ロシアの横暴/第27回 ロシア的泥棒物語(下)
ペレストロイカに始まる経済改革の混乱の上に世界規模の経済危機のあおりをまともに受け、瀕死の状態にあるロシアに「正統派・本物」と名のつくものが存在しているというのは結構いい話に聞こえる。日本でいえば「ねずみ小僧次郎吉」かと思いきや、そこはロシア、きれいごとでは終わらない。たしかに「本物」は「かたぎの衆」には手をださないのが原則らしい。ただし仕事の対象として依頼がなければ、である。
正統派泥棒の収入源はいわゆる「用心棒」、ロシアではこれも広義で「暗い森の中」でやるべき仕事全般を請け負っている。ソ連解体・経済改革でなんでもかんでも民営化のどさくさに紛れて甘い汁をたっぷり吸った新興財閥といわれる経営者たちが、引き続き暴利をむさぼるには法律に則って会社運営をやっていては間に合わない。敵対企業・競争相手企業を陥れたりたたきつぶしたりすることが必要だ。そこに雇われるのが正統派泥棒たちである。彼らは企業間のいざこざを解決するのに、白昼堂々と市内の目抜き通りで撃ち合うこともする。彼らにとってはそこも本物の仕事場「暗い森」だからだ。
もちろん対象は企業人ばかりではない。ジャーナリスト、人権活動家など政権に邪魔な人物を消すことも大事な「仕事」である。殺し方が正統であれば、対象が悪人でなくても問題ないらしい。
この20年近くのロシアの経済改革歴史のなかでいったい何百人が殺されたか、見当もつかない。最近では2006年10月のアンナ・ポリトコフスカヤ殺害がある。一時期「容疑者逮捕」の報道があったようだが真犯人は今もって検挙されていない。正統派大物泥棒は捕まらないのだ。時々は捕まるが、「警察署長のおともだち」だからすぐに釈放される。治安対策と銘打って警察官を大幅に増員しても捕まるのは「素人にでも捕まえられる」コソドロ程度である。
ここに数年前ロシアを追っ払われたある新興財閥のボスの近況話がある。
新興財閥は法律を大事にするユダヤ系だから一応起業も「法に沿ったやりかた」でやっていた。あるとき、ひょんなことからプーチンの逆鱗に触れることになり、ヨーロッパのどこかに追放された、というより逃げた。ところがヨーロッパでは先進資本主義とやらで「ロシア的新資本主義」は通用しない。甘い汁もなかなか吸えない。頼みの用心棒、本物の泥棒もみつからず、よほど居心地が悪かったようでプーチンに詫びをいれて帰国しようとしているそうだ。(川上なつ)
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