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2010年2月19日 (金)

ドーマン法に生きていた私~脳性まひ者の告白~/第22回 再診は愛嬌、度胸で乗り切る

 年に2回、都内のホテルで行われる再診。約一週間のホテル滞在期間は、私にとって一秒たりとも無駄には過ごせない貴重な時間。訓練を免れるだけでなく外の空気は吸えて、まともな服を着て、女の子らしい髪を結ってもらえ、おまけに沢山の刺激を受けられる! なんという人間らしい生活なのか!!!! と感動モノなわけですよ。
まるで囚人が久々に塀の外へと出るみたいな感じですかね?! 刑務所に入ったことがないのでわかりませんが…(笑)

 再診の際には、日ごろ使っている訓練用具から知性プログラムの教材から、この期間に読んだ本を一式、課題で書き上げた油絵や粘土工作品に至るまで、そりゃものごい荷物になります。再診の直前・直後のリビングは、誰か引っ越すの? というぐらいの段ボールの山が出来上がります。それプラス衣服などが親子三人分…いくらコンパクトにまとめても一週間分ですから、毎度かなりの荷物になっていました。遠方から公共機関で遥々再診に来られる方は、これらの荷物をすべて宅急便で送りこまれるわけです。(遠方だから、大変だから、運賃が高くつくから…という理由で免れる程、研究所は甘くはありません。)ウチはいつでも、片道6時間程かけて東京まで車で行っていました。荷物はギューギューめいっぱいトランクに押し詰めて!
 私はまだ子どもだったので、もちろん免許なんか持ってませんし、母はペーパーだったので毎回、父一人でハンドルを握っておりました。仕事でも父は車で出張に出掛けることが多かったので長距離運転に慣れているとはいえ、子ども心に「かなりしんどいだろうなぁ~」と思ってみてました。が、それ以上父に想いを馳せている暇はなかったのです! とにかく移動時間中である“6時間”ほどの車内も私にとっては自由に使える貴重な時間なんですから無駄にはできません!
 後部座席を占領し、居心地のいい空間にするべく、計画的に持ち込んだタオルケットやクッションで仕上げると、鞄の中からウォークマンを取り出し、くだらない雑音(両親の会話)はシャッターアウト!! ボーーとただ外を眺めているだけでも新鮮だったし、居心地いい空間に設えた後部座席にゴロ~ンと横になり、将来のことについてアレコレ空想するのも好きでした。それにあきたら、今度は本を取り出して読んだり、サービスエリアでガムやちょっとした小物を買ったりするのもメチャクチャ楽しみなことの一つでした。
「うわぁ~い!! 私は生きてるんだぁーーー」と実感できる年に2度しかない貴重な時間だったのです。
 でも、手放しに喜んでばかりもいられませんでした。
 なぜならば再診の期間には、全スタッフや集中治療を受けている50組ほどの家族の前でデモンストレーションと呼ばれる発表をしなくてはならず、結構そのことが気がかりで気重になっちゃうんです。これでも根はまじめな性格なもので…。(笑)

 発表する内容はその時々によって様々です。知性プログラムの一環で講義の時もありますし、唄やバイオリン、エレクトーンなどの音楽を奏でるデモンストレーションや、ルーティンと呼ばれる床体操やクラシックバレエなんかもあります。
 どれか一つのみの時もありましたが、私は結構すべて総ナメ出演が多かったですね~。どちらかというと表舞台に立つのは嫌いではありませんが、脳性麻痺者の場合、得手不得手の問題じゃないように思います。なぜなら脳性麻痺者の為、緊張するといつもより激しく不随意運動が出て、普段以上に体のコントロールが利きにくくなる状態の中で、さらに普通の人が感じるアガルという症状が加わる感じ。といったらおわかりいただけるでしょうか?講義ならば原稿は一語一句すべて暗記の状態。もちろん音楽ならば楽譜は暗記というか、頭が真っ白になっても指が覚えているまで達しておかなければ話になりません。それでも不随意運動によって予期せぬ事態や様々なアクシデントは避けられません。それに対応できる度胸とアドリブを身につけておかなければ目も当てられない悲惨な状態で終わってしまいます。表舞台に立つとそれだけで不随意運動が炸裂し、いつも以上に見苦しい醜態をさらけ出しているのですから! それに対抗できるのは、愛嬌と度胸だけ!!

 うーん、私のこの度胸の良さはドーマンで鍛え上げられたものだったのか!?
鍛えたかったところが違うような……でもまぁ、これもドーマン法の成果の一つだったということにしておきましょうか(笑) (大畑 楽歩)

楽歩さんのブログはこちら→ http://ameblo.jp/rabu-snoopy/

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