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2011年1月12日 (水)

鎌田慧の現代を斬る/第146回 軍備増強、財界ベッタリの菅政権

 明けまして、おめでとうございます。
 新年は明るい話をすべきなのですが、「めでたさも 中くらいなり おらが春」と一茶が謳ったように、今年は「めでたくもあり、めでたくもなし」の中途半端な正月になっている。これは政権交代にかけた期待が、1年たってパッとしない、2年目に入ってますます色あせ、2回目の正月を迎え、さてどうなるかと強まる不安感に依っている。
 すでに菅政権は、どれだけもつかという瀬踏みの段階となった。有権者の失望は深い。その要因の1つは、市民運動出身である菅直人首相が、この国をどうするのかといったビジョンをまったく示さないことだ。
 今年の大きな問題の1つは、沖縄の普天間基地の「移転」である。菅政権になって防衛問題でのタカ派ぶりが目立っており、普天間問題もそれと相呼応する形となっている。12月中旬に沖縄を訪問した首相は、辺野古への移転を「ベターな選択」と発言し、沖縄の人たちをがっかりさせた。ベストではないがベターであるとは、沖縄の人たちからの発想ではなくて、為政者のものだ。すなわち菅内閣あるいは米政府にとっての「ベター」でしかない。市民運動出身を標榜してきた菅の立ち位置が、市民の側ではなく、米政府や日本の財界の価値観を体現していることが、この発言からもわかる。
 さすがに保守派の仲井真弘多沖縄知事も「沖縄側の感覚は県内移設はすべてノー。セカンドベストやベターという話でなはく、バッドだ」と強く批判。首相が沖縄の現状を、「勘違いをしている」と不快感を隠さなかった。
 一方、政府も黙ってはいなかった。この会談のあと防衛省は、名護市への支払いを保留していた交付金、09年度の繰り越し分と10年度分となる約15億9000万円の支払いを凍結した。この交付金の中には、12年度開学予定の小学校敷地の整備費まで含まれていたというから穏やかではない。兵糧攻めである。その一方で沖縄県に膨大な資金を投じる振興策をちらつかせている。自民党政府とまったくおなじ対応だ。
 沖縄県民は県知事以下、圧倒的多数がもう基地は県内にいらないと主張している。だから、もはや県外で探すしかない。それでも県内に持ち込むというのは、もはや強盗政治でしかない。
 さらに菅政権は「動的防衛力」という構想を打ち出した。閣議決定された新防衛大綱によれば、「動的防衛力」とは機動性や即応性を重視するものだ。これまでの自衛隊は「基盤的防衛力」を標榜し、抑制的で静的な抑止力を目指してきた。しかし、今後は「仮想的」の脅威に対応しつつ、情報収集や警戒監視、偵察活動などの平素の活動も強化するという。
 これは兵力を動かしての防衛といえる。憲法では「武力による威嚇」を認めておらず、専守防衛が国の基本方針でもある。しかし動的防衛力は、この「武力による威嚇」に該当しており、専守防衛の枠組みにも収まらない。明らかに一歩踏み出している。防衛の概念が質的に変わったといえる。
 この変化を端的にあらわしているのが、大綱に書かれた潜水艦の数である。現在の16隻から22隻にふやす計画だ。潜って姿の見えない潜水艦は攻撃なしに防衛することはできない。またミサイル防衛(MD)に使うイージス艦についても4隻を6隻にふやすとされる。
 こうした増強計画は、空母を建設するなど、海軍力を強める中国に対抗すべく練られたものだ。しかしお粗末な外交の裏側で、軍備競争が激化するなど、かえって日本の危険を高めるばかりである。
 また新防衛大綱の話し合いでは、武器輸出三原則を見直す意見が政府内に噴出したことも報じられている。世論の批判が巻き起こって見送られたが、武器の国際共同開発・共同生産の必要性を訴えての見直し論は根強い。自民党政権でさえ着手できなかった見直しに、菅内閣が軽々しく手をだそうとしているのは驚くべきことだ。
 この姿勢の裏側には、財界の要求がある。武器輸出をしないと技術力が進まない、と三菱重工などの防衛産業は主張しつづけている。そうした圧力の中、MDでは米国との共同開発が実現してしまった。
