ロシアの横暴/第30回 列車爆破とナイトクラブ火災の真相(1)
ロシア経済はどうなっているのか、国際的にも国内的にも先が読めないなか、11月27日にモスクワとサンクトペテルブルクを結ぶ特急列車が脱線し(報道によっては爆破となっている)、多数の死傷者が出た。毎度のことながら、どうもテロによるもののようだとか、それなら当然チェチェンがらみだという噂が広まっていった11月30日、今度はカフカス地方ダゲスタンで列車爆破事件が起きた。幸い人的被害はなかったからそのまま立ち消え状態になったが、もしも大きな事故になっていれば「サンクトペテルブルクの事故はやっぱりカフカスの、つまりチェチェン人の仕業」と確定したことだろう。
特急列車爆破犯がダゲスタンで事件を起こしたかどうかはわからないが、少なくとも何ものかがチェチェンを陥れるために利用をしていることは確かなようだ。捜査を攪乱したり、犯人をでっち上げたりする手口は世の東西を問わないが、ロシアの場合は見え透いているのが特徴である。チェチェンではないかという噂が立ち上っているとき、チェチェンの隣で鉄道爆破事件を起こすなど、とてもわかりやすいやりかただ。
そしてテロといえばチェチェン、と、もうずっと昔から決め込んでいるロシア人にとっては隣のダゲスタンでテロらしきものが起これば、もう間違いなくチェチェンの仕業である。
そうはいうものの、2009年4月「武装勢力ほぼ殲滅宣言」と、それに伴うチェチェンからのロシア軍の駐留部隊縮小・一部撤退をおこなった手前、ここで「チェチェンだ!」とは言いにくかったようだ。「よくわからない」とか「慎重に捜査中」とし、何はともあれこの悲しい事件が起きた日を「服喪の日」に定めた。そしてついでに(?)死者何人以上の場合を「服喪の日にする」という基準も決めた。
チェチェンの仕業ではないか、と言われていちばん困ったのはカディロフ・チェチェン政府である。あわてて「われわれは武装勢力を山に追い込んだ、彼らはとても首都方面で爆破事件をおこせる状況ではない。」という見解を発表した。しかし、ロシア本土では情報もないまま、誰が何と言おうとチェチェンの仕業説に染まっていたようだ。
何となく煮え切らない情報が充満していた12月2日、イスラム武装勢力から「犯行声明」なるものが発表されてしまった。犯行声明はいつでもほんとかウソかわからないものだが、今回のは特に謎に包まれている。
この犯行声明はつぎのような見方ができる。
①捜査するのがめんどうくさいので、武装勢力に頼んで犯行声明を出して
もらった、あるいは武装勢力を騙って捜査当局みずからが犯行声明を出
した。ロシアの場合は「カフカス」といえば証拠などなくとも、つじつ
まが合わなくても「犯人はこれ」と、国民が信じてくれるから手っ取り早い。
②独立派武装勢力が声明を出した。武装勢力はすでに殲滅してある、とい
うロシアとチェチェン両政府の発表はデタラメで、「ちゃんと生きて戦
っているぞ」と主張したい独立派がいるはずだ。自分たちがやったかど
うかではなく、この機会を利用して犯行声明で格好をつけておこうとい
うものだ。
③特急列車もダゲスタンの事件も、そして犯行声明も全部武装勢力がやっ
た。
いずれにしてもほんとうは誰がやったのか、わからないままである。(川上なつ)
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