ロシアの横暴/第25回 ロシアがチェチェンのわがままを許すワケ(下)
では経済危機に苦しむロシアが、細いスネだけはしっかりかじって言うことは全然聞かない、放蕩息子みたいなチェチェンのわがままを聞き入れるのは何故か?
自らの失策で踏んだり蹴ったりのように見えるロシアにも実は大いに実入りがある。
ロシアのチェチェン侵略の直接の言いがかりは「独立阻止」だった。ならず者チェチェンを独立させるわけにはいかない、と。挑発を繰り返し、チェチェン全体を無法地帯に仕立て上げ、侵略戦争の大義名分とした。
長い戦争の結果、チェチェンは本物の無法地帯となった。かつてカディロフ親衛隊として怖れられた私兵軍団が現在はチェチェン正規軍として堂々とチェチェン領内を闊歩している。独立派のレッテルが貼られれば、情け容赦のない弾圧が襲う。すると反カディロフ勢力があちこちで暴動をおこしたり、自爆テロに走ったりする。ちなみに最近のチェチェン報道はテロばっかりである。
(いろいろな派閥が複雑に絡んでいるので反カディロフ勢力、すなわち武装勢力とひとくくりにはできない)
このようにチェチェン人同士が殺し合ってくれたほうがロシアはチェチェン侵略を正当化できる。「チェチェン戦線異状なし」にしておいたのをこれからは「チェチェン戦線異状あり」にできる。いくらかの維持費用――それはロシアにとって決して軽い額ではないが、年金とか公務員の給与さえ払っておけば、あとはチェチェン人同士で殺し合いをしてロシアが掲げた侵略の大義名分が正しかったことを証明してくれる。その上ならず者に地方交付税交付金まで払ってあげる寛容なロシア、というプラスポイントまでついてくる。ロシアにとって「横暴な大国」の汚名を返上できるのは何ものにも代えがたい宝物なのである。駐留費用がないから撤退かと思えば、ほんとうはチェチェン人同士の争い温存が目的だったりする。
それにひきかえチェチェン側の思惑は不気味だ。
人々の往来を自由にし、チェチェンを活性化する国際空港計画は国外に逃れた反カディロフ派を探し出す計画を含んでいた。武装勢力が暴れたので国際空港計画はとん挫したが、今回の代表部開設計画はチェチェン国内の不安定さに関係なく実現可能である。
国外に逃れたチェチェン人の多くはロシアの弾圧を怖れて領事館に出頭せずこっそりと暮らしてきた。彼らはチェチェン政府代表部が開設されても出頭はして来ないだろう。しかし「けものみち」がある。何気なく「ふるさと談義」で代表部にやってくる一部のチェチェン人、密偵ではなく悪気もない、ごく普通のチェチェン人を経由して芋蔓式に隠れチェチェン人が発見できるようになる。隠れチェチェン人はほぼ全員反カディロフである。
穏やかなロシア南部とカフカス周辺地域は目に見えない緊張が高まっている。独立への一歩と見える政策が、さらなる争乱を呼ぶほどチェンチェン国内は難しい情勢にある。(川上なつ)
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