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2010年8月 2日 (月)

アフガン終わりなき戦場/第38回 お呼ばれしたら王様気分で!?

 他人の家に来て、ホストの前で寝転がるというのは始めての経験だった。私が少し困った顔をしていると、彼は朗らかに言う。
「これで私もくつろぐことができます。では私も横にならせてもらいます。お互いカブールからの長旅で疲れましたから」
 そう言うと彼はキキッと悪びれずに笑った。彼の下の兄弟の一人が灰皿を持ってきた。どうやらマホメットは私がタバコを吸うだろうと思い、前もって兄弟に灰皿を用意させていたようだ。マホメットが、さあ吸って吸って、と急かす。まあ、そう仰るなら、と日本から持ってきたマルボロを一本取り出す。彼に一本どうだと薦めると、彼は客人の前でタバコを吸うことはできないと固辞した。

 私もアフガン人の家にやっかいになっとことは何度もあったが、ここまで「王様扱い」されたのは初めてだ。マホメットは待っていましたとばかりに理由をしゃべりだした。誰でも自分の文化を話すときはうれしそうな顔になる。
「では、白川さん説明します(オホン)。アフガニスタンに『客人は神から贈り物』という言葉があるのは知っていますね。その通りなんです。ですので、私たちは門に鍵なんてかけたりしません。例えば見知らぬ誰かが家に入ってきたとします。『あなたどちら様?』なんて無粋なことはお聞きしません。何も言わずに『よくいらっしゃいました』と客間に通し、お茶と食事でもてなします。もちろん、日が沈めば『どうぞお泊りください』と申し出ます。私たちのいる部屋は当家で一番立派な部屋です。こちらでくつろいでいただきます。そして朝になって朝飯をともにしながら、そこではじめて『どちらさまですか?』と聞くことができるのです」

 私は素直に驚いた。
「それは今でもやれているんですか?治安は最近すごく悪いし、大丈夫なのかな?」
 マホメットは少し悲しそうな顔をした。
「私の家では大丈夫ですが、もうカブールでは無理でしょう。タリバン時代中は、少なくとも治安は良好でしたので、アフガニスタン中でそうでした。私はカブールに仕事でよく行くのですが、いつもアポ無しで親戚の家にとまりに行きます。その家もなかなかの名家ですが、門のドアはいつも硬く閉ざされています」

「タリバン時代のことを懐かしく思っている人が多いように思うんだけど、あなたもそう思う?」
「さあ。ただ治安がよかったことだけは確かでしょう」
 マホメットは少しとぼけた顔をした。迂闊には話せない、という顔だ。彼も含めて、アフガン人はアフガニスタンの文化に誇りを強く持っている。タリバンは暴力的であったが、その暴力性によってアフガニスタンの治安と文化を保護していた。

「タリバン時代は盗みをすれば即腕を切り落とされます。だから泥棒なんてほとんどいませんでした。けれど、今は皆ポケットを守るように歩きます。今の政権も盗みには厳しく当たるべきです」
 盗みをしたら腕を切るというのはイスラム法で定められている。けれど、今のアフガニスタン政府がそのような法律を成立させれば、欧米諸国からの反発は必至だろう。たぶん、そうはならない。私は失礼だと思いながら、尋ねてみた。

「けど、泥棒をしたら腕を切るなんて暴力的じゃないのかな? 貧しくて、盗みをしなければ生きていけない人たちもいるんだと思う」
「もちろんそれは分かります。街中で盗みをするのは殆どが家の無い子供たちです。タリバン時代はマドラサ(神学校)がそのような子供たちを保護していました。けれど、今はマドラサという存在自体がタリバン養成所のように思われ、活動できません。ああ、でも私はタリバンを支持しているわけではありませんよ。ただ、そういう面があったというだけです」
 もしかしたら彼もタリバン時代が懐かしいのかもしれない。けれど、それは責められることじゃない。タリバンはいわゆる「近世」の考え方をもった集団だった。彼らには彼らなりの秩序があったし、それで安定もしていた。私たちの尺度では測れないことも多い。ある文化を「遅れている」と否定することは簡単だけれど、人の文化を自分たちのものと違うからおかしい、という人間側の文化レベルも底が知れている。

 私はやはり気が引けるし、自由に振舞えと言われてもできないので、翌日ホテルに移った。別れ際にマホメットが客人を歓待する文化のカラクリを教えてくれた。
「こうやって客人を泊めると、近所の人たちから尊敬を得られるんです。だから別れ際もちゃんと門の外までお送りするのです」
 ちょっと意地悪そうな顔をして彼はそう教えてくれた。日本の昔の富豪と似たような発想だ。でも、それを教えてくれるところがアフガニスタンらしくて、サッパリしている。
 ただ、家を出て行くときは車で移動することになった。治安のことを考えて用意してくれたのだ。これでは近所の人に見せられない。
 だから平和になったときはアポ無しでぶらっと彼の家にまた逗留したいなあ。(白川徹)

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