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2009年7月 3日 (金)

アフガン終わりなき戦場/第19回 先進国の匂いがする街で(下)

 バグラム空軍基地は、ソ連侵攻時代に建設されたアフガニスタン最大の基地で、RCイースト(東部戦線)の拠点だ。また、アフガニスタンに駐留する兵士たちの生活の場でもある。
 駐留米軍を統括する司令官もこの基地にいる。私が訪れる数日前の5月、デビッド・マキャナン司令官が更迭され、首が挿げ替えられた。新任は統合参謀方部筆頭部長のスタンリー・マクリスタル中将になった。前任のマキャナンはオバマ大統領の2万1000人の増派に加え、もう1万人増兵を主張していた。オバマ大統領との戦略の違いがトップ交代の理由だと言われているが、真相は知る由も無い。何より、ここで働く兵士たちには何の影響も及ぼさないように見えた。

 喫煙所で煙草を吸っていると、3人連れの兵士が話しかけてきた。
「あんたどこからだい?」
「日本だ」
「じゃあ、アニメの『鋼の錬金術師』は知っているか?」
 白人の兵士がニヤニヤしながら聞いてくる。日本人だと言えばこの手の話題が来るのは承知の上だが、アフガニスタンとはミスマッチだ。
「アニメは少しだけ見た。マンガは読んでるよ」
「あれは面白いんだよな。母親を無くした少年二人のアドベンチャー。大好きだよ」
『鋼の錬金術師』では、軍事大国のアメストリスが宗教を篤く信じるイシュバール人の国を滅ぼすというエピソードが入っている。アメストリスの兵士の中には虐殺の罪悪感に苛まれ、自殺しようとしたり脱走する者もいた。イシュバール人の男「スカー」は戦後、復讐のために軍の中核をなした国家錬金術師を次々と暗殺していく。
 私にはアフガン侵攻やイラク戦争のオマージュに思えたのだが、アメリカ軍兵士が同作を好きだとは意外だった。
「ほら、こいつ。こいつはマンガ・アーティストなんだぜ。日本人にちょっと見てもらえよ」
 そう言って、白人兵士は横のノッポの黒人を私の前に押し出した。私の顔よりも高い肩の上に照れたような顔がのっている。私よりも少し若いだろうか。
ノッポは恥ずかしいよ、なんて言いながらポケットからipod touchを取り出した。
 画面の上をごぼうのような2本の指がスライドすると、アメリカ風ではない、日本風の絵がでてきた。さっ、さっと指を繰り、私に絵を見せる。随分と眼の大きな女の子のマンガだ。

 まるでアメリカに旅行にきたみたいだな・・・
 そう思っていると、スピーカーから大音量で何やら命令が出された。音が割れているのと、早口なので何を言っているか分からない。
 3人組が何も言わず喫煙所を離れて、基地のメインロードの端に並んだ。
 5分も立たないうちに、メインロードは兵士たちでいっぱいになった。2キロ以上はあるかという道が、先が見えないくらいまでに人の道になった。
「何が始まるんだい?」
「葬列だよ。今日殺されたんだ」
 どこからかラッパを持った楽団が現れ、ラッパを鳴らした。
「敬礼」の号令がかけられると、一列に並んだ兵士たちはドラマのように「ザッ」と音を鳴らして敬礼をした。
 兵士たちの隙間から盗み見ると、オープンカーにされた軍用車の荷台に星条旗をかけられた棺が見えた。
 1台、2台、3台。
 車が兵士たちを隔てて、私の前を通過していく。
 再度号令がかけられると、こんどは音もなく兵士たちが額から右手を下ろした。
 すると、終わるいなや、さっきの白人兵士が話しかけてきた。
「おい、アニメのDVDとか持ってないか? もう基地で売ってるのは全部見ちゃったんだよ」
 持っていないと答えると、邪魔しなた、と言って笑いながら歩いていった。
 ノッポの兵士をつかまえて、葬列について聞いてみた。
「まあ、週に2回か3回はあるね。東部戦線で死んだやつはみんなこの基地に運ばれて、それから本国に送られるんだよ」
 ノッポはニヤニヤしながら喋っている。ニヤニヤするのが照れ隠しなのかもしれない。
「こういうのって悲しくない?」
「そうでもないよ。慣れっこさ。それより、俺のマンガどうだった?」
 あいまいに答えて、私はホテル・カリフォルニアに引き上げた。途中、スーパー・マーケットでノン・アルコール・ビールを買った。アルコールは置いてなかった。

 基地での日常とはどういうものだろうか。外で殺し合いをしたと思ったら、基地に戻るとマンガの話が始まる。ノン・アルコール・ビールで乾杯して、アニメのDVDを見る。朝起きると、また殺し合いだ。
 悲しくなったり、切なくなったりしないのだろうか。
 数字は無常に結果を表している。陸軍だけで昨年は133人が自殺をした。
 外に出ると、日は完全に落ちていた。街灯が静かに基地に点々と光を落としている。光源加減か、彼らの内にあるものか、歩くもの皆皆真っ黒い影絵のように見えた。(白川徹)

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