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2009年7月 6日 (月)

書店の風格/第36回 八文字屋本店

 びっくりした。
 八文字屋本店のある山形県は、記者の故郷である。幼少の頃から、父の車で街まで(市街地に行くことを「街に出る」という)遊びに行くと、必ず寄っていた八文字屋。なぜか大きなゴリラのフーセン人形がにこやかに出迎えてくれる八文字屋。専用駐車場に車が殺到するので、いつも「大沼デパート」に車をとめて徒歩で向かっていた八文字屋…。こんなに近くにあったから、気づかなかった。あなたがこんなに老舗だったなんて。

 八文字屋の創業は元禄時代。なんと300年もの歴史を持つ。紅花商人が東京で「八文字屋本」と呼ばれる類の浮世草子を仕入れてきて貸本を行った、というのが発祥らしい。山形、という名がつかぬ頃から、地域の文化の発信地として頑張ってきた本屋さんだ。

 店内は一階と二階にわかれていて、入ると棚は入り口に対して縦置きのものが多く、吹き抜けになっている部分があるため実際よりもかなり広く感じる。まず雑誌と新刊文芸が並ぶ王道の配置だ。他店に比べてシンプルでアットホームなところがないのは、POPを全く置かないから。そっけないと見るか、目線がごちゃごちゃしないで正解と見るか。本読みなら断然後者だろう。奥へと進むと左側は新書から文庫へのグラデーション、右側は一般書から専門書へのグラデーションが美しい。無駄のない構成が店内をいっそう広く見せることに成功している。本当は東京の中規模チェーン店ほどの面積もない本屋さんなのだが、洗練された品揃えが、それを感じさせない。

 二階はコミックと参考書のコーナーだ。そう、ワカモノ向けなのである。中央の吹き抜けをぐるっと囲んで展開される棚の向こうには併設されたカフェスペースがあり、購入した本をゆっくり読めるようになっている。高校生の頃、なぜか赤本を買い込んでいたことが昨日のように思い出される。受験期に赤本がこれでもかと平積みされる壮観さは、関東圏の書店ではあまり見かけられないけれど、ワカモノが日本全国どこにでも飛ぶ地方書店にとってはごくありふれた光景なのかもしれない。しかし、八文字屋に並んでいると、「参考書」もきちんとディスプレイすべき「商品」なのでは、と思えてきてしまう。
 あのころは、赤本も飽きずに眺めたものだった。本屋さんで売っているものは、全部が読み物であった。受験生なのをいいことに、受けもしない大学の赤本を何冊も買ったものだ。そんな衝動買い、きっと八文字屋でしかできないと思う。(奥山)

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コメント

八文字屋なんて懐かしいです。日販で働いていた時、書籍のピッキングしてました。やってもやっても棚に注文書籍が入ってきた店です。でも、懐かしい反面、嫌な思い出も。フルタイムのアルバイト待遇だったけど、仕事内容は同じなのに男と女で時給が違う、交通費なし。社会保険などもろもろ差し引かれると、手取り13万円の給料だったな。残業目一杯やっても15万円がいいとこ。貯金がたまったから辞めたけど、フリーターで10年以上勤めている男性達をみると、派遣労働者の本音が垣間見えます。書店の為に安い時給で働いている女性従業員の実態、知っているのかな。自分的には早く足洗って、やりがいあって給料いい仕事に転職して良かったです。

投稿: さくらん | 2009年7月 9日 (木) 11時53分

さくらんさん、コメントありがとうございます。
出版、とくに流通に従事する人達の待遇の低さは本当に深刻ですね。書店さんもまたしかりです。
本に関わっていることそのものに喜びを感じないと、やっていけない仕事と思います。

投稿: 奥山 | 2009年7月14日 (火) 11時36分

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