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2010年12月 4日 (土)

冠婚葬祭ビジネスへの視線/書評『無縁社会』無縁死、こわい?

9784163733807_2  今年1月以降、NHKの特番が次々と取り上げ、日本に広めたテーマ。それが「無縁社会」だ。ーーなどとしらっと言い切っているが、日常生活においてテレビを一秒も見ない小松には何のことやら。しかしネットでこの番組のことが話題になり、「孤独死が怖い」「明日の自分を見るようだ」とみなさんがおっしゃっているのは多く目にしたので、孤独死が怖いのは処理するこっちのほうだよと悪態を吐きそうになりながら買ったのが『無縁社会』(NHK「無縁社会プロジェクト」取材班、文藝春秋社刊)。この厚みで1400円(税込)は安い! と喜びながら買って読んだ。引き込まれ、あっという間に読了してしまった。

 第一章は行旅死亡人の追跡について。いわゆる行き倒れとか水死とかで亡くなって、発見されても所持品等からは正体が不明な方のことである。そういう人については官報が発表し、ネットでも公開している。私自身には行方不明の身内などいないが、パラパラ繰っていくと、不謹慎なのを承知で言えば、面白い。死んでも誰も騒いでくれない人というのがいるのだ、それもたくさん。
 取材班は聞き込みを通じて1人の行旅死亡人の正体に迫ってゆく。アパートの大家からの聞き込みや資料からの特定といった捜査の手腕、どこへでもゆくフットワークの軽さなどは読んでいて惚れ惚れするほどだ。読者の方々には、ねばり強く聞き込みをすればだんだん分かってくるのなら、どうして警察は何もしないのかと思う向きもあるだろう。行旅死亡人の追跡をヤンワリとしかしないのは、それをしたところで得をする人が誰もいないからだ。生き別れになった父親が生きているという知らせは聞きたいかもしれないが、行方が分かっても亡くなっているならどうだろう。「聞かなきゃ良かった」っていう人も多いだろう。どこかで幸せにやっていると夢想しているままの方がどんなに幸せか。しかも火葬料金を支払わなければならないかもしれないし、ヤバいところから借金してるかもしれない。時には調べない勇気、好奇心を抑える勇気も必要である。

 第二章は孤独死のあと遺族から「引き取り拒否」をされる遺体について。第三~五章は頼れる人のいない単身者の老い支度についてなど、孤独な中で人生の終焉へ向かう人々についてのドキュメンタリーが続く。ネットでの反響を掲載しているのは第六章「若い世代に広がる“無縁死”の恐怖」だ。番組への感想がツイッター上に多数載せられ、その一部の人々にはインタビューをしている。30代にさしかかり、未婚の兆しが見えてきたおひとりさま女子や、「若いうちは1人の方が気楽だけれど…」とこぼす38歳の男性など、まだまだ働き盛り、死とはそれこそ無縁に見られる世代が悲痛なつぶやきを寄せている。
 「無縁死がこわい」。それは1人で苦しみながら死ぬのが怖いのか、遺体が腐り果てるまで見つけてもらえないことが怖いのか。どちらもたいした怖さではない。自分の死を悲しんでくれる人のいないことに対する恐怖。それは、自分の今日生きていることを喜ぶ人が誰もいないことに帰結する。だから、「今」怖いのだ。

 上野千鶴子の『おひとりさまの老後』(法研)では、気の合う女友達とわあきゃあ言ったり、場合によってはいっしょに住んだりしながら楽しむ老後が提案されていた。香山リカの『しがみつかない死に方』(角川新書)では、「ハッピー孤独死マニュアル」を提唱するほど、成熟社会において孤独死という事態がなんと自然で幸せかと前向きに書かれていた。でもそれはお友達が沢山いて家族からもそっぽ向かれてない裕福なシングル女性の言い分だよね。上のような根源的な不安には答えてくれないよね。と、30代無縁女子はボソボソつぶやく。その不安に真っ向から向き合えるのは、他ならぬ30代である。ちょっと前まで「コミュニケーション不全のワカモノ」と呼ばれていた、今はオトナの私たちである。暗い私たちには、暗い対処法がきっとある。ひとりずつながら、いっしょに模索していこうじゃないか。そんな風に思える本だ。

 ちなみに腐乱死体になるのこそが怖いんだというみなさん、死んだ後は誰に迷惑かけようが自分は何も感じません。生きてるうちの不安をしっかり取り除いてから、そっちの対策を立てて下さい。(小松)

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