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2009年8月29日 (土)

ロシアの横暴/第22回 ロシア水力発電所爆発のウラ側(上)

 近ごろロシア発のニュース、それもいわゆる三面記事が多くなっている。
 水力発電所の大事故。ウラル地方のどこかで石油貯蔵タンクで火災が発生。カフカスからは来る日も来る日もテロ、それも自爆テロのニュース。グルジアが正式にCIS(独立国家共同体・旧ソ連構成国の一部で構成)を脱退。
 去年夏のグルジア戦争直後に独立を宣言し、直ちにロシアが承認したアブハジアと南オセチヤをEU加盟国はどこも認めようとしない。西の方ばかり見ていても仕方がないから東方のモンゴルや北朝鮮など近隣のアジアに秋波を送ることも始めた。
 セルビアからコソボが独立したときにEU諸国はすぐに承認したのに、アプハジアと南オセチアを承認しないのはけしからん、とののしったり、エネルギー供給パイプラインを前倒しで開通させるなど、あてこすりをしたりしている。
 このようにロシア全体は危険水域にあるから、ソチ・オリンピックどころではないのでは、と思いたくなる。皮肉なことにイギリスかフランスかがソチは雪が少なく、近くに火薬庫のカフカスがあるから、シベリア地方に会場を変更したらどうか、などと言い出した矢先にそのシベリアで大事故である。

 さて、この水力発電所の事故は不思議な事故だった。
 最初の報道は死者数人だったのがいつの間にか60人を越えた。60人発表の前には「あとかたもなく60人前後が行方不明」という報道も流れた。政府発表と前後して過激なことで有名なインターネットサイト「カフカスセンター」を通して犯行声明が流れた。どれもこれもいい加減な情報でほんとうのことはわからない。そのうちに消えてしまった60人の一部と思われる「肉片」が見つかり、神隠しに遭ったのではなく木っ端みじんになったことがわかった。プーチン首相は現場に駆けつけたが、原因はわからないという。水力発電会社は「原因は不明だが人為的なものではない」とあんまり説得力のない見解を出している。

 現時点で取りざたされている原因は3つ。
1.例によってメンテナンス不備による事故。
2.内部のものが補償金目当てにわざと起こした事故。
3.カフカスセンターの犯行声明どおり、イスラム関連のテロ。
 ほかにプーチンのパーフォーマンス用自作自演説もなきにしもあらずだが(事故後割と早くに駆けつけたから)、チェチェン戦争進行中ならいざ知らず、今ごろ自作自演の事故を起こしても得るものは何もないから、この仮説は成り立ちにくい。

 さて、現場に駆けつけた首相は「何もわからない」と言い、遺族には十分な補償をすることを約束して帰った。挙がっている3つの原因のどれをとってもプーチン・ロシアの恥になることばかりだから今は「黙」の一字しかないようだ。
 ロシアはこの10年、原油高に浮かれて生産活動を軽んじた。どんなに立派な発電所でも老朽化はさけられない。常々のメンテナンスをしっかりやることが不可欠である。でも何もやってこなかった政府の無策があぶり出されるからとても「そうだ」とは言えない。だがプーチンがいくら「わからない」と言っても原因はこれ、と確定したようなものだ。
 次に内部説だが、これは素っ頓狂な発想とはいえ、結構真実味がある。ロシアの事故に対する補償金や見舞金の支払い方には決まりがないが、基本的にはそんなに高額ではない。明らかにチェチェンがらみのテロのときにはびっくりするほどの補償をする。しかしすべてのチェチェンがらみ事件にではないのが異様である。例えば第一次チェチェン戦争のとき、ロシア南部のブジョーノフスクで病院占拠事件が起きた。チェチェンからのロシア軍撤退要求を突きつけた事件の犯人はシャミーリ・バサーエフだった。このときの被災者には至れり尽くせりの補償をし、事件に巻き込まれた子どもらにヨーロッパへのバス旅行までプレゼントした。元祖ロシア流バラマキである。そのあとでチェチェンのとなりダゲスタンで起こったチェチェン人による暴動を鎮圧する際、被害をうけた住民には家一軒を買えるほどの見舞金と車をプレゼントした。ところが2003年のモスクワ劇場占拠事件や2004年の北オセチア学校占拠事件など、犯人は独立は武装勢力だ、と騒いだだけで巻き添えになった人々には大した補償はしなかった。なぜならばロシア政府が企画したテロだからさ、と穿った見方も出てきて当然である。
 さて、手厚い見舞金をもらった被災者は日本流にいえば焼け太りになった。その災難に羨望のまなざしを向けたかった国民は多い。だから、この説もかなり有力である。あんまりにも素っ頓狂なのでギャグと言われそうだが、プーチンが示した政府補償額は100万ルーブル(約300万円)に目が点になった遺族は、会社に対しても補償金を要求し始めた(それは当然のことだが)。500万ルーブル(1500万円)が妥当だと言っている。300万円はロシアの労働者からみれば天文学的数字だが、わかりきった原因を「わからない」と逃げざるを得ない政府の弱みにつけこんで天井知らずの金額を要求しているのだ。(川上なつ)

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