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2009年7月31日 (金)

ロシアの横暴/第20回 賄賂で買った!?ソチ・オリンピックにテロの危険(上)

 より速く、より高くはスポーツの祭典オリンピックのキャッチであるが、これをもじった「より早く、より高く」というキャッチがある。どこの国が他よりも高い金額をより早く届けたかでオリンピック開催都市を決めるというIOCの体質を揶揄したものだ。

 2014年のオリンピック開催地がソチと決まったとき、少なからぬ人が驚いたはずだ。冬季オリンピックというよりは海辺のパラソルが似合いそうな温暖な土地という印象のほか、目と鼻の先にロシアの火薬庫といわれる「カフカス地方」があり、そこに世界中の人が集まるとなれば、テロの標的になることは目に見えているのにソチが選ばれたからだ。
 ソチは保養地としてソ連時代から有名な土地ではある。だからといっていわゆる「平和の祭典」オリンピックを開催する条件はほとんど整っていない。ある情報によると開催地決定総会に乗り込んでアピールする立候補国の大統領のなかで、いちばんウケがよかったのはロシアのプーチン大統領だったそうだ。2007年当時といえば原油高の波にのって金持ちロシアの印象を世界中に振りまいていたころである。

 各国の人権団体は「チェチェンなどで重大な人権侵害を行っているロシアでオリンピックが開催されないよう」呼びかける運動を起こした。世界人権宣言以来、その国の国民の人権が守られているかどうかもオリンピック開催地選定の重要ポイントになった。重要ポイントといいながら実際にはかなり曖昧な、つかみどころのないポイントである。
 2008年の中国北京大会が決まった時からこのポイントは宿題ポイントとなった。つまり「貴地で開催しますから、人権侵害については改善をしてくださいね」というものだ。ダメ母親が手のつけられない不良息子に「これでおしまいよ」とか、「あしたからちゃんとやるのよ」と言いながら小遣いをやるのと同じく、何の拘束力もないドロボーに追い銭宿題である。チベットやウィグルのその後を見るまでもなくわかりきったことだから、北京大会開催の前にソチ大会を決めておいたのだろう、と言いたくなる。その重要ポイントもロシアに限っては言及すらされないまま決定された。もうなにをか言わんや、である。

 それでもソチが開催地に決まることはないだろうとおおかたの人は思っていた。開催が決まったとき、ロシアの実状を知らない人々ならば「なるほど、ロシアはオリンピックが開催できるほど安定しているのか」と思い、知っている人々、およびロシア国民は「ほう、で、賄賂はいくら?」と思ったことだろう。
 ロシアは「賄賂がなければ何も動かない国」である。だからほとんどの国民がオリンピックは「買うもの」と認めているし、それが不正なこととも思っていない。ただ金額については知りたがる。そんなものがわかるはずもないからてんでに思いを巡らせ、なみなみならぬ額を「決定」したうえで「俺たちはこんなに苦しいのにオリンピックかよ」と思う少数グループと、「俺たちは苦しいけどオリンピックを開けるロシアは偉大だ」と思う大多数グループに分かれるのがロシアである。(川上なつ)

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