書店の風格/第34回 昭島 井上書店
ゆるやかな書店。そんなふうに形容すればよいだろうか。
井上書店は、昭島市にあるいわゆる「まちの本屋さん」だ。昭島駅から歩いて四分、本館とコミック館に分かれている。本館に入ると、絵本の読み聞かせ会のご案内や手作りのポスターが賑やかだ。正面には文庫棚、新書棚、右側の壁際に文芸や専門書の棚があり、左側は児童書が展開されている。どの棚も整然としていて美しい。
一見普通の本屋さんだが、一般書店とは空気の抜け方が違う。なぜか。本の並べ方にその鍵があった。
一般には背を向けて一冊ずつ挿してしまう新書や文庫の棚だが、贅沢にもほとんどの本を、面を見せて陳列させているのだ。挿してあるのはほんの一部、本と本の間に挟まっているくらいのものである。
さらに文芸書・専門書の棚では、平積みにされてある本がほぼ2冊や3冊ずつ積まれてある。書店で平積みになっているというと、頭の中ではドカンと10冊、いや20冊、積み上がっている様を思い浮かべるが、ここでは3冊。この冊数でいいのであれば、ひとつひとつの商品を余ることなくアプローチできる。
そして特筆すべきはPOPの存在だ。エンド台では余すところなくPOPが立ち並び、あるところでは棚に貼られ、あるところではプラスチックケースに入れて飾られている。しかも筆跡が様々だ。店員さん、アルバイトの皆さんが分担して、全員で書いているとのこと。本好きじゃなくても、字が下手でもとりあえずやってもらう。そのうち、どんどん上手くなってくるのだという。
「本を並べる」というと、積んだり棚に順番に並べたり、という印象があるが、このお店は一点一点の書籍を「商品」として扱い、ディスプレイしている。当たり前のようだが、なかなか生まれない現場感覚だ。ブティックをつくることで生まれる空気の抜け感が、本を選ぶことに意識を集中させてくれる。昭島は書店の激戦区だが、一押しの本屋さんだ。(奥山)
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