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2009年11月21日 (土)

ロシアの横暴/第28回 メディアが取り上げないゴルバチョフの実像(上)

 ドイツを東西に分断していたベルリンの壁が崩壊して20年になる。さきごろ、ベルリンの壁崩壊、東西冷戦終結に功績があったという、元ソ連大統領ミハイル・ゴルバチョフ氏が日本の新聞に登場した(『東京新聞』11月15日)。
 氏の話の主題は「東欧民主化不介入『われわれの誇り』」である。
 いわく「89年の10月、東独建国40周年式典に参加するために東独を訪問すると街は政府への抗議デモで緊迫していた。その様子を見た段階で、東ドイツの社会が動き始めていること感知していた、しかもそれは突然起こったものではなく、長い間行われてきたプロセスの一部だ」と。

 ひどくまわりくどい言い方だが(氏の演説はわかりにくいことで有名である)、近々東ドイツは崩壊すること、そしてソ連の支配が東欧の国民に嫌われていることを思い知ったわけだ。はたしてその1ヶ月後、ベルリンの壁は崩壊するのだが、そのときはモスクワの自宅で就寝中だった、と別の新聞のインタビュー記事にはある。
 氏は1985年、自身の前任であるチェルネンコ書記長の葬儀に集まった東欧諸国の指導者たちに「今後は自分の責任で自分の運命を決めなさい、私は(ソ連は)干渉しない」と伝えたそうだ。当時の東欧といえばどの国の首都はモスクワ、といわれるほどの同化政策がとられていたから画期的な方向転換である。ソ連国内ではこの「干渉しない」政策に非難が集中したようだが、それでも結局一度も干渉しなかった、それがわれわれの誇りである、と語っている。従来のソ連指導者のように介入(ソ連の場合、介入とは軍事介入のことである)はしなかったのが誇りというわけだ。

 余談だが、一ヶ月前に東ドイツでなみなみならぬうねりを感じ取っていたはずのゴルバチョフが壁崩壊の当日、モスクワの自宅で就寝中だったとは不思議である。事態が緊迫しているとき、それまで東独に深くかかわってきたソ連の指導者らしく毎日毎日東独をウオッチングするべきだろうに、何も知らなかったとは呆れる。これでは不介入ではなく、ただの無関心にすぎない。ほんとうは布団をかぶって震えてたんじゃないの、と半ばお笑いの推測だって出てきそうだ。

 そもそも東欧の民主化とは何なのか。そのころは社会主義体制を否定すれば民主化みたいな風潮があり、世界中が熱に浮かされたように「民主化」「改革」を唱和していた。先の「不介入発言」で東欧諸国はソ連をいくら罵倒してもおとがめなし、というので舞い上がっていたようである。冷戦が終わる、というよりドンパチ撃ち合う熱い戦争になったから冷戦が終わったのだが、例によって「民主化といえば何でもあり」の時代に突入してしまった。
 ゴルバチョフが東欧の民主化にソ連が介入しなかったのならひとまず結構な話であるが、なぜ介入しなかったのか、という疑問が持ち上がる。
 というのもゴルバチョフは東欧の「民主化」には介入しなかったが、ソ連国内の民主化には軍事介入をしたからだ。バルト三国は東欧同様、第二次大戦後にソ連に併合されたいきさつから、東欧民主化の波に乗って真っ先にソ連離脱気運が高まったが、それを武力で押さえつけようとしたのはゴルバチョフである。バルト諸国に対する武力弾圧計画は当時のソ連空軍の将軍だったドゥダーエフ(チェチェン人、初代チェチェン大統領、1996年殺害)の攻撃命令拒否で未然に終わり、流血は免れた。

 アルメニアとアゼルバイジャンの領土紛争であるナゴルノ・カラバフ紛争のときにアルメニアに肩入れして、バクー(アゼルバイジャンの首都)の市街地に戦車を出したのもゴルバチョフである。この紛争の口火を切ったのはアゼルバイジャン側らしい。だがその報復になぜかロシア正規軍がバクーの市街で無差別攻撃をおこない多数の一般市民が犠牲になった。バクーの公立学校のホールにゴルバチョフの頭のシミを「ナゴルノ・カラバフ地方」の地図になぞらえて「ゴルバチョフは悪魔」を表現している小学生の絵が展示してあるのを見た。バレエ「くるみ割り人形」は「ロシアの踊り」を抜いた版で上演されるほどアゼルバイジャンのロシア嫌いは強烈なものになった。(川上なつ) 

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