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2009年7月 7日 (火)

●サイテイ車掌のJR日記/当ってしまった人身事故

○月×日
 人身事故に当ってしまった。
 中央線はいつものことだから、私達乗務員にとっていつかは誰かに必ず当る。よって、私に当ったからといって何の不思議もないのだ。といってもね……。
 発生は6月28日の13時55分。天候は小雨。東京から中央特快高尾行きに乗務していた。通過駅である武蔵小金井に差し掛かると、突然オットットットと身体が前につんのめるような体勢になりながら、急停車した。
 「急停車して申し訳ございません。原因を調べます。少々お待ち下さい」と早速アナウンス。
 「まさかアレじゃないだろうな」と咄嗟に思った。と、やっぱりその通り、「まさかのアレ」であった。
 「さぁ困った。こりゃ大変だ。あぁ、嫌だヤダよ~」と少し焦ったが、こんな時こそ職責をこえて一致協力してやれば大丈夫なのだと、半ば開き直りなのである。といってもね……。
 運転士によると、40~50代の女性がホームから飛び込んだのだという。電車は先頭車両1両がホームからはみ出し、残りの9両がホームにかかっている状態で停止していた。乗車率は約40%、乗車人数は約700人であった。
 「お知らせいたします。只今、この電車で人身事故が発生いたしました。負傷者の救出のためにしばらく運転を見合わせます。詳しい状況は分かり次第お知らせいたします。お客様におかれましては、電車から外に出ないようにお願いいたします。どうぞこのままでお待ち下さい。お急ぎのところ大変ご迷惑をおかけして誠に申し訳ございません」と、今書けばこうなるが、私の場合は実際のところ「人身事故です。負傷者を救出します。止まります。すみません、すみません」ぐらいにしか放送はしていない。しかも、落ち着きを失っているからか、いつもより早口になり、お客さまには何をいっているのかさっぱり分からないというか、ただまくし立てているだけのような放送であったのだろう。
 東京方の後方を見ると東小金井を発車した後続の電車がすぐそこの駅間に止まっていた。運転士が発報した防護無線(併発事故防止のため、他列車を緊急停止させる無線)により、後続や隣接線等の列車は全て抑止されているのだ。
 そんなこんなで、知らせを受けた駅員3人が駆け付けてくれ、線路に降り、中腰になりながら車体下の負傷者を探すと、「いたぞ」と叫んだのは私の乗務員室からすぐ先の2両目の所だった。
 私はこの時、駅構内の事故でよかったと思った。駅間であれば、いずれ誰かが応援に来るにしても最初は運転士と2人きりなのだから。
 いずれにせよ、私も救助に行かなければならない。私は車両に搭載してある事故対応用のバッグをおもむろに取り出すと、防護服上下とマスク、ゴム手袋(いずれも細菌感染予防のため)を着用し、準備完了。
 すると、14時04分、指令から、同ホームの向かい側2番線の使用が可能のため、後続の列車から2番対応で運転を再開する旨の無線が入いる。従って、本電車のお客さま救済のため(長時間の缶詰状態を避けること)、ホームから外れている先頭車両のみを締切り扱い(ドアの開かない状態)にして、お客さまには後の車両へ移動してもらい、2番線に後続の電車が来る旨を案内して、残り9両のホーム側全ドアを開扉した。
 早くも、警察数人と消防隊員10人近くが到着。そして、私も現場へ直行。
 負傷者は、「大丈夫ですか~」と声を掛けるまでもない状態だった。更にいえば、男女の識別すら困難で、これが人間か、である。かわいそうに……。
 負傷者を安全な場所へ移動させるために車体下に潜るのはせいぜい3人位で十分。それはプロである救急隊にお任せすればいい。こんな所に10何人も必要なしと判断して、私は乗務員室に戻る。結局、私は殆ど何もしていない。見ているだけであった。
 14時25分、指令から再び無線連絡が入いる。本電車を回送にする通告だった。2番線には既に何本かの下り電車が来ているのに乗り換えないお客さま、また、車内は蒸し風呂状態で非常に暑いにもかかわらず(これは、車体下には1500ボルトもある機器類があり、救助の際に触れてしまうと死亡事故に至る危険性があるため、電車はパンタグラフを降ろし、停電状態にするので、空調もストップする)全く降りようとしないお客さま全員を降車させ、全ドアの閉扉。
 同33分、救助作業終了。
 同43分、最終的な安全確認がとれ、本電車の抑止解除。
 同49分、運転士と打ち合わせ、運転再開。現場54分延。
 あとは、警察による現場検証と駅員らによる遺留品の捜索、といっても、ズバリ、肉片などの後始末と消毒だが、発車した私が関知することではない。
 乗務を終え、事故報告書などを作成し終え、一息つくと、「それにしても」という感情が噴き出してくる。
 自殺した人への同情や憐れみなど微塵も湧いてこないのだった。それは何も知らない他人だからであろうか。ただただ気持ちが悪いだけである。人身事故は国鉄時代を含めるとこれで5度目だが、もう二度とごめんだ、見たくはない。と同時に、小さな怒りすら覚える。人に迷惑をかけて死ぬんじゃないよ、といいたい。世の中には生きたくても生きられない人も大勢いる。すぐに挫けないで頑張って生きてもらいたい。もっともっと年をとるまで生きろよ。誰だっていつかは死ぬんだから……。
 しかしながら、死体処理までする仕事というのは、私達の他にあるのだろうか。合掌。(斎藤典雄)

