日曜ミニコミ誌!/『界遊』
5月10 日。文学フリマに参加した際、人だかりの出来ているブースを見つけた。雑誌はあっという間に完売になり、それでもなお行き交う人は絶えず、コミュニティ・ゾーンとして機能していた。ブース名は『界遊』。同名の雑誌を発行するサークルだ。この活気はただ事ではないと、代表の武田俊さんにお話を伺った。
ーーまずはこちらの『界遊』という名前なんですが、どういった意味が込められているのでしょう。ホームページを拝見すると「世界と遊ぶ文芸誌」というキャッチがつけられてますね。
武田さん(以下T):ジャンルの境界を越えて遊ぼうという意味です。僕らのキーワードの1つとして「対話」があって。それは『001 創刊号』で大きく取り上げた高橋源一郎の「小説のことは小説家にしかわからない」(『文藝』06 年冬号、保坂和志氏との対談にて)という発言に大きく影響されています。このような発言を小説家自身がしてしまうという問題を考えたいと思いました。小説は、本来は読者のために書くものでしょう。物書きと読者との有機的な関係を「対話」として記録できればという目的があります。小説、詩、漫画など表現には様々あるけれど、ジャンルごとの行き来がないという事態に不健全さを感じて、じゃあ僕らは一歩外に場所を設けて色んなものを取り入れていこうというのがコンセプトです。
ーーネット優勢の中、雑誌という形態を選んだのは何故ですか?
T:「対話」がキーワードならば、SNS やチャットなどがその機能を果たすのでは、という考え方はあります。ただ、無償で受け取るものは情報でしかないと思うんです。僕らは受け手に情報としてではなく作品として受け取って欲しい。そして、これは当たり前過ぎて気後れしてしまうのですが、やはり本という形態に愛着を持っているから、という部分もあります。なので、紙の上で記録したいという思いは強かったですね。
ただ、雑誌といっても「ミニコミ誌」を作りたかったというわけではないです。『界遊』を作りたかったんです。好きなモノばかりではなく様々なモノを取り上げる雑誌は、ミニコミ誌としては作りづらい。開かれた視点でみんなに届けようという姿勢があるので、商業誌に対してのミニコミ誌という態度では限界があります。「世界と遊ぶ」ためにも、形態に拘らず多くの人に届けたいと思っています。
『001 創刊号』の時は何もかもが初めてで大変でした。とくにDTP のソフトが使いこなせなくて、デザインの基礎も分からないままにガンガン詰め込んでしまいました。
ーーでも『001 創刊号』(08 年10 月)に比べて『002』(09 年3月)は格段にレイアウトの腕が上がっているように感じます。中身も、まさにジャンルを越境して豪華ですね。古川日出男さんのインタビュー記事のあとにアニメの特集、さらに漫画家の岩岡ヒサエさんまで登場してます。
T:『001 創刊号』を完成させた後、すぐに『002』の制作に取り掛かったんです。「もっと開かなきゃダメでしょ、世界と遊んでないじゃない」と感じる部分もあったので。先に言った高橋源一郎の発言について言及する記事が多すぎて、これでは小説に関心のある人にしか届かないんじゃないかと。このままではいけないと。『002』の制作は急務でした。そして文芸の枠も越えて漫画やアニメの特集を組みました。読み手はそのうちの何かに興味があれば、その記事を読んだついでにと、今まで自分には興味のなかったジャンルの記事も読むでしょう。そうやって読者の興味が広がっていく環境として機能していたら嬉しいですね。そのためにも、購買意欲が沸くようなアートワークとしての格好良さももっと追求していきたいと考えています。
ーーこれからの構想は。
T:『003』を7月末に発売予定です。興味を持ってくれたデザイナーさんが表紙まわりをデザインしてくださることになったので、ぐっとリニューアルしてお届けできると思います。
今回は人物ではなく、「奇書」というワンテーマで特集を組んでみました。やっぱり人は不思議なものに対して、好奇心を持つ生き物だと思うんです。そこで古今東西の「奇書」の書物としての魅力を伝えられたらと考えました。また今回は、批評家の田中和生さんをはじめ、宇野常寛さん、速水健朗さん、辛酸なめ子さん、青野春秋さんなどから寄稿を頂いています。
お笑いの企画を組んでいて、コントも言語表現ですのでその分析などをやっています。表現全体で考えれば広い世界なので、色んな企画が出来ますよね。これからは他のジャンル、例えば美術などとも関わりを持っていきたい。人と人をつないで世界で遊べるシステムを作ることができればと思っています。
ほかには、この『界遊』は私が大学3年時に立ち上げたのですが、現在ではメンバーの半数が社会人です。なので、学生の作っている雑誌というのではなく、界遊、という雑誌名だけで手に取っていただくことが目標で、そのためには雑誌だけではなく、対談イベントなど外での活動も積極的にやっていきたいと考えています。
『002』にある古川日出男氏のインタビュー記事は、他の文芸誌に全く負けない逸品。プロの小説家としての古川氏の気概が、これでもかとばかりにあふれている。…かと思うと特集の最後、古川氏に様々な犬の顔へのコメントをもらっていたりと、やはり通常の文芸誌とはひと味違ったチャレンジ精神がかいま見える。もちろん八人の編集者が織りなす小説や俳句、ごま油のレビュー(!)などもユニークで読み応えのある逸品。
(■B5判、800 円。取り扱い店舗はこちら→http://kai-you.net/)
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