書店の風格/第39回 ブックスルーエ
エキナカのワンフロアとか、バイパス沿いのどでかい敷地内じゃなくて、地元の商店街にしっかりした本屋さんがあったらとても嬉しい。なんだか、住んでてすごく得した気持ちになってしまう。
そんな希望をさらりと叶えてくれるのが、吉祥寺はサンロード内にあるブックスルーエだ。田舎から東京に遊びに来た10代の頃、ここを「紀伊國屋書店吉祥寺店」だと思っていたものだ(山奥の人間にとっては、都会の大きな書店は皆「紀伊國屋書店」である。私だけか?)。
ブックスルーエは、ただの地元密着型書店とは違う。おそば屋さん、喫茶店を経て平成3年に今の本屋が出来上がった。「ルーエ」という書店にしてはお洒落な名前は、喫茶店時代からのものを受け継いだという。しかし当時としても規模の大きなおそば屋さん、喫茶店だったであろう。それを書店にした三代目の敏腕に感激した。吉祥寺には、特にサンロードには飲み歩きしても何ヶ月かはかかるほどカフェが散在している。チェーン店から最近できた手作り風のものまで様々だ。それよりは、意外に大規模なお店が付近にない書店の方が住民としてもありがたい。クリエイターが集まる街・吉祥寺ならなおさらだ。
お店は地下1階から3階までの4階構成。地下1階が専門書、1階が雑誌・話題書、2階が文庫や新書、3階がゲームやコミック。階を追うにつれ自分が若々しくなっていくような錯覚を覚える(逆に3階から散策して地下1階に下ると、なんとなく落ち着いてくる)。立地性が多分に発揮されているのは特に3階のコミック売場で、お店に贈られた作家直筆のサイン色紙が溢れんばかりに貼ってある。地元・吉祥寺を愛する作家からのプレゼントが多いのだ。お客は勿論のこと、クリエイターからも支えられ愛されて成り立っていることがわかる。もちろん品揃えも豊富で、規模に対して驚くほどのコミック量を誇っている。
このお店のもうひとつの魅力は地下1階、品揃えの独自性と網羅性にある。一見矛盾するように思えるこの二つだが、巧みなディスプレイによって両立をかなえているのだ。
専門書フロアに派手さはない。フェアや新商品をあからさまに押し出すようなことはなく、ゆかしく並べているように見えるが、もちろん工夫が盛り込まれており、見る人が見れば「なるほど」とうなされるつくりだ。
平台に置く商品の一冊一冊が、面で陳列している一冊一冊が、今の世情をなにか1つは反映していて、全体的に見ると一枚の風刺画の如くになっている。かといって選書が偏っているかといえばそうではなく、話題の本は取りそろえてあるし、基本書も棚に挿してある。まさに網羅的、そして独自性のある棚作り。専門書の棚としては超一流であろう。
ほかには、地元作家であるキン・シオタニさんのイラストが施されたブックカバーも有名。どこまでも、その土地に住む人達を大切にし、活かそうとする書店だ。このようなお店は、当然地元民も裏切らない。(奥山)
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