アフガン終わりなき戦場/第27回 米軍と『堕落論』(1)
都内で開かれたある講演会に呼ばれた時、話の後に一人の老人が話しかけてきた。
老人はもう80歳を超えているだろうか。若いときに戦争を経験し、杖をつきつき齢80にしてアフガニスタンの戦争の話を聞きに来た。
「あんたの話はとても良かった。特にアメリカ軍の兵士たちの話がよかった。私も戦争に赤紙で引っ張っていかれてね。その時は自分が『正しいこと』をしているのだと思った。もう60年も経つけれど、兵隊っていうのはどこの国でもいつでも同じなんだね」
老人は講演会で私が話した、米兵たちの生活様式や気持ちのことを話している。
私の従軍した部隊の中に一人の真面目そうな青年がいた。
彼はインタビューの中でこのように話している。
「僕たちアメリカ軍はアフガニスタンを良くするために来ている。アフガニスタン人を助けるためにです。けれど、どうしてアルカイダやタリバンは私たちの邪魔をするのでしょうか。私にはわかりません」
その青年は涙を流さんばかりにそう話した。心からそう思っている顔だ。
私は多くの兵士に会った。冗談ばかり言っているやつ。不安そうに眼を泳がせているメガネの男。きゃっきゃと騒いでばかりの若い女の兵士。空き時間に絵ばかり描いている漫画家志望の黒人兵士。皆、下層階級のアメリカ英語を話す若者たちだったが、そのいずれの中にあるのは、「アメリカ軍はアフガニスタンを良くするために来ている」という確固たる精神だった。
現在前線にいるアメリカ軍の兵士の多くは、下層階級出身者だ。軍で決められた期間働くと無料で大学に行けるという制度があるので、それを目的に来ている若者がほとんどだ。マイケル・ムーアの『華氏911』の中では高校に軍へのリクルートに来る軍人の姿が映っていた。アメリカは我々が考える以上に階級社会だ。下層階級の家庭に生まれれば、まともな生活を望むことは難しい。そんな中で、大学に無料で行ける軍の制度は人生で逆転をかける唯一の手段として、若者の間に浸透している。
けれど、そんな若者たちがどうして、「アメリカ軍はアフガニスタンを良くするために来ている」などと思うようになったのだろうか。
仮に私がその様な経緯で軍隊に入ったのなら、面従腹背。いかにサボりながら兵役を終えるか、ということに執着するだろう。
ところが、アメリカ軍兵士の殆どは異様と思えるほど皆真面目に軍の大義を信じ、作戦を遂行している。
あの老人の言葉を思い出す。
「その時は自分が『正しいこと』をしているのだと思った」
軍という組織はそういう場所なのだろう。異論をはさむことは許されず、軍の大義を徹頭徹尾叩き込まれる。24時間「軍は正しいことをしている」と言われていればそうもなろう。
恥ずかしい話だが、私も従軍中は「アメリカ軍はなかなかうまくやっている」などと思っていた。取材テープを見直し、再考し、またテープを見直し、やはりおかしいのでは、という結論に至った。
けれど、そのような腰を据えて考える期間がなければ、自分たちのやっていることをおかしいと思うのは難しいものだ。特に、「軍」という特殊な組織の中では。
皆が皆清廉潔白。自らを「正しい」と考える。(白川徹)
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