
「コツコツ貯めたところで、五年で元金の一・五倍程度でしょ。」
1.5倍ですと? 動揺しながら計算してみると、年利8.45%となった。えええ?そんなによかったでしたっけ? 動悸が早くなりつつ金融商品の解説記事を見ていくと、「一ヶ月複利で増えていく中期国債ファンド」「金利が七%前後と低いなら、ビッグで金利が上がるのを期待せよ」「ハイパックの十年ものが一番です。年利回りは一一.〇七パーセントで、今100万円を預けると、十年後の満期時には210万7000円にもなります」。××!思わず呪詛の言葉を吐きそうである。書きたくはないが今の預金金利、普通預金0.02%、スーパー定期5年もの0.085%。100万円を定期に預けて5年後、100万4257円である。××!
気を取り直してOLインタビューを見ると、当時の状況がなんとなく見えてくる。先の一・五倍発言の29歳経済調査所勤務OL、預貯金を通り越して株を始めたのは三年前、「上司が株をやっているのを見聞きして、知的な遊びで、ガッポリ儲けられるなら、こんないいことはない、と思ったから」で、失敗しながらも「一年で二倍の儲け」をあげている。28歳TDK勤務女性は、就職してから毎月2〜3万円定額貯金に入れていたが、旅行のために「普通預金に入れて放っておいた」ことがあとからもったいないと思い、結婚のために辞めたときは退職金を中期国債ファンドに預けた。「100万円預けると、五ヶ月で102万円ぐらいになるっていうのは、すごいウマ味でしょ」と得意げだ。貴金属輸入販売会社勤務29歳は、結婚後のマンション購入に向けて「小金が100万円以上たまって、五年後に、というスケジュールが決まったとき、ふと考えたんです。五年間でふやす、最も有利な手はないかって」。で、「100万円が五年後には144万円ぐらいになる」ワイドを選んだ。
給与に余裕があるから毎月貯蓄に回し、数年働けばまとまった額にもなる。そしてふと気づけば世の中高金利時代、有利な金融商品があふれている。目に見えてお金が増えていく楽しみもあり、貯金=美徳という免罪符もある。さきほどの株OLの言葉を借りれば「知的な遊び」である貯蓄が、当時のOLにピタリとはまってしまったのだろう。
これ以降昭和の終わりまで、OL財布はマネーゲームの道具として盛り上がっていく。最近、伊達直人現象や祐ちゃん人気の共通点が「昭和な気分」というような記事を見かけたけど、そんな美しいばっかりの時代じゃあなかったよ、昭和。(神谷巻尾)
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