 現在、共同開発したミサイルを第三国に移転可能にする基準の策定に、菅政権が着手すると発表されている。2006年の米国との取り決めでは、日本の事前同意なしに米国が第三国に移転できない「厳格な管理」が課されている。しかし現在は「厳格な管理」の内容は明確になっていない状況だ。武器輸出3原則の例外であるMDの移転基準を定め、第三国移転が行われれば、MD以外でもなし崩し的に武器輸出を認めることになる。
 もともと民主党の防衛政策は、前原議員などのタカ派からハト派までの議員によっていて、護憲とはいい難い。しかも党員には大企業労組の出身者が多い。政権取得後に防衛力の増強に力を入れはじめたのも、財界と一体化した大労組の意向でもあるので、不思議ではない。
 昨年10月には企業献金を再開している。さらに昨年12月には、企業減税を打ち出した。これも自民党ではなかなか実現できなかったことだが、あっさり手をだした。
 菅首相は今回の企業減税について、「正社員の拡大につながり、総合的に格差が是正される」(『毎日新聞』2010年12月17日)と語った。また、経済産業省も企業減税が国内総生産を2%以上押し上げ、121万人の雇用につながると政府を後押しした。ところが、経済界は首相に対して雇用増の約束を拒んでいる。
 企業は正社員の雇用をどんどん削って利益を高めてきた。それを規制しないで法人税だけ下げても雇用につながる保障はまったくない。不安定雇用を規制する法律をつくり、雇用を守る企業に資金を提供する政策にしないと意味がない。
 しかも懸案の労働者派遣法の改正案はいまだ成立の見通しが立っていない。その一方で派遣業界からの反撃もかなり激しくなっている。11月30日には日本人材派遣協会が新聞に一面広告を掲載した。見出しは「派遣だから、幸せになれた。」だった。「現在の労働者派遣法改正案は、派遣社員の就業機会を大きく損なう懸念があります。派遣社員が希望する働き方を選択できる社会にするために、事実に基づく冷静な議論を尽くし、わかりやすい法制度とすることを提案します。」とも説明が書かれている。さらに顔写真付きで派遣で「幸せになれた」実例が、3件紹介されている。
 広告に取り上げられている人たちのように、子育てと仕事の両方をにらみ、派遣を選ぶ人もいるだろう。しかし、これはごく少数である。少数の意見を拡大して取り上げ、安定化と社員化を願う人の願いを踏みにじるのは、あくどい。
 この広告には正社員になるために派遣社員を選んだという女性も登場する。人気のない方を主張するいわゆる「逆張り」だ。しかし正社員で条件に合う会社が見つからなくて、仕方なく派遣社員となり、半年後に念願の正社員となったと書いてある。なんのことはない。初めから正社員としての募集があれば、不安定就労に半年も就く必要はなかったわけだ。企業も派遣制度がなければ、最初から正社員を募集していたであろう。
 恒常的に雇用することもなく、そのときどきの必要に応じて必要な人員をピックアップして採用できる企業側の論理で動くのが派遣制度である。広告が謳う「派遣社員の就業機会」をふやすとの論理は、社員をどんどん企業から引きはがして派遣にすれば、こま切れの仕事がふえるということだ。しかし、ふえた仕事とはまったく安定した仕事ではない。流動化した不安定就労だから、なんの保障もない。船から放りだして、勝手に泳いでいろ、そっちの方が自由に泳げるだろうという理屈だ。
 財界は派遣を正社員化するなら、企業がどんどん海外に逃げていくと主張する。しかし、この論理にもウソが含まれている。そもそも企業の海外進出は容易ではない。まず多額の設備投資をしなければならない。土地を買い、設備を整え、現地労働者の教育の中心を担う社員を現地に住まわせるのには、莫大な費用がかかる。しかも文化の違いもあって、日本で成功した生産方式が通じるとは限らない。また日本人ほどの滅私奉公の精神はないため、条件が悪ければいっせいに辞めてしまうし、引き抜きに弱い、というリスクも抱える。結局、企業にとって都合のよい派遣制度を温存すべく、海外移転するぞ、と脅しに使ってるだけだ。(談)

全文は→「1101.pdf」をダウンロード 

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