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2010年9月 2日 (木)

ロシアの横暴/第44回 スターリンも青ざめる専政君主ラムザンの愚かさ(2)

 しかし10日間の市内清掃と学年末受験資格とを引き換えにするという、まだかわいいレベルの政令のほか、恐怖政治に直結するのが出された。
 20才すぎても結婚しない女性は大学生なら退学、就労中なら解雇。なぜなら女性の天職は子どもを産んで育てることであり、天職を全うしない者は非国民という論理である。
 では大学や職場を追っ払われても結婚しなかったら、できなかったらどうなるのだろう?
 出したばかりの政令だからそこまでは考えていないのか、それともカディロフ令に従わない者はあり得ないから特に罰則はないのか。でもラムザンなら20才過ぎた娘を嫁がせないダメ親には何らかのお仕置きをやるだろう。これは市民権剥奪につながる実に恐ろしい政令である。現在は職がなく無収入期間が長ければわずかな生活保護費みたいなものを一定期間受け取ることができるが、その申請資格がなくなる。もちろん、仕事も学業もなくなるのだから、羽根をもがれた小鳥同様、何もできない。
 ところが市民権とか、生存権とか、ナントカ権とは何か、いわゆる人間の権利について何の関心もないのがカディロフ大統領だから始末が悪い。人権侵害とは何のことだかわかっていないのだ。
 「政令」からややはずれるが、チェチェンの就職関連情報として、これまた不思議な、通常の感性では理解できない、独特のシステムがある。採用されるためにまとまった額の「カネ」を支払うシステムである。賄賂といえば賄賂だが、それにしては堂々としすぎている。そして職場職種の安定度に従ってその金額はハネ上がる。
 大学の入学や卒業資格を金で買えるのは今や旧ソ連諸国の常識になっているが、就職をするのに金を払う国はチェチェン以外どこもない。今後何年間かに受け取る予定の給与はなんのことはない、もとはといえば自分が前払いしたものである。
 もっともこのおかしな慣習はラムザン公の政令ではなく、どちらかといえば国民が自主的に積み上げていったという色合いが強い。「人事関係局」にすわったラムザン公の親類縁者である係員が、堂々とあからさまに何事にも賄賂を要求する、という慣習を作り出したことは確かだが、それに応えて自分だけは他の人よりも安定した職を得たい、と思う心が賄賂の相場をつり上げていったからだ。チェチェン人の誇りを捨ててでもそうせざるを得ないのが戦争である。
  
 またこれは政令ではないが、あるとき若者に携帯電話を配布するという得体の知れないキャンペーンがあった。携帯番号を取得するにはそれなりの金と手間と手続きが必要だが、これがすべてタダ同然でしかもさっさと配布されるというのだ。青年たちは喜んだが、ソ連時代を経験している大人たちはふるえ上がった。当たり前のことだが、携帯番号取得にはパスポート登録が必要だ。最近の携帯電話はすべて衛星回線を使うため、居場所を突き止めることも簡単である。携帯を使ってどこかの誰かとおしゃべりし、不用意に「反体制」的なことを口にしたら、居場所が特定されるだけでなく、どの登録番号の、つまり誰の携帯電話なのか容易につきとめられてしまう。もしつきとめられたら反体制を口にした本人だけでなく、すべての親類縁者まで粛正される。こんなことは恐怖政治で有名なヨシフ・スターリン公だってやらなかったというから恐ろしい話である。
 平清盛公統治のころ、「かむろ」という少年スパイが町中に配置されていた。子どもが正直なことを利用したもので、立ち話でうっかり平家の悪口を言おうものならたちまちのうちに拘束され、消されるという恐怖政治が行われた。現在のカディロフ政権は「かむろ」のかわりに携帯電話を使おうとしている。

 カディロフという愚か者をチェチェン大統領に据えたのはプーチンである。プーチンの思い通りにロシアを統治するには、チェチェン人同士食いあうことが必要で、それには「はだかの王様ラムザン公」がうってつけだったわけだ。父親アフマド・カディロフは「愚かさ不足」で不適任だったから、ロシアが反カディロフ派のテロにみせかけて爆殺したという噂も充分頷ける。
 
 だがここでひとこと、警告しておきたい。「はだかの王様ラムザン公」はよその国のこと、前世紀の遺物と、傍観していてはいけない。ここでヤリ玉に挙がった恐怖政治と大して変わらないことを日本でもやっているからだ。「不審尋問」のノルマ達成のために、ちょっと崩れた雰囲気の青年に不審尋問をし、何が何でもしょっぴこうとするオイコラ警察がいることを知っていてほしい。ある日公安調査庁が「じゃ、割り出してみようか」と思えばたった今から「政府に逆らう輩」を割り出せるようになっている。その精度には「愚かさ」も手落ちも情状酌量もない。(川上なつ)

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