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2010年1月23日 (土)

ロシアの横暴/第32回 寅年記念! 大トラで儲けるロシア政府(1)

「アル中撲滅」を目指していたミハイル・ゴルバチョフの禁酒令は撲滅どころか、逆に増やしてしまった。それから20年以上経った今も、ロシア社会の主要な敵は「アルコール関連」である。 アルコール中毒、とか依存症という病名は日本でもおなじみになってきているが、ロシアにおける「アル中」のレベルは日本人にはとても想像できない。
 ロシアは寒いからウォッカがないとやっていけない、とか、ソ連は自由を束縛されているからアルコールに溺れやすい、とか、どうみても日本人の思考回路から発生したアル中原因諸説がまことしやかに流れている。ロシアのアルコール問題は「別世界のできごと」なのかも知れない。
 
 ペレストロイカ以前、つまり、ソ連停滞の時代もアルコールは社会問題だった。もっと遡って帝政ロシア時代もアルコールが社会の軸であったことがロシア文学から伺える。帝政ロシアにアルコール対策があったかどうかは別として、少なくともソ連時代の1970年代にはそれなりに対策をとっていた。
 当時の対策のひとつに「一泊お泊まり」という軽い罰金刑があった。この「お泊まり」の対象になるのは酔っぱらってその辺で転がっている善良な市民である。罰金を払う分だけサービス(?)が受けられる。お茶とかシャワーとか、酔い覚ましのためのサービスだ。日本に適用すれば昨年夏に酔っぱらって一騒ぎしたジャニーズの某タレントなどが、この「お泊まり」の対象となる。
 ところがこの対策は別の問題を発生させた。酔っぱらいを捕まえて放り込んで職務遂行、捕まえた人数がノルマとなるお国柄だから、当然のことながらノルマに追いかけられる警官が出てくる。捕まえたトラの持ち物を失敬するのは普通のこと、そのうちに失敬ではなく強奪が当たり前になってしまったのだ。罰金、つまり酔い覚ましサービス料は国家の収入となり、警察官には何の実入りもない。彼らの給料はこうして追い剥ぎでもしないとやっていけないほど安い。所持品の少ない不運なお泊まり客は「戦利品不足」の腹いせに殴られて青あざのおみやげをもらうことになる。
 身ぐるみ剥がれて帰宅すると「警察も悪いが、酔っぱらって街を歩くアンタが悪い、いい薬になったでしょ」と、家族からもう一杯バケツ水をかけられる。
 かつてのソ連で(あるいは今のロシアでも)若い女性の恋人選びの第一条件は「飲まない人」だった。家庭内のあらゆる不幸は「アルコール」から始まる、と社会が認識していたわけだ。
 
 さて「一泊お泊まり」の次の段階として「15日間お泊まり」がある。これは街で警官に喧嘩を売ったり、公務執行妨害のようなことをしでかした者、および妻にDVをはたらいた者が対象である。アルコールに限っているわけではないが、どうせこれらの軽犯罪の原因はアルコールだから、広義でアルコール対策といえる。
 効果のほどは、というと15日間酒を断って改善の方向に向かうことはまずない。アル中対策ではなく、単なる刑罰であって、改善させるのが目的ではないからだ。従って16日目から元通りに、しかも飲めなかった15日分を挽回するとして大酒を飲むのが相場である。DVも同様で、通報した妻がもっとひどいDVに遭うことは火を見るより明らかである。もっとも大半の妻は15日以前に離婚してしまうだろうが。

(妻側からの一方的な離婚調停申し出は簡易裁判所みたいなところで扱われる。アルコールがもとで15日お泊まりをした夫ならば無条件に離婚許可が下り、しかも夫側には罰金まで科せられる。罰金であって妻に対する慰謝料でないところがミソで、離婚調停による「罰金収入」が国家に入ってくる仕組みだ。ソ連の離婚率が高かった原因のひとつに「アルコール」があるが、国家はそれに悪のりして罰金収入を得ていたことになる)(川上なつ) 

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