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2010年4月 6日 (火)

鎌田慧の現代を斬る/第141回 オウムに復讐する公安警察

 15年前に発生した国松孝次警察庁長官銃撃事件について、時効が成立した3月30日に記者会見した警視庁の青木五郎公安部長は、次のように語った。
「事件はオウム真理教の信者グループが敢行した計画的・組織的なテロだった」(『読売新聞』10年4月1日)

 またオウムの元信者だった警視庁の元巡査部長がなどが関与したとする「捜査結果概要」を公表し、警視庁のホームページに翌日から掲載することを発表した。
 このような警視庁の横暴を、新聞各社とも批判的に扱っている。最近のえん罪事件を教訓とし日本のジャーナリズムも、推定無罪の原則に立ち返ろうとしているのを感じ、ホッとする思いでじゃあった。

 しかし証拠不十分で起訴ができなかったのに、犯人と名指しして「捜査結果」を発表するなど許されることではない。そもそも時効になって暗闇に逃げていった犯人にむかって、捜査当局が「お前はオウムだ」と罵声を浴びせているなど、悔し紛れの犬の遠吠えである。
警視庁の捜査結果概要は次のようなものであった。
「元幹部信者Dのもとに、事件発生の3日前に幹部信者Eから電話があった。Aへの連絡方法を教えるよう依頼された。この際Eは『敵の仇は敵にやらせる」などと発言した。』と語った」(『朝日新聞』10年3月30日)
 これがなぜ犯人像に結びつくのか、はなはだ疑問だ。起訴でないのも当然だろう。

 さらにこういった文章もある。
「事件直後、日光街道の交差点から南千住駅方向へ自転車で疾走した男について、目撃者が供述する特徴と幹部信者Hの特徴が一致した。複数候補者の写真を示したところ、複数の目撃者が同人の写真を抽出した」(『朝日新聞』10年3月30日)
 ここには、目撃証言がどれほどの多くの冤罪をつくってきたかについての反省がまったくない。写真を見せて似ているかを問うやり方は、犯人を写真の人物に誘導するのに、よく使われてきた。あいまいな印象なら、警察の質問にうなづいてしまう。そんな市民の意識を悪用した捜査方法だ。

 呆れたのは、DNA鑑定にたいする記述だ。
「同一型である確率は932分の4であり、教団信者グループの本件関与の可能性を裏付ける資料のひとつとすることに、一定の合理性が認められる」
 足利事件で菅家利和さんが冤罪に陥れられたDNA鑑定が、1000人に1.2人の確率である。驚いたことに、それより低い確率のDNA判定を持ち出して「一定の合理性が認められる」と決めつけている。足利事件に対する反省も、ここにはいっさいない。
 また、いまや数兆分の1という確率でおこなわれているDNA鑑定と、同じ効果があるかのように書くのは詐欺行為といえる。

 この事件の捜査の特徴は、事件当初から警視庁が公安事件として扱ったことだ。つまり刑事事件としての地道な聞き込み捜査などをすっ飛ばし、犯人をオウムに特定。オウム対策として捜査がはじまるという入り口から間違った捜査だったのである。公安部は「自分が撃った」と供述した元巡査長を、秘密裏にホテルに軟禁して事情聴取をおこない、報告さえしなかった。

 また、今回の資料公表についても、検察の反対を押し切って公安部が強行したとも報じられている。記者会見では、刑事司法手続きにのせず、一方的に発表することは犯人視しない流れに反するものではないかという記者の質問に、「個人の刑事責任を問う手続きと、組織の犯行と認められる理由を明らかにすることは別と考える」(『朝日新聞』10年3月30日)と語っている。

 つまり組織の犯行と認められた場合は、司法手続きなど関係ないということだ。これは公安特有の考え方で、共謀罪や破防法にもつながるものだ。危険な団体は、法律を無視しても抑え込めばいい、と彼らは考えている。

 概要では元幹部信者の名前をアルファベットで書き記している。匿名であっても、当時の報道など合わせれば特定しやすい。何の証拠もないのに名前をあげるのも、冤罪特有のパターンといえる。

 インターネットで概要を配信することも問題だ。
 少なくとも報道関係者ならば、この眉唾ものの「捜査結果概要」を検証するはずだ。起訴できなかった案件を公安主導で流した行為も「概要」と一緒に記事にすることができる。しかし取材する方法もない市民が概要だけを読めば、オウムが犯人だとの印象だけを読み取ってしまう。
 これは公安による復讐といえる。法的にクリアできなかった事件を、あたかも事実のようにネットで配信するなど、重大な名誉毀損である。

 こうしたインターネットを使った国家権力の横暴に、どう対処していくのかは大きな問題だ。
 ちょうど本日4月6日から8日まで沖縄の上京した人々が、普天間基地に県内移転に反対する座り込みを、首相官邸前でおこなっている。目に見える市民行動の必要性はますます強まっている。(談)


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