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2009年8月 1日 (土)

ロシアの横暴/第21回 賄賂で買った!?ソチ・オリンピックにテロの危険(下)

 ロシアが天然ガスや石油の地下資源「エネルギー」をちらつかせて諸外国のチェチェン戦争への干渉を締め出したのは疑う余地のない事実である。別の言い方をすれば、世界はエネルギー欲しさにチェチェンで行われている人権侵害を黙認したわけだ。
 人権を重要視しているはずのIOCもチェチェンの人権侵害を黙認したから、そこに「何か」があることは確かである。
 ロシアはオリンピック開催地立候補にあたって膨大な建設予算を提示したと言われている。近年、IOCは人権問題重視とともに「ハデ大会」をいましめる傾向にあるらしいが、ロシアはここでも逆行している。
 撲滅したはずの社会主義・共産主義の亡霊の出現である。亡霊でなく本物だと指摘するむきもあるように国内が不安定な時こそ派手なことをやって、国民をだますソ連的手法だ。だますのにIOCも一役買ったというわけだ。

 思えば1980年、停滞のさなかにあるソ連がなぜかオリンピック開催国に選ばれた。当時は後進国の経済活性化というIOCのサブタイトルがあったので、おそらくこちらのポイントであろう、インフラ整備とかスタジアム建設に国民を総動員して獲得した大会である。
 やや、主題からそれるが、その国民総動員オリンピックも「ソ連のアフガニスタン侵攻に抗議する」という米国に同調した西側諸国の参加ボイコットというパンチを喰らった。平和の祭典に政治を持ち込んだというので、その4年後のオリンピックはソ連を中心とした東側諸国が報復ボイコットをするというおまけまでついた。幸運にも?開催地は米国ロサンジェルスだったのである。(その後の歴史の展開をみればどちらもただの言いがかりにすぎない。)
 そのあと東西冷戦はゴルバチョフのペレストロイカとやらで一旦停戦となるのだが、その停戦後初のオリンピックがソチというわけだ。大会のスリム化がポイントになっているというのにロシアは巨額のリゾート開発をぶちあげて開催を獲得した。IOCは方針とちがう決定を下したことになるが、おそらく今回に限りロシアは経済活性化が必要な後進国、という流れになったものと思われる。大風呂敷を広げても中身は後進国、と本質を見抜いているとしても、より早くより高い賄賂が決め手になったことを伺わせる場面だ。

 さて、「より早く、より高く」各ポイントを乗り越えたロシアだが、開催決定の一年後、2008年8月にはソチのおとなり、グルジアで戦争が始まった。平和が戻ってきたはずのチェチェンでは引き続きテロ・暗殺の嵐が吹き荒れている。そこに米国発の経済危機が襲った。立ちこめる暗雲を武力で吹き飛ばそうと「カフカス2009」と名付けた大規模な軍事演習をおこなったりしている。ロシアにはカネも戦車もたっぷりあるよ、オリンピックを妨害する者はネズミの子一匹だって殲滅するぞ、と言いたげだ。
 演習以外にも至るところで経済パーフォマンスを見せているが、ロシアの経済事情が深刻なのはもはや隠しようのないところにきている。キルギスタンには米国のアフガン攻撃用基地使用料の倍額にあたる資金提供を申し出て味方につけたはずだったのに簡単に寝返られた。約束したら直ちに現ナマを動かさなければ負けである。資金繰りをしている最中、アフガン攻撃を強める米国がキルギスの要塞を確保するのに「より早くより高い」使用料を払ったからだ。
 もともと原油高に乗っただけの脆弱な経済基盤である。無能な社長はクビ、国産車を保護しない知事は更迭、と大統領令を乱発しても解決にはならない。オリンピックも建設予算の大幅削減を余儀なくされ、黒海沿岸の保養地開発をあてこんだ観光資本も撤退してしまった。

 1980年のようなボイコットが起きる可能性はなくとも、またIOCの方針通りにスリム化(予算縮小)しても、となりに火薬庫があることには変わりがない。流れ弾が飛んで来そうなオリンピックスタジアムに観戦に行こうという人は少ないだろう。自国の選手に流れ弾を当てるわけにはいかない、と参加を自粛する国が出てくるかも知れない。その上カフカスの反ロシア勢力がオリンピックに照準を合わせて「支度」をしていることも周知の事実である。
 参加自粛、あるいは観衆のいない大会といった簡単な問題ではなく、オリンピックそのものの開催が中止になるかもしれない。だからこそカフカスの反政府テロ集団はどんな手をつかってでも押さえ込むべく派手な軍事演習をおこない、「ソチの安全のためにこんなに頑張っている」ことをアピールしているのだ。
 しかしいくらアピールしたところでこの軍事演習がプラスポイントになる可能性は薄い。逆にロシアの不安定さを浮き彫りにして不安をあおることになってしまっている。

  あるチェチェン人がソチの近くに土地を買った。この地方はチェチェン嫌いで有名で、住み心地はあんまり良くないがオリンピックが来るので土地が値上がりする、という計算があった。ある程度値上がりしたら転売してひと儲けしようと思っていた。ところが値上がりしないばかりか最近は値下がりしているそうだ。この人はこうなったら何でもいいから早く売り飛ばしてチェチェンに帰りたいと言っている。(川上なつ)

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