編集者の覚書『三重苦楽』発売から1ヵ月
大畑楽歩さんの著書『三重苦楽』が発売されてから、およそ一カ月がたちました。
思えば、「脳性まひの方が書いたものだ」と聞いて拝読しはじめた原稿。言語障害や身体障害があるが故に体内に閉じこめられた表現が、パソコンを通じてこんなにも開花するものかと感動に打ち震えたものです。
筆者に「脳性まひ者」という属性があるからではなく、まずは文章能力によって、「この原稿を本にしたい」と強く感じました。ユーモアに溢れた筆致で、決して楽な道のりではなかった自分の人生を楽しくせつなく描いており、根底には、人間の自立という普遍的なテーマが流れていました。さらに読後、「脳性まひ」について全く知識のなかった人も、確かになんらかの興味が生まれるような原稿であり、自伝なのに「上手い」のです。
その後いく度となくメールをやりとりするようになり、その返信の早さに「この人は本当に障害者なのか!?」と疑ったことがあるほどです。
しかし、原稿を読めば分かる。楽歩さんは、力を振り絞ってパソコンに向かい、なかなか自由にはならない指で、しかし集中してキーボードを打っているのです。その事実を裏付けるだけの切ない努力が、幼少期からの厳しい訓練が、私の目の前にこれでもかと積み上がっていました。
「生きるためだけに生きてきた幼少時の訓練期は、私にとって意味があったの?」
「こんなに辛い思いをして、残ったのは普通の人より早く関節にガタが来る二次障害。あのとき、私が自主的に訓練をやめなければ、どうなっていたの?」
「自分で幸せを選んで歩いていくことがどんなに大切か、それを皆に伝えたい!」
楽歩さんの思いを、1ミリも濁すことなく伝えたい。
それだけを考えて作らせていただいたのがこの『三重苦楽』です。
この本のテーマは2つあります。
1つめは、「ある脳性まひ者の結婚・出産・子育てドキュメンタリー」。
楽歩さんが自ら専業主婦として立ち働き、幸せな家庭を築いているという事実は、一般の「障害者」の概念を打ち砕くほどのものです。
「障害者といえども、私達と同じことで悩み、苦しみ、そして幸せを感じているのだ!」ということを感じていただきたいです。
2つめは、「ある少女が自由を獲得し、成長していく物語」。
苦しいリハビリを自ら打ち切り、肢体がより不自由になるかもしれない恐怖よりも自由に生きることを選んだ少女の人生を描いています。
それは、「守ってあげたい」「治してあげたい」という両親の深い愛情に立ち向かい、泣きながら自立を主張していく壮絶な成長物語です。
誰もが経験のある反抗期を、せつなく思い出して共感してほしいです。(奥山)
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