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コメント

13:55発生の14:43抑止解除ならばさすがベテラン、お疲れ様でした。最近の中央線は人身事故ならば、乗務員さんが誰であれ、指令さんがどうであれおよそ45分で当該のみ抑止解除、およそ60分で運転再開かと思います。まだ幼いころ、1~2時間ほど機外に閉じ込められたことを考えたらおおいなる進歩でしょう。
まだ学生の自分の甘い考えではありますが、人身事故は次の人身事故を呼ぶと思います。暗い気持ちの時に中央線が遅れていると「そうか、自分も」となることもあるだろうし、あるいは暗い気持ちいるときに中央線を見ただけで…となりかねないと思うからです。飛び込みづらいホームを作ることも大事ですが、60分よりも45分、45分よりも30分で運転を再開していくことでしか『「中央線で自殺をしよう」という考えを抱く人数』を減らすことができないと思うからです。
それをささえる現場の方はしんどいでしょうし、死体を拾うことは自分には想像さえ難しいです。でも斉藤さんや他の方々が14:49に運転再開したことで救われた命がいくつかあっても不思議ではないと思います。それはすごいことだと思います。お疲れ様です。
それにしても昨日の事故はひどいとおもいませんか?斉藤さんも助士側の乗務員ドアは、ぜひそっとお閉めください。
長文すぎるコメント、失礼いたしました。

投稿: pod | 2009年7月14日 (火) 21時41分

pod様、またまたコメントありがとうございます。話は違いますが、私達年寄りが誉められるのはミスをした時に限られるのですよ。ベテランなのにどうしたんだ!と。さて、昨日の事故とは、はてはて???。いきなり暑くなりましたね。ご自愛下さい。ではでは

投稿: 斎藤 | 2009年7月16日 (木) 12時03分

立川で防護無線が止まらなくなっていた事故です。マニアの間では当該の車掌さんがドアを強く閉めたので防護無線自動発報装置が作動したとウワサされていますが…。
斉藤様もどうぞご自愛下さい。

投稿: pod | 2009年7月17日 (金) 20時01分

pod様。そうなんですか。振動で発砲装置が作動するとは全く知りませんでした。あの日はお客さまも大変でしたが、私達も乗務を終えたのが深夜の2時3時でへとへとでしたよ

投稿: 斎藤 | 2009年7月20日 (月) 05時09分

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