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2010年2月13日 (土)

鎌田慧の「トヨタ・リコール物語」2

 世界中に展開しすぎたトヨタの超合理化システムは、あちこちで欠陥車を生み出している。全米を揺るがす大問題となっているレクサスの暴走は、その象徴的な事件である。
 しかも09年11月に入って、問題はますます混迷の色を深めている。3日に『ニューヨーク・タイムズ』が批判したのは、トヨタの広報姿勢だった。
 高速道路で4人が亡くなった暴走事故について、トヨタは車体本体に構造的な欠陥はない、と米運輸省高速道路交通安全局(NHTSA)が見解をしめしたかのように発表した。同紙の取材によれば、NHTSAの報道官はフロアマットだけではなく、アクセルやペダルなども含めて調査中としているという。そもそも問題のフロアマットを敷いていない車でも暴走が起こっていることを考えれば、こんな発表を世界的な企業が発表すること自体おかしい。
 これにたいしてトヨタの広報部は、次のようにコメントしている。「現段階で危険性が指摘されるフロアマットの取り外しを急ぐよう、お客様に知らせたことを発表したもので、米当局が車両本体に欠陥がないと結論を出したとは考えていない。NHTSAとの共同調査の結果が出た段階で、改めてお客様に対応を通知するつもりだ」(『朝日新聞』09年11月5日)
 コスト削減のためには下請けをいじめ抜いてもカイゼンするトヨタだが、車の危険性にたいしてはマジメにカイゼンする気がないようだ。
 01年以降、トヨタ車による米国内での暴走事例はレクサス以外の車種をふくめ1000件を超えている。02年式以降、トヨタ車で起きた暴走事故による死者は19人にのぼる。一期の赤字で大騒ぎになる会社が、01年以降、これだけの事故を放っておいたというのだからあきれる。
 米国では運転中に突然の急加速が起きた原因は、電子制御の欠陥であるとして2人の男性がトヨタを訴えた。フロアマットやペダルの形状だけではなく、電子制御の欠陥となれば構造的な問題であり、事態はさらに深刻化することになる。
 じつはトヨタ車の暴走で電子部品の欠陥が疑われたのは初めてではない。1980年代後半、トヨタをふくむ自動車メーカーはオートマチック(AT)車の急発進問題に揺れていた。
 89年4月には運輸省が「AT車全体の持つ構造的欠陥ではない。特定車種の機器欠陥や整備不良が原因でエンジンの回転が上がるが、ブレーキ操作が適切なら車は止まる」(『毎日新聞』89年4月28日)と最終報告書を公表。
 90年1月には、豊田章一郎トヨタ社長が会長を務める日本自動車工業会が、「急発進・急加速現象が全AT車に共通に起きる構造的な欠陥はなかった」(『朝日新聞』90年1月19日)との調査結果をまとめ幕引きをはかった。しかし、その経緯はかなり怪しい。
 運輸省の調査では、苦情や事故の四分の三を「原因不明」として究明しなかっただけでなく、実車テストには実際に暴走した車を加えない暴挙にでた。
 それだけ「手心」を加えた調査でも、定速走行装置をショートさせる実験では、発車15秒で時速120キロまで急加速する結果がでている。それでも「ブレーキ操作が確実なら事故は起こらない」と結論付けたのだから恐ろしい。
 運輸省の統計によれば、83年から5年間でAT車が暴走して事故を起こした件数は642件。そのうちトヨタ車は144件となっている。
 当時、トヨタをはじめとする自動車メーカーは、責任を運転手に押しつけた。アクセルとブレーキを踏み間違えた結果だと主張して譲らなかったからだ。その一方でトヨタは、AT車の暴走につながる可能性のある部品の欠陥を運輸省に報告せず、苦情の申し出のあったユーザーの車の部品をこっそり交換していたのである。
 じつは暴走事故の中には、運転手によるペダルの踏み間違いで片づけられないケースもあった。87年5月に東京都府中市で起きた事故は、人の列に突っ込み40メートル暴走したが、警察の実況見分調書では10メートル以上のタイヤ痕が確認されていた。これはブレーキを踏んでも止まらなかったという運転手の証言と一致する。
 当時、トヨタは運輸省や日本自動車工業会という「身内」の調査で乗り切ったが、米国の調査ではそうはいかない。わかっているだけで、19人を殺したメーカーとしての責任を問われることになるだろう。
 事故には対処しないが、赤字の解消となるとやたら力を発揮するのがトヨタでもある。2010年3月期の連結営業赤字見通しを、従来予想より4000億円縮小させ、3500億円の赤字だという。当初、カイゼンによって年間8000億円抑える計画だったものを、さらに1500億円カイゼンで上乗せすることに成功したという。従業員一人あたり300万円近いコストをカットしたというからメチャクチャだ。開発部門の現場から「これ以上経費を削れと言われても無理」(『毎日新聞』09年11月6日)という声が漏れているのも当然だ。
 経営陣が勝手に拡大主義に猛進した結果、トヨタが誇っていた安全神話は地に落ち、赤字も拡大した。その尻ぬぐいは、下請けと社員に回されている。『読売新聞』(09年11月6日)には、「設備にも人にも余剰感がありリストラに『聖域』はない」とのグループ首脳のコメントが載っていたが、もちろん豊田家の「聖域」が侵されるわけではない。